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【フリーランスから法人設立】「やりたい」から始めるキャリア形成。FLAT代表サトウハルミさんに聞く

クラウドソーシングサービス大手・ランサーズの調査※によると、2021年のフリーランス人口は1,577万人。自身のスキルを活かした働き方やキャリア形成のあり方は、決して珍しいものではなくなった。その背景には、働き方の多様化やリスキリングを始めとするスキルアップへの関心の高まり、クラウドソーシングサービスによる案件受注の障壁低下などがある。また、企業の副業解禁がトレンドとなる中で、副業やパラレルワークでフリーランスとなる人材が増加傾向にあるようだ。今回は、フリーランスを経て、フロントエンド専門の Web制作会社を設立したサトウハルミさんにインタビュー。営業からエンジニアへのキャリアチェンジ、副業・専業フリーランスから現在に至る、その経緯を聞いた。

※ランサーズ株式会社 新・フリーランス実態調査 2021-2022年版』

サトウ ハルミ さん プロフィール

受託制作会社でコーダーとして勤務後、2016年に株式会社FLAT(以下、FLAT)を設立。フロントエンドやバックエンドのエンジニアが在籍し、Webアプリケーションや Webサイトの制作をおこなう。

FLAT ではプロジェクトマネジメントとチームマネジメントを担当。エンジニア経験を活かして若手エンジニアの育成にも力を入れている。

実践的なマークアップ技術全般が得意分野。夫とミニチュアシュナウザーのスパン・コロンと仲よく暮らす。

不動産の賃貸営業から Web制作の門を叩く

「動機はわりと単純で『パソコンを使った仕事がしたい』と思ったんです(笑)。あとは営業以外の仕事をやりたいという想いも強かったですね」

 

エンジニアを志したきっかけを尋ねると、サトウさんは笑いながらそう答えた。現在では社員6名、協業するエンジニアを含めると10名のメンバーが加わるフロントエンド専門の Web制作会社 FLAT。代表を務めるサトウさんのキャリアの始まりは、賃貸物件を扱う不動産会社の営業だった。

 

「周りの先輩がとてもいい人たちばかりで、営業の仕事は楽しかったです。ただ、将来のキャリアについて深く考えたときに、何か違うことをやってみたいと思うようになりました。それで『パソコンを使った仕事ってなんだろう?』と考えたときに頭に浮かんだのが Web制作の仕事でした。2000年代前半だった当時はまだ新しい領域だったので、仕事にしてみたらおもしろいかなと。そう思って、まずはスキルを身につけることにしたんです」

手始めに社会人向けの Webデザインスクールに通い、デザインとコーディングを学んだ。しかし、当時は就職氷河期と呼ばれる時代。職種を変えての転職はより難易度が高かった。

 

「当時は転職がとても厳しい時期だったんです。ストレートで制作会社に入ることはできず、事務職として転職しました。入った会社ではたまにサイトの更新をさせてもらう程度。機会をうかがっていました」

 

そのような中でも、サトウさんは二の足を踏むことはなかった。より高いスキルと実務経験を得るため、Webサイト制作者兼プロデューサーの個人事業主のもとで、仕事終わりにアルバイトをすることにしたのだ。この体験が、サトウさんの将来のキャリア像を形づくることになる。

 

「そのプロデューサーは、制作スキルだけでなく、ビジネススキルやコミュニケーション力にも長けていました。仕事を自分で取ってきて、アルバイトの私に仕事を割り振り、教えてもくれる。その姿がとてもかっこよく見えました。当時の私にとって、その人が自分の目指したいキャリアイメージとなりました」

 

ぼんやりとだが、そのときにはサトウさんの頭の中にフリーランスとして働く将来が見え始めた。ただ、そのためにはより高いスキルと実績が必要だ。2005年、サトウさんは改めて、Web制作会社への門を叩き、転職に成功。エンジニアとしてのキャリアを歩み始めた。

「屋号」と「専門特化」でブランディング

エンジニアとなったサトウさんはその後、Web制作会社を2社経験し、数多くの実績を積んでいった。

 

「会社の人間関係にはとても恵まれていて、毎日が文化祭みたいな感じでしたね(笑)。働く時間は長かったのですが、あまりつらいとは思っていませんでした。なによりも、Web制作会社という組織の中でいろいろな仕事ができたのが楽しかったです」

 

一方で、エンジニアになった当初から副業もおこなっていた。土日に集中して作業し、平日はクライアントとの連絡と、タスクを切りわけることで両立させた。副業でも実績が積み上がるにつれて、独立への手応えを感じ始めていたサトウさん。しかしなかなか踏ん切りがつかず、独立を決心したのは、会社員になって7年が経つ2011年のことだった。

 

「本業が自由で楽しく、副業もできていた分、結果として会社員として働いた期間は長くなりました。独立を決心してからも、1年くらいは準備期間を設けましたね」

 

独立への準備期間と定めた1年間は、顧客獲得に専念。営業の経験が活き、顧客との折衝や価格交渉などは抵抗なくできた。

 

「当時はクラウドソーシングサービスが出始めの時期でした。サービスを提供する大手企業に入社していた知人から『このサービスを利用して、フリーランスのロールモデルになってくれないか』と声をかけてもらったこともありましたね。実際にクラウドソーシングサービスを見て、その利便性や成功事例も知っていたのですが、そのときはお断りしました。私は副業のときからお客さんと直接やり取りしていたので、交渉や調整は自分でやりたいという想いがあったのです」

 

2012年、サトウさんは専業フリーランスのエンジニアとして独立した。屋号は現在の社名と同じ「FLAT」。コーディングに特化した制作受託も当時から変わらない。

 

「じっくりと準備していたのもあって、仕事の受託は順調だったと思いますが、とにかく時間がなくて大変でした(笑)。ただ、そのときの不安は仕事がないことでしたので、その忙しさは安心材料でもありました。

そのころから、自分の得意なことに特化するのが一番よいと思っていました。コーディング特化と掲げることで、発注側にとって仕事を頼むイメージがつきやすいというメリットがあります。同時に『FLATといえばコーディング、コーディングといえばFLAT』という意識付けができる。ブランディングとしてもプラスに働きます」

「組織として、チームとしてのFLAT」を作る

FLAT では定期的に案件の振り返りや勉強会が開かれ、ノウハウ共有がおこなわれている

仕事は順調そのものだったが、専業となってちょうど2年が経ったころ、サトウさんの気持ちにある変化が起きた。

 

「自分の技術や実績を評価していただき、実際に依頼も来ていたのですが、個人で受託する案件の規模や範囲は変わらない。一方で、そのときは大規模な制作案件に、チームの一員としてアサインされることも増えていた時期でした。

その当時から FLAT の屋号で活動し、エンジニアやデザイナーの仲間と仕事の分担もしていたので、対外的にはフリーランスではなく『チームです』と言い続けていました。しかし、社員を雇っているわけではなく、認識はフリーランスのまま。より大きな案件を取りたいのであれば、チームとして認識される必要があると思いました」

 

法人化を決断したのは「自然な流れだった」という。2016年、サトウさんは株式会社FLAT を設立。ここから経営者としてのキャリアが始まった。当時は「いままでの延長で、会社にしたらもっとうまくいくはず」と考えていたが、企業経営は一筋縄ではいかない。設立当初は、組織づくりに頭を悩ませた。

 

「会社員時代はマネージャーやリーダーの経験がなかったので、仕事をお願いするためのコミュニケーションのあり方やルール作りをまったく知らなかったんです。フリーランス仲間同士のコミュニケーションは気心が知れていて、お互い経験豊富なこともあり、綿密なコミュニケーションを取らずともやってくれる人ばかりでした。最初は『言わなくてもわかるでしょ』と、アバウトなコミュニケーションの取り方をしてしまっていました。いま思うと、社員が定着しないのは当然です」

 

コミュニケーションのあり方も、会社としてのルール作りも、問題が起これば1つひとつ改善していった。まさに手探りの状態だったが、徐々に定着率が上がり、組織として、チームとしての FLAT が醸成されていった。現在、サトウさんは「エンジニアチームそのものが強みになっている」と断言する。そこには、エンジニアを育成する仕組みがあるためだ。

 

「FLAT の内情としては、必ずしも経験豊富な方を採用できているわけではありません。基本的には『育てる』段階の方を採用することが多いです。当社はエンジニアを1人きりにしないようにしていています。たとえば、さまざまなスキルと経験を持つ社員がチームとなり仕事をすることや、フィードバックやレビューを意識しておこなうことで、実務ベースでの学びの蓄積や、多くの気づきを得られるようにしています。スキルやナレッジの共有にも工夫することで、育成段階のスタッフの成長だけではなく、当社としての『当たり前』が底上げされることにもつながるのです。

たとえば、当社では業務時間内に案件の振り返り会をおこないます。案件に関わっていない人でも業務を追体験し、別の仕事でもその案件でのノウハウを活かしてもらえるようにするためです。スタッフの6人全員が出席すると、会社としては6時間分のリソースコストがかかります。安くないコストではありますが、それが正しい形でおこなわれていれば、チーム全体で実践的な学びが蓄積されることになり、スタッフ1人ひとりのパフォーマンスは向上していきます。

FLAT で意識していることは、『スキルとビジネスがかけ算になっているか』という点です。もちろんインプットは必要ですが、実際の業務で使えないのはもったいない。スキルとビジネスを切り離すのではなく、実践を通したスキルアップを図ることで、当たり前が底上げされると考えています」

チャンスは待っていても来てはくれない

フリーランスによるエンジニアチーム「branch(ブランチ)」の詳細は FLAT 公式サイトに掲示されている

2022年、FLAT では新たな取り組みをスタートさせた。フリーランス人材との長期的なパートナーシップを目的としたエンジニアチーム「branch(ブランチ)」の創設だ。そこには、自身もフリーランスを経験し、現役のエンジニアであるサトウさんの想いがある。

 

「私が専業フリーランスとなった当時は、フリーランスと会社が業務委託契約を結び、定期・継続的なお付き合いをするのではなく、案件ごとに単発で仕事をもらうケースが多かったです。その経験があったからこそ、branch というチームを組み、定期的にお付き合いをする流れを作っていきたいと思っています。

とくにエンジニアの場合、フリーランスになると横のつながりはとても重要です。これは案件獲得だけではなく、情報交換やスキルアップの面でも必要になります。新しいことを勉強するのも、1人よりはみんなで分担したほうがいい。わかる人から教えてもらうほうが効率よく学べますし、自分では気づかなかったことが見つかることもありますから。FLAT で働くスタッフと外部エンジニアがスキルを補い合い、リソースが足りないときには手を貸していただく。branch では、そんなWin-Winな関係性を築いていきたいと考えています」

 

サトウさんは自身のキャリアを通して、「やりたいこと」を「できる」に変えてきた。そのために重要なのは「やりたいことを具体化すること」そして「自分で動いていくこと」だという。

 

「自分で具体的に想像すること、そのあとは周りに話す。『これをやりたい』と周りに話すことがスタートです。そうすると協力してくれたり、声をかけてくれることもあります。しかし、チャンスは待っていても来てはくれません。自分でも見つけて手を挙げること。自分で掴みにいくことが一番大切です」

 

最後に、フリーランス時代におこなっていた Web上での情報発信について聞いた。サトウさんはフリーランスでも「さくらのレンタルサーバ」のようなサーバー上でサイトを構築することは非常に有効だと語る。

「自分からメールで企業へ営業をかけることもありますが、成約率は比較的低めです。一方で Webサイトからのお問い合わせは結構あって、そちらは案件につながりやすいと思います。制作実績を言葉で説明するのが難しい職業なので、どんな仕事をしているのかが可視化できるWebサイトが名刺代わりになってくれているんだと思います。とくに企業の仕事を取りたいのならば、Webサイトは絶対に作るべきです。最近は SNS でも仕事がとれることもありますが、企業の Webサイトやシステムを作るときに、受注側にサイトがないと決済者の判断がしにくいと思いますので。

Webサイトの制作には少なからずコストがかかりますが、顧客スコープを明確にし、ターゲットを意識して作れば、短期的にペイできると思います」

 

(撮影:Yuta Fukitsuka)

執筆

川島 大雅

編集者・ライター。ビジネス系のコンテンツ制作をメインに行っています。大学では美術史専攻。一時ワイン屋に就職してたくらいにはワイン好き(詳しくはない)。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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