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7兆円を超える巨大市場を形成する広告市場。現在、マスコミ4媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)の広告が縮小傾向にあり、インターネット広告にシェアを奪われている状態にある。デジタル媒体との連動などにより業界再編が進むなか、特異なポジションにあるのがテレビCMだ。他媒体のなかでもコストが高く、出稿までのプロセスも複雑でノウハウが求められる一方で、ROI(投資対効果)が見えにくいことが課題となっている。
そんななか、2023年4月にテレビCMの業界構造に変革をもたらす新たなソリューションが生まれた。現在株式会社CMI(以下、CMI)が提供するテレビCMに特化したSaaS型のサービス「CM in-house」だ。同サービスの特徴、今後の展望について代表取締役の田中 陽樹さん(以下、陽樹さん)とマーケティングアドバイザー顧問を務める田中 安人さん(以下、安人さん)に聞いた。
写真左:田中 陽樹(たなか はるき)さん プロフィール
株式会社CMI 代表取締役
2006年電通入社、テレビCM部署のリーダーを経験し、当時電通最年少でスポット業推に就任。100社300億円以上のテレビCMの支援をおこなう。2018年より株式会社GOに入社し、ビジネスプロデューサーチームのリーダーを務める。ファミリーマート、損保ジャパン、docomoをはじめとした大手クライアントを担当。2023年に同社を退社し、「CM in-house」を運営する株式会社CMIを設立。
写真右:田中 安人(たなか やすひと)さん プロフィール
株式会社CMI 顧問/株式会社グリッドCEO/株式会社?野家CMO/公益財団法人日本スポーツ協会ブランド戦略委員
HR、IR、経営戦略、海外戦略、マーケティング、スポーツマーケティング、スタートアップ投資家、アドバタイジング・エージェンシー/パートナーなど、幅広い経験から多くの企業のCMOを歴任。2023年、株式会社CMI設立時にマーケティングアドバイザー顧問へ就任。
著書:『妄想力 答えのない世界を突き進むための最強仕事術』(日経BP社)
テレビCMの出稿に「透明性」と「効率化」を提供するサービス
CMIは2023年12月設立と、取材時点で設立まもない企業だ。もともと「CM in-house」は、広告やマーケティング領域、事業開発で業界に強い存在感を放つ株式会社GOの新規事業の1つとして同年4月に提供を開始した。その後、約8か月で事業ごと独立したのだ。提供開始から独立まで非常に速いスピードに思えるが、そこにはどのような経緯があったのだろうか。
「じつは、GOでサービスを立ち上げた時点で、社内でもいずれ独立する方向で話を進めていました。『CM in-house』をビジネスとしてスケールさせるためには、社内の一事業ではなく法人化したほうがよいと考えたためです。
仕事が一区切りついた今年の11月に、このタイミングで『CM in-house』の成長にコミットしたほうがいいという結論になり、法人設立を決めました」(陽樹さん)
「CM in-house」はその名のとおり、テレビCMの広告運用をインハウス化するソリューションを提供するサービスだ。テレビCMのプロがサポートしながら、相談から見積もり、出稿作業、効果測定までをサービス内でおこなうことができ、データもダッシュボード内で集積される仕組みになっている。
そもそも一般的に、テレビCMのプロセスにはどのような課題があるのだろうか。マーケティングや広告・プロモーションに精通し、現在?野家のCMOも務める、CMIマーケティングアドバイザー顧問の安人さんに聞いてみた。
「テレビCMが日本で始まって70年ほどの歴史を持ちますが、広告主はまだテレビCMのポテンシャルを発揮しきれていないと考えています。一方で、テレビCMの最大の障壁となっているのは属人的なプロセスです。
私自身、広告主として30年ほどテレビCMに携わり、広告代理店を立ち上げた経験もあるので両者の立場がわかりますが、テレビCMの出稿プロセスは広告主としても広告代理店としても職人技に近いものです。
膨大でフォーマットもバラバラなアナログデータの取り扱いや、煩雑なプロセスを進めるノウハウは、長年の経験と広告代理店の力量に依存するもの。そのため、社内に共有しにくい状態になっています。これでは新たにテレビCMを出稿したい広告主にとって参入障壁になってしまい、既存のクライアントにとっても出稿を躊躇する要因になってしまいます。このようなあり方をデジタルで解決できないかと長年考えていました」(安人さん)
実際には、テレビ局と広告代理店の間では「伝送システム」という便利な管理システムが導入されており、CM枠の状況・価格などは過去20年分から現在に至るまで逐一共有されている。しかし、広告代理店から広告主に提供するデータはエクセルやPDFなど、さらに代理店各社でそのフォーマットも異なり非常に扱いづらいという課題がある。
テレビCMの出稿のあり方には、特定の番組を指定する「タイム」と、期間や放送地域、出稿量をプランニングして出稿する「スポット」がある。キャンペーン型のプロモーションをおこなう場合、スポットが有効であるが、全国の放送局は120を超える。つまり、広告主が正確に自社の購買データを管理・把握するためには膨大なデータを取り扱う必要があるが、それができておらず代理店の管理能力に依存しているのが実情だ。また、代理店主導でエクセル・PDFが提供されるため、代理店にとって都合の悪いデータを人為的に非開示する余地も生じる。
広告戦略の意思決定に不可欠なデータが不透明なことが、企業がテレビCMの出稿に踏み出せない要因になっているという。では「CM in-house」の導入は、広告主にとってどのようなメリットがあるのだろうか。
「『CM in-house』は、まさに「テレビCM出稿のDX」を実現するツールです。広告主がこのサービスを利用するメリットは、これまで属人的になっていたテレビCMのノウハウを、企業のなかに資産化できる点にあります。つまり、ブラックボックスとなっていたテレビCMにかかわるローデータが、すべて集約・蓄積され、簡単に管理ができるようになる。過去の出稿データとの比較やインターネット広告など他媒体でのキャンペーンとの連動が容易になり、担当者が急に異動や退職することがあっても簡単に引き継ぐことができ会社の資産になります。
また、出稿プロセスの手順をシステムに取り込んで明確化しています。『CM in-house』のダッシュボード上では、次にどのようなタスクを取ればよいかもサジェストしてくれます。ノウハウをシステム化しているだけでなく、これまで代理店の担当者といちいちアポを調整して相談しないと進まなかったところを、対面でのフルサポート対応はもちろんやりながら、24時間365日つねにシステムでの対応も可能にしているので、従来マンパワーに頼っていた見積もりなどのスピードも格段に速くなります。データの透明性と業務の効率化はまさに広告主が求めていたところで、導入にはメリットが多いですね」(安人さん)
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「ブラックボックス」を排し誠実性を担保する広告出稿のあり方
データの透明性と業務の効率化は、陽樹さんがサービス設計時からこだわっていたところだ。そのため、手数料の設定のあり方も通例から見直した。これまで出稿後の効果測定はあくまで広告代理店のサービスとして扱われ、実施の有無にかかわらず一律の手数料が取られていたが、同サービスでは枠のみ買付の場合は手数料率を引き下げる。
「目指しているのは『テレビCMのLCC』のイメージです。なるべくコストを抑えて枠の買付だけをおこないたい広告主もいれば、テレビCMの出稿後の分析や効果測定までしっかりと伴走してほしい場合もあります。広告主の視点に立った適正価格を設定することで、利便性の高いサービス提供を実現しています」(陽樹さん)
実際、サービス提供開始から現在までの期間で、多くの企業から好意的な反響が寄せられた。テレビCMに対する潜在的なニーズは想定以上に大きく、それが陽樹さんの独立のあと押しにもなった。
「広告主からの反響がよかったのはうれしい限りですね。私たちは『CM in-house』のようなソリューションが必要だと思ってサービスを作りました。想像しているよりもテレビCMを打ち出していきたい企業や、現在すでに出稿している企業でも、今後のノウハウの継承に不安を感じている企業が多かったです」(陽樹さん)
「CM in-house」のサービス提供のあり方や価格設定の誠実性の高さも共感を呼んだ。安人さんがマーケティングアドバイザー顧問として参画したのも、同サービスおよび陽樹さんの考えに共感と将来性を見出したためだ。
「陽樹さんはGOに在籍していたときから日本一のプロデューサーだと思っていて、人間としても信頼できる人物だと感じています。だからこそ陽樹さんのつくるサービスには『嘘がない』。これまで広告に関するノウハウや情報は、複雑すぎてわかりにくいプロセスや膨大なデータの処理によってブラックボックス化されてしまう傾向にあった。それを正しくわかりやすく開示しているのが、このサービスなんです。
『CM in-house』はそのようなブラックボックスを仕組みによって解消するだけでなく、広告主の視点に立った利便性を追求しています。一方で、テレビCMがより出稿しやすく、データやノウハウが広告主に蓄積していけば、広告戦略のなかでテレビCMを選択する企業は増えてきます。そうなれば放送局側にもメリットは大きい。業界全体を見据えて、すべてのステークホルダーに利益がもたらされる仕組みになっているんです」(安人さん)
そこで気になるのが、これまでテレビCMの出稿を担ってきた広告代理店の存在だ。既存の業界構造を刷新する「CM in-house」について、広告業界ではどのように捉えているのだろうか。
「広告代理店のなかでも、とくにデジタル広告領域に強みを持つ企業からよい反響をいただいていますね。そういった企業の場合は、広告主をインターネット広告によって成長支援した結果、デジタルだけでは獲得できない層にアプローチする際にテレビCMの併用を検討する必要が出てきますが、デジタル広告会社にはテレビCMのノウハウがありません。そういった企業から『一緒に顧客に提案したい』と協業のお声がけをいただくことが多いです。すでに特定のクライアントの案件では、そのような協業体制を進めています」(陽樹さん)
近年ではCMIの他にもCM出稿に特化した企業も現れてきているが、陽樹さんは「そういった企業のサービスとも連携できることが『CM in-house』の特徴」と語る。同サービスはCM枠の買付とデータ管理、効果測定まで一気通貫でおこなえることが強みだが、他社の場合はCMの分析や効果測定に比重をおくサービスも多い。
たとえば、テレビCMの出稿までを「CM in-house」でおこない、分析や効果測定などは他社に依頼することで、第三者の目線から評価できる。
「もちろん当社でも効果の分析や効果測定までカバーしていますが、第三者が分析するという選択肢も必ず用意すべきだと考えたんです。たとえば、広告キャンペーンが成果を生まなかった場合に、『今回は私たちの広告運用が大失敗で……』と言ってくれるような正直な広告会社って少ないと思うんです。効果測定は、客観的で正確な分析と評価以外は信用しないという広告主がいて当たり前だと思います。
こういった点でも、透明性のあるデータを広告主に提供することは非常に重要であり、広告主の方々に開かれたものでなければならない。だからこそ、出稿後のデータも自社や第三者で分析・評価を可能にすることは開発初期から構想していました」(陽樹さん)
データの透明性を重視したサービス設計により、テレビCMはより開かれた存在へと刷新していく。安人さんは「CM in-house」の登場により「広告業界全体だけでなく、広告主としてもマーケティングに対してのリテラシーが向上していく」と期待を語る。
「これまでのテレビCMの属人性について自覚している広告主は多くないと考えています。『テレビCMはこんなもの』という先入観があると思いますが、それではポテンシャルを十分に発揮できない。テレビCMをいかに有効活用し、ROIを向上させるのか。そのようなリテラシーを高めていくことが重要です。
たとえば、?野家のビジネスモデルは利幅の大きいものではなく、テレビCMという高額な広告展開をおこなう以上は、絶対売上に直結する結果を出さなければなりません。あくまでROIの目線で考えれば、出稿量は必ずしも重要ではなく、売上に対してどれほどのインパクトを与えられたのかに帰結します。
『CM in-house』は、データの透明性が担保されているだけでなく、データの加工や分析・評価がしやすい点も魅力です。これによりROIの算出や他媒体で展開している広告とのデータ連携が格段に取りやすくなっています。これは私としても実現したかった世界で、アナログな世界で、非常に画期的なものです。このサービスの導入によって、広告主としてもテレビCMに対しての見方が変わっていき、より有効な広告戦略が描けるようになります」(安人さん)
テレビCMで高いROIを実現し、ともに成長できるプラットフォームへ
テレビCMの出稿に透明性と効率化をもたらし、業界に変革の狼煙をあげるCMI。会社設立から間もないなかでも新たな試みを始めている。テレビCMの出稿プロセスだけでなく、制作段階でのデータ分析にも乗り出したのだ。
「12月8日から、GMOプレイアド株式会社との協働により、『CMスタートダッシュ』というサービスの提供を開始しました。GMOプレイアドが提供する感情取得技術を取り入れた動画検証ツール『PlayAds(プレイアズ) byGMO』と当社の『CM in-house』を組み合わせたパッケージプランです。これにより放映前のCM動画の内容がターゲットに十分に訴求できるかを検証でき、より精度の高いテレビCMの出稿が可能になりました。
従来、テレビCMは実際に放映してからでなければABテストやCM素材の検証ができず、クリエイティブがしっかりとターゲットに訴求できているのかが不明瞭でした。当然ながら、広告枠だけでなく、広告クリエイティブが成否の変数として非常に大きいので、事後と言わずに、放送開始時点から最大の効果を発揮しなければいけないと日ごろから考えています。
『PlayAds byGMO』は国内に2,500万人以上の調査パネルを有し、完成前の仮編集段階でCM素材の調査を実施できます。実際に視聴してもらい、動画のイメージや印象に残るテキストなどを評価やコメントしてもらい、最短翌営業日には調査結果が開示されます。このサービスと『CM in-house』がセットになることで、放映前からテレビCMのクオリティと確度を高めることができ、買付したCM枠の単価をより効率的に運用できるようになります」
これまでのテレビCMの制作は、クリエイターや広告主担当者の”経験と勘だけ”に頼って完成させていた。経験や勘も当然重要になるが、外れてしまえば当然予算に見合う効果が出ることはない。一般視聴者による感想も踏まえ、出稿時に最高到達点に達するようなクリエイティブを実現するためにも、今回のような展開が必要だったという。
「今回のような展開ができるのも、『CM in-house』が出稿プロセスを効率化できているからこそだと思います。テレビCMの目的は、ブランド価値や売上の向上です。しかし、これまでのプロセスでは作業量が膨大すぎて、本来の目的から逸脱して『テレビCMをつくること』が目的になってしまうケースもありました。
これでは膨大なコストを投下しているのに効果は現れるはずもなく、経営者としても納得できません。そういった意味で、CMIが取り組んでいることは『テレビCMを科学する』ようなものです。今回の『CMスタートダッシュ』の展開であらゆる過程でデータドリブンな意思決定ができるようになり、高いROIを実現する広告展開が可能になるでしょう」(安人さん)
企業にとって、広告は事業やブランドの成長をドライブさせる重要な投資だ。とくにインターネット広告の市場規模は拡大する一方で、単体での需要は飽和しつつある。そのなかで「CM in-house」によりテレビCMがより便利でROIを示せる存在へと刷新すれば、今後の広告展開は新たな選択肢を得ることになるだろう。
最後に、CMIの今後の展望や期待について、それぞれの思いを聞いた。
「直近の目標として、まずは100社導入を目指していますが、5年後には『CM in-house』を全広告主のスタンダードとして、当たり前に使っていただけるサービスにすべく事業計画を策定しています。
ここ数年でも、コネクテッドテレビの登場や放送局のデジタルシフトなど、テレビCMを取り巻く環境は大きく変化しています。そのような変化が今後も続くなかで、広告主自体がデータやノウハウを蓄積して理解できていなければ、いつまでも広告代理店に依存し続け、代理店の『担当ガチャ』に一喜一憂する体制になってしまいます。『CM in-house』が目的としているのは、透明性と効率化できるツールを提供することだけではありません。テレビCMに起きているさまざまな変化をつねにクライアントと共有し、より高い効果をあげる広告出稿を実現してともに成長していくことです。そのような意思をCMIのDNAとして、今後もよりよいサービスの提供を目指していきます」(陽樹さん)
「いま、企業ではファーストパーティデータ(自社で入手した顧客データ)を取得しなければ生き残れない時代になっています。この前提は広告戦略も同様で、そういった意味ではCMIが提供する『CM in-house』は時代の要請に応えるサービスです。やがてはテレビCMの出稿に欠かせないプラットフォームのような存在にしたいと考えています。
先ほど陽樹さんが話したとおり、CMIは一社だけが勝つことではなく、ともに成長していくことを目指すサービスです。広告主であるクライアントだけではなく、放送局や広告代理店にも価値を提供でき、テレビCMの市場を盛り上げることができる。そういった意味では三方よしのサービス設計であり、今後導入企業が増えることでテレビCMが持つポテンシャルを実感する企業も増えていくと思います。
そのためには、サービスとしてテレビCMのROIをより可視化していく必要があり、システムやサービス設計は今後もっとブラッシュアップしていく必要もあるでしょう。しかし、私としては現状でも成長余地が多いことも魅力に感じています。『CM in-house』がテレビCMのスタンダードになるときまで、マーケティング面からサポートしていきたいですね」(安人さん)