企業が DX を計画的かつ安定的に進めるには、組織としてのガバナンスを意識する必要があります。
DX のガバナンスに関して参考となるのが、経済産業省が公表している「デジタルガバナンス・コード2.0」です。DX を推進する企業は、デジタルガバナンス・コード2.0 の内容を踏まえたうえで、自社における適切なガバナンス体制を構築しましょう。
本記事では、デジタルガバナンス・コード2.0 の概要や、中小企業による実践のポイントなどを解説します。
デジタルガバナンス・コード2.0 とは
デジタルガバナンス・コード2.0 とは、企業価値の向上のために経営者が実践すべき DX関連事項をまとめたガイドラインです。
企業による自主的・自発的な DX の取り組みを促すことや、ステークホルダーとの対話に積極的に取り組んでいる企業に対して、資金・人材・ビジネス機会が集まる環境を整備することが目的とされています。
デジタルガバナンス・コード2.0 の構成と中小企業による実践のポイント
デジタルガバナンス・コード2.0 は、以下の内容で構成されています。
1. ビジョン・ビジネスモデル
2. 戦略
2-1. 組織づくり・人材・企業文化に関する方策
2-2. ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
3. 成果と重要な成果指標
4. ガバナンスシステム
各企業は、デジタルガバナンス・コード2.0 で示された内容を踏まえて、自社における DX を推進することが望ましいといえるでしょう。
上記の各項目について、概要と中小企業による実践のポイントを紹介します。
ビジョン・ビジネスモデル
企業の経営ビジョンは、デジタル技術による社会や競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえて策定する必要があります。さらに、経営ビジョンの実現に向けたビジネスモデルを設計し、価値創造ストーリーとしてステークホルダー(株主など)に示していくべきとされています。
<中小企業における実践のポイント>
- 「何年後、どういう会社になりたいか」などの経営ビジョンを具体化し、社内外の関係者に示す。
- 経営ビジョンを達成するため、どのような変革が必要かを検討したうえで経営ビジョンを策定する。
- 新たなビジネスモデルの創出や、ビジネスプロセスの変革のために、デジタル技術をどのように活用すべきかを明確化する。
- DX の取り組みが社内にとどまらず、地域や社会などの外部にも影響を与えられるように努める。
戦略
企業は、社会や競争環境の変化を踏まえたうえで、ビジネスモデルを実現するためのデジタル技術の活用戦略を策定し、ステークホルダーに示していくべきとされています。企業によるデジタル技術の活用戦略について定めるべき方策として、以下の 2つが例示されています。
- 組織づくり・人材・企業文化に関する方策
- ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
組織づくり・人材・企業文化に関する方策
企業は、デジタル技術の活用戦略の推進に必要な体制を構築し、その組織設計や運営の在り方をステークホルダーに示していくべきとされています。その際、人材の育成や確保、外部組織との関係構築や協業も、それぞれ重要な要素であることが指摘されています。
<中小企業における実践のポイント>
- DX を推進するために必要な人材やスキルをリストアップし、新規採用と外部人材活用の両面から、継続的に人材を確保し育成するための計画を作成する。
- 経営者が率先して DX を推進する姿勢を示す。
- DX推進を目的とする部署と担当者を明確化し、部門横断的な権限を与えるなど、会社全体でDXを推進できる体制を構築する。
- 全社員が DX を主体的に推進していけるような行動指針などを定める。資格の取得など、必要な投資は積極的にできる仕組みや体制づくりを、経営者が率先しておこなう。
- デジタルに関する知識を持つ社員が活躍できるように、人員配置を工夫する。
ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
企業は、デジタル技術の活用戦略を推進するため、ITシステムやデジタル技術活用環境の整備に関して必要となる以下の事項を明確化し、ステークホルダーに示していくべきとされています。
- プロジェクト
- マネジメント方策
- 利用する技術・標準・アーキテクチャ
- 運用
- 投資計画 など
<中小企業における実践のポイント>
- 会社が保有するデータを、会社全体で適切に活用できるように ITシステムを改善する。老朽化または複雑化している ITシステムは、速やかに刷新する。
- ITシステム部門の担当者が、経営ビジョンを達成するための変革に対して、迅速かつ適切に対応できるようなマネジメントをおこなう(例:人員配置、従業員研修など)。
- ITシステム担当者に加えて、実際の業務(例:営業、工場作業など)に精通している担当者にも、主体性を持ってプロジェクトに参画させる。
成果と重要な成果指標
企業は、デジタル技術の活用戦略の達成度を測る指標を定めたうえで、ステークホルダーに対し、指標に基づく成果についての自己評価を示すべきとされています。
<中小企業における実践のポイント>
- DX戦略の進捗状況を把握および管理するため、自社に適した指標を策定する(例:売上高、社員 1人当たりの付加価値額、講習受講率など)。
- 評価指標に基づく自己評価を実施し、社内外の関係者へ適切に開示する。
ガバナンスシステム
経営者には、デジタル技術の活用戦略に関するガバナンスの観点から、以下の対応をおこなうことが求められます。
- ステークホルダーに対する情報発信を含めて、リーダーシップを発揮すること
- 事業部門や ITシステム部門とも協力し、デジタル技術の動向や自社の ITシステムの現状を踏まえた課題を把握・分析したうえで、デジタル技術の活用戦略の見直しに反映すること
- サイバーセキュリティリスクなどへの対応
また取締役会設置会社においては、取締役会がその役割および責務を適切に果たし、デジタル技術の活用戦略に関する経営者の取り組みを適切に監督すべきとされています。
<中小企業における実践のポイント>
- 経営者が、関係者に対して DX推進のメッセージを発信し、DX推進担当部署および担当者と協力して変革をリードする。
- ベンダーに丸投げせず、経営者と事業部門が主体的に、ITシステムの開発や導入に取り組む。
- 経営者が、セキュリティ対策やプライバシー対策の重要性を自ら正しく認識し、会社全体での取り組みをおこなう。取り組みの内容は、社内外の関係者に開示する。
DX化の達成度を測る「DX認定制度」
経済産業大臣は、デジタルガバナンス・コード2.0 の内容を踏まえて、DX の準備ができている(=DX-Ready)企業について「DX認定」をおこなっています。
DX認定を受ければ、DX推進企業としての対外的な認知度向上につながるほか、税制および資金調達に関するメリットがあります。
今後、DX を推進していこうとする企業は、自社に適した DX体制を構築したうえで、DX認定を申請することもご検討ください。