スマートロックで注目を浴びるベンチャーがある。革新的なテクノロジー「bitkey platform」は人々の暮らしに新たな体験を提供する。人と人をつなぐ。モノとモノをつなぐ。あるいは空間やサービス、組織をつなぐ。そうして分断していたものを有機的につなぐことで、新たな価値を生み出す――。
株式会社ビットキーは、インフラによってあらゆるものをつなぎ、シームレスな体験の実現を目指す「コネクトテック・カンパニー」だ。今回は同社の取り組みや目指しているビジョンなどについて、広報・PR担当の北島 香織さんに話を聞いた。
北島 香織(きたじま かおり)さん プロフィール
福岡県出身。2014年にITベンチャーに入社し、2016年の東証マザーズ上場後にSaaS事業でセールスチームのマネージメントを経験。2019年株式会社ビットキーに入社。現在はコーポレートや事業広報を軸に、あらゆるステークホルダーとの関係性構築を横断で担当。X Relations Team所属
ストレスフリーでシームレスに入館できる一歩先をいくオフィス
あらゆるものを安全で便利に気持ちよく「つなげる」ことをミッションに掲げる株式会社ビットキー。本社は華やかな銀座のお隣り、京橋。洗練されたオフィスビルの入口で、広報の北島さんが出迎えてくれた。
「ビルのエントランスから弊社の会議室まで、お客さまはQRコードをかざすだけでスムーズに入れます。受付やフロアごとに入館手続きをしたり、セキュリティ確保のため社員が同行したり、そういった手間やストレスはありません」
ビルのエントランスに設置されたビットキーのディスプレイ。表示されるメニューをタッチして、予めメールで受け取っていたQRコードをかざす。すると入館証が発行される。この入館証には新たなQRコードが印刷されている。この入館証をビル内随所にあるタブレット端末にかざすだけで、ビル全体からオフィスの会議室まで、極めてスムーズに、ストレスフリーで入室できる。
一般的なオフィスビルでは、セキュリティ面の確保からまだまだいくつもの関門がある。ビルのエントランスの受付、入館ゲート、フロアの受付。会議室に至るまでの動線上で、分断された手続きを経て目的地を目指す。訪問先のフロアに到着後、受付の内線電話で訪問相手を呼んでもらう。社員の IDカードで内部の扉を開けてようやく会議室だ。
しかし、こうした動線の工数はまだまだ可視化されていない。その工程を踏むことが当たり前になってしまっているからだ。受付の自動化など局所的な DX は実現されていても、すべての動線がシームレスでないことも多い。
ビットキーはこうした課題を解決している。ビットキーでは入館証を使って、ビルのエントランスから会議室まで一気通貫にスムーズに入室できる。いくつもの関門を経ず極めてシームレスな動線を実現した。
ビットキーのコアテクノロジーは認証と権利の移転の実行
株式会社ビットキーは、江尻 祐樹(えじり ゆうき)さん、福澤 匡規(ふくざわ まさき)さん、寳槻 昌則(ほうつき まさのり)さんの3人の共同創業者で設立された。最初に開発されたテクノロジーは「bitkey platform」だった。
「bitkey platform」は特許を含むビットキーのコアテクノロジーで、本人の認証と権利の移転を安全かつシームレスに実行する。異なるシステム間のIDをつなげることができるほか、デジタルとリアルを横断したシームレスな体験の根幹にもなっている。
わかりやすく認証と権利の関係を説明すると、ビットキーを訪ねた筆者が本人と確認される、これが「認証」。その結果得られるものがビットキーのオフィスのドアを解錠できる「権利」だ。
「たとえば、ペットシッターサービスのIDと当社スマートロックを操作するためのサービスのIDをつなげると、シッターを予約した時間だけ、スマートロックのカギを解錠する権利を得られます」
認証と権利は社会のいたるところにある。
ビットキーが認識する2つの分断と社会課題
DXのムーブメントがおこっている今、デジタル時代や人手不足を背景に、さまざまな SaaS が誕生しあらゆる企業がDXによる効率化を目指している。しかし、一方で課題もある。
SaaS で局所的な課題は最適化されるが、全体を見たとき、工程が分断されがちだ。分断の解消のため CSVファイルでデータをやりとりしたり、API で接続して「つなぎ」を作る工夫がいる。全体最適を実現するため、分断された工程をシームレスにつなぐ必要がある。
「デジタル上で連携できないため、アカウント登録の繰り返しや変更の手間がかかることが多くあります。個別課題を解決する特化型の SaaS が増えても、局所的な課題解決ツールが多くなりすぎて使えなくなってしまうのです」
このような課題をビットキーは2つの社会課題として整理している。
1つ目はアプリやシステムなどデジタル間の体験の分断だ。ユーザーが複数のサービスを連携して利用するときに起こる。
たとえば、オフィスでゲストをお迎えするとき。受付システム、入館システム、会議室予約システムの個別の機能が優れていても連携していなければ、ユーザーは各々のシステムごとにログインが必要だ。会議室を予約するための情報や、ゲストに入館証を発行するための情報をそれぞれ入力しなくてはならない。ゲストも事前にメールで来訪者情報を伝えていても、有人の受付に並び名刺の提出を求められる。こうしたユーザー体験には分断がある。
2つ目はデジタルとリアル間の体験の分断だ。
日々の生活はデジタルだけで完結しないことの方が多い。リアルとの接続に課題が有る。
「ECサイトが増えたことで、欲しい商品は好きな場所から24時間購入できるようになりました。一方、商品の受け取りには制約があります。宅配ボックスや置き配の利用は進んでいますが、まだまだ在宅での受け取りが必要です。配達員と自分の時間を無理やり合わせなくてはいけません。こうした制約がいまだに残っています。デジタルとリアルの間がもっとシームレスにつながる必要があると思っています」
便利になったタクシーの配車アプリ。デジタルで予約できても、リアルの乗車時にはドライバーからアナログで名前を確認される。人を介した確認プロセスが残っている。将来、無人運転のタクシーが一般化したとき、予約客の確認はどうするのか。デジタルでシームレスのサービスが実現しても、リアルの世界になった途端に分断されてしまう。こうした例がそこかしこにある。サービスの無人化が進む社会では、こうしたリアルとデジタルの間の体験の分断をつなぎ合わせていくことが必要だと、北島さんは話す。
「人の体験を軸として、システムがつながることに意味があります。これまで多くの優れたサービスがリリースされてきました。一方で、DXが思うように進まない課題は『つながる体験の不足』にあるのではないでしょうか」
いままで、企業側の都合で事業別のサービスやシステムがサイロ化し分断していた。一方、1人の生活者やワーカーの立場では、シームレスにつながることを求めている。ビットキーの強みは「つないだ体験の総合力」。目指すのは1人の人生の「体験を軸とした」社会課題の解決だ。
安全で便利に気持ちよく「つなげる」
ビットキーのホームページには「テクノロジーの力であらゆるものを 安全で 便利で 気持ちよく『つなげる』」とある。その心とは?北島さんは答えてくれた。
「安全性やセキュリティは、私達の日々の生活でとても大事な要素です。一方で、厳しすぎると利便性が損なわれてしまう。目的や取引によって重みづけを変える必要があります。『あなたの個人情報、ガチガチに守っています。でもほかのシステムとは一切つながりません』となると利便性は低下します。常にバランスの問題なんですね」
たとえば、ビルの入館時の顔認証。安全性を高めるために右を向き、左を向き、正面で5秒静止して認証する。こうした工数をかけることで安全性は高まるかもしれないが、利便性は低下する。ビルのエントランスでは、速やかに認証したい。一方、サーバールームに入るときはしっかりと認証したい。安全と便利のバランスの先に「気持ちがよい体験」がある。
ビットキーが目指す未来
ビットキーの事業は人の人生を軸にしている。人生は、大きく日常と非日常にわかれる。ビットキーでは日常は Home(暮らし)と Workspace(働く)、Experience(非日常)として事業領域を設定している。この3つの領域で、人の体験を軸にした「つなぐこと」で体験の分断の解消を目指す。
「私たちはソフトウェアだけを開発しているわけではありません。ハードウェアもbitkey platformと接続する技術を組み込んで開発しています。たとえば、日常で見かける扉の鍵がただの鍵ではなく、ウォークスルーでシームレスにつながるように、日々、次世代のインフラを目指して開発を進めています」
認証と権利の移転をテクノロジーでシームレスにつなげる。デジタルだけでは解決できない分断を解消する。ビットキーが提供するハードウェアはその1つ。人がシステムを意識することなく、日常も非日常も気持ちよくつながる次世代のプラットフォームを創造している。