『君たちはどう生きるか』は、自分がやりたい仕事をするヒントに溢れている

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僕らを悩ませる権利が先か結果が先か問題

僕の四半世紀のサラリーマン人生は、いいかえれば権利(待遇)が先か結果(実績)が先かの闘争の歴史だった。「希望する権利(待遇)が認められなければ、求められる結果は出せない」側と「権利を認めてほしければ、相応の実績を出してからにしてほしい」側の戦いである。

 

権利を主張する同僚や先輩を何人も見てきた。僕自身も権利を主張した。権利を主張する部下たちを諫めてきた。立場をかえて「権利が先か結果が先か」問題に関与してきたのだ。卵が先か鶏が先か問題は解決したらしい。だが、権利と結果闘争は解決していない。解決はしていないが、「結果を出してから、権利を主張しろ」側、つまり上に立つ側のほうがもともと優位であるため、おおむね勝利してきた。

 

いったい何人の同僚が「給料を上げてくれ」と主張して「ノルマを達成したことを実績だと思っているのかね。勘違いをしていないか? ノルマを達成してようやく給料分の仕事をしたことにすぎないのだよ」と上司に言われて敗退した現場を見てきたことだろうか。

「給与を上げてくれないとモチベーションが上がらない」は説得力ゼロ

何年か前、部下A に相談があると呼び出されて「待遇(給与)をあげてくれませんか? 現在の給料は自分の能力にふさわしいものとはいえません。モチベーションが上がりません」という面白い話をされたことがある。管理職になった僕は、氷河期世代の権利結果バトルを見てきた。だから、むやみに権利を振りかざしたくはないと考えている。

 

その信念に従って「無理です。Aさんが権利を主張したい気持ちはわかりますが、残念ながら実績がともなっていません」と僕は却下した。むやみに権利を振りかざさないように、ここ数年の A の実績を示した。A はノルマ未達だった。「権利を主張するのなら実績を示せ」のようなつまらないことは言いたくないが、A の給与を上げる要素がなかった。仕方がない。

 

すると A は「給与が低くてモチベーションが低下。そのために出せるはずのパフォーマンスが出せませんでした。望む給与を出してくれればパフォーマンスが向上して結果は出ます」などとアホーマンスな発言をしてきたのである。

 

A が言いたいことはわかる。A の言動の底には「結果を出したら本当に権利を認めてくれるのか?」という不信感がある。結果を出しても必ずしも求めるものが得られるとは限らないからだ。結果というのは、人質みたいなものだ。人質をとられているからタスクをこなさなければならない。そういう考えのもとで僕らは働いてきた。結果を出しても望むものが得られなければ不満が蓄積して、残念ながら転職を考えるようになる。A がダメなのは、権利(待遇)を得られたら、アップするのが彼のモチベーションというしょぼいものを交渉材料にしているところにある。

 

はっきりいってモチベーションはクソである。モチベーションの上下で左右される結果なんて、そもそもたいしたものではない。それに、プロならばモチベーションの有無にかかわらず求められた水準の仕事をこなすべきである。給与をあげてくれれば、自己投資して能力が向上してよりよい結果が出せるようになる、とか、車を買って子供の送り迎えが快適になり、節約できた体力で仕事がバリバリできる、くらい具体的なものを交渉材料にしてもらいたかった。「モチベーションがあがります」「やる気が上がります」では話にならないのだ。

もちろん結果を求めすぎること、つまり行き過ぎの結果至上主義はよくない結果をもたらす。「結果を出せない者には罰を!」的な考え方は、職場環境を歪ませるだけだ。昨今街路樹を枯らした疑惑で有名なビッグモーターは伝えられる内情を信じるかぎりでは、結果を求める上からの圧力が問題の根底にあるように僕には見える。

 

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『君たちはどう生きるか』が教えてくれる教訓

宮崎駿監督の新作『君たちはどう生きるか』は御覧になっただろうか。内容について話してはいけない雰囲気があり、あらすじなどを記載すると訴えられかねないので割愛させていただくが、本作は宮崎駿監督がオファーに応じた仕事ではなく、自分がやりたい仕事をやったという作品であることは間違いないだろう。

 

「好きなものをつくる」「やりたい仕事をする」などと主張する若者の究極形態である。『君たちはどう生きるか』『風立ちぬ』『崖の上のポニョ』など近年の宮崎駿作品はやりたいことをやっている感がすごい。古くからの宮崎作品に触れてきた僕のような人間からは「?」が浮かぶこともある。正直、コレジャナイ感もする。

 

だが、興行収入ランキングでは上位に入る。圧倒的に結果を出している。『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『ルパン三世 カリオストロの城』『未来少年コナン』といった過去の実績があるから、やりたい仕事ができる。もし新人監督が『君たちはどう生きるか』の企画を出しても100%通らない。映画会社の重役から「キミが撮りたい作品があるなら、おおいに結構。自分でカネを出して撮りなさい」と言われてしまうはずだ。

 

実績と才能のある宮崎駿監督でさえ、作品を作るたびに引退宣言をして、最後の作品感を高めて、好きな映画を作っている。一種の自己プロデュースだ。さもなければ、太平洋戦争期の戦闘機開発のアニメ(『風立ちぬ』)の企画は通らない。才能や実績が宮崎駿監督にはるかに及ばない僕らが、好きなこと、やりたい仕事をすることはどれだけ難しいだろうか。厳しい現実の極北が、大手YouTuber の真似をして視聴しているこちらが恥ずかしくなるような動画を公開している底辺YouTuber である。彼らがそれなりの収入を得ていると信じている。さもなければ哀しすぎる。宮崎駿監督が『君たちはどう生きるか』を好きなようにやれるのは、才能に加えて、これまでの実績と自己プロデュースがあるからである。才能もなく、実績もなく、「モチベーションが上がりません」などといって自己プロデュースすらできない凡人の僕らが権利を主張するのはハードルが高すぎる。絶望しかない。

権利を主張する若者が働き方を変えるかもしれない

権利を主張するまえには結果を出してからという風潮はいまだに強い。それでも最近、権利を求める若者が増えてきているのはよい傾向だろう。彼らは権利(待遇)を求めるときにモチベーションややる気といった曖昧なものを交渉材料に使わない。自分が学生時代にやってきた研究や起業を示して、これだけの待遇が欲しいとはっきり口にする。能力や実績を示すのに長けている。また「自分がやりたい仕事」をするためには「これだけのものが必要です」と具体的に示す。よくいえばセルフプロデュースに長けている。悪くいえば面倒くさい若者たち。そういう人種が増えてくれば、権利を求める前に結果を出せという日本社会が変わるかもしれない。

 

しかし、まだまだ、とくに日本企業の9割を占める中小企業が、そのような「主張する若者」に応じられていないのが現実だ。一方で、大手企業や外資は、新人であっても優秀な人材にはよい待遇を準備するようになっている。ますます優秀な若者は集中していくだろう。中小企業は若者に選ばれるために対策をする必要がある。だが、実際問題、中小企業がたとえ優秀であっても新人に大手と同レベルの待遇を提示するのは難しい。

 

優秀な若者が好待遇で外資に雇用されたというニュースを聞くけれども、彼らは企業が求める能力は持ち合わせている。間違いない。だが、外資や大手が求めるハードな仕事への耐性があるかは、正直いって未知数だ。うまい話ばかりではない。耐性のない優秀な若者は落伍するだろう。そのとき中小企業は彼らを「緩さ」を武器にリクルートできればいいのではないだろうか。

リアルタイムに進行している仕事を実績とする

労働者の権利と結果について語ってきた。先に我々労働者は結果を人質にされていると述べた。権利を主張するためには結果が求められるという、労働者が不利な立場の因果から抜け出すためには、リアルタイム人質作戦を提唱したい。

 

リアルタイム人質作戦とは、まかされているプロジェクトや事案を粛々と進めていき、ある程度の結果が見えてきた段階、つまり結果が出ていない段階において、権利を主張するやり方である。結果を人質にするのだ。会社や上司たちも「権利を主張するのはいいが、結果を出してからにしろ」と無下にできない。なぜなら、結果が見えているから。話を聞いてもらえるはずだ。

 

大きな仕事を任せられたとき「今の待遇でこんな大きな仕事を任されるのは割に合わない」と嘆くのではなく、とりあえず受けて粛々とベストを尽くして進めていき、ある程度進んだ段階で「この仕事の完成は見えてきました。いま、私が離脱したら現場は混乱に陥り、納期に間に合わなくなります」といって権利を主張していこう。ある程度の既成事実を作ったとき、現在進行形で仕事を進めつつ、権利を主張するのが僕の提唱するリアルタイム人質作戦である。

 

僕は何回かこの作戦を実施してきた。実績のある作戦である。もし権利を主張したいときにはこの作戦を採用してより快適な職業人生にしてもらいたい。宮崎駿監督のたびたびの引退宣言も長いスパンをかけたリアルタイム人質作戦といえる。ただし、この作戦は何回かやると経営者や上司から疎まれる結果になるので、ご利用は計画的に。僕らには宮崎駿監督にとっての鈴木プロデューサーに当たる人物はいないことを頭に入れてほしい。

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