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世界的にも増加している認知症。2022年のデータによれば、日本の高齢者層における認知症有病者数は443万2千人、割合にして12.3%に及ぶといわれている。そんな認知症研究から生まれたのが、株式会社CogSmart(以下、CogSmart)が開発・販売する脳検査サービス「BrainSuite」(ブレインスイート)だ。同サービスの概要、脳ドックとの違い、評価、今後の展開などについてマーケティング、経営企画を担当する戸部 亮介さんに聞いた。
戸部 亮介(とべ りょうすけ)さん プロフィール
マーケティング管掌・経営企画。デジタル領域におけるマーケティングを強みに国内外でキャリアを積み、2023年7月に株式会社CogSmartに入社。
海馬の大きさを測定。気付きにより行動変容を促す
記憶をつかさどる海馬は小指ほどの大きさで、左右一対からなる部位だ。脳を構成する部位のなかでも、20代、30代ごろから認知機能に先行して萎縮が始まるといわれている。
一方で、脳のなかで神経が生まれ変わる代表的な部位でもあり、萎縮を抑えるだけでなく、大きくすることも可能だと考えられている。東北大学加齢医学研究所では、これに着目して長期にわたり研究を進めてきた。認知症の予防、共生を社会実装するために、同研究所発の医療・ヘルスケアサービス企業として、2019年に設立されたのが株式会社CogSmartだ。
「BrainSuite」は、東北⼤学加齢医学研究所が開発したAI画像技術に基づき、海馬の大きさを測定する脳検査サービスだ。
従来の脳ドックでは、一定の症状が現れはじめて、ようやく医師が認知症の診断を下していた※。これに対し、BrainSuiteでは、従来は計測できなかった健康なうちからの海馬の体積と、海馬が脳のなかで占める割合を測定することができるという。海馬を定点観測し、経年の変化を可視化することで、生活習慣見直しの行動変容を促し、「脳からはじめるヘルスケア」を実現することがこのサービスの目的だ。
※脳ドックでは、MRIとMRAで脳の状態を確認しますが、認知症と診断するには他の検査もあわせておこなう必要があります。
BrainSuiteでは、まず、同サービスを導入している医療施設で頭部MRIにより脳画像を撮像する。検査後、海馬の大きさ、占有率、同性・同年齢比較、経年変化、予測などを会員ページ上で確認できる。
さらには、CogSmartに所属する医療従事者からオンラインで検査結果の説明やアドバイスを受けられる面談(初回無料)サービスや、同研究所が監修したコラムやハンドブックの提供もしている。海馬の機能の維持、向上のための充実したフォローアップも魅力だろう。
「CogSmartは、誰もが『生涯健康脳』でいられる社会を目指しています。生活習慣に気を付つけること、たとえば、一定の強度以上の運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠、飲酒や喫煙を控える、好奇心を持って物事に取り組む、社会とのコミュニケーションなどにより、海馬は何歳になっても神経が生まれ変わり、萎縮を抑えて大きくすることもできるといわれています。BrainSuiteを通じて、認知症当事者の方々にも優しい社会をつくることを目指したいですね」(戸部さん、以下同)
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東北大学加齢医学研究所の豊富なデータを活用して開発
海馬の計測を可能にしているのは、同研究所が保有する豊富な研究データだ。
同研究所では、同一被験者の海馬を8年間にわたり、同じMRIで撮影。計約400例、約2万5千枚というデータは世界的に見ても非常に珍しいという。この脳医学研究で利用される高度な技術、データベース、解析アプローチを臨床利用できるように開発したソフトウェアがBrainSuiteなのだ。
BrainSuiteによる検査を提供するには医療施設の協力が欠かせず、導入に至るまでには苦労もあったという。販売開始当初はCogSmart内の人脈を活用したり、MRI機器メーカーの株式会社フィリップス・ジャパンと業務提携したり、1軒1軒医療施設を訪ねてはアピールするなどの営業活動を続けた。
「BrainSuiteは、これまでになかったコンセプトのサービスです。サービス内容だけでなく、当社の提供する価値観を理解していただくために、その伝え方は試行錯誤しました。サービスの表現方法の変更もその1つです」
以前は「認知症リスク検査」と表現していたが、BrainSuiteは海馬の大きさを測定するものであり、誤ったメッセージが伝わるリスクがあるとともに、必要以上の不安をあおる可能性があった。
そこに着目した戸部さんは、2023年7月の入社後すぐに、海馬に関する知識についてインターネット上でパネル調査を実施したという。調査対象者は20歳から74歳の男女合わせて150人。「海馬を知っていますか?」「20代、30代より認知機能に先行して萎縮し始めることを知っていますか?」「海馬は脳内で神経が生まれ変わる代表的な部位で、萎縮を抑えられることを知っていますか?」などを質問し、海馬に関する一般的な知識量を調査した。
「パネル調査の結果、海馬の神経の生まれ変わりについて知っている方は1割未満でした。その一方で、回答義務のない自由記述欄に、『海馬は萎縮を抑えられるとは知りませんでした。そうであれば、BrainSuiteの検査を受けてみたい』という回答が非常に多く寄せられたことに驚きました。そこで、海馬を軸にしながら、記憶力、集中力、判断力、実行力など、自分ごと化できる内容をBrainSuiteの訴求ポイントに変更しました」
すると、ユーザーのボリュームゾーンが50~60代から、40~50代に低下。30代のユーザーも増えたという。
また、ユーザーが自身の診断結果や専門家によるアドバイスなどを確認できる会員ページのコンテンツを継続的に拡充するなど、ユーザーのリピートを促す工夫も施している。
「サービスはつくって終わりではありません。ブラッシュアップをし続けることで、ユーザーにはもちろん、医療施設にもさらに高い価値をもたらすことができると考えてます」
間口を広げるために、他社との協業も推進
「手応えを強く感じている」と戸部さんは言うが、サービスはどのような評価を受けているのだろうか。
医師からは「脳によい生活習慣を心掛けるということは、生活習慣病予防にもつながる。若いうちから生活習慣を整えることが重要なため、BrainSuiteを受けることによって行動変容を促せる」と、高い評価を得ているという。
ユーザーからは「父がアルツハイマー型認知症を患っており、自分も発症するかもしれない不安から受けた。海馬のことを知れて、フォローもしてもらえるので、受けてよかった」といったように、将来的な不安を取り除くことにも一役買っているようだ。
しかし、医療施設やユーザーから評価を得ている一方、課題もあるという。
「海馬の萎縮を抑えられることは、まだあまり知られていません。この認知が広がれば、もっと当社のサービスをご利用いただけ、生涯健康脳を実現できる方が増えると信じています。ですので、サービスについてはもちろんですが、海馬について広く啓蒙をしていく必要性を感じています」
そこで、海馬に関する情報を自社メディアで積極的に発信。2024年1月には、「アタラシイものや体験の応援購入サービス『Makuake』」にて、BrainSuiteをチケット化した新サービスの先行販売を実施。これにより、エンドユーザーに直接訴求できることを可能にした。
また、「いきなり脳に興味を持つ機会というのは多くはないものの、毎日の運動や食事であれば間口が広いため、きっかけづくりとして他社との協業にも注力している」と戸部さんは言う。
関連した新サービスも展開予定
BrainSuiteでは、すでに充実したフォローアップを提供しているが、海馬を育てる機会をより多く提供するために、予防アプリ「BrainUp」(ブレインアップ)も開発した。これは、スマートウォッチの着用によって得た心拍数や活動量といったバイタルデータをもとに、海馬を育成するための一定以上の強度、時間での有酸素運動を促すサービスだ。
「習慣がない方は、いきなり強度の高い運動を求められてもなかなか続かず、ストレスを感じることも多いでしょう。それは脳にとってもよいことではありません。そこでBrainUpは、楽しみながら日常に運動を取り入れられるように設計しています。たとえばエレベーターの代わりに階段を使う、少し早歩きをするなど、ユーザーができることから自然に取り入れられるのが特徴です」
このサービスは、まずはBrainSuiteの検査を受けたことのある方、事業提携パートナー、地方自治体、健康経営に取り組む企業を対象に提供を始めるという。
「当社は認知症の予防と共生の実現を目指しています。そのために、当社のサービスを、より多くの方に使っていただける環境を整えたいですね」
そう力強く語ってくれた戸部さん。CogSmartの努力は、超高齢社会のなかで認知症に不安を抱える人に光をもたらすことだろう。
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執筆
増田洋子
東京都在住。インタビューが好きなフリーランスのライターで、紙媒体とWebメディアで執筆中。ネズミを中心とした動物が好きで、ペット関連の記事を書くことも。
ポートフォリオ:https://degutoichacora.link/about-works/
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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