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「やる気のなさ」を武器にしろ!

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※3年で会社員を辞めるつもりで働きはじめて約30年経っている。

今回は「やる気がないほうが、仕事はうまくいく」という暴論である。昨今の「モチベーションを上げよう!」「仕事で人間的に成長しよう」的な仕事論とは真逆の話だ。天邪鬼ではない。実際、僕はやる気がなかったから仕事を続けられてきた。

「やる気」は、ポジティブなものとされている。僕はそうは考えない。やる気がないほうが、かえって一定のペースで働けていいとさえ考えている。無条件にやる気をポジティブなものとして受け入れるのはどうかと思う。現在マスコミを騒がせている某県知事のように、全県議会議員から辞職勧告を受けていても「県政を前に進める」と言って見せている「やる気」もよいものと言えるのか?

新卒で就職したとき「会社員は3年で辞めよう」と考えていた。3年という期間には根拠はない。「石の上にも三年」が意識にあったけれど、単に「3年やれば辞めても許されるのでは?」という軽い気持ちだった。「辞めよう」と決めていたのは、シンプルにやる気がなかったからである。化粧水と同じように、肌に合わなかったら辞めよう。それくらいの軽い気持ちだった。

30年後のいま、答え合わせをすると、転職を二度したものの、新卒からずっと営業職の会社員として働き続けている。社畜という言葉が流行ったときも、FIREが持てはやされているいまも、僕は会社員であり続けている。

やる気があったら続いていない。

「会社員生活に対して文句を言っているけれど、結局、会社が好きなのでしょ?」「楽な道を選んでいる。意気地なし」という声がネットの彼方から飛んでくるのが目に見えるようである。しかし、僕は約30年間、会社員として働くことも、営業職という職種も、好きだったことはない。

そんな僕がどうして会社員を30年近く続けているのか。まだ当面は働き続けるつもりなのか。それは働かなければ食べていけないからだ。食べていけるようになったら辞めている。「人生100年時代はすばらしい」「生涯現役サイコー」と仰っている徳の高い人は、皮肉ではなく本当に凄いと思う。とてもそんな気持ちになれない。

僕が、営業という同じ仕事を続けているのは「仕事に対する理想や夢を持たず、やる気がないから」と自己分析している。理想や夢がないから大きな失望もなかった。アホな上司や、くだらない会社の決断にずっこけることはあっても「仕事なんかこんなもんだろう」とやりすごすことができたのだ。もちろん、心身にダメージを与えるようなハラスメントや、給料の未払い・倒産といった経営上の問題に直面しなかったのが前提なのは言うまでもない。

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「やる気があると辞めたくなる」メカニズム

「やる気がない」は僕のストロングポイントだった。僕の営業職人生で、能力や気力の点で僕を上回る人たちはたくさんいた。彼らはみな、やる気も持ち合わせていた。だが、振り返ってみると、やる気のない僕より結果を出せた人のほうが少なかった。

仕事には、気が乗るものと気が乗らないものがある。好奇心を刺激されて大きな利益を生み出し自分の糧になるような仕事は気が乗る仕事だ。上司の接待ゴルフの運転手役などは気が乗らない仕事の筆頭だろう。

仕事全般にやる気を持って接していると、どうしても乗らない仕事のときにテンションが下がるのは避けられない。「同僚やライバルが好奇心を刺激されるおもしろい仕事をしている平日の午後に、なぜ、私は上司のゴルフに付き合わされているのだろう」という疑問に直面する状況に陥る。

こういう状況になるのは、仕事にやる気のある人間だからである。言いかえれば、仕事に対して理想や期待を持っているからである。そして、平日午後に千葉の山間部のコースに連れていかれていくことが続けば嫌になってくる。そして「仕事辞めよう」という気持ちになるのだ。

「やる気のなさ」が安定をもたらす

それに対して、やる気のない人間はどうなるだろうか。まず、仕事に対して過度な期待や夢を抱いていないので、仕事に対して「気分が乗る/乗らない」という分類自体が存在しない。仕事はすべて退屈で嫌なものになる。つまりおもしろそうな仕事もゴルフ同行も同じ退屈な仕事である。つまり、やる気のなさによって一定のリズムとテンションでこなせるのである。

仕事における気持ちのアップダウンを最小限に抑えられる。すると負荷も最小限になる。そのうち「仕事なんてこんなもんでしょ」という境地に達する。こうして僕は30年近くほぼ一定のペースで働き続けてきた。

やる気がない僕がやる気のあるライバルに勝てたのはなぜか。

やる気がないから仕事を続けてこられた。一方、仕事というのは結果を求められるものだ。やる気のない僕が、営業職を続けてこられたのは(営業は数字を求められる仕事なので、目標をクリアしなければ続けることはできない)、最低限の結果を出してこられたからである。そして、これも「やる気がなかったため」である。

営業という仕事はやる気が不可欠、というイメージがあるかもしれない。ところが僕が営業としてうまくいったのは、やる気がなかったからなのだ。

理由は2点。1つ目は、やる気に左右されなかったから。営業は地味な仕事だ。成果の9割9分は日々の積み重ねだ。契約に結びつくかもわからない面談を重ねることが案件のベースになる。そこから有力案件に育て、プレゼンや企画提案をばっちりやっても、最終的に失注となってすべてが無駄になることだってある。良くも悪くも、結果が明確に出る仕事である。同レベルの競合他社が10社あれば、勝率は1割、そういうハードな世界だ。一喜一憂していては、心身が持たない。

やる気のある同僚はたくさんいた。彼らは仕事一つひとつに賭けすぎだった。「この案件は絶対に受注したい」「全力を尽くして契約を取る」そういう情熱を持ってやっていた。すばらしいと思う。僕にはできない。だが、営業は結果の出る仕事だ。そして競合もいる。どれだけ熱を入れても負けるときは負ける。

やる気のある同僚たちは、負けたとき「嘘。あんなにがんばったのに」と愕然とする。負けが込んでくると「もうダメだ。自分には営業の才能がない」と絶望する。一方、契約が取れたときは「やったー!努力が報われた!」と盛り上がるのである。そんなアップダウンを繰り返していたら消耗する。やる気を武器にしていた同僚たちは、アップダウンをしているうちに消耗して、いつのまにか脱落していた。

僕はやる気がなかった。契約が取れようと取れまいと、「仕事なんてこんなものだろう」と割り切って次に向かうことができた。そりゃ契約が取れたらうれしいけれど、「自分の努力と熱意が報われた」なんて思わなかった。「運がよかった」とほっとした。気持ちのアップダウンはほぼなかった。だから負荷もかからず、30年間続けることができた。

どんな仕事であれ、負荷がかかるような状態は続けられない。持たない。いまの仕事を続けたいと考えるなら、気持ちがアップダウンしない環境をつくるようにしてみてはどうだろう? ポジティブ、ネガティブ双方の山をつくらないようにすることがポイントになるだろう。

やる気のなさが仕事でプラスに働くこともある。

2つ目の理由は、やる気のなさが営業の仕事の本質とマッチしたからだ。営業は、人の話を聞くのが基本だ。ほかの仕事をやったことがないので、想像になってしまうけれども、おそらく、ほかの職種でも「話を聞くこと」は仕事をするうえで大事なことTOP3に入る要素ではないだろうか。

話を聞くことが大事。それがわかっていても、実行できていない営業職は多い。とくにやる気にあふれ、才能と努力を兼ねそろえている人ほど、できていない。悲劇的なのは、本人がまったくそのことに気がついていないことだ。

やる気がある営業は、相手の話を聞いているようで、自分の話をすることが主になりがちだ。または自分が考えた結論に持っていこうとしがちだ。極端な例を出すと相手の話を聞き終える前に、「こうしたほうがいいです」と言ってしまうのだ。事前のリサーチと過去の類似したケースからたとえそれが正解であっても、まずは相手の話を聞くこと。最後まで相手の話を聞いたうえで、「ん?」と引っかかることが企画提案のヒントになることが多い。

僕はやる気がなかったので、自分から話すことはほとんどなかった。話がうまいほうではなかったし、経験が乏しい新人時代は、何を話せばいいのかわからず、とまどってばかりだった。やる気がなかったので、事前に相手のことを深く調べることもなかった。せいぜい本社所在地、主要業務、沿革をホームページでチェックするくらい。すると、相手の話を聞くしかなくなるのだ。相手の話を聞いたうえで、気になったところはすべて質問してしまう。わからないからだ。

会話というのはおもしろいもので、予断を持たずに進めていくとあらぬ方向へ発展することがある。僕は、そういったイレギュラーな会話の展開で得た情報から提案を作り上げたことが何回もある。物流の仕事をしているとき、納品先の農家のおっちゃんから「牧草を仮に置いて置ける場所があればいいなー」という話を聞いて、自社の倉庫の一部をレンタルするビジネスを思いついたりした。

これは、相手はこういう仕事を求めているという決めつけをせずに、話をうかがったことで生まれた仕事だった。やる気があったら、決められた話を持ちかけて、相手から「そういえば」を引き出せなかったのではないだろうか。やる気がないから相手に話をしてもらう方向に持っていくしかなかった。それが、営業という仕事にハマったのである。やる気があったら、自分が話すという方向性になっていたはずだ。

欠点をストロングポイントにするくらいの気持ちを持とう。

僕が働きはじめた30年くらい前から、営業という仕事がセールスよりコンサル的な面が増してきたのもラッキーだった。バブルがはじけたりして景気が悪くなり、モノが売れなくなったからだ。売れないからセールスに特化した営業は生きていけない。僕が新卒のときにいたベテラン営業マンは、セールスに長けた人たちだった。とにかく売る。売上をあげる。ノルマを達成する。手がかかる客はかえってマイナスだった。あっという間に営業という仕事はセールスから、見込み客の話を聞いて、相手の求めるものをひろってそれに応じたサービスを提案するというコンサル的な仕事へシフトしていった。ベテラン営業マンは、自然淘汰されていった。

僕にとってはラッキーだった。セールスはごりごりのやる気が必要不可欠だったが、コンサル的な営業は、ごりごりのやる気が必要なかったからだ。「私はあなたの話を聞きますよ」的な姿勢さえあればよかった。もし10年生まれるのが早かったら、やる気のなかった僕は確実に営業という仕事を続けられなかっただろう。ラッキーだった。

やる気のなさもストロングポイントになる、というお話をしてきた。「そんなアホな。やる気があるほうがいいに決まっている」と憤慨される方もいるだろう。そのとおりである。何が言いたいかというと、自分に与えられた特徴を活かせばなんとかなるということである。僕にとってそれはやる気のなさだった。そして、やる気のなさが活かせるような、営業という仕事の変化にハマっただけである。言うまでもないが、やる気のなさといっても、うまくいかないとき投げ出してしまうようなタイプはダメである。そういうとき、「まあ仕方ないさ」「たかが仕事」と肩をすくめてやりすごすような「やる気のなさ」は、モチベーションが賞賛されている現代においても、有効な武器になりうると僕は思うのだ。

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執筆

フミコ・フミオ

大学卒業後、営業職として働き続けるサラリーマン。 食品会社の営業部長サンという表の顔とは別に、20世紀末よりネット上に「日記」を公開して以来約20年間ウェブに文章を吐き続けている裏の顔を持つ。 現在は、はてなブログEverything you’ve ever Dreamedを主戦場に行き恥をさらす
Everything you've ever Dreamed : https://delete-all.hatenablog.com/
2021年12月にKADOKAWAより『神・文章術』を発売。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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