「物理サーバーでありながら柔軟性と使いやすさを追求」さくらの専用サーバPHY を作るインフラ開発エンジニア

さくらインターネットの物理サーバー専有クラウドサービス「さくらの専用サーバPHY(ファイ)」。従来の「さくらの専用サーバ」をリニューアルし、2020年より提供を開始した、物理サーバーの性能を最大限に活用できる柔軟性と使いやすさを兼ね備えたクラウドサービスです。

 

今回は、さくらインターネットに入社以来、専用サーバーに携わり続けているエンジニア2人にインタビュー。さくらの専用サーバPHY で利用されている技術や、さくらインターネットでエンジニアとして働く魅力などについて聞きました。

(写真左)井上 昌之、(右)井上 喬視

井上 昌之(いのうえ まさゆき)プロフィール

2007年入社。クラウド事業本部 クラウドサービス部 インフラ開発グループ マネージャー。入社以来、専用サーバーサービスの運用や開発に携わっている。

井上 喬視(いのうえ たかし)プロフィール

2015年入社。クラウド事業本部 クラウドサービス部 インフラ開発グループ リーダー。ネットワーク関連業務、サーバー監視、構築自動化などを担当。

さくらインターネットを選んだ理由

――これまでのご経験について教えてください。

井上 昌之(以下、昌之):さくらインターネットには2007年に中途で入社しました。前職では、SES(システムエンジニアリングサービス)の企業で、官公庁や自治体をターゲットとしたシステムの運用・設計・構築をメインの仕事としていました。当時おもに扱っていたものは商用UNIX で、個人で使うのは難しいものということもあり、もっと気軽に触れるものをやりたいなという気持ちから Linux を扱う仕事に興味を持っていました。さくらインターネットのお客さまの多くが Linux を使われており、社内で利用する環境も当然 Linux が多いので、自分の成長していきたい分野に飛び込めるということでさくらインターネットに転職しました。さくらインターネットに入ってからは、ずっと何らかの形で専用サーバーに関わっています。

じつは、さくらインターネットを知ったのは転職活動をする直前くらいでした。たまたま知人がさくらインターネットにいて、その繋がりで紹介していただいたんです。オープンソースのソフトウェアをメインで使っている点に興味を持ちましたね。

 

井上喬視(以下、喬視) :私は2015年に中途でさくらインターネットに入社しました。前職では、ネットワーク機器の製造・開発をしているベンダーで、おもにプリセールスのエンジニアとして営業に同行し、お客さまにネットワークの提案をおこなう業務に従事していました。

さくらインターネットに入社後は、専用サーバー関連の業務にずっと携わっています。採用面接の面接官が昌之さんだったんですが、そのまま同じチームに入り、それ以来ずっと変わっていませんね。現在はネットワーク関連業務のほか、監視や自動化を中心に取り組んでいます。また、さくらのクラウドを活用した管理基盤の整備も担当しています。

転職をするにあたっては、入社前から個人的にさくらのVPSを契約していたり、趣味の一環として自宅にサーバーを構築するなどしていたので、業務として携わっていたネットワーク分野だけでなく、いろいろなものに触れる環境がいいなと思っていました。あと、さくらインターネットが石狩にデータセンターを所有していることも知っていましたし、私自身北海道生まれということで、勝手な親近感を抱いていたというのもあり、入社を決めました。

専用サーバーを作る仕事

――おふたりの業務内容について教えてください。

昌之:おもに、さくらの専用サーバPHY という物理サーバー占有クラウドサービスのインフラを開発・運用しています。さくらの専用サーバPHYのサービス構成要素としては、契約管理や課金管理、コントロールパネルなど多岐に渡りますが、その中でもサーバーやネットワーク、ファイアウォール、ロードバランサーなど、インフラ全般の開発・運用が私たちの担当範囲です。

さくらの専用サーバPHY は、これまでオンプレミスでサーバーやネットワークを準備してシステムを開発・運用されてこられた方が、オンプレミスではなくクラウドサービスとして使いたいときに一番フィットするように、というのを目指して開発しています。基本的には法人のお客さまをターゲットにしたサービスですが、中には個人のお客さまもいらっしゃいます。

 

――具体的にはどういった業務がありますか?

昌之:私たちのチームは、基本的にインフラに関することは全部やるスタンスです。お客さまにサービスを提供するために必要なサーバー機器、およびネットワーク機器の選定、検証、構築業務や、オプションサービスとして提供しているファイアウォールやロードバランサーといったアプライアンス機器の選定から検証、構築もおこなっています。ほかにも、サーバー機器やネットワーク機器をラックに設置するための収容設計や、ラックに設置された機器を自動で構築するための仕組み作りなどもおこなっています。とくにラックの収容設計においては、構築後の運用効率まで考慮して設計しているので、これはクラウドサービスのインフラを作るエンジニアならではという気がしますね。

また、当然ながらサーバー機器やネットワーク機器を設置するだけでは、障害が発生したときに検知できません。そのため、構築したインフラを監視してアラートをあげるための仕組み作りや、サービスの運用に必要なアプリケーションの開発、および開発したアプリケーションを動かすためのコンテナ実行基盤を作るなど、レイヤーの低いところから高めのところまで幅広く対応しています。

開発しているアプリケーションの話をすると、さまざまなOSを自動でサーバーにインストールするためのアプリケーションや、ブラウザ経由でサーバーのコンソールの操作ができるリモートコンソールというシステム、サーバー機器やネットワーク機器を制御するためのAPI開発などをおこなっています。その他、障害対応、お客さまからの問い合わせ対応、故障した機器の保守対応などですね。

 

――かなり幅広いですね。

昌之:物理機器の検証もするし、物理機器を制御するアプリケーションも作りますので、一通りのレイヤーのものは扱っている気がします。とはいえ、基本的には物理装置を扱っていますので、実際のところは地道で泥臭い作業がたくさんありますね。

井上 昌之

新しい技術を積極的に取り入れる

――扱っている技術はどういったものがありますか?

喬視:まず、物理サーバーの制御の話をすると、サーバーのメーカーもいろいろありますので、そもそも動作仕様が違ったり、同じような機能でも動作に違いがあったりします。そういった違いを吸収し、メーカーの異なるサーバーでもできるだけ同じ感覚でご利用いただけるように、各ベンダー独自の制御機能や Redfishプロトコルを使って、サーバーを制御するアプリケーションの開発をおこなっています。

ネットワークの部分については、IP Clos アーキテクチャをベースに BGP や VXLAN といったプロトコルを利用して基盤を構築しています。さくらの専用サーバPHY は Iaas 型クラウドサービスということもあり、ユーザーに L2ネットワークを提供する必要があるのですが、ネットワーク基盤をどのように論理的に分割してユーザーテナント空間を構築するかが難しいポイントです。さくらの専用サーバPHY にリニューアルするにあたり、ユーザーが任意のタグVLAN を扱えるよう構築したのですが、これは物理サーバークラウドならではのネットワークと言えるのではないでしょうか。

またファイアウォールやロードバランサーといったオプションサービスも提供していて、そこでは大規模システム向けのファイアウォールやロードバランサー装置を採用しています。このようなアプライアンス装置も、多様なユーザーのニーズに沿うように、冗長構成の設計や試験、構築をおこなっています。

サービスの管理基盤については自動化を進めていて、たとえば、以前はサーバー機器やネットワーク機器を構築する場合はマニュアルを見ながらここをこう押して……といった感じで手作業で構築していました。そういった処理を、それぞれAPIとして実装しコード化し、連携させることで、ラックに設置するだけで自動で構築が完了するような仕組みを開発しています。また構築完了後には、サービスディスカバリによって監視の登録や在庫化処理の自動化をしており、これらにより手作業を必要最小限なレベルまで減らすことができました。また、サーバーの画面やキーボードをお客さまがブラウザから操作するリモートコンソールの仕組みも、API やコンテナ化を駆使して構築するなど、さまざまな技術を積極的に導入しています。

物理サーバーを提供するサービスなので”ローテク”だと思われがちなのですが、裏側ではモダンな仕組みになっているんです。モダンなものをどんどん取り入れていこう、という方針で取り組んでいますね。

井上 喬視

――新しい技術をどんどん取り入れて駆使しているのですね。いろいろな知識が必要になりそうですが、どのように身につけているのでしょうか?

喬視:もちろん、いま説明したようなことはチームメンバーで分業しています。サーバーメインの人もいれば、基盤メイン、ネットワークメインの人もいて、ひとりで全部知っていなければならないわけではないですね。

 

昌之:理想を言えば、全員が全体を知っていてみんなでできるほうがいいです。ただ、さすがにこの範囲の広さ、しかも規模もそれなりにあるのでなかなか厳しい。ただ、みんな何かしら強いところがあるんですよね。

たとえば、喬視さんはネットワークに強いです。ほかのメンバーにも、サーバーが得意、アプライアンスが得意という人がいて、得意なところをまずメインで担当しつつ、それ以外に関しては少しずつフォローしていく感じです。

知識をつける必要はもちろんありますが、それぞれにくわしい人がいるので、自分でちょっと試してみて、わからないことは誰かに聞くことができる環境ではあります。新しいことをやるときは、僕自身もその方面にくわしい人と一緒に取り組むこともありますね。

リモートワークでも気軽に相談しやすい環境

――リモートワーク前提の働き方となってから、地方で働くメンバーも増えたそうですね。普段のコミュニケーションはいかがですか?

喬視:リモートワーク前提の働き方になっても気軽に相談できていますし、スムーズにコミュニケーションが取れるようになっているかなと思いますね。

 

昌之:そういう喬視さんがじつは地方在住ですからね。そういう意味では、結構面白いですよ。同じ仕事をしていても、住んでいるところは結構バラバラです。

 

――コロナ禍以降、地方から新たに入ってきた人もいるという感じでしょうか?

昌之:そうですね。こういう環境になると、「相談しやすさ」が変わってきますよね。

以前なら、相談したい人の席まで行って、「ちょっといいですか」と軽く話ができましたが、そういうわけにはいかないので、やり方を変える必要がありました。以前は週に1回のミーティングでしたが、いまは毎日ミーティングをしています。

30分間は「いまこんなことをやっています」「ちょっとこれがうまくいっていないです」という情報共有、その後の30分は、誰かが教えてくれたりアドバイスをくれたりする時間になっています。もちろん、雑談をすることもあります。あるときは雑談、あるときは業務の相談という感じで、毎日1時間はコミュニケーションの場を設けています。

チームでのミーティング以外では、「いまこの作業をするから誰か手伝って」「いまこれでつまづいてるんだけど誰かわかる人いる?」という感じで、Slack のハドルミーティングという機能を活用しています。スケジュールをかっちり決めずに、「今日はこれをやりましょうか」といったやりとりをすることもありますね。

 

――チームメンバー間で活発にコミュニケーションをとられていて、相談もしやすい環境づくりをされていることが伝わってきました。

昌之:少なくともそれを目指しています。

ハドルミーティングの面白いところは、誰かがはじめると、直接その話題に関係のない人たちも気づいてくれること。興味があれば気軽に入ってこれるんです。それもあってよく使いますね。

 

喬視:聞いているだけの人もウェルカムという感じです。

クラウドを”作る”エンジニア

――今後、目指していることについて教えてください。

喬視:自動化をどんどん進めていきたいですね。チームとして対象としている技術分野が広く、またサービスの拡大によって運用の対象も増えていきますので、だんだんと隅々まで目を光らせていくのが難しくなっていきます。その結果として、運用で手一杯となって新しいことができない状況に陥ってしまい、サービスの機能追加や改善が停滞してしまいますので、可能な部分は自動化を進めて人の手を離れるようにしていきたいですね。まだまだ自動化によって効率化できる部分はありますので、今後もどんどん進めていって、新しいことに取り組んでいける時間を増やしていきたいです。

 

昌之:エンジニアとしては、やりたいことがいっぱいあるんですよね。さくらの専用サーバ PHY を作ったとき、すでに実現できた部分もありますが、やりたいことがあるときに気軽に試せる環境を作ることを重視しています。

さくらの専用サーバPHY の基盤でも、コンテナ実行基盤を準備したり、ワークフローによる自動化の仕組みを構築しました。これがまだ十分に活用できる段階ではないので、そういったものをもっと気軽に使って、試したいことを試して、良ければサービスに組み込む、ダメだったらなにが違ったんだろうという話をしていきたいです。そうやってみんなが経験を積みつつ、サービスの改善も積極的にできればいいなと思っています。

 

――専用サーバーを開発・運用するチームとして、どういった方と働きたいですか?

喬視:サービスの中にはさまざまな要素、サーバー、ネットワーク、あるいはソフトウェア、ミドルウェア、ハードウェアなどなんでもありますので、技術分野に広く興味があったり、アンテナが広いような人は業務に取り組んでいて楽しいのかなと思います。また、メンバー間でディスカッションをしながら開発を進めることも多くありますので、検証など手を動かしたりしながら作っていける人も楽しいと思いますね。いまのチームメンバーにもそういう人が多いと思います。

あと、先ほども言った通り、自動化をどんどん進めていきたいと考えています。私たちが自動化を進めていくと、私たちが作るサービスで利用しているデータセンターで勤務されているスタッフや、24時間365日でサーバーやネットワークの監視をするチームなど、我々以外のメンバーの手も結果的に浮くことになっていきます。

ただ、我々が運用の対象としているのは物理的な装置ですので、自動化するとしても装置の仕様による制限の影響などもあり、制約が多いというのが実情です。そういったなんでもできる環境ではなく、さまざまな制約がある中でどのように工夫して自動化していくか、たとえば、手を動かしながらアイデアを出したり、組み立てていったりなど、そういったことが好きな人は楽しいかなと思います。

 

――さくらインターネットで働くことによって得られること、他社とはここが違うといったところはありますか?

昌之:さくらインターネットは自社でデータセンターを持っていて、かつサービスを提供するための機器がだいたいそろっているんですよね。それを一通り触ることができるだけでもかなり貴重ではないかと思います。さらに、お客さまに提供するサービスの機器とまったく同じセットを検証用でも全部作っていますので、本当に気軽にいろいろな検証ができる環境になっています。なので、いろいろなことに興味がある人、試したい人であれば、相当、得られるものは大きいのではないかと思います。

 

喬視:さくらインターネットはパブリッククラウドサービスを提供している会社であり、さらに自社でデータセンターを持っているとなると日本国内ではそう多くありません。基本的には、インフラエンジニアであってもクラウドは使うものというのがほとんどかと思いますが、そうではなく、パブリッククラウドを作る、また自社のクラウドサービスを使って開発を進めることも多くありますので、使いながら自分たちで改善をしていくというのは、さくらインターネットならではだと思います。

 

昌之:自動化の話を何度かしましたが、いまもすでに結構な規模で自動化しているんです。物理のシステムの自動化はなかなか想像しにくいかもしれませんが、ラックにネットワーク機器やサーバーを設置して、配線して電源が入った瞬間に構築できるレベルまで自動化が進んでいます。そういった自動化しにくいところまで突き詰めてるというのはなかなかないと思いますね。

 

――これからチャレンジしたいことがあれば教えてください。

喬視:もっと私たちが作ったサービスを使いやすく、より良いものにしていくことにチャレンジし続けていきたいです。田中さん(さくらインターネット代表)も言及されていましたが、単純に海外の大手事業者に追いつこうというのではなく、国内の事業者としてさくらインターネットなりの価値を提供できると思いますし、そういった意味では専用サーバーサービスは、国内のニーズにマッチしている部分もあるのではないかなと思っています。そのようなユーザーの声に寄り添ったサービスを作っていくことで、結果的にDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援できるのかなと思います。

 

昌之:さくらの専用サーバPHY の特長である、物理サーバーの良さを活かしたクラウドサービスとして機能を拡充していくことには、現在も非常に力をいれているところです。結局、使いやすいからこそ、お客さまにも使っていただける。なので、使いやすさをもっと突き詰めるというところについては、今後もチャレンジしていきたいですね。

 

(撮影:ナカムラヨシノーブ)

 

 

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