「隠れた才能・魅力」に新たな物語を紡ぐクラフトジン。エシカル・スピリッツが見据える酒づくりの未来

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種類を問わず、酒づくりには大量の原料が必要になる。基本的には酵母の作用により糖分を分解、アルコールへと変化させる「アルコール発酵」を経るが、その過程では少なからず副産物が生じる。たとえば酒粕のように、一部は食用や畜産飼料に活用される場合もあるが、多くは未活用のまま廃棄されているのが現状だ。

 

このような課題を解決するため、価値を生み出し、優れたクラフトジンを生産することで注目を集める企業がある。エシカル・スピリッツ株式会社(以下、エシカル・スピリッツ)だ。同社のビジネス・アイデアが生まれた経緯、その取り組みについて、代表取締役CEOの小野 力さんに聞いた。

小野 力(おの ちから)さん プロフィール

1994年生まれ、東京都出身。ファーストキャリアで、デロイトトーマツコンサルティングにてコンサルティング業務を経て、ロンドンにてFuzed InnovationsをCEOとして共同創業。インフルエンサーや企業向けにコンテンツマーケティングにおけるソリューションを開発。その後、dotD, inc.にてManaging Directorとして新規事業立ち上げを経て、エシカル・スピリッツ株式会社を共同創業。

クラフトジンの創造性が課題解決に寄与する

「ジン」というスピリッツの魅力は、その創造性の高さにある。ジンの定義は大まかに「穀物由来の蒸留酒を用いること」「ジュニパーベリー(杜松果)によって風味づけがされていること」の2つ。これに基づきながらハーブやスパイス、フルーツなどさまざまな風味づけの素材(ボタニカル)を組み合わせることで、じつに多様な風味のジンが生まれていくのだ。

 

生産国(地)で文化的に親しまれてきたものがボタニカルに使われることも多く、日本でも柚子や抹茶などをボタニカルに使ったクラフトジンをつくる生産者が増えてきている。ジンの風味には、生産者のクラフトマン・シップとともに、その国や地域の文化が調合されているともいえるだろう。

 

エシカル・スピリッツは、まさにそのようなクラフトジンの創造性を活かし、日本に眠る「未活用の価値」を引き出している。同社の成り立ちについて、小野さんに聞いた。

 

「当社の創業は、現在取締役会長を務める山本 祐也が『未来酒店』という日本酒のセレクトショップを経営するなかで、お取引のある酒蔵さんから聞いた酒粕の活用についての課題がきっかけです。

日本酒をつくる過程で酒粕は必ず発生するものです。大手の酒造メーカーであれば供給量が安定しているため、さまざまな有効活用の手段を見つけられます。しかし、酒蔵の規模が小さくなればなるほど、供給量が安定しないので商流に乗せられずに廃棄せざるをえない実情がある。なかにはコストをかけて廃棄せざるをえない酒蔵さんもいて、なんとか変えられないかという話になりました」

 

このような課題をクラフトジンにより解決すべく、小野さんと山本さん、製造責任者を務める山口 歩夢さんなどが共同発起人となり創業したのがエシカル・スピリッツだ。では、さまざまな種類のお酒があるなかで、なぜクラフトジンを選んだのだろうか。

 

「じつは、酒粕を原料とした酒粕焼酎(粕取り焼酎)というものが古くからありますが、焼酎にしたところで売れるかといえば、そこにも多くの課題があります。酒粕を有効活用していくためには、さらに一歩踏み込んでイメージを変える必要がある。そこで着目したのが、クラフトジンです。酒粕を使ったクラフトジンであれば、全国のさまざまな酒蔵さんとご一緒できて、その個性を活かしたおもしろい取り組みができると考え、エシカル・スピリッツを創業しました」

 

実際、小野さんもクラフトジンに魅了された愛飲家の1人だ。小野さんはジンの本場であるイギリス・ロンドンでの起業経験を持つ。ロンドン時代にジンが根付いた飲食文化に触れて過ごした。

 

「イギリスでジンに出会い、その幅の広さに感銘を受けました。ジンの魅力は、やはり地域性がしっかりと表現できる点です。つくった場所やクラフトマンの想いがあって、ボタニカルに使われる素材も地域に根付いたものが使われている。1つのジンに込められたストーリーが、とてもおもしろいと感じたんです」

 

しかし、酒類業界全体を見ると、その事業規模は縮小しつつある。近年ではクラフトジンをはじめ生産量を絞りつつも丁寧な酒づくりをおこなうクラフト・リカーは盛り上がりを見せているものの、酒類のニーズは多様化している。このような市場環境のなかで、小野さんはなぜ同社の創業に参画したのだろうか。

 

「私自身、お酒も、お酒がつくり出す空間も好きです。日本酒業界が抱える課題にアプローチし、さらにおいしさも追求したクラフトジンを世の中に出していけるのであれば、これほどWin-WInなことはないです。ぜひ関わっていきたいと思い参画しました。

日本国内では、お酒の消費が全体として減少傾向にカーブしていますが、私たちとしてはそれを『嗜好の多様化』と捉えています。そもそも、飲み物の選択肢はアルコールに限らず、そのときの気分や、考え方によって変えていくのが一般的になっているんです。大切になるのは、多様な選択肢のなかからいかに手に取ってもらえるブランドになるのかだと考えています。

一方で、世界に目を向けるといまも非常に多くのお酒が飲まれています。私たちは、お酒という枠組みにとらわれるよりも、そのストーリーや味わいも含めて、国内外問わずどんな状況でも飲んでいただける、手にとっていただけるようなブランドになっていくことが重要だと考えています」

 

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「未活用であるもの」は「初めての体験を提供できるもの」

エシカル・スピリッツのシグネチャー・ブランド「LAST」の「LAST ELYSIUM(ラスト エリジウム)」(提供:エシカル・スピリッツ)

では、エシカル・スピリッツではどのようなクラフトジンをつくっているのだろうか。取材前に百貨店で同社のシグネチャー・ブランド「LAST」から「LAST ELYSIUM」と「LAST ELEGANT」を購入した。同シリーズはまさに原料に酒粕を使用したクラフトジンだ。

 

これまでさまざまな飲食店やバーでジンを飲んできたが、その香りの豊さに驚いた。「LAST」は「それはまるで、飲む香水。」をキャッチコピーとして謳っている。「ELYSIUM」のほうがよりスタンダードなジンらしく、爽やかな香りが広がる。一方で「ELEGANT」はより酒粕の香りを引き立てていて、名前のとおりより芳醇で奥行きのある香りだ。

 

とても酒粕を「再利用」しているとは思えない、むしろ酒粕がジンを構成する一役として引き立っている、新鮮な味わいだった。同社ではこのようなクラフトジンづくりに、どのような哲学を持っているのだろうか。

 

「エシカル・スピリッツのクラフトジンづくりにおいて、『必ず未活用の素材を使うこと』を根幹の理念としているんです。

私たちは酒粕には高いポテンシャルがあり、『未活用』であることを『可能性』と捉えています。その可能性を最大限引き出すものとして、クラフトジンがある。そしていま、酒粕に限らず未活用なまま眠っている可能性が日本には数多くあります。

ジンは非常に自由度や柔軟性の高いお酒であり、さまざまな素材や原料の魅力を引き出し続けることができます。

『未活用であるもの』は、言い換えればお客さまに『初めての体験を提供できるもの』です。これまでに味わったことのないテイスティング体験や嗅覚体験で驚いていただきたいし、それを一番よい形でお届けしたい。このようなクラフトジンづくりのトップランナーであり続けたいと考えています」

エシカル・スピリッツのシグネチャー・ブランド「LAST」の「LAST ELEGANT」(提供:エシカル・スピリッツ)

「Starring the hidden gem.(隠れた才能をステージへ)」。同社が掲げる企業理念だ。同社はクラフトジンづくりでサーキュラーエコノミーを実現しているが、それだけではない。未活用であった素材の「隠れた才能」を見出し、クラフトジンとして輝かせる。現在、同社では「LAST」のほかに飲みごろを過ぎた醸造酒を蒸留した「REVIVE」シリーズ、さらにはチョコレートづくりで発生するカカオの種皮(カカオハスク)を活用した「CACAO ÉTHIQUE」などのブランドがある。いずれも廃棄されることが多い素材・原料を利用しているが、クラフトジンになることでまったく新しい出会いとなり、飲む者を驚かせる。

 

「未活用を可能性に変えた商品のなかには、消費者にしっかりと根付くものがある。私たちのクラフトジンがその第一例でありたいと思っています。そうなることで、循環的な経済に楽しくおいしく貢献するやり方があることを、一番に証明したいですね」

クラフトジンのインターナショナルブランドを目指す

エシカル・スピリッツが志向するクラフトジンづくりは、すでに多くの共感を呼んでいる。上述のように多彩なブランド・ラインナップがあるのと同時に、企業や店舗、自治体(地域)とのコラボレーションにより生まれたクラフトジンもある。

 

たとえば、同社は2023年、日本航空(JAL)とのコラボレーションにより生まれた「Re FLY」をリリースした。これはJAL国内線ラウンジで提供されるコーヒーの抽出後に発生するコーヒー粉を利用したクラフトジンだ。また、同年リリースの「Ne10」は、4月にオープンした新宿歌舞伎町タワーのオープンを記念して、東急不動産と地元住民との共創によって生まれた。江戸時代に栽培されていた新宿区の伝統野菜「内藤とうがらし®」をキーボタニカルに利用することで、歌舞伎町のネオン街の情景と多様性を表現している。

JALとのコラボレーションによって生まれた「Re FLY」(提供:エシカル・スピリッツ)

「ほかにも、私たちはこれまで数多くのコラボレーションをさせていただいています。私たちは素材だけではなく、コラボレーションする方々が伝えようとしている想いも『隠れた才能』だと思っています。私たちがつくるクラフトジンと、そのブランディングやデザインを通して、いかにそのメッセージを届けるのか。それは私たちが非常にこだわっているところですね」

 

このようなコラボレーションだけでなく、同社に素材や原料を提供する生産者や製造業者、さらにはクラフトジンを提供する小売店や飲食店など、クラフトジンづくりの根底には共創がある。それが相乗効果となり、同社のインスピレーションは研ぎ澄まされていっている。

 

「共創という考え方を非常に重視しています。一企業にできることは限られている一方で、自社でできる規模をより大きくしていくことも事業の成長には必要です。しかし、 その過程で私たちだけではできないようなアプローチや発想を持った方々からお声がけいただくこともあります。そういった方々とともに、双方にメリットのある環境をつくっておもしろい取り組みをしていくことも大事です。

私たちはさまざまな企業や生産者の方々から未活用の素材をご提供いただき、使わせていただいています。そのようなパートナーがいて初めて私たちが成り立っていることはつねに認識すべきです。今後もステークホルダーと共創していきながら、成長していきたいと考えています」

 

2020年の創業から約4年が過ぎたいま、同社がリリースしたクラフトジンは約70種類。試作段階のものも含めれば、すでに100以上のレシピがあるという。今後もエシカル・スピリッツは全国のステークホルダーとの共創により、「隠れた才能」を見出し、クラフトジンによってその物語を紡いでいくだろう。最後に、小野さんに同社の今後の事業の方向性について聞いた。

 

「未活用を可能性に、おいしいものに変えている私たちのクラフトジンを、日本のナショナルブランドに、そしていずれはインターナショナルブランドにしていきたいです。そのための重要なキーワードとして、海外輸出があります。やはりクラフトジンの本場であるイギリスでしっかりと認められるブランドになりたい。そのためには、イギリスを囲むほかのヨーロッパ諸国も重要なマーケットであると位置付けています。

また、現在の日本での酒づくりは、ソーシャルグッドからかけ離れたイメージを持たれていると思います。私たちのクラフトジンを通して、おいしいお酒をつくることと、サーキュラー・エコノミーは両立できることもぜひ知っていただきたいです。その理解を通して、酒づくりの深さやものづくりのおもしろさに興味を持っていただき、嗜好が多様化する時代でもお酒を楽しんでくださる方が増えていってほしいですね」

 

エシカル・スピリッツ株式会社

 

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