セールスにこだわらない「サボり営業」で新たな販路をつくり上げた方法についてすべて語る。

>>さくらインターネットの採用情報を見る 

足で稼ぐ営業は時代遅れである。

僕は中小の食品会社で働く営業部長。営業活動をサボって付き合いのある施設に売り物にならない商品を持ち込んで寄付している。会社上層部からはただサボっているように見えたらしい。だが僕は27年の営業経験からビジネスにつながると直観していた。

 

「営業は足で稼げ」と言われる。僕は27年間営業職を続けているけれども、新卒で働き始めた当初は毎日のように上司や先輩から言われていた。平成から令和へ。時代が変わって「営業は足で稼げ」を耳にする頻度はかなり減ってきているものの、まだ時々耳にすることがある。他の職種の人でも聞いたことくらいはあるだろう。

 

「足で稼ぐ」には、昭和から続く、非効率的な手法のイメージがしみついている。マーケティング戦略もなく、名刺を持たされてエリアを潰していくようなやり方だ。効率は最悪だ。だが、ある程度のデータを揃えてエリアとターゲットを特定して潰していくやり方なら、その「足で稼ぐ」は方法論として有効だった。現代はそういった力技な営業開発が「古いやり方」と笑われる傾向があるけれども、足で稼ぐことのすべては否定できない。もちろん、かつてのようにアポ無し突撃は現代では通用しなくなっているのは言うまでもない。

 

ただ、足で稼ぐ営業の手法は時代遅れになっているのは間違いない。マーケティング手法や ITツールを使用して、足の代わりに頭を使う営業へシフトしている。方向性として正しい。僕自身、足で稼ぐ営業はほぼやっていない。時代の変化もあるが僕自身の変化に合わせているのだ。僕はまもなく50才になる。体力その他の能力の衰えを日々感じている。足を使う営業は体力勝負の方法論だが、それを続けることは厳しいのだ。

 

勤務先で営業開発部門の責任者を任されているが、中小企業であるために、イチ営業マンとして最前線に出なくてはいけない。若い頃のように足で稼ぐ営業を続けていればノルマ未達となり、部下から「部長自身がノルマを達成していないのに我々に指示指導できるのですか」などと見下されかねない。最悪の場合、組織がガタガタになりかねない。このように僕が足で稼ぐ営業からの脱却を意識したのは、「1. 営業という仕事の変化」「2. 体力の衰え」「3. 管理職としてナメラレナイため」という3つの切実な理由からだ。ごくごくありふれた理由だ。

足で稼がない営業とは?

>>さくらインターネットの採用情報を見る

 

先に述べたとおり、足で稼ぐ営業のすべてを否定しているわけではない。かつてあったようなパワハラまがいの方法を否定しているだけだ。たとえば新卒時代、平成一桁台の頃は、いやがらせのような営業を強いられた。真夏に地図を渡されて一軒一軒飛びこんで名刺を配ったり、上司の監視下で往来を行き交う人を呼び止めて会社のアピールをしてサンプルを配ったり、無意味な営業をさせられた。営業の厳しさと上司の偉さを思い知らせるためにやっていたようだ。

 

上司や先輩の思いに反して、同期の連中とは「くだらない」「馬鹿じゃないか」と陰口を叩いていたので逆効果だった。営業という仕事に見切りをつけてやめていく者も多かった。当たり前だ。

 

一方で、戦略と戦術が固まっていれば足で稼ぐ営業は結果が出たのも事実だった。少し前にカリスマ営業マンみたいな人たちが持ち上げられていたけれども、その人たちはまともなアプローチで足を稼ぐ営業をしていた人たちだ。いまは中小企業でもネットから有効な情報を得られるようになり、マーケティングや営業促進ツール、AI による契約書チェックといったものを使えば正しいアプローチで効果的に営業活動ができる。こうしたものをベースに足を稼ぐ営業をすれば想定内で上々の結果を出せるはず。「足で稼ぐ」は、「頭を使う」「頭の使い方を変える」にシフトしている。

「顧客を増やす」は手段の1つに過ぎないことに気が付いた。

新規営業開発においてもっとも大事なのは、定期訪問先や見込み客といった顧客を増やすことだとされている。それが成約数につながるからだ。営業支援ツールもそれを目的にしている。確かにそういう考えもある。おおむね正しい。だが、営業経験27年の僕が1人の営業マンとして心がけているのは逆だ。僕は顧客を増やさないようにしている。顧客を増やすことは目的ではない。成約して仕事に結び付けるのが仕事だ。つまり顧客を増やすのは手段である。そして数ある手段の1つに過ぎないのだ。

 

僕もかつては顧客数を増やすことに執着していた。だが、ある時期、顧客数が増えているわりに契約に結び付いていないことに気が付いた。顧客数に比例して契約数も増えるはずなのにある時期からまったく伸びていなかった。

 

答えは簡単だった。顧客を増やしすぎていたのだ。カバーできる顧客数を越えていたためにサポートが手薄になっていた。営業からみれば数多くのうちの1人の顧客であっても、顧客からみればただ1人の頼りたい営業マンということを失念していた。質問や相談のあるとき、困っていることがあるとき、コンタクトを取ろうとしても十分な時間を割いてくれなかったり、いいかげんな対応をされたりしたら、「この営業には任せられない。他に当たろう」となるのも無理はない。増やしすぎた顧客をカバーできなくなっていた。

自分の能力でカバーできる範囲を見定める。

そこで考え方を変えた。変えるきっかけは行きつけの飲み屋で知り合ったベテラン営業マンからの「顧客数は抑えたほうがいい。年に何回その顧客と対面で会えるのか逆算して数を出しなさい」という助言だった。

 

助言に従って顧客数を絞った。最初は500人。年に最低3回は対面であうことにした。500人×3回=1,500営業機会。年間250日働くとして1日当たり6名と会う計算だった。実際やってみてこれはかなりしんどかった。カバーしきれなかった。400人、350人と減らして最終的には300人に絞った。300人×3回=900営業機会。900÷250日=3.6人/日。僕の能力ではこれが適正だった。

 

この絞った300人のリストをもとに営業を続けた。続けているうちに300人から外れる顧客も出てきた。新規開拓はやめた。新規開拓をするのは300人リストから何らかの理由で外れる顧客が出て、埋め合わせる必要が生じたときに限定した。効果はあった。顧客を1,000人抱えているときよりも契約が取れるようになった。顧客の数より営業の質に転換したのが功を奏した。

 

顧客数を追及して結果を出している先輩や同僚はいた。足で稼ぐ営業スタイルを貫いていて素直にすごいと思った。僕も足で稼ぐ営業だった。ただし僕の場合は歩く面積を増やすのではなく、地を固めるように足踏みをしていた。方向性を変えたのだ。どちらが効率的だったか言うまでもないだろう。ちなみに当時僕と争っていた先輩や同僚は、心身を壊していまは営業という仕事をしていない。僕はまだ営業の一線に踏みとどまっている。日々ノルマ地獄である。どちらがよかったのか。いまとなってはわからない。

「営業」しない営業へシフトする。

営業の数から質へ移行したのが30才頃(2003年から2004年ぐらい)。いまは体力と気力の衰えもあって、さらに営業をしないスタイルに移行している。顧客リストは200に絞った。さらに減らす予定だ。管理職の仕事も兼ねているのでカバーできる顧客数が減っているからだ。

 

インターネットに上がる情報の量と精度の向上と営業を支援するツールの発達で、同業界の中小企業間では持っている情報とその活用にますます差がなくなっている。つまりこれまでと同じことをしていては勝ち取れない。創意工夫で販路を開発するしかない。宣伝や広告にかけられる予算はかぎられているなかで、新しい顧客と販路を見つけるには考え方を変えるしかない。

 

どの会社でも売り物にならない商品がある。僕の勤めている食品会社では、規格外ではじかれたもの、賞味期限が近く店頭から戻されたもの、などだ。廃棄するしかないものだが、廃棄コストもかかる。数年前から、そういった売り物にならない業務用食材やお菓子を近隣のこども食堂や児童福祉施設などの法人に無料で寄付し始めた。顧客と深く商談するなかで協力を求められたのだ。営業開発とは無関係だった。「捨てるくらいなら有効に使ってもらえるところに差し上げよう」そんな軽い気持ちだ。

 

会社の役員たちからは「タダで持っていくのではなく、値段をつけて商売にしろ」と横やりを入れられたが「売り物にならないものを売るなんてできませんよ」と突っぱねていた。ボランティア精神もあった。だが、うっすらと仕事になりそうな営業マンの直感もあった。まず、施設に出入りする人間の多さに気が付いた。保護者や施設職員、業者、さまざまな人が出入りしていた。普通の営業活動ではアプローチする機会がない人たちだった。関係性ができたあとに交渉して会社で取り扱っている商品のカタログと注文表を置かせてもらった。商品は施設に合わせてクリスマスケーキやおせちに限定。

 

これが想定よりうまくいった。「施設に協力してくれる会社さんだから」という理由で注文を得ることができたのだ。こちらから売り込まずに受注。元手はほぼゼロ。手間は何か月かに一度のペースで使えない商品を持ち込むのみ。労力とコストもかけずに新しい顧客を開発することができた(さらに無駄もなくしている)。リピーターと口コミでまあまあの売上規模になっている。会社の偉い人から「ビジネスにしろ」と注意をされていたが、結果的に新しいビジネス、新しい販路開拓につながった。

いまの仕事をサボる余裕をもつことが大事。

これができたのは、言葉は悪いが「(従来の)営業をサボったから」だ。営業(新規顧客開発)をやらずに、新しい顧客を探す意識を持ちながら、営業とは距離をおいた活動、つまりまったく別の視点で観察していたから見つけることができた。従来の方法を続けることでかなえられる上限は、想定内の最高の結果である。それ以上のものを求めるなら従来の方法にとらわれないようにすることが必要だ。

 

いまのやり方に行き詰まりを覚えたら、あえて違うことをしてみるというのはよく聞く話だ。大切なのはただ違うことをするのではなく、もともとの仕事での課題を意識しながら観察することだ。そうすれば新しいヒントが必ず見つかる。あとは外部からの「仕事にならないことをするな」という圧力に負けない強い気持ちがあればよい。

 

間違ってもいまある仕事を投げ出してはいけない。「新しい仕事を見つけます」という僕が新しい販路を見つけられたのは、足で稼いで作り上げた300人の顧客リストがあったからだ。このように、現代の「足で稼ぐ営業」は、頭で考え、創意工夫をするためのベースを構築する作業なのだ。

 

新しいビジネスツールや支援サービスは営業活動の結果にフォーカスしすぎている。もっと潜在的な顧客や販路を発掘できるようなツールやサービスができたらうれしい。DX にはその可能性を秘めていると思う。開発者のみなさんにはもっと営業が楽をできるものを作ってもらいたいものである。

 

>>さくらインターネットの採用情報を見る