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戸建住宅や賃貸住宅、マンション、商業施設、事業施設、環境エネルギーの6つの事業を展開している大和ハウス工業株式会社。いずれの事業にも必要となる施工や設計業務、工場への発注業務の効率を上げるべく、建設DXを推進している。
今回伺ったのは、BIMやメタバースを活用して開発した「D’s BIM ROOM(ディーズビムルーム)」について。そもそもBIMとはなんなのか、どういったメリットがあるシステムなのか、企画立案や開発に携わる吉川 明良さん、高比良 大輔さんに話を聞いた。
吉川 明良(よしかわ あきら)さん プロフィール(画像右)
大和ハウス工業株式会社 建設DX推進部 DX企画室 室長 兼 DX企画室 設計グループ グループ長。
2007年に入社後、店舗や事業施設の設計に従事するなか で、最新技術に関心を持ち、個人で先行してBIMを活用。2017年に全社的にBIMを適用していくとの意思決定を受け、BIMの展開を担う部署に異動。2024年4月の組織改編により、現在は住宅を含めたDX施策の企画立案をおも に担う部署の責任者を務める。
高比良 大輔(たかひら だいすけ)さん プロフィール(画像左)
大和ハウス工業株式会社 建設DX推進部 DX運営室 設計第2グループ。
2018年入社。入社1年目に中高層賃貸住宅の施工管理を担い、2年目からはデベロッパーの発注者として、分譲マンションの品質管理やお客さま対応などの建設プロセスに携わる。4年目に現部署に配属。BIMの社内標準の構築 、BIMやデジタルデータを活用する「D’s BIM ROOM」の開発など 、建設DXの社内展開や企画開発を担当。
線と文字で表すCADから3Dへ。国も建設業界への浸透を目指すBIMとは
BIMとは「Building Information Modeling(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」の略で、3Dモデルに建物を構成する部品や部材などの属性情報を付与し、建物をバーチャル上で構築する手法を指す。アナログが根強い建設業の効率化を図るため、国も業界への浸透を目指している。
大和ハウス工業が全社適用を決定した以前より、個人的にBIMを活用していた吉川さんは、そのメリットについて「3Dモデルから多様なアウトプットができること」だと説明する。
「BIMが登場する以前は、CADと呼ばれる線と文字で図面を描いていました。そのような手法から、3Dモデルと属性情報により建物情報を構築していく手法がBIMです。通常パソコンに格納されている一般的なファイルデータはプロパティを見れば、中身の情報がわかりますよね。BIMは、それと同じように属性情報を付与しているため、一度3Dデータを作れば、そこからさまざまな2D図面を出せるんです。
建物を上から平面的に見れば平面図になりますし、縦に切れば断面図になります。アウトプットした2D図面同士は整合性が取れているので、平面図上で窓の位置をずらせば、断面図上の窓の位置も自動的にずれてくれます。
CADでは、建物になにか変更点があるたびに平面図、断面図のそれぞれのデータに線と文字で表現し直さなければなりませんでした。BIMであれば、すべての図面に自動的に反映されるため、二重作業をせずに済むのです」(吉川さん)
吉川さんがBIMを触りはじめたのは、まさにこの二重作業から脱したいという想いがあったためだという。加えて、顧客からの「平面と立面で提案されてもイメージが湧きづらい」という声もあったと振り返る。
「『3Dで見たい』とご要望いただきまして。もともと業界の課題を解決できる技術だと感じていたので、試しに使いはじめてみたんです」(吉川さん)
その後、会社として技術基盤をCADからBIMに変革するという経営判断が下され、2017年にメンバー5名による専門部署(BIM推進室)を設立。2019年には、デジタルコンストラクションと呼ばれるデジタルのモノづくりプロジェクトがトップ判断で始動した。
デジタルコンストラクションとBIMの親和性が高いことから、部署名も建築デジタル推進部にして、デジタルコンストラクションも業務範囲に。その後、デジタル技術によるさらなる業務変革を見据えて、2022年4月に建設DX推進部と名称を新たにし、現在に至っている。
今回フォーカスする「D’s BIM ROOM」は、同社と同じく大和ハウスグループである株式会社トラスと、南国アールスタジオ株式会社との共同開発により作られたものだ。このうち、トラスと大和ハウス工業は、大和ハウス工業がBIMの全国展開を決めた2017年に出会い、2018年には両社は連携を開始した。
「BIMを使うためには、まず情報を入れていかなければなりません。1つずつ建材情報や製材情報をタイピングで入れていくのが普通の進め方ですが、これでは時間がかかります。そうしたなか、トラスがメーカーを横断してデータベース化した仕組みを持っていることを知り、BIMと相性がいいと考えました。トラスのデータベースと連携すれば、情報のインプットを効率化できるのではないかと」(吉川さん)
連携を始めた翌年には、現場への展開を開始した。現場への浸透にはタイムラグがあり、全国で初期連携を終えたのは2023年下半期。「ようやく現場でトラスを活用したBIMを当たり前に作成できるようになったばかりなんです」と吉川さん。現場への浸透を進めるにあたり意識したのは、トップダウンとボトムアップの両輪で進めることだったという。
「BIMが浸透すれば、生産性は確実に上がります。しかし、扱うものが2Dから3Dになり必要な情報量が増えることから、慣れるまでの間は一時的に生産性が落ちてしまいます。効率性を上げるために新しいものを入れるわけですが、トップダウンだけでは現場もすぐに受け入れられず、浸透させるのは難しい。
そのため現場で委員会を発足してもらい、使用結果を議論して改善点をもらうようにしました。結果、PDCAのサイクルを素早く回していけたと思っています。はじめから完璧を目指すのではなく、効果を早急に生み出すにはコンパクトに展開し、走りながら改善し続けるのが1番ですから」(吉川さん)
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守りから攻めのDXへ。BIMのさらなる利活用を目指し、「D’s BIM ROOM」を開発
BIMをより利活用することを目指し、開発されたのが「D’s BIM ROOM」だ。吉川さんは、「これまでの取り組みは業務効率化という『守りのDX』であり、『D’s BIM ROOM』は顧客体験の向上を目指す『攻めのDX』といえるでしょう」と語る。
「BIMを活用することで3Dデータにさまざまな情報を付加できますが、パソコン上でお客さまにお見せする場合は、画面に映し出される情報しか得られません。これを三次元で体験しながらお見せできるようになれば、新しい可視化が実現でき、お客さまにも新たな手法で提案できるようになると考えました」(高比良さん)
「D’s BIM ROOM」は、メタバースとVRを活用した新たなBIM活用方法だ。ここで、よく見聞きする「〇R」について整理しておきたい。
- VR:視界を遮るタイプのゴーグルを着用し、仮想空間に没入する技術
- AR:スマートフォンやタブレットなど、デバイスを通じて仮想空間と現実を重ねる技術。わかりやすい例として、『Pokémon GO』(ポケモンゴー)がある
- MR:VRとARを合わせた技術。透過性のあるゴーグルを着用し、仮想空間と現実を重ね合わせつつ、没入感も味わえる
これらVR、AR、MRなどの総称をXRと呼ぶ。また、メタバースは仮想空間の技術を活用し、複数でのコミュニケーションが図れるサービス、空間を指す。
「BIMにより効率化が図れるようになったことで、仮想空間を掛け合わせればなにが起きるだろうと考えたんです。たとえば、更地で神事をおこなったあと、建物が建つ場所を測量機で測って縄を張る地縄立ち会いをするのですが、BIM×仮想空間が叶えばデジタル地縄立ち会いができるようになるかもしれない。
壁紙の色を決める際も、パソコン上のモデルで見るのではなく、目の前にある状態で選べるようになるでしょう。BIMで顧客の体験を向上させられるのではないかというのがスタート地点でした」(吉川さん)
「D’s BIM ROOM」は、XR技術を活用し、メタバースでBIMの3Dモデルを可視化させる技術。使用しているメタバースは、先に挙げた南国アールスタジオが提供している企業向けメタバースプラットフォーム「WHITEROOM(ホワイトルーム)」だ。南国アールスタジオは大和ハウスグループだが、「D’s BIM ROOM」の企画段階では「WHITEROOM」を把握していたわけではなかったという。
「先ほど吉川が話したように、BIMを拡張空間で出したいという素案があり、企画書を提出してみたのが最初です。そこからXRについても学びながら、『BIMのデータがあればこういうことができるのではないか』という構想を立てていき、企業を探していたところ、南国アールスタジオを知りました。
もともと、『WHITEROOM』は製造業向けに提供しているサービスであることや、BIMがただの形状データではないことから、最適な利用のためにはカスタマイズして開発する必要がありました。
しかし、南国アールスタジオもはじめはBIMを知らなかったため、ただの3Dデータではないという説明をするところから始めました。
このシステムを実現するには、リアリティと手軽さの両立が必須でした。ゲームのようにリアリティを追求すればするほどデータ容量が重くなり、デバイスの能力や通信環境に質の高さが求められます。しかし、パソコンがない建設現場で使うものになるので、データをある程度軽くしなければならない。
とはいえ、リアリティが足りないと顧客体験の向上につながらない。『もっとリアルにできないか』というと、『これ以上クオリティを求めるには高性能なパソコンを別途準備してコードでつなぐ必要がありますよ』と返される。どこで折り合いをつけるかが難しかったんです。時間を要しましたが、一方で一からものを試行錯誤しながら作っていくおもしろさを感じられました」(高比良さん)
今後もいち早く技術を導入し、業務への利活用を進める
「D’s BIM ROOM」の活用を始めて約1年。その成果について、「サインや看板のサイズ感などディスプレイ上ではイメージしづらいものを、『D’s BIM ROOM』を使って動かしてみることで判断しやすくなり、その場での合意形成が可能になるといった事例を見てきました。その場で回答を得られるのは、時間的なコスト削減につながっていると思います」と高比良さんは語る。
はじめて建設する発注者も空間イメージを体感できるため、イメージの相違がなくなり、手戻りが減ることも期待できるという。
「D’s BIM ROOM」について、吉川さんは「いまは効率化を図れたレベル」としながら、以下のエピソードを披露してくれた。
「リゾートホテルの案件で、外構の植栽計画を立てました。ロケーションを気にする必要があり、ブラインドやルーバーではなく、外の植栽で視線を自然に遮りたいというのがお客さまのご要望でした。このような場合、建物の完成後に『あそこの植栽が足りない』といわれたところで、場所によっては重機を入れられない可能性もあります。
そこでドローンなどを使って地形や建物などを精密に計測する点群測量をおこない、さまざまな点を作って3Dにする技術を掛け合わせました。それにより、すでにある街路樹のデータも組み合わせることで、敷地内の植栽計画を適正にしていったんです。
その後、お客さまからは『D’s BIM ROOM』がなければ決めることができなかったとおっしゃっていただけました。『D’s BIM ROOM』が必要不可欠だったというレベルまで顧客体験を高めることができたいい事例だと思っています」(吉川さん)
「D’s BIM ROOM」の活用はまだまだ始まったばかりだ。今後について、高比良さんは「トライアンドエラーで、使いながら改善していきたい」と意気込む。
「XRやメタバースは流行りではあるものの、まだ一般化されているとはいえず、現在はまだ黎明期だと思っています。今後、ガラケーがスマホになったように、VRやスマートグラスが一般化していくことも想定されますので、いち早く技術を採り入れて業務で活用していきたいです」(高比良さん)
「今後も攻めと守りのDXを進めていきます。なかでも、守りに関しては質を高めることが重要です。AI活用を見越していくと、学習データが構造化されているほうが早く学習が進み、よりよい答えが出てくるでしょう。今後もしっかりと質を高めてAI活用を進め、さらに業務効率を上げていくことを目指したいですね」(吉川さん)
アナログの根強い業界を変えていくべく、最新技術の業務利用に積極的に取り組む大和ハウス工業。「D’s BIM ROOM」の展開を進めつつ、攻めと守りのDXに果敢に挑戦していく。
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執筆
卯岡 若菜
さいたま市在住フリーライター。企業HP掲載用の社員インタビュー記事、顧客事例インタビュー記事を始めとしたWEB用の記事制作を多く手掛ける。取材先はベンチャー・大企業・自治体や教育機関など多岐に渡る。温泉・サウナ・岩盤浴好き。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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