食品業界の技術革新は日々進化し、私たちの食体験に新たな可能性をもたらしています。
たとえば、センシング技術の発達により、食品や食材の塩味や甘味などの味覚情報がデータベース化され、私たちの食体験を変える研究や技術開発が広がっています。
近年、食品はどのように開発され、評価され、提供されているのか。また、それらは現在の問題解決にどのようにつながっているのでしょうか?
味覚センサーAI「レオ」でわかった餃子に合う調味料とは?
味覚センサーAI「レオ」は、食品の味を測定し、その情報をデータベース化することで、マーケティング分析や食のレコメンデーションサービスに活用するための装置です*1。
レオは、酸味、塩味、甘味、苦味、うま味の 5つの基本的な味覚要素を測定することで、食品の味を推定できます。
この技術は、食品メーカーの製品開発や品質管理に利用されています。製品の味のバランスを評価したり、製粉方法 による食品の味の違いを分析したりできるからです。
レオはとくに甘味を非常に高い精度で測定できるとされ、キリンビバレッジ株式会社の「生茶」をはじめとする多くの食品・飲料製品の開発に貢献しています。
株式会社 Mizkan Holdingsは酢醤油や酢胡椒など、餃子に使う調味料との相性を測定しました。
分析の結果、「餃子×味ぽん」の組み合わせが 98.2点を獲得し、味ぽんが酢や醤油を抑えて、餃子にもっとも合うことがわかったといいます。
この味覚センサーは、食育にも使うことができるかもしれません。
たとえば、好き嫌いのある子どもの好きな料理から味の好みを把握し、「嫌いな食材を使っても、この食材とこの調理法で組み合わせれば、好きな味を再現できる」と、楽しく偏食を克服するための提案ができる可能性もあります。
廃棄されるはずだったバナナの有効活用
食品業界では、デジタル技術を活用した商品開発の効率化が進んでいます。
伊藤忠商事株式会社の「FOODATA(フーデータ)」はその先頭を走り、大手食品メーカーだけでなく、小売業界のプライベートブランドからも注目を集めています*2。
商品サイクルが急速に短縮化し、消費者の嗜好が頻繁に変化する現代では、従来の「勘と経験」に頼るだけでは迅速な対応が難しいからです。
味覚データベース、POSデータ、消費者調査、SNSデータを統合した FOODATA のデジタルデータは、市場での成功をより確実なものにする新商品開発を可能にしています。
たとえば、廃棄予定だったバナナをペースト状にしたものを商品として販売し、データに基づく消費者ニーズを商品開発に活かしている事例があります。
伊藤忠商事のグループ会社である伊藤忠食糧株式会社は、山崎製パングループに「もったいないバナナ」のペーストを提供しました*3。
「もったいないバナナ」とは、まだ食べられるにもかかわらず、外観に黒い斑点が多く規格外で、廃棄することになっていたものです。山崎製パンはこれを利用して、パウンドケーキやバナナマフィンを全国に販売しました。
販売した理由は、FOODATA を使って POSデータを分析したところ、バナナはヨーグルト系やプロテイン系で売上を伸ばしており、30代~50代の男性、30代~60代の女性の需要が高いことがわかっていたからです。
さらに、健康志向の高まりや SNS でのバナナ人気、ほかの商品との組み合わせやすさなどから、パンと「もったいないバナナ」の組み合わせを提案することになったといいます。
FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によると、世界では食料生産量の 3分の1 に当たる約13億トンの食料が毎年廃棄されています 。
FOODATA の事例は、食品ロスを減らすための取り組みのひとつとして活用できるのではないでしょうか。
新時代の食器が減塩料理をおいしくする
健康志向から減塩食に切り替えたものの、「満足感が得られにくく、継続できない」という悩みを解決するのが「エレキソルト」です。
ラーメンや味噌汁などを食べた時に感じる、塩味の強さを通常の 1.5倍にしてくれます 。
エレキソルトの開発は、キリンホールディングス株式会社と明治大学宮下義明研究室が共同でおこないました。
日本では食塩摂取量の多さが健康問題となっており、食塩の過剰摂取は生活習慣病のリスクを高める要因となっています。
そのため、減塩食品の需要が高まっていますが、味が薄いと感じることがあり、減塩食を続ける上での障害となっています。この新技術は、減塩食品をおいしく食べてもらうために重要な役割を果たす可能性があります。
たとえば、ソフトバンク本社の社員食堂では、社員の健康管理のため、喜ばれる減塩メニューの開発に取り組んでいました。そんななか、同社はエレキソルトによる減塩食の取り組みに共感し、実証実験をおこないました*4。
この事例は、家庭用や病院・介護施設だけでなく、企業の社員食堂やレストランなどの外食市場への展開の可能性も示唆しています。
食のDX がもたらす新たな可能性
新しい食品に関するテクノロジーに注目することは、現代社会において非常に重要です。というのも、私たちの日常生活における食料は生存に不可欠だからです。
しかし、私たちが必要とする食は生存のためだけではありません。健康を維持すると同時に、おいしい食事を楽しみたいのです。
DX は、私たちがより健康的でおいしい食品を楽しむことを可能にするだけでなく、食品の生産方法やサプライチェーンにも革命をもたらすかもしれません。
新しい食の世界は、私たちの食環境と健康に革命をもたらす可能性を秘め、ますます注目されることになるでしょう。
*1:経験と勘の「おいしい」を脱却、味覚センサーでデジタルに | 日経クロステック(xTECH)
*2:感性の開発はもう古い、伊藤忠商事が挑む食品DX | 日経クロステック(xTECH)
*3:伊藤忠、データで原料提案、味と消費動向を分析、規格外バナナ、パンのペーストに │ 日経MJ(流通新聞)
*4:キリン、ソフトバンク社員食堂にて減塩食品の塩味を増強させるデバイスの実証実験を実施 | Biz/Zine(ビズジン)
執筆
Midori
総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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