「きっと、仕事は楽しいはず」HEY!たくちゃんこと藤谷 拓廊さんに聞く仕事観

著名人の「あご」をものまねするスタイルで一世風靡した、HEY!たくちゃんさん。2012年には本名の藤谷 拓廊として、渋谷のセンター街にラーメン店「鬼そば藤谷」を開店。10年以上にわたり、渋谷で愛されています。

 

芸能活動とラーメン店の経営を両立する藤谷さんに、キャリアや「やりたいこと」を「できる」に変えられる方法を聞きました。

藤谷 拓廊(ふじや たくろう)さん プロフィール

1981年生まれ、北海道出身。ケイダッシュステージ所属。モノマネ芸人「HEY!たくちゃん」として、アゴまねなどをおこなう。2011年、東京ラーメンショー新人賞 受賞。2012年、渋谷センター街に「鬼そば藤谷」を開店。2016年大つけ麺博ラーメン部門優勝。

2019年、アメリカ・ニューヨークで開催された「ニューヨークラーメンコンテスト」でグランプリを受賞。3年ぶりの開催となった2022年のコンテストでも優勝し、2連覇を達成。

子どもの頃からの「やりたいこと」を実現

――藤谷さんはラーメン店の店主と芸能活動のパラレルキャリアを実践しています。ラーメン店をはじめようと思ったきっかけを教えてください。

僕が小学6年生の頃、将来の夢を書いたんですよね。そこには「昼はプロ野球選手、夜はラーメン屋になりたい」って書かれています。昔からラーメン屋がカッコよく見えたんです。北浦和に娘々(にゃんにゃん)という中華飯店があるんですけど、そこの親父さんが営業後に私服で歩いているのをよく見かけました。営業中は白の調理服を着ているんですけど、営業後は黒のTシャツで、なんかこれが世界で一番カッコよく見えたんですよ。

 

芸能の仕事をはじめてから、仕事が少しずつうまくいかなくなっていく時期があったのですが、その時期にラーメンレポーターの仕事が最後まで残っていました。

その時にやっぱりラーメンってすごく面白いし、世界へ行ける可能性があるなと思ったんです。日本の芸能界ではあまりうまくいかなかったけど、地球儀を見たときに「まだこんなに世界は広いぞ」と。

 

自分でもやってみようと2011年におこなわれた東京ラーメンショーの新人グランプリに出場したら、まさかの一発で、新人賞を獲得できました。

翌日、新聞記事にも大きく掲載され、そのときに「これは、いけるな」と思って、ラーメン屋をやろうと決めましたね。

 

――ラーメンなら世界へ行ける可能性があると考えたんですね。実際に2019年、2022年にニューヨークで開催されたラーメンコンテストで優勝(2連覇)されていますね。

2019年に続いて、2022年も優勝できました。コロナの影響で大会が2年間なかったので、3年ぶりの開催です。開催されると聞いて、絶対に行こう! と思いました。円安で大変でしたけどね。

3年前と比べるとホテル代が2倍、飛行機代が2.5倍くらい高くなっていました。日本語を話せるアルバイトを現地で雇ったんですけど、時給もやばかったですね。日本円にしたら、時給6,500円くらいかかりました。

「ニューヨークラーメンコンテスト」で獲得したトロフィー

――すごくコストが上がっていますね。どうしてそんな大変な中、ニューヨークへ行こうと思ったのでしょうか?

コロナ禍になって目標や希望や夢とか、そういうものを持てなくなったり、何をするにもストップがかかるようになったじゃないですか。

一緒に働いてくれているスタッフには若い子が多いので、何かを伝えたいという気持ちがあったんです。仕事って、もっと楽しいはずなんだよなと思ったんですよね。

 

これだけ厳しくなっている世の中でも、夢のため、目標達成のためなら、人って行動すると思います。目の前にニューヨークの大会があるんだったら、どうなろうが、何言われようが、絶対行く! って決めました。貯金とか、結構ギリギリだったんですけどね。

経営していると、「これ以上、お金を使っちゃいけない」っていうところにぶつかるときがありますが、今回そこにぶつかりました。「やべえ!」ってところまで使いましたね。でも、やべえ! と思いながら、ここで行くしかないだろう!と思って行きました。ほんと、ヒヤヒヤでしたよ。外でおこなうイベントなので、雨が降ったら売上が下がりますからね。

ラーメン店をはじめる前日、電車の中で泣いていた

――天気次第で売上が下がるかもしれなかったわけですね。現在は芸能のお仕事もしつつ、メインはラーメン店のお仕事だと思います。「メインでやらないと厳しいラーメン業界では生き残れない」と、藤谷さんが別のインタビューでおっしゃっていました。キャリアの軸を芸能からラーメン店に移す際、どのような心境でしたか?

ラーメン店をはじめる前日に泣きましたよ。「明日からラーメン屋になるんだな」と考えたときに、芸人一本でやりきれなかったんだなと思って。情けないんですけど、渋谷から自宅に帰る電車の中で涙が出ましたね。

 

ただ、その涙は次に向かうための決意の涙でもありました。一生懸命、ラーメン屋をやっていこうと決めましたね。

 

――やはり悔しさのようなものもあったんですね。とはいえ、芸能のお仕事は継続されています。芸能のお仕事がラーメン店のお仕事に活きることはありますか?

芸能界での空気の読み方や生き方がラーメン店に活かせましたね。あとはやっぱり「お客さんを楽しませること」ですよね。芸能も料理もお客さんを楽しませないといけませんから。芸能で学んだことは多いです。

 

――逆にラーメン店のお仕事が芸能のお仕事に活きたと感じたエピソードを教えてください。

ラーメン関係の雑誌やテレビ番組に出させてもらえますし、そこでひとネタ披露することもあります。そのときに、お笑い芸人のHEY!たくちゃんは死んでいないなと思うんです。

これからの時代、学び直す機会が絶対増える

――両方の仕事が相乗効果を生んでいるんですね。藤谷さんは、昨年から調理の専門学校で勉強しているとうかがいました。ビジネスパーソンにとって学び続けることは重要だと思います。どうして勉強し直そうと考えたのでしょうか?

コロナの自粛期間中は知識を吸収する時間だと思い、勉強するなら学校に行くのが一番いいと考えました。これからの時代、学び直す機会が絶対増えると思うんですよ。芸能界でも大学に通い直す人は増えてきましたけど、専門学校に通い直す人も増えてくると思います。

 

私が通う学校では、ミシュランを獲得するための授業もあります。授業の中で先生が「ミシュランを獲れなくても、獲るための努力をしたことは身体に残るから一緒に頑張っていこう」とおっしゃっていました。良い言葉だなあと思って、高い目標を持って努力しています。

 

――この渋谷のセンター街で10年以上も営業されているのは、すごいことだと思います。この場所で長い間続けてこられた要因は何でしょうか?

本当に周りのおかげです。いろいろな人に助けてもらいながらやってきました。

 

自分でやったこととしては、何回も店を破壊していきましたね。味や作り方、メニューなどを3年に1回はリニューアルしています。

これは芸能界で学んだことですね。昔はすごかったというのがなかなか通用しない世界です。

ただ、いきなりガラッと変えてはいけません。少しずつ変えていっています。南海キャンディーズの山里さんのように、すごいタレントさんって自分のキャラクターを少しずつ変えているんですよね。

 

藤谷さんが考える「やりたいこと」を「できる」に変えるために大切なこと

――このメディアのコンセプトが「やりたいことをできるに変える」です。藤谷さんは、まさにやりたいことをできるに変えたと思います。やりたいことをできるに変えるために大切なことは何だと思いますか?

自分が憧れている人とか、すげえって思った人に会いに行くことです。去年、落合博満さんに急に会いたくなって講演会に行きました。そういう人と同じ空間にいるだけで、人生を変えてくれる可能性があります。人生がゲームだとしたら、憧れている人と会うと、一気にHPが上がって特殊能力が身に付く感じです。

 

そういう人に会いに行って学ぶのは、人生の醍醐味だなと僕は思っています。

 

会えないのであれば、その人が本を出版しているなら本を読む。本を出していなかったり、本を買うお金がないなら、ネット検索して調べればいいと思うんです。

 

――会いに行きたいと思ったらすぐ会いに行くという行動力がすごいですね。

僕には行動力しかないので。ニューヨークの大会に出場したときも、会いたい人に会いに行きましたよ。アイバンさんというアメリカの方が2011年まで日本で出店していた「アイバンラーメン」があります。そのお店がアメリカで大成功しているので、会いに行きました。

 
 
 
 
 
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アイバンラーメンは、ラーメン屋というよりはラーメンレストランって感じでしたね。味も美味しいし、働いている人がすごく楽しそうでした。やっぱり会いに行ってよかったですね。

 

――働いている人が楽しそうというのは良いですね。先ほど藤谷さんも「仕事って、もっと楽しいはずなんだよな」とおっしゃっていました。「仕事は楽しいもの」という考えが広まればいいなと思います。

僕の中で「きっと、仕事は楽しいはず」というキャッチコピーがあります。”きっと”なんです。まだ探している感じが気持ちいいんです。仕事をしていると、つらいときもあるじゃないですか。

なかなか楽しめるところまで行くのは大変ですけど、その領域にいつかたどり着けると思うんですよね。

だから「きっと、仕事は楽しいはず」と思っています。

 

 

(撮影:ナカムラヨシノーブ)