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「会社は人で出来ている」入山章栄教授が語る戦略的な人事の必要性

今回は、早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクールの入山教授が登場。人事戦略についてくわしく聞きました。

 

入山 章栄(いりやま あきえ)さん プロフィール

入山 章栄(いりやま あきえ)さん プロフィール

早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール 教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。 2013年から早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授となり、2019年より現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。

リカレント教育で知識のアップデートを

――入山先生が教えているビジネススクールには、社会人で学んでいる方が多いと思います。社会人のリカレント教育についてはどう思いますか?

 

リカレント教育は大事です。先進国の中で、日本が最も社員教育にお金をかけていません。

 

GDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費割合の国際比較  ▲出典:厚生労働省 第2-(1)-13図 GDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費の割合の国際比較について

GDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費割合の国際比較 ▲出典:厚生労働省 第2-(1)-13図 GDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費の割合の国際比較について

 

これから労働人口はさらに減るので、いかに生産性を上げるか。そのためには、人にしっかり投資することが重要です。かつ、いまは変化の激しい時代ですから、新入社員のときに学んだ知識は使えなくなっていきます。つねに学んでアップデートすることが大事です。

生産性を上げるため、会社が戦略的に教育を考える必要があります。結局は、リソースの問題だと思います。リソース=お金と時間です。お金と時間に余裕があれば、人は勝手に自分で学ぶはずです。

特に30代から40代前半くらいまでの人たちは「もうこのままではやっていけない」「会社がいつなくなるかわからない」と感じているのではないでしょうか。この年代は長い間、メンバーシップ型雇用で働いてきました。メンバーシップ型雇用の弊害は、自分の価値がわからないことです。

 

うちの学生によく「あなたの価値はいくらですか?」と質問をしています。

つまり、どのくらい稼げるかを聞くわけです。メンバーシップ型雇用では、自分の価値について考える機会はないと思うのですが、これからはそういう時代ではありません。

自分のどこに強みや価値があって、転職すればいくら稼げるか。これらを知っておく必要があります。そのうえで、いま居る会社のほうがいい会社だから、若干給料が安くても働いている、という状態が会社としては理想的です。

企業が人材を確保する方法

企業が人材を確保する方法

 

――日本では労働人口がさらに減っていくので、人材の採用が難しくなっていきます。人材採用のためには、何を意識すればいいでしょうか?

 

給料を高くするしかありません。これから、人材採用はさらに厳しくなりますよ。なぜかというと、おそらく今年からスタートアップやベンチャー企業のほうが給料が高くなってきますから。いまは、世界中でお金が余っている状態です。そのお金が、日本に来ているんですよ。

去年、スタートアップの資金調達額がすごい額になっています。スタートアップが最初にお金を使うのって、人じゃないですか。

 

国内スタートアップによる資金調達金額四半期推移 ▲出典:日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)

国内スタートアップによる資金調達金額四半期推移
▲出典:日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)

 

大企業の30代とスタートアップの30代で比べると、スタートアップの給料のほうが上になると思います。今年がその元年ですよ。

いままでは「やりがいはあるけど、給料が安い」というのがスタートアップでした。でもこれからは「やりがいがあるうえに給料も高い」ようになります。そうなると、みんなスタートアップに行っちゃいますよね。

給料を上げるのは、もちろんコスト的にきついです。でもいま、ESG投資という流れがあります。人的投資はESGの一環として考えて、ESG投資として給料を上げるやり方もあります。

多様性を意識した採用

――入山先生の『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)に、知の探索には人材の多様化が重要とあります。そうなると、新卒一括採用よりも中途採用を重視したほうがいいのでしょうか?

 

※知の探索とは、なるべく遠くの幅広い新しい知を求めること。イノベーションを起こすための第一歩。

 

新卒一括採用が悪いわけではありません。でも、中途採用を増やしたほうがいい理由は、いくつかあります。

日本の課題として雇用の流動性が低いことダイバーシティが進んでいないことがあります。イノベーションを起こそうとしたら、ダイバーシティは絶対不可欠です。

イノベーションは、離れた知と知の組み合わせから生まれます。知は人間が持っています。ということは、多様な人間が入ったほうが当然イノベーションは起きる。それだけの単純なロジックです。新卒一括採用で多様な人は取れませんよね。

中途で入る方の多くは、自分たちと違う経験をしています。一人の人間が多様で幅広い知見や知識を持っていることを「個人内多様性(イントラパーソナル・ダイバーシティ)」といいます。

中途採用では、自社と関係ない業界から採用したほうがいいです。そのほうが、多様性が生まれると思います。競合企業から入ってきても、似たような経験をしているわけじゃないですか。そういう人がいてもいいけれど「普通はこの業界からの人は採用しないよね」という人をたくさん採用する。

そして、その人が持っているジョブディスクリプションをうまく活用し、戦力になってもらう。それが、イノベーションを起こすうえでも重要だと思います。

パラレルキャリアや異動でも多様性は生まれる?

パラレルキャリアや異動でも多様性は生まれる?

 

――さくらインターネットは、パラレルキャリアや副業への挑戦も可能です。パラレルキャリアや副業でも個人内多様性は生まれるのでしょうか。

 

パラレルキャリアや副業には大賛成です。社内では出会えない人や、情報や経験を社内に持ってきてくれるので、多様性も生まれると思います。

 

――社内の異動についてはいかがでしょう?

 

戦略的にやるのであれば、いいと思います。

ローテーションで異動させているだけはよくありません。なぜかというと、社内に詳しくなるだけで、その人のジョブディスクリプションには何もプラスにならないからです。僕の意見としては、ジョブディスクリプションを豊かにするための異動は賛成で、中途半端な異動は反対です。

離れたところで、2つくらいの強いジョブディスクリプションを持たせるためであれば、異動にも価値があると思います。戦略的に異動を考えれば「H型人材」が育ち、イントラパーソナル・ダイバーシティも高まります。

 

H型人材のイメージ図

H型人材のイメージ図

 

その人が何の専門家になりたいかが重要です。

たとえば人事の専門家だけではなく、人事ができたうえでプログラミングもできますとか。人事ができたうえで、ファイナンスも得意ですとか。そうなれば、相当価値が高いですよね。そういう人材になってもらうために、戦略的に異動を考えるのならば価値は生まれます。

結局は戦略的に育てることが重要です。どのような人材を育てて、どのように活躍してもらうかを考える「タレントマネジメント」を考えなければなりません。

人事の仕事は人を成長させること

――タレントマネジメントをしっかりと考えなければならないですね。

 

タレントマネジメントは超重要です。会社は人で出来ていますから。理想はCHRO(最高人事責任者)を立て、社長と意識を合わせたほうがいいです。

会社の戦略を長期で考え、そこに人事部門が入って人事戦略を考える「戦略的タレントマネジメント」が大事です。これができる日本の人事部門は、なかなかありません。

 

日本では、人事の仕事は足りない部署に人を採用することだと思われがちです。しかし、人事の仕事は、人を成長させることだ、と元SAPジャパンの人事トップだった南 和気さんもおっしゃっていました。成長とは、スキル・経験・モチベーションです。これだけ見ていればいいので、わかりやすいですよね。

 

――人事の悩みとして「評価制度」があると思います。人事評価制度について、何かアドバイスをいただきたいです。

 

これからは、ある程度失敗できないといけません。イノベーションを起こそうとすると、必ず失敗することもありますから。

現在の評価制度は、一般的にはその期中の成功か失敗かを5段階くらいで評価するじゃないですか。でも評価される側からしたら、成功か失敗かを短期的に評価されるので、失敗が怖いですよね。そうなると、知の探索をしなくなります。

ノーレーティングやOKRを評価制度に入れるのも手段としてはいいと思います。会社のビジョンに向かってチャレンジしていき、ある程度の失敗を許容しないと変化できません。

評価も大事ですが、さらに大事なのが企業文化です。

「入山先生の言っていることは、とてもよく分かるんですけど、うちはそういう企業文化じゃないから、失敗を恐れないなんて難しいんですよ」と言われることがあります。けど、これって結構めちゃくちゃなことを言っていると思うんですよ。

企業文化というのは、戦略に紐づけて作るものです。失敗を恐れないようにしたいなら、失敗を恐れない企業文化を作ればいいんですよ。文化とは行動です。文化を作るには行動指針を作り、それを死守します。社長が率先して行動指針を守ってください。

これからのオフィスの役割

これからのオフィスの役割

 

――今後のオフィスの役割についてはどう思われますか? 働き方にも関連すると思うのでお聞きしたいです。

 

方向性は3つあると思っています。

1つめは「五感で考える必要性」です。最近よくオフィスについて相談されるのですが「五感で考えましょう」と言っています。これからリモートワークはさらに進みます。もう通勤で満員電車に乗りたくないじゃないですか。通勤で満員電車に乗らないといけない会社に入社する人は少なくなります。

ただ一方、オンラインだけで人と話をしても、信頼性の確保は難しいです。

人類学者で霊長類学者でもある山極壽一先生と対談した際に、なるほどと思った話があります。人間は霊長類です。霊長類には「近接感覚」というのがあり、霊長類が本当に信頼性を確保するときは、嗅覚・触覚・味覚が必要です。ゴリラがハグや、毛づくろいしているのを見たことがあるのではないでしょうか。

オンラインコミュニケーションでは、視覚と聴覚しか使いません。本当に信頼関係を作ったり、エンゲージメントを高めるには、五感を使うフィジカルコンタクトが必要です。たとえば、食事やお酒を飲んだりすることです。

立命館アジア太平洋大学の出口学長とお話しした際にキャンパスは必要、と意見が一致しました。「キャンパスは、ハグをする場所になる」と出口さんはおっしゃっていました。

2つめは、「オフィスの聖地化」です。わざわざここに来たという象徴的なものをオフィスに作る。象徴的なオブジェなどがあると、写真を撮って帰りたくなるじゃないですか。そういうものをオフィスに作るのはいいと思います。これを戦略的におこなっているのが、スノーピーク社です。本社を聖地にして、スノーピーク信者が本社のキャンプ施設でキャンプしていますからね。まさに戦略的聖地です。

3つめが「移動するオフィス」です。今後、自動走行の時代になるとオフィスごと移動が可能になります。1か所に留まっている必要はありません。「今日はうちの本社、青森らしいぞ」みたいな感じです(笑)。

入山章栄先生の「やりたいこと」

――このメディアのコンセプトは「やりたいこと」を「できる」に変えるです。入山先生の「やりたいこと」と、それを「できる」に変えるためにおこなっていることを教えてください。

 

自分のインナーマッスルをつけるために、リカレント教育を受けたいと思っています。

データ解析をする際、僕は古い統計ソフトしか使えません。なので、今年は新しいプログラミングソフトをマスターしたいです。あと、ファイナンスの知識を再度しっかり学びたいなと思っています。早稲田のビジネススクールの授業に通おうかなと考えましたが、それもどうかなと(笑)。

 

――入山先生が授業を受けに来たら、講師の方が驚きそうですね(笑)。教授という教える立場でありながら、まだまだ学ぼうとする姿勢を見習いたいと思います!

 

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執筆

川崎 博則

1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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