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デジタル✕行政トークセッション スタートアップ連携による行政のDX

デジタル✕行政トークセッション スタートアップ連携による行政のDX

2024年7月16日に開催された「Umekita Blooming Night (EcosystemLink#9 presented by It’s Sta.)」。このイベントでおこなわれたセッションの内容をお届けします。

セッションでは行政のDXに焦点を当て、デジタルガバメント領域で事業を展開する事業者、行政側の立場でDXを推進した担当者によるパネルトークを実施。スタートアップとの連携による、革新的な解決策や実践例について議論しました。

デジタル庁とさくらインターネットの取り組みを中心にお伝えします。

デジタル庁が取り組むDMP(デジタルマーケットプレイス)

阿多 信吾(あた しんご)さん プロフィール
大阪公立大学 大学院情報学研究科 基幹情報学専攻 教授。2000年、大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。2000年3月より大阪市立大学工学部情報工学科助手。以降講師、准教授を経て2013年、大阪市立大学大学院工学研究科電子情報系専攻教授。2016年、大阪市立大学情報基盤センター所長(兼任)、2019年、大阪市立大学学長特別補佐。情報ネットワーク、通信制御、スマートプラットフォーム等の研究開発に従事。

阿多さん

大阪公立大学の阿多です。今日は2つテーマを設定し、みなさんの議論を深めたいと思います。まずはみなさんの取り組みをご紹介いただき、そのあとに議論を進めていきましょう。吉田さんからお願いします。

吉田 泰己(よしだ ひろき)さん プロフィール
デジタル庁 組織戦略グループ 企画官。2008年経済産業省入省。2015年から17年までシンガポールに留学。2017年から2021年まで経済産業省情報プロジェクト室で事業者向け行政サービスのデジタル化を推進。2021年からデジタル庁企画官としてデジタルマーケットプレイスを担当。2023年から内閣官房デジタル行財政事務局企画官。著書に「行政をハックしよう」(2021年、ぎょうせい)。

吉田さん

デジタル庁とデジタル行財政改革会議事務局に所属している吉田です。もともと経済産業省からキャリアスタートして、2017年くらいから行政サービスのデジタル化に取り組んできました。デジタル庁の立ち上げにも関わりながら、現在は政府全体の行政サービスデジタル化に携わる仕事をしているところです。

本日は、DMP(デジタルマーケットプレイス)という取り組みについて、紹介します。

これまでは行政機関が何か新しい情報システムを導入しようと思ったら、仕様書を作成し、各事業者さんから提案をいただき、価格と合わせて評価して構築を委託する形でした。この形だと、公募のプロセスだけで長いと半年くらい時間がかかり、行政側にも事業者側にも大きな負担がかかっていました。

一方でSaaSに関しては、どのようなサービスなのか既に仕様がわかっています。なので、DMPではカタログサイトを作り、そこにSaaSを登録していただくことで、行政側が自分たちの仕様に合わせて検索して絞り込み、調達できるような仕組みを目指しています。

吉田さん

DMPカタログサイトによって、事業者の皆様にソフトウェアを登録いただければ、どのようなソフトウェアが世の中にあるのかを行政機関の方々がそれを見て知ることができるので、これまで公共調達に参入していなかった事業者の方にもチャンスが増えるマーケットを作っていける。そう考えています。

実際にDMPを通じた調達がどのようなプロセスになるかについてお話しすると、まず、ソフトウェア会社やそのライセンスを販売する販売会社の方々とデジタル庁の間で、基本契約を結んでいただきます。基本契約に基づき、事業者のみなさまにはソフトウェア・サービスを登録していただきます。登録されたソフトウェア・サービスを各行政機関や自治体の方々が調達仕様に合わせて検索いただくことで、希望の仕様にあったソフトウェア・サービスを調達いただく形になります。このような形でDMPを調達のプラットフォームとして使っていただけるようにしていこうと考えています。

今年度(2024年度)の下半期から、正式版サイトを公開する予定です。すでに昨年度(2023年度)に実証サイトを公開しており、ご関心のある事業者の方々から試しに登録していただいています。PCのみの対応ですが、300以上のソフトウェアが登録されていますので、ぜひご覧ください。

>>DMP(デジタルマーケットプレイス)α版

阿多さん

ありがとうございます。続いて多名部さん、よろしくお願いいたします。

多名部 重則(たなべ しげのり)さん プロフィール
神戸市 広報戦略部長 兼 広報官。1997年、神戸市採用。2015年にスタートアップ育成を軸にしたイノベーション施策を立ち上げる。米国シリコンバレーの投資ファンド「500 Startups」との起業家育成事業、スタートアップと市職員による新たなDXサービスの共同開発、UNOPS(国連プロジェクトサービス機関)のイノベーション拠点の誘致をリードした。2016年からアフリカ・ルワンダ共和国との連携・交流事業を推進。2020年、広報業務に「副業人材」40人を登用した。博士(情報学)。

多名部さん

神戸市役所で広報戦略部長兼広報官をしている多名部です。広報紙、ホームページ、SNSなど神戸市の広報のすべてを所管しています。

いわゆる広報PRの分野で、デザインのインハウス化を進めているところです。これまで外部へ発注していたのですが、専門人材を雇い、週3とか週1の公務員として働いてもらっています。

あと、Forbes JAPANというWeb媒体で月に1回のコラム記事を連載していて、連載をはじめてから7年目くらいです。

阿多さん

では上野さん、お願いします。

上野 真(うえの まこと)さん プロフィール
株式会社スマートバリューにて、『CiEMSシリーズ』、『Patto』、『Kuruma Base』などの事業立ち上げを牽引。2022年7月から、行政DXや新しいまちづくりを推進するデジタルガバメント事業部門の統括責任者。スマートシティに関連したプロジェクト推進・プロダクト開発、うめきたの『グラングリーン大阪』に開業する健康経営を支援する施設「SLOW AND STEADY™」などを統括している。

上野さん

スマートバリューのデジタルガバメント事業部門という、行政DXを推進する部署の責任者をしている上野です。

現在は、行政デジタル化およびモビリティ向けIoT、スポーツ&エンタメまちづくりDXという3つの事業領域に取り組んでいます。

行政DXを本格的に進めていくためには、自治体さまの課題をしっかりと把握しないといけません。香川県三豊市さんや北海道北見市さんと連携協定を結び、具体的な悩みなども深くお話ししています。この人口減少社会に対して、私たちの最適な立ち位置はどこだろうか、と日々検討しているところです。

阿多さん

ありがとうございます。では服部さん、よろしくお願いします。

服部 和樹(はっとり かずき)  プロフィール
さくらインターネット株式会社 ガバメント推進室 マネージャー。2013年からプリセールス担当として、主に民間事業者向けにクラウドサービスや物理インフラを提案。自治体関連の施策としては、LGWAN-ASPサービス「LGWANコネクト」を立ち上げる。2022年4月、ガバメント推進室設立に伴い当該部門に異動。ガバメントクラウドの登録や行政に向けてのクラウドサービスの提案を推進している。

服部

さくらインターネットの服部です。ガバメント推進室でマネージャーをしています。この部門は2年前にできた新しい部署です。行政のデジタル化など、さまざまな支援をしていきたいと思っています。
昨年度に「さくらのクラウド」が、条件付きでガバメントクラウドに採択されました。そのなかで、国産のクラウドを使いたいといったニーズが届いています。

「条件付きで採択」とお話ししたように、すべての要件を達成できたわけではありません。これを来年度(2025年度)末までに満たして、自治体や官公庁のみなさまにサービスを提供できる形にしていきたいと考えているところです。「デジタル赤字」という構造があるなかで、少しでも赤字を減らすためのお手伝いができればと思います。

また、オープンイノベーションを起こすための取り組みにも注力しており、福岡と沖縄の2つの拠点については、すでにオープンしています。これに加え、グラングリーン大阪にも拠点を立ち上げるところです。

ガバメントクラウド成功のために「国産クラウド」が担う役割とは?
>>資料のダウンロードはこちらから

テーマ①行政のデジタル化における課題と解決策

阿多さん

1つ目のテーマについて、進めていければと思います。行政の現場では、デジタル化すらままならないところが多い状況です。1つの課題として「行政コストの高止まり」があります。もう1つの課題として、「システムに対する言語化の難しさ」があります。これらの課題について、みなさんの意見を聞かせてください。

吉田さん

行政側に、システム要件を仕様書まで落とし込める人がいないと、ベンダーさんに仕様が伝わらずしっかりとしたシステムが作れません。

経済産業省やデジタル庁では、ITプロジェクトマネジメントの知見があるエキスパートを公募し、内部人材として活躍いただいています。行政側のフロントにシステムの知見がある人にも参画いただき、ベンダーの方とコミュニケーションをとっていくことが重要です。

一方で、ベンダーの方の業務理解が甘い状態で、プロジェクトが難航してしまうケースもあります。住民や事業者の方々にサービスを届ける場合は、その人たちの使いやすさを一緒に考えてほしいのですが、発注者である行政機関から言われたとおりにやります、というスタンスのベンダーの方もいます。

ベンダーの方には、業務をきちんと理解して、どのようなサービスを届けるのかを一緒に考えてくれるような姿勢でいていただけると、非常に進めやすいなと思っています。

阿多さん

事業者側からの意見も聞かせてください。

上野さん

「システムに運用を合わせる」のか、「運用にシステムを合わせるのか」という議論はよくあります。そして、最終的には「運用にシステムを合わせる」という話がとても多い。これが行政コストの高止まり要因として大きいと思います。

ベンダーの立場からしても、「いや、それは違うと思うけどな」というときもあります。でも、結局それをしないと入札できないことも非常に多いので、悩ましいですね。

ただ、デジタル庁さんのサービスカタログやモデル仕様書などによって、少し流れは変わってきている気がします。

吉田さん

各自治体の業務について、本当はどの自治体でも基本的なプロセスは同じであるケースが多いわけです。一方で各自治体の業務にシステムを合わせるとなると、それぞれのシステムがカスタマイズされて、コストの高止まりにつながるのだと思います。

そういった意味では、標準的な業務プロセスを整理し、それに対応したソフトウェアを開発していき、SaaSとして提供していくのが理想だと思います。SaaSにすることにより、各自治体が同じものを調達し、同じ形でメンテナンスできるので、ベンダー側の提供コストも下げていけます。

そうなっていくと、さきほど紹介したDMPの活用によって、コストを低減しながら行政DXを加速させていける可能性があると考えています。

テーマ②行政とスタートアップの連携による行政DXの課題と解決策

阿多さん

続いて2つ目のテーマ「行政とスタートアップの連携による行政DXの課題と解決策」について、ご意見をうかがえればと思います。

吉田さん

まず、スタートアップの方が公共調達に参加しようと思わないところから、スタートすると思っています。どのような行政ニーズがあるのかを見つけに行くのにも営業コストがかかりますし、それを個別の各自治体に対して進めていくと、かなりのリソースが必要です。

結果として、調達案件が見つかっても、一般競争入札になると、手続き期間も長く、本当にその案件が取れるかわからない期間が非常に長くなってしまいます。この点も、スタートアップの方々が公共調達に参入しづらい大きなポイントではないでしょうか。

調達のしやすさ、わかりやすさを行政側が考え、調達に参加する事業者の負担を減らしていかなければなりません。さきほどからお伝えしているDMPは、その1つの手段を設ける取り組みでもあると考えています。

服部

調達参加にかかるコストと時間は非常に大きいです。これをスタートアップのみなさんがおこなうのは、かなり難しいと思います。その解決策として、DMPはとてもいい施策ではないでしょうか。さくらインターネットとしても、スタートアップのみなさんをフォローしていきたいですし、いろいろなご支援をしていきます。

もう1つの課題として、セキュリティー認証があります。とくに最近ですと、ISMAPを取得することが標準です。ISMAP-LIUもできましたが、スタートアップのみなさんはコスト的に取得が難しいと思います。ここをどのような形で支援できるか、アプローチの方法を考える必要があるのではないでしょうか。

多名部さん

スタートアップとの連携について、すごいなと思った事例が1つあります。コロナ禍に緊急事態宣言が発出され、飲食店がデリバリーを始めるといった、これまでとは違うビジネスに取り組む必要が出てきました。神戸市では、それを後押しする補助金を作ったんですね。

コロナ禍で、役所に補助金の申請書を取りに来られない状況でしたから、デジタル申請を推奨していました。8,400件の申請のうち、84%がデジタルで申請されたんです。これは、役所では高い数字だと思います。

こうしたオンライン申請の仕組みからコールセンター業務などをすべて、株式会社グラファーというスタートアップに委託しました。2020年6月末までに、8,400件の申請があり、99%の振り込みを8月末に終えたので、すごいスピードでできました。行政にあるひとかたまりの業務を、まとめて委託する方法も1つのやり方ではないかとわかった事例でした。

グラファーの取り組みに関する記事を読む
>>行政手続きをオンラインで完結させ、業務負担軽減を実現する「Graffer Platform」

スタートアップが行政マーケットを取りに行くには

阿多さん

最後に、みなさんに一言ずついただければと思います。

吉田さん

おそらく行政サービスのシステムは使いづらいと思うことが多いのではないでしょうか。自分たちが使いづらいと思っているもので、改善できるところが見つかったら、それをSaaSとして提供することでスタートアップのみなさんがマーケットを取りに行ける可能性もあると思います。ぜひ引き続きDMPの取り組みもフォローください。

私が所属するデジタル行財政改革事務局では、自治体とスタートアップが連携できるコミュニティーを作る取り組みも進めておりますので、今後こうした取り組みにも参加いただければ幸いです。本日はありがとうございました。

多名部さん

役所とコミュニケーションを取るのは、なかなか面倒だと思っている方がたくさんいるのではないでしょうか。強めに押してもおそらくあまり効果はないので、入口を変えるとか、別の作戦を取ったほうがいいかもしれません。

いろいろ試していただけたらと思います。よろしくお願いします。

上野さん

この春、スマートバリューは、さくらインターネットさんと協業契約を結びました。日本のIT貿易赤字をなんとかしたいと思っています。また、その先には行政デジタル化やDXにつながるようなサービスの開発を、さくらインターネットさんと進めていければと思っていますので、ご期待ください。ありがとうございました。

>>さくらインターネットとスマートバリュー、行政システムのデジタル化を推進するため基本合意書を締結

服部

さくらインターネットとしては、いまもっとも力を入れているのがガバメントクラウドです。使いやすくて、運用コストが低くて、学習コストも低いといった、使いやすいクラウドを提供していきたいと思っています。

また、スタートアップ支援にも力を入れていますので、引き続きよろしくお願いいたします。

さくらインターネットのガバメント分野への取り組みとは?
>>資料のダウンロードはこちらから

執筆

川崎 博則

1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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