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ビジネスにおいて「エビデンス」という言葉に触れる機会が増えてきました。一般的にもエビデンスという言葉が広まってきているのではないでしょうか。
エビデンスを間違って使用したり、意味を勘違いして捉えたりすることがないように、その意味や使い方をしっかり整理しておく必要があります。この記事では、エビデンスについてわかりやすく解説します。
エビデンスとは
エビデンスとは英語の「evidence」をそのまま日本語読みしたもので、「証拠」「根拠」「証言」「形跡」という意味です。evidenceは、ラテン語の「evidentia」が語源です。エビデンスは広い分野や場面で使用され、それぞれ意味合いが微妙に異なります。
政策で使われるエビデンス
国際機関や欧米では「エビデンスに基づく政策形成」が進んでおり、日本でも取り組まれています。エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング(Evidence Based Policy Making=EBPM)とも呼ばれ、政策効果の測定に重要な関連を持つ情報や統計などのデータを活用して政策立案することです。
日本は、少子高齢化や厳しい財政状況に直面しています。政策課題を迅速、的確に把握し、有効な対策を選ぶこと。さらにその効果を検証し、検証結果に基づいて改善することの重要性が増しているのです。
エビデンスに基づく政策形成を推進するためには、その証拠となる統計データの整備が必要です。データを用いて事実と課題を把握し、政策効果の予測をして評価をおこないます。
「令和3年度内閣府本府におけるEBPMの取組方針」によると、予算要求、政策評価、税制改正、人材育成に対するEBPMの取組方針が掲げられています。
エビデンスベースでの政策立案を推進することで、政策の有効性を高めて国民の行政への信頼を確保しようとしているのです。政策を実施するには、税金が使われます。エビデンスに基づいて政策が形成され、しっかりと検証することにより、国民の納得が得られやすくなるでしょう。
医療業界で使われるエビデンス
医療業界で「エビデンスに基づく医療」という表現を目にすることがあります。エビデンスに基づく医療は、エビデンス・ベースト・メディシン(Evidence Based Medicine=EBM)と呼ばれます。EBMは「最良の根拠を思慮深く活用する医療」を指します。
エビデンス=研究結果や科学的裏付けが最重要、というイメージがあるかもしれません。もちろん根拠となる研究結果やデータは重要ですが、医療の現場ではそれだけで判断するのは難しいです。
研究結果やデータに加え、最良の根拠と医師や看護師の経験、患者自身の価値観をトータルで考えます。あくまで、患者自身にとって良い医療を目指すことが大事です。
医療では、医療者と患者の双方が納得いく形で、病気に対する最適な治療方針を決定していきます。医療者が「これまでのデータを見ると、手術したほうがいいから患者の合意を得ないで手術してしまおう」なんてことは、緊急性があるなど一部のケースを除いてできません。
医療者の経験に基づいた判断や方針と、患者自らが希望している治療法や選択肢が異なる場合もあります。たとえば、研究結果やデータから最も良い治療方法が導き出されていても、患者には支払えないような高額な治療方法だとします。その場合は、別の治療方法を選ぶかもしれません。
治療者と患者でうまくすり合わせつつ、最良の治療法を選択できるようにします。まさに「最良の根拠を思慮深く活用する医療」なのです。
ビジネスシーンで使われるエビデンス
「それってエビデンスあるの?」仕事をしていて言われたことはないでしょうか。何か物事を決めるときには、相手を納得させる理由が大事です。
説明の際に「根拠はないけど、絶対うまくいきます」と言われても、会社のリソースであるヒト・モノ・カネは動かせません。個々の主観的な考えだけではなく、根拠(エビデンス)が必要なのです。そのほうが説得力は増すので、提案も通りやすくなります。
エビデンスを固めるために、しっかりと市場調査をしてデータを集め、事実と課題を把握します。そのうえで仮説を立て、ビジネスがうまくいく提案をしていくのです。
また、商談や会議の際、口頭で何か約束をした場合、それを録音していない限りは証拠(エビデンス)がありません。
「あなたの会社の商品を○万円で○個買いますよ」と、その場では言ったとしても、後になってから「そんなことは言っていない」と言われてしまうかもしれません。いわゆる”言った言わない問題”です。こうした問題を防ぐためにもエビデンスは重要です。
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ビジネスにおけるエビデンスの使い方
仕事を進めるうえで、エビデンスは重要です。
先ほど”言った言わない問題”について触れました。これは経験したことがある方も多いのではないでしょうか。
この対策として、ビジネスでは証拠や形跡を残すことが大事です。商談後にメールで商談内容を書いて、相手に承諾を得る。会議が終わったら参加者に議事録を送り「相違点があれば修正ください」と連絡する。契約内容をしっかりと契約書にして、取引先と契約を交わして保存。このようにすれば、エビデンスを残せて安全です。何かトラブルが起きてしまっても、エビデンスによって自分の身を守れます。
ビジネスでよくある例文と対応
「商談では、しっかりとエビデンスをとってくるように」
→契約書やメールでの合意を取りましょう。
「この資料のエビデンスは?」
→根拠となるデータを報告しましょう。
「会議のエビデンスを送ってください」
→議事録や要旨をまとめて共有しましょう。
エビデンスとファクトの違い
エビデンスと混同しやすい用語に「ファクト」という言葉があります。
ファクトは「事実」という意味の英語「fact」を、そのまま日本語読みしたものです。日本のビジネスシーンにおいてもファクトは「事実」という意味で使われています。ニュアンスは似ていますが、ファクトは事実、エビデンスは根拠と覚えましょう。
違うファクトを覚えてしまっている問題
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP)が、日本でも注目され、100万部を超える大ヒットを記録しました。この本はファクトをもとに世界のことを知っていくものです。この本を読むと、そもそも私たちは世界で起きている事実をわかっていない。言い換えると違うファクトを覚えてしまっていると実感できます。
本の中で世界の事実に関する13のクイズがあります。A・B・Cの3つから答えを選ぶ選択式です。印象的だったクイズをひとつ紹介します。
世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
A.約2倍になった
B.あまり変わっていない
C.半分になった
引用:『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP)
答えは「C.半分になった」。このクイズの正答率は平均7%です。
この結果はファクトの思い込みを教えてくれます。3択なので当てずっぽうに回答しても、正答率は33%のはずです。しかし、多くの人がファクトだと思いこんでいる答えを選ぶので、33%を大きく下回るのです。
ファクトはしっかりと調べればわかります。エビデンスを揃えるうえで、思い込みのファクトではなく、しっかりと調べることが重要です。
まとめ
- エビデンスは「証拠」「根拠」「証言」「形跡」、ファクトは「事実」
- 業界や場面によって使われ方が異なる
- ビジネスではエビデンスを意識することで、提案が通りやすくなったり自分の身を守れる
- エビデンスを揃える際にはファクトが重要。ファクトが合っているのかしっかり確認する
参考
厚生労働省 3. 「根拠に基づく医療」(EBM)を理解しよう
政府の行政改革 EBPMの推進
内閣府におけるEBPMへの取組
ハンス・ロスリング (著), オーラ・ロスリング (著), アンナ・ロスリング・ロンランド (著), 上杉 周作 (翻訳),2019年『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』日経BP