さくマガ公式SNS
お問い合わせ

【CEATEC 2024】25周年特別パネルディスカッション「AIが日本にもたらす可能性やその未来展望について」

IT・デジタル関連の最新情報や企業事例をいち早くキャッチ
>>さくマガのメールマガジンに登録する

「CEATEC 2024」内でおこなわれた、CEATECの25周年特別パネルディスカッション「AIが日本にもたらす可能性やその未来展望について」にて、さくらインターネット 代表取締役社長 田中 邦裕が登壇。他登壇者とともに、前例のない速さで進化を続けるAIが、日本の未来に与える変革の可能性について議論しました。本記事ではその一部を抜粋してお届けします。

「AIを活用せざるを得ない」社会がすぐそこに

奥平

日本のAIの利活用は米中に比べて遅れているといわれています。しかし経営層のお話を伺っていると、みなさん、意外と熱心な気もします。お二人の実感としてはいかがですか。また、どういった取り組みをしていけば、AIの利活用がより進むとお考えですか。

岡田

おっしゃるとおり、経営者の方がAIに非常に関心を持たれていると、私にも実感があります。生成AIに投資をしてくださる経営者の期待に応えるためには、まずはリーダーシップを持ってAI活用を推進していく人材が現場にいることが非常に重要です。そうすれば現場で投資の成果を出すことができ、それがうまく循環して次の投資につながるいいサイクルができるのではないでしょうか。

奥平

プロジェクトを引っ張っていける、ミドル層の人材をどう集めてくるか。それが課題ということですね。

岡田

そうですね。外から集めてくるという話もありますが、どの会社も、社内にデータサイエンスに興味があったり、すでに学習していたりする社員が結構いるので、そういう人材をいかにうまく引き上げて発掘していくのかも今後重要になってくるかと思います。

奥平

田中さんはどのようにお考えですか。さくらインターネットでは生成AI向けのクラウドサービスを提供していますが、インフラサイドからのご意見、それから構成員を担われているAI戦略会議の議論を踏まえてのご意見など、いかがでしょうか。

田中

海外に行ったときによく感じることが2つあるんです。

1つは、日本人の人件費が安いということ。そしてもう1つは、日本人はLLMを活用しなくても、いまの仕事の延長線上でできることが多い、ということです。日本の雇用形態はジョブ型雇用というよりメンバーシップ型雇用のため、労働者はいろいろな仕事ができるんです。海外だと、労働者間でのレベルの差が大きいことが多いです。また、スキルの高い人を雇うには非常にコストがかかります。

外国人の人材を入れていかなければという議論がありますが、コンビニのレジ業務1つを見てもわかるように、日本人のように複数のことを同時にできる人は、海外人材では少ないのではと思っています。一方で、これから日本人の人件費が間違いなく高くなるので、AIに頼らざるを得ない状況になるでしょう。これがAI発展のキーの1つではないでしょうか。

奥平

好むと好まざるとにかかわらず、AI活用の流れになるということですね。

田中

そうです。AIを使わなければ会社がまわらなくなってくるので、使わざるを得ない。恐らくあと半年から1年でわれわれはこの状況に直面すると思いますし、すでにこの状況にある会社もあるのではないでしょうか。

>>さくらインターネットの生成AI向けクラウドサービスとは?

日本のAIの主戦場はものづくりの現場

奥平

当然、企業は優先順位をつけてAIの用途開拓をしていくと思います。日本で有望だと思われる業界や、ご自身が今後注力していきたい分野についていかがでしょうか。

岡田

Preferred Networksの場合、ものづくりの企業と一緒にプロジェクトを進めることが多く、そのような企業がAIを活用されることに、非常にポテンシャルを感じています。今後も、メーカーのAI活用をサポートしていきたいと考えています。

奥平

なるほど。具体的な例を1つ挙げると、ロボットにはチャンスがあると私も思います。ファミリーレストランではロボットの活用が増えているので、そこに日本における社会実装の地の利があるのかも、と期待しています。

岡田

Preferred Networksには株式会社Preferred Roboticsというグループ会社があり、自立走行のロボットを開発しています。たとえば、歯医者で歯科助手に代わって治療器具などを自動で運んでくれるロボットなどを作っていて、人手不足解消にいい影響を与えられると考えています。

それから、AIを使うことで製品開発を促進できる面もあります。Preferred Networksでは化学素材向けのAIのプロダクトを展開しており、それを使うことで開発効率が数倍は上がるだろうと期待しています。他国がAIを使ってどんどん開発力を高めているなか、やはり日本としてもAIをうまく活用し、その開発力を高めていく必要性が強まっていると感じています。

奥平

田中さんは生成AIのインフラに携わっておられるので、誰がどのようにAIを使っているかを知り得る立場だと思いますが、どのあたりに成長を期待されますか。

田中

大きく分けて3つあります。

まずは研究開発領域です。LLMやSLMは続々と出てきていますが、追加学習の手法など、いろいろな研究的要素は必要なので、この領域は固定的に残ると思います。
それから、ネット系のスタートアップです。ネット系のサービスをいかに高品質にしていくかという分野でAIが使われていて、目に見えて利益率や売り上げの増加率が変わります。「売り上げがこれだけ増えるなら、どれだけサーバー代を払ってもよい」と考えている企業が多いので、頭打ちになるまでは使われると思います。
そして最後に、岡田さんもおっしゃったものづくりの現場です。やはり日本はものづくりや流通が非常に強い国ですから、ここが主戦場だと思っています。AIを製品にいかに組み込んでいくか、が大事です。

一方でトレーサビリティーの問題があります。メーカーがある製品を作ったときに、自国の法規制はクリアしていてもヨーロッパの法規制に引っ掛かれば、膨大な賠償金などを請求されてしまう可能性があります。そして訴訟となればトレーサビリティーも重要になり得るのですが、自社で作っていないものは途中までしか追跡できません。ですから、製品に組み込んだAIの誤判断を検証するとき、きちんと追跡できるかどうかはネット企業以上に重要になります。ものづくりの企業だからこそ、AIを自分たちで作らざるを得なくなっているのです。

ただ、そこで生み出される価値はとても大きく、ものづくりに強い日本がAIで製品を強化すれば、日本の製造業復活のきっかけになるのではないでしょうか。30年にわたってデジタル分野で世界に遅れをとってきましたが、リアル分野における日本の復活を期待するお客さまは、結構いらっしゃいますね。

奥平

「ものづくり×AI」に勝ち筋が見えるということですね。

グローバルを意識しつつローカルを確立する

奥平

グローバル市場の中では天文学的数字が動いていて、自ら半導体まで作る大企業もあります。そのなかで、日本はどう競っていくことになるでしょうか。どのような差異化を図れるのでしょう。

田中

二極化すると思っています。まず、おっしゃるようなハイパースケーラー、要するにグローバルに使われる大きなAIは、間違いなくいくつかが地位を確立しています。一方で、最近の世の中ではグローバル化の後退も見られます。個別化が進んでいるのです。1つの大きなものを使うのはリスクがあるからです。たとえば、Uberは東南アジアではまったく使われていないし、Googleは韓国ではそれほど使われていません。

このように両極が共存していくなかで、日本の戦略としては、世界のソリューションを日本で使いつつ、自国のものもしっかりと作る、ということが重要です。「ソブリンAI」とNVIDIAの創業者/CEOであるジェンセン氏もおっしゃっていますね。グローバルの会社と、ローカルで最適化していく会社、双方が残っていくと思います。

奥平

岡田さんはいかがですか。Preferred Networksでは半導体開発もされていますが、半導体は非常に競争が激しく、とくに世界最大の半導体受託製造企業であるTSMCのキャパシティーを取り合うというような様相を呈しています。日本が存在感を発揮していく道筋については、どのように描いていらっしゃるのでしょうか。

岡田

田中さんがおっしゃったことにかなり近いですが、汎用的に使えるGPUがある一方で、用途をきっちり限定したGPU、たとえば推論を重視したGPUや省エネに特化したGPUなどの特徴を出していくことで、差別化ができるのではないかと考えています。

コンテナー型GPUクラウドサービス 高火力 DOK(ドック)
>>サービスの詳細を見る

ルールメイキングで日本は世界をリードできる

奥平

最後にルールメイクについてお伺いします。グローバルな単一ルールを設けることが望ましいですが、その方向に向かっていないのではないかと懸念されています。そうしたなかで、日本におけるルールメイクはどうあるべきでしょうか、そして日本のルールはグローバル市場でどのような役割を果たしていくべきでしょうか。

岡田

日本には、生成AIを寛容に受け入れる土壌があると思います。日本の雇用形態のもとでは、社員は多能工に育成されるので、いろいろな仕事ができるんですね。雇用形態がジョブ型のアメリカでは、AIの活用によって自分の仕事が奪われるという懸念はとても大きいのですが、日本の場合、いまの仕事がなくなっても別の仕事にシフトしたり、あるいはAIを活用していまの仕事をより高みに引き上げたり、というマインドがあると思います。そのような点が、日本がほかの国とは大きく異なっているところだと考えています。ですから、ルールメイキングにおいても日本はいま、かなりいい位置でリードしていると思いますし、ぜひ続いてほしいと感じています。

奥平

日本はどちらかというとソフト・ロー(規格・ガイドライン)的なアプローチなので、ハード・ロー(法律・基準)も多少は必要ではないかという議論も出ています。1
田中さんはいかがでしょう。なにを期待されるか、進むべき道をどう考えるか、お聞かせください。

田中

AI戦略会議の構成員としてAI制度研究会にも参加している立場から申しますと、できるだけソフト・ローがいいと思っています。たとえばインターネットにおいては、法律的な規制は最低限で、権利をしっかり守るべき部分はピンポイントで補完しています。AIも同じで、ハード・ローで規制するのではなく、利活用に向けてソフト・ローを整備したうえで、マルチステークホルダープロセスを達成していく。これが重要であり、わが国のあるべき姿です。アメリカでもヨーロッパでも中国でもない、第四国的な立場を世界から期待されているのが日本だと思います。

ただ、ソフト・ローに関する理解促進は必要です。たとえば著作権。AIが生成したものは著作権がないと思っている方がいらっしゃいますが、ドラえもんのデータを学習させて生成したドラえもんの漫画の権利は、当然ドラえもんの著作権者が保持するわけです。日本は他国と違って、AIにいくらでも学習させていい法律になっていますが、生成したものは著作権者のものになります。こうした理解を深めていきながら、ルールメイキングを進めていきたいですね。

奥平

基本的にソフト・ローが中心であるべきということですね。実行性に関しては、それで担保されているというお考えですか。

田中

「アップデートのスピードをいかに速くするか」という議論がなされています。実行性が高い法律を作ったとしても、結局担保されていないのが現状なので、ハード・ローで規制を強化するより、つねにアップデートすることで新しく出てきた課題に対して速やかに対処する。これが極めて重要ではないでしょうか。

>>さくらインターネットの生成AI向けクラウドサービスとは?

  1. 参考:「AI制度に関する考え方」について(概要) ↩︎

編集

さくマガ編集部

さくらインターネット株式会社が運営するオウンドメディア「さくマガ」の編集部。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

すべての記事を見る

関連記事

この記事を読んだ人におすすめ

おすすめのタグ

特集