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動き始めた「防災DX」 データでどこまで被害を減らすことができるのか?

企業だけではなく、社会のさまざまなところでデジタル技術の活用が検討されています。

そのなかで、官民共同のプロジェクトとして「防災DX」への取り組みが始まりました。

 

風水害や地震が頻発する日本では、そのたびに被災地における避難所などの開設や運営に迅速さが求められます。また、情報が遅れたりデマが流布されて、逃げ遅れやパニックが生じることもあります。

 

そして今後は、首都直下地震や南海トラフ地震が想定される中、災害対策のデジタル化が急務となっているのです。

災害時の情報にはさまざまなズレ

日本国内では、これまでも「激甚災害」と呼ばれるレベルの災害がたびたび発生してきました。

 

しかしそのたびごとに、実際に起きていることと情報にタイムラグが生じているのも事実です。

 

平成28年に発生した熊本地震では、避難者に対する食糧供給と避難者の数のピークに大きなズレが生じていることがわかります(下図)。

出典:「熊本地震に係る栄養改善・食事支援について~国の取組と今後の課題~」P8(厚生労働省)

また、令和元年の台風19号では、首都圏でのテレビ報道についていえば、地域別の人的被害と報道量に下図のような相関がありました。

 

もっとも人的被害が大きかったのは福島県、また、もっとも報道量が多かったのは東京都で、報道量と人的被害に大きなギャップが見られます。

出典:「防災のデジタル化に関する取り組み」P18(人防災科学技術研究所 )

テレビ報道については筆者も大災害時の報道をいくつか経験していますが、災害発生時に報道機関が頼りにするのは、まず市区町村などの自治体です。

しかし、被害の大きな自治体ほど情報をまとめるのに時間がかかり、じゅうぶんな対応ができないというケースが多々あります。

 

次に報道機関がおこなうのは「目視」です。首都圏、とくに東京のキー局から目視できる範囲は首都圏に限られます。陸路では被害が大きければ大きいほど現場に近づきにくくなりますし、ヘリコプターを飛ばすとしても、被災地まで距離がある場合はそれなりに時間がかかります。また、そう遠くまで航行できる乗り物ではありませんので、場所によっては燃料補給を視野に入れる必要が出てきます。

 

よって、特番の内容が真っ先に情報を入手しやすい首都圏の報道に集中してしまう、という事情があります。そのため、入手できる情報と被害の甚大さが比例しにくいのです。

 

また、避難所に送られる物資の需要と供給にギャップがあり、物資が余る避難所と物資が足りない避難所が出てくるのも、情報の共有が迅速にできていないためです。

 

そして都市で生じる「帰宅難民」などについても、情報を入手しにくい故にパニックが広がることも少なくありません。デマが流されることもあり ます。

情報共有範囲を広げるためのデジタル化

このように、災害時にさまざまな情報の偏在やギャップが生じてしまうのは、ひとえに情報が各地で共有されていないからという事情もあります。

 

そこで、官民連携でデジタル技術によって災害対応を合理化するために「防災DX官民共創協議会」が創設されました。おもに災害時に不可欠なデータ連携を進め、アプリケーションやサービスについて開発・流通させていこうという目的です。*1

内閣府は次世代の防災システムとして、下図のような形を求めています。

出典:防災DX官民共創協議会 公開シンポジウム 内閣府(防災)
参事官補佐(防災デジタル・物資支援担当)坂崎有理様の資料

また、会員企業である株式会社NTTデータは、下図のような在り方を理想に掲げています。人手に頼っていた多くの作業に AI やドローンといった技術を取り入れ、災害対策をスピーディーかつ最適なものにしていくという将来像です。

デジタルがもたらす新たな防災・レジリエンスの可能性
出典:「ハイレジリエントな未来を共創する〜D-Resilioが創発する防災・レジリエンスのイノベーション」P12(株式会社NTTデータ)

データ活用を探る神奈川県

すでに、自治体として防災・減災のためのデータ活用を模索しているのが神奈川県です。

 

令和3年度にデータ統合連携基盤を導入し、現在も運用しています。それまでは複数のシステムでばらばらにデータが管理されていたものを、一か所に統合したものです。

これにより情報の集約や提供は非常にシンプルなものになり、合理性が増します。

神奈川県のデータ連携基盤
出典:「本県のデジタル化の取組~データ統合連携基盤の整備に向けて~」P5(神奈川県)

実際、新型コロナウイルス感染症における療養証明書の出力作業を自動化したことで、これまで1人で処理できるのが 10件だったところ、効率は 2倍となり、1人あたり 20件の処理が可能になりました(下図)。今後も、県庁内に点在するデータを一元的に扱える仕組みを構築し、防災やヘルスケアに役立てていくとしています。*2

出典:「本県のデジタル化の取組~データ統合連携基盤の整備に向けて~」P8(神奈川県)

また、横須賀市では災害を想定し、店舗などでマイナンバーカードでの決済に使う実証実験を始めています。*3

 

いま国内でキャッシュレス決済が普及しているものの、災害時にはオンラインサービスが利用できなくなるなどの可能性があります。この問題を解消しようというものです。

正しい情報を減災につなげるために

大災害が起きたとき、直接の被害はもちろん、正しい情報を入手できないことによる精神的パニックも多発するものです。

 

そういった意味でも、正しい情報が迅速かつ広い範囲に共有されることが必須といえます。

 

また、被災状況をデジタルで手に入れられることで 2次被害を防げる可能性が高まるほか、住民データの活用は、高齢者や障害者など、個人に配慮した避難の誘導や対応も可能にしていくことでしょう。

 

災害対応に求められるのは、なんといっても迅速な対応です。

 

DX でどこまで防災・減災を可能にしていけるのか、今後の展開に期待したいところです。

 

執筆

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道局で社会部記者、経済部記者、CSニュース番組のプロデューサーなどを務める。ライターに転向後は、取材経験や各種統計の分析を元に幅広い視座からのオピニオンを関連企業に寄稿。趣味はサックス演奏。自らのユニットを率いてライブ活動をおこなう。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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