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「DXは思っているより身近にある」デジタルの力で外国人雇用のDXを進める

日本では労働人口が減少し、人手不足が深刻になっています。パーソル総合研究所によると、2030年には644万人の人手不足が予測されています。働く女性やシニアを増やす、生産性を上げるなどの方法がある中で、注目したのが「働く外国人を増やす」ことです。

私たちの日常生活の中でも、コンビニや飲食店などで外国人の方が働く姿を目にする機会も増えてきています。しかし外国人雇用の領域は、いまだアナログな環境が多い状況です。そこをデジタルの力で変えようとしているのが、BEENOS HR Link株式会社です。

代表取締役社長の岡﨑さんに、外国人雇用に関するDX(デジタルトランスフォーメーション)について話を聞きました。

 

岡﨑陽介(おかざき ようすけ)さん プロフィール

岡﨑陽介(おかざき ようすけ)さん プロフィール

1985年生まれ。BEENOS HR Link株式会社 代表取締役社長。芸能事務所でプロモーション企画やメディア開発をおこなった後、2015年にBEENOSグループのモノセンス株式会社へ入社。タレントコラボ商品の企画や新規事業を担当。2019年にBeeCruise株式会社へ転籍し、Linkusを立ち上げる。2020年にBEENOS HR Link株式会社を設立。JICA課題アドバイザーも務める。

芸能事務所から転職し、HRプラットフォームの立ち上げに至る

――本日はよろしくお願いします。まずはじめに、岡崎さんのこれまでの経歴について教えてください。

IT企業でWeb広告媒体の営業を経験してから芸能事務所に転職して企画職をしていました。プロモーション企画やファッションショーイベントの企画・運営、制作などもしました。ほかにもファッション誌をゼロから作ったり、アイドルグループのプロデュースなどもしましたね。その流れでタレントプロデュースの商品企画もしていたんです。その経験から、2015年にBEENOSグループでエンターテインメント事業をしているモノセンス株式会社に入社しました。モノセンスでは、アーティストの公式グッズのECサイトの企画運営をしていました。

その後、2019年にインキュベーション事業をしているグループ企業のBeeCruise株式会社に移り、そこでBEENOS HR Link株式会社を立ち上げて今に至ります。

 

――芸能事務所で働いていたんですね。その後もエンターテインメントに関する仕事をしていたようですが、BEENOS HR Link株式会社はHRプラットフォームを運営している人材事業だと思います。どうして人材事業を立ち上げようと考えたのでしょうか?

 

人材事業をおこなう理由

 

一番驚いているのは僕かなと思ってるんですけど、もともと人材事業に興味があったわけではないんです。というよりも、今でも人材事業をしている感覚はありません。どちらかというとプラットフォームサービスであって、人材領域のDX化を推し進めていくことがメイン領域だと考えています。

その中で「外国籍人材」という領域が、DXの観点で見ると課題が多いのではじめました。

 

――御社のサービスである「Linkus(リンクス)」とはどのようなものなのでしょうか?

一言でいうと、SaaS型越境HRプラットフォームです。

外国人の方が在留資格を得る制度には、「技術・人文知識・国際業務」や「技能実習」・「特定技能」などがあります。私たちがメインでおこなっているのは「特定技能」の部分です。2019年にできた、この特定技能制度は結構特殊でして…。

単純な人材採用紹介だけではなく、働く外国籍の方を生活周りからサポートしましょうね、という日本政府が決めているルールがある制度です。そこで、雇用する企業とそれを間に入ってサポートする「登録支援機関」があります。登録支援機関が、働く外国籍の方に対して代わりにサポートするケースが多くあります。

私たちは、サポートにかかる事務作業などを簡易的にできるプラットフォームを提供しています。具体的な機能としては、在留資格の申請に関わる書類生成や情報管理、TODOチェック、チャットなど、支援業務の一元管理です。

技能実習制度と特定技能制度の違い  ▲出典:外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組  出入国在留管理庁 p.10

技能実習制度と特定技能制度の違い
▲出典:「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」 出入国在留管理庁 p.10

デジタルの力で業務時間を8割削減

――なかなか難しそうな制度で課題もあると思いますが、御社のサービスによって解決できることはなんでしょうか?

たとえば在留資格の申請をするとき、特定技能の在留資格申請に必要な決まった様式があります。受け入れ企業の情報や働く本人の情報、雇用条件などを盛り込んで書類を作るのですが、1人の在留資格を申請するために少なくとも80ページくらいの書類を作らなければなりません。さらにプラスで20~30枚の添付書類を出して申請をするんですね。

この80ページの書類の中にも10か所くらい会社名を書かないといけなかったり、本人のサインが数か所必要だったり…。このように、同じ情報を何度も書かないといけない状況があります。

それをLinkus上で質問に応えるような感じで入力してもらえれば、書類生成まで簡単にできて業務軽減できます。

 

――1人あたり80ページくらいの書類作成は大変ですね…。それがデジタル化すれば、かなりの業務改善につながりそうです。

在留資格の申請準備でいうと、業務にかかった時間が8割減ったという事業者さんが結構います。Linkus導入前は、手書きやエクセルに打ち込んで資料を作っていたそうです。さらにLinkusであれば、過去に登録した情報を使って、定期的な報告書や在留資格の更新作業などにも使用できるため、過去情報の管理などもカンタンになります。

事務作業に割く時間をかなり減らせたと言っていただきます。私たちが、事務作業を軽減するためのプラットフォームを作っているのには理由があります。本来、特定技能制度で外国人を雇う側やサポートする側が一番時間をかけないといけないのは、本人に対するサポートです。

でも、そうでない事務処理に時間がかかりすぎていて、サポートが手薄になってしまっています。事務処理の時間を削減して、そのぶんをサポートの時間に充ててほしいんです。

 

――事務作業が忙しすぎて、サポートできないというのは本末転倒ですね。

そうなんですよ。気をつけなければならないことに「在留期限」というものがあります。日本にいる外国人が、何月何日までは日本にいてOKだよという許可です。

特定技能だと、だいたい1年単位(6か月や4か月のケースもある)で更新が必要です。更新せずに期限切れしてしまうと、強制的に国へ帰らないといけなくなりますし、雇用している側は不法滞在・不法就労の助長になってしまいます。そうなると、かなり重いペナルティがあるんです。

その在留期限の更新時期を、一人ひとり漏らさないように覚えておかないといけません。受け入れている人数が多いと大変です。でもLinkusに情報を入れておけば、設定した期間にアラートが届きます。

デジタルに馴染みのない業界でも自然とDXできる状態を目指す

デジタルに馴染みのない業界でも自然とDXできる状態を目指す

 

――介護や製造業など、特定技能制度の対象となる業種では、まだそれほどデジタル化が進んでいない印象があります。

そうですね。ITツールを利用して業務軽減するところまで進んでいないケースもあります。私たちのサービスを利用することで、自然とDXができる状態を目指しています。

 

――現在、御社がサポートする企業や団体が累計500社、Linkusへの求職者の登録が5000人を突破しています。会社の設立が2020年12月なので、2年足らずでこれだけの登録数を達成したということですよね。どのように登録者数を増やしたのでしょうか?

競合となるサービスがなかったので、選んでいただけていると思います。とくに雇用している間の継続的な管理や在留期限がいつ切れてしまうかといった時限管理、業務管理まで備わっているツールはありません。

メディア運営もしており、登録支援機関や受け入れ企業の方々がメディア経由で知っていただくことも多いです。

ほかのツールでいうとターゲットとして日本にいる企業がメインなんですけど、うちの場合現地の送り出し機関も含めて使えるように仕組みとして作っているので、そのあたりもひとつ広げてもらってる理由なのかなとも思います。

あとは、ベトナムの求職者向けにTikTokでプロモーションしています。

 

――TikTokですか! 社員の方がベトナム向けに発信されているのでしょうか?

ベトナム国籍のスタッフがいまして、ベトナム語で発信してくれています。ベトナムはFacebookの普及率が高いので、もともとはFacebook向けに発信していました。ただ、最近のベトナム人の若い子たちは、情報収集の入口がTikTokになっています。TikTokで得た情報から細かい情報をFacebookで調べる傾向がある、とベトナム国籍のスタッフから聞いてはじめました。

ベトナムでは、仕事探しや特定技能のような制度の勉強もTikTokを使ってしているそうです。

DX化の第一歩は身近にあることを知ってもらうこと

DX化の第一歩は身近にあることを知ってもらうこと

 

――特定技能制度に関わる、さまざまな業種の方々とお付き合いがあると思います。デジタル化が進んでいない企業がDXを進めていくために必要なことって何だと思いますか?

さきほどお話しした、SNSで外に向けて発信していくことや、さまざまなメッセージアプリを使い分けることもDXの入口だと思っています。DXは、思っているより身近にあることを知ってもらうのが入口かなと考えています。デジタルにくわしくない人が「SaaSを導入する」となると、難しくて大変と思うかもしれませんが、エクセルやメールは使えていますよね。

自分たちでDXを高いハードルとしていることが課題だと思うので、そこを意識的に身近にしていくのが最初の入口ではないでしょうか。

厳密な定義のDXを理解してるのは、それを提唱している研究者くらいだと思うんですよ。

 

――岡﨑さんがBEENOS HR Linkを通じて「やりたいこと」を教えてください。また、それを「できるに変える」ためにおこなっていることを教えてください。

「外国人採用」という言葉を無くしたいです。日本の人手不足はすでにはじまっていて、このままだと経済が回っていかないのは明らかです。おそらく、どの業種や業態の会社でも多国籍になっていきます。

日本人採用と外国人採用と国籍で線を引いていますが、同じ人材採用だという感覚に世の中が変わっていけばと考えています。その入口として特定技能制度があると思うので、まずはそこからデジタル化も含めて採用が進むようにサービスを作っていきたいです。

あとは私たちが作っているのはプラットフォームなので、日本に来てくれる外国人の方に「日本に来て良かった」と思ってもらえるような役立つサービスを提供したいです。そのために、不動産や送金システムといったライフサポートメニューも増やしていきたいと考えています。

 

Linkus(リンクス)

 

(撮影:ナカムラヨシノーブ)

 

 

執筆

川崎 博則

1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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