「全国で活躍する障がい者の方を、どんどん増やしていきたいんです」
そう語るのは、障がい者の就労支援をおこなう就労継続支援B型事業所「エンターテインメントアカデミー でじるみ」(以下、でじるみ)責任者の平間さんだ。
近年、障がいや精神疾患などにより就労が難しい人々を支援する事業所が全国的に数を増やしてきている。福祉業界が盛り上がりを見せるその一方で、長年にわたり同業界に身を置いてきた平間さんには、「本当に障がい者の方のためになっているのか」という疑問が浮かんでいた。
そんな思いを実現すべく設立されたでじるみは、現在テレビをはじめ、多数のメディアで取り上げられている。今回は、 でじるみを手掛ける株式会社メディアソリューションの取締役 平間 栄一さんに、でじるみの目指すゴールや福祉業界にまつわる思いを聞いた。
平間 栄一(ひらま えいいち)さん プロフィール
1986年生まれ。2007年より介護福祉士の現場へ。2012年より福祉イベント団体を立ち上げ、2018年法人化、就労支援事業所の運営を始める。2023年2月より株式会社メディアソリューション取締役、就労支援事業本部長に就任。でじるみ運営の責任者を務める。
社会に参加できる環境を作りたい。障がい者支援の現状を疑問視
現在、全国的に広がりを見せている就労支援事業。2023年現在、全国で約14,000事業所以上存在し、でじるみがある札幌市内でも 500か所を超える。
平間さんは、20歳で介護福祉士の現場に入り、長きにわたり福祉業界の動向を注視してきた。その中で増え続ける事業所を見て、「本当に支援は行き届いているのだろうか」と疑問を持つようになったという。
「就労支援施設は通所施設なので、障がいを持った方の“働く”という選択肢や、生きていくための選択肢を増やしていくのが、本来あるべき支援ではないかと考えるようになりました」
さらに平間さんは、本来の就労支援から逸脱した事業所が続出している現状を指摘する。
「『うちの事業所に来たらおいしいご飯が食べられます』『ゲームやってるだけでお金がもらえます』『ただ通って来てくれるだけでいいんです』 など、現在の就労支援事業所のなかには、本来の目的である就労の支援から離れてしまっている事業所があると思います」
このままでは、一般社会への就職や人生の可能性を閉ざしてしまうのではないか。平間さんはそう考え、障がいを持つ方一人ひとりの「好き」を仕事につなげていくことを目指す。
「現状、通所さえしてくれれば国からお金がもらえるので、事業所の運営が成り立ってしまいます。なので、障がいがある方でも仕事ができる環境、活躍できる環境を作っても、収益が変わらない状況にすごく違和感がありました」
この違和感を打開すべく、「将来的にも、障害のある方が活躍できるフィールドはどこだろう」と考え、アニメや漫画といったサブカルチャーに着目。デジタルイラストでカレンダーやチラシといった商品を作れる、「本物の技術を身につけられる環境」が、でじるみの大きなこだわりだ。
自分たちのペースで働ける居場所作り
障がい者就労継続支援B型事業所では、雇用契約を結ばないため、工賃として支払われる金額は時給に換算すると、よくて 200円程度。
また、仕事内容も介護施設や医療機関での清掃業務、クリーニング、工場、チラシ折り、ポスティングなどの軽作業がメインであり、将来的なスキルアップや就職に結びつけるのは難しい現実がある。
その中でも、近年の Web業界の成長に目をつけたでじるみは、デジタル技術を活用して、実際に グラフィックデザインやイラスト制作、動画編集などの仕事を受注している。そうすることで、フリーランスとしての活動の幅を広げていける環境を構築しているのが特徴といえるだろう。
「本物の技術」に対するこだわりはとくに強い。『ラブひな』『魔法先生ネギま』などで知られる有名漫画家、赤松健氏をはじめとした各界の著名人を「でじるみ応援団」として特別講師に招き、第一線で活躍する人物の技術に触れられる講義を提供している。
さらに、教育パートナー法人として、北海道芸術高等学校をはじめ、映像制作会社、専門学校、東北芸術高等専修学校の講師を招き、毎週講義を開いてスキルアップを目指せる仕組みを作り上げている。
「現在の グラフィックデザインやクリエイターの現場で利用されている Illustrator や Photoshop、Premiere Pro、CLIP STUDIO PAINT を利用できる PC を導入して、実際に現場で働いている本物のスタッフに、本物の技術を指導してもらっています」
社会で活躍する障がい者を増やしたい
個人事業主としての働き方は、納期や品質の責任、事務作業量などが本人にとって大きな負担になりやすい。でじるみでは、事業所がその負担を代わりに背負い、”好き”に集中してもらうことで、自身のスキルアップに注力できる環境を作っている。
「障がいのある方にはいろいろな特性があり、毎日仕事に出るのが難しい方もいます。そんな方には、でじるみを居場所として使ってほしいなって思うんです。好きなもので本物の技術に触れられる。そして仕事がたくさんできる人は、ここで仕事に取り組んだり、就職を目指したりする。この 2方向を考えています」
B型就労支援事務所では、長時間の仕事が難しい人でも、働き方や環境に配慮することで質の高いものを制作できる。またコストを抑えられることを強みとし、実際にパンフレット制作を受注した実績もある。
このようにデジタルの力を使って、障がいのある方も、社会の中で活躍できる場所をどんどん増やしている。障がい者の可能性を発掘するため、積極的にデジタル技術を取り入れているのは、障がい者就労支援事業所でも数少ない存在だろう。
障がい者の方への仕事発注の義務化が見込まれている行政の流れを踏まえ、企業と協力し、さまざまな仕事の創出をを目指しているでじるみ。平間さんは取材の最後に、「全国で活躍する障がい者の方をどんどん増やしていきたいんです」と目を輝かせながら語った。
取材をした 2023年4月現在、でじるみは札幌北(北海道)と、でじるみ富士(静岡県)の 2個所に事業所があるのみだった。
今後、フランチャイズ化により、2023年度には「でじるみ海老名」(神奈川県・2023年6月1日開所)、「でじるみ札幌平岸」(北海道・2023年7月開所)、「でじるみ函館」(北海道・2023年8月開所予定)、「でじるみ仙台中央」(宮城県・2023年夏場開所予定)、「でじるみ札幌白石」(北海道・2023年夏開所予定)と、規模の拡大を予定している。
でじるみという名前には、デジタル技術 を活用して、障がいを持つ人々のルミエール(Lumière:フランス語で「光」「灯(ともしび)」)となれるように、という思いが込められている。
障がい者雇用に灯をともすために、平間さんの挑戦は続く。