「フルーツピクルスって、食べたことある?」
友人からのメッセージを開くと、こう書かれていました。
(フルーツピクルス? うーん、聞き慣れない言葉だなぁ)
想像するに、キュウリやニンジンを酢に漬けたものがピクルスなので、野菜の代わりに果物を酢漬けにしたもののことでしょうか。しばらく考えているうちに、続けてメッセージが届きました。
「ピクルスというか、お酢は大丈夫?」
普通に考えるとこの展開は、友人が私へ「フルーツピクルス」を食べさせたいのでしょう。しかもここまで聞かれて「酢は好きではない」とは言いにくい雰囲気。実際のところ、酢もピクルスもさほど好きではないのが本音ですが、ここは友人の気持ちを汲み取って、
「うん!」
と、短く肯定しておきました。その数日後、私の手元に3種類の「フルーツピクルス」とやらが到着したのでした。
美味すぎるフルーツピクルスの謎
正直なところ、食べるなら生のフルーツを食べたい派の私は、「フルル酢」という名のこのギフトに期待はしませんでした。しかし、普段から何かを勧めてくるタイプではない友人が、あえて贈るには理由があるのでしょう。さっそくイチゴのピクルスを開栓しました。
瓶の中には、真っ赤なイチゴと大粒のブルーベリーがゴロゴロと漂っています。意外にも「ピクルス」というほど酢の匂いはせず、あわよくばシロップと呼んだほうが馴染むかもしれません。私は箸でイチゴをつまみあげると、急いで口へと放り込みました。
(ん・・・うまい!)
酸味どころか、生のフルーツ以上に熟した深い甘みが、噛むたびにこぼれ出ます。さらに歯ごたえのあるみずみずしい果肉は新鮮そのもの。
丸ごと一瓶を食べきってしまった私は、中に残った「酢」ならぬ「シロップ」を一口飲んでみました。
(このままでもイケる!)
通常、ピクルスの液はツンと刺すような酸っぱさがあり、そのまま飲むことはできません。しかしフルル酢の液は酸味が強くないため、原液のままでもむせることなく味わえます。ですがここはひとつ、友人推奨の「お湯割り」を試してみることにしました。
(いい香りだ…)
お湯の柔らかさとピクルス液の甘酸っぱさとが相まって、なんとも贅沢な「ホットフルーツピクルスドリンク」の完成です。
この手のギフトで度肝を抜かれる経験は少ないのですが、今回のフルル酢には驚きを隠せませんでした。そこで、同梱されていたカードに記載のある「インスタグラム」のリンクへとアクセスしてみました。
イマドキ男子発→インスタ経由→顧客行き
この斬新な商品を世に送り出したのは、意外にも、ハンバーガーショップで働くスタッフでした。「フルル酢」の生みの親であるユウタ君は、27歳のイマドキ男子。彼に、なぜフルーツピクルスを思いついたのかを尋ねてみました。
「コロナ禍で果物や野菜が捨てられている、というニュースを知ってからですね」
昨年の春、飲食店の時短営業などの影響を受け、農家は出荷できない農作物を廃棄せざるを得ない状況に陥りました。精魂込めて作りあげた野菜や果物の行き場がなくなり、せめてその一部だけでもヤフオクやメルカリを通じて消費者の元へ届けたい。若い世代の農家を中心に「インターネットを介した農作物の販売」が目立つようになったのだそう。
そこでユウタ君は、メルカリで「訳アリ品」を購入し、なにか商品にできないかと模索します。その時にヒントとなったのが「スイカのピクルスを使ったハンバーガー」でした。
本業のハンバーガーショップで、夏場の期間限定メニューとして販売していた「スイカピクルスとバジルのバーガー」。そこからヒントを得て、コロナ以外の理由も含めた「訳アリフルーツ」を、ピクルスに変えて届けたらどうか? ということで、フルル酢の第一弾となる「桃とキウイのピクルス」が完成しました。
そもそも、ユウタ君が一人で思いつき、一人でスタートさせたフルル酢というプロジェクト。右も左も分からない中で思いついたのが、インスタグラムという手段でした。
「インスタで『農業女子』っていうのが流行ってるんです。彼女たちは映(バ)える青果物の写真や、農作業の動画を投稿することで販売につなげてる。インスタを上手く活用してるなぁ、と感心しました」
農業女子からヒントを得たユウタ君は、早速インスタのアカウントを作り、フルル酢の宣伝を始めました。最初は、誰彼かまわずフォロワー数の多い人に対して、手あたり次第にDM(ダイレクトメッセージ)を送り、
「コロナ禍で捨てられてしまうフルーツを美味しく加工しました! PRしてもらえませんか?」
と、押し売り状態で頼み込んだのだそう。その内の一人に、ボディメイクやトレーニングに携わる女性がいました。その後、彼女がフルル酢をインスタで投稿してくれたことがきっかけとなり、トレーニーの間で密かなブームを巻き起こしたのです。
そういえば、私に贈ってくれた友人もトレーニーでした(笑)。
インスタに特化したアプローチ
とはいえ年配の方は「インスタ」といわれてもピンとこないでしょう。しかし、そのお子さんがインスタをやっていることで繋がる縁もあるとのこと。
「熊本県の天草で晩柑(ばんかん)を作っている農家さんがいます。その方との出会いは、『父が大事に育てたものを、少しでも利益にしたい』という娘さんのインスタ投稿がきっかけでした」
晩柑は、冬になると自然と実を落とします。これは樹木の健全を保つための現象で、生理的落果と呼ばれます。しかし落ちた果実は売り物になりません。そこで彼は、落果した晩柑でピクルスを作ってみよう! と思いついたのでした。
さらにユウタ君はこう続けます。
「インスタの良いところは、相互フォローやタグ付け、ストーリーズの機能で世界中に発信できること。最近では、フルル酢の投稿を見た農家さんが『ウチの果物も使ってほしい!』とDMをくれて、そこでまた新たな繋がりができました」
たしかに、フルル酢の投稿にはたくさんのハッシュタグが付けられています。
#フルーツピクルス
#フルーツ好き
#フードロス
#美容女子
#グルメ好き
#風邪予防
#お取り寄せグルメ
#美活
このように少しでも関連のあるワードを並べて、興味を抱いてくれる人へ有益な情報を発信することが、インスタをはじめとするSNSの強みです。その結果、会ったこともない人々との繋がりができ、その人々が新たな投稿をすることでさらに広がっていくわけで、文字通り「世界中」へ発信され続けるのです。
「インスタだと、農家の方だけでなくフルル酢を購入してくれた方とも繋がれます。DMで率直な感想を聞いたり、逆にレシピの提案を受けたり。すべての関係者とダイレクトに繋がる環境が、インスタの良いところだと思います」
インスタは本来、モノを売買する目的で登場したSNSではありません。しかし農作物にかぎらずアクセサリーや衣服、化粧品など「モノ」の優れた一面を発信した結果、ビジネスが成立してしまう部分も、SNSが持つ潜在的な魅力なのかもしれません。
インターネットのその先にあるもの
一月、茨城県某所。本業の休日を使って、ユウタ君はインスタで知り合ったニンジン農家の元を訪れました。フルル酢はフルーツピクルスのみではありません。同様に「訳アリ品」として日の目を見ることがなかった野菜でも、依頼があればピクルスにして販売します。
「農家さんは人手不足のため、変形したニンジンを加工品にすることができず、捨てるしかないんです。朝6時から夕方5時までずっと、ニンジンを掘って箱詰めしての繰り返し。イチゴのように単価が高ければ別ですが、ニンジンは量をさばかないとならない分、農家さんの苦労と葛藤は大きいのだと感じました」
SNSでのやりとりでは知り得なかった「リアルな刺激」を、農家の方と直接会うことで、そして農作業を手伝うことで実感したと語るユウタ君。
「フルル酢のスタートは、食べられるのに捨てられてしまう果物を、ピクルスに加工して消費者へ届けることでした。農家さんの作物に対する想いをより強く知ることができた分、今まで以上にそれらが伝わるピクルスを作ろうと思います」
インターネットの先には、いつの時代でも「リアルな人間」が待っています。作り手の想いを乗せたフルル酢が、多くの人々の元へ届く日も近いでしょう。
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執筆
URABE(ウラベ)
早稲田卒。学生時代は雀荘のアルバイトに精を出しすぎて留年。生業はライターと社労士。ブラジリアン柔術茶帯、クレー射撃元日本代表。
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