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「宇宙がゴミだらけになっている」そんなニュースを耳にしたことはありませんか?
株式会社アストロスケールホールディングスの大辻恵介さん・祐介さんご兄弟は、宇宙ゴミ問題の解決や宇宙環境の改善をめざし、財務・会計の分野で日々活躍されています。好きなことをスキルとして確立して仕事にしていくために、どのような人生を歩んできたのか、おふたりにお話をうかがいました。
兄・大辻 恵介 (おおつじ けいすけ)さん プロフィール
1988 年、兵庫生まれ。東京大学経済学部卒業後、公認会計士資格を取得。デロイト・トーマツグループの監査法人を経て、2018 年11 月にアストロスケールへ入社。ダイレクターオブファイナンスとして財務戦略・事業計画立案、資金調達、IR、経営分析などを担当。
弟・大辻 祐介 (おおつじ ゆうすけ)さん プロフィール
1990 年、兵庫生まれ。東京大学法学部卒業、公認会計士資格を取得。デロイト・トーマツグループの監査法人を経て、2019 年6 月にアストロスケールへ入社。ダイレクターオブアカウンティングとして経理会計、連結決算、財務報告などを担当。
「宇宙のロードサービス」の実現をめざして兄弟でタッグ
――そもそも、なぜ宇宙空間にゴミが発生するのでしょうか? 具体的にはいま宇宙がどんな状態になっているのかも教えてください。
大辻恵介さん(以下、恵介) 1950年代に宇宙開発が始まって以降、多くの人工衛星が打ち上げられるようになりました。仕事を終えて寿命が尽きた人工衛星やロケット上段は、宇宙ゴミ(デブリ)となり半永久的に地球の周りをぐるぐると回り続けます。現在、10cm以上の宇宙デブリが3万6,500個以上(推定)、弾丸の約20倍のスピードで地球を周回しています。宇宙ビジネスに加わる企業や国が増えているため、宇宙デブリは今後も増えていくと予想されています。
アストロスケールは、宇宙デブリの除去を含む軌道上サービスの開発に取り組む世界初の民間企業です。われわれはたとえるなら、「宇宙版ゴミ収集車」を作っており、宇宙デブリ問題や、宇宙環境をトータルに改善していく「宇宙のロードサービス」実現をめざしています。
――地球周辺にゴミが増え続けているということはイメージできたのですが、私たちの生活にどんな影響があるのでしょうか?
恵介 宇宙デブリは時速30,000km、車の何百倍ものスピードで動いています。そのため、1cm程度の小さなものでも、何かに衝突すれば壊滅的な被害を与えてしまいます。もし、人工衛星を破壊した場合、その衛星データを活用しているサービスが停止する可能性もあります。「車のナビゲーションシステムが使えない」「飛行機でインターネットがつながらない」「衛星放送でスポーツの試合が観れない」など、困る人は多いでしょう。
宇宙で事業をする人たちにとっても、宇宙デブリは困りものです。長い年月と、何百億もの資金を投じ、チーム一丸となって作った人工衛星が、打ち上げ直後に宇宙デブリにぶつかって爆発することもあり得ます。そんなリスクを抑えるためにも、宇宙環境の改善は急ぐべきテーマだと考えています。
――宇宙環境と地上での生活がそれほどつながっているとは思いもしませんでした。
大辻祐介さん(以下、祐介) 私自身も、弊社を知るまでは宇宙ゴミの存在すら認識していませんでした。先に転職した兄の恵介から事業のくわしい内容を聞き、「生活の便利さを守りながら、宇宙環境をよくしていくサステナブルな事業だ」と感じました。それで、兄弟共通の「会計」という強みを活かしてこの事業を支えていきたいと思い、兄とタッグを組むことにしたんです。
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「会計」の知識はどんな場所でも使えるチケット
――このお仕事に就くまでの経緯をお聞きしたいと思います。おふたりは子ども時代をどのように過ごされましたか?
祐介 6歳上の兄、2歳上の恵介、末っ子の私という男3兄弟で、兵庫県加古川市で生まれ育ちました。祖父が立ち上げた会計事務所を税理士の父が引き継いでおり、事務所によく顔を出して遊んでいたので、小さいころから数字に触れる機会が多かったですね。スポーツも好きで、兄弟全員5歳からテニスに親しんできました。
恵介 私は大学卒業までテニス漬けの毎日で、一時期は本気でプロテニスプレイヤーをめざしていました。3兄弟のなかで一番勉強ができたのは祐介です。「勉強でもテニスでもすぐ上の兄を超えたい」という気持ちを、お互いつねに持っていたように思います。
祐介 両親や兄弟と仕事の話をする機会が多く、ノートにいろいろなテーマや数字を書き合っては議論して、気づいたら明け方だった、ということもよくありましたね。
――大学時代は将来の仕事をどのように考えていましたか?
恵介 じつは、プロテニスプレーヤー以外に明確なイメージはありませんでした。ただ、ずっと学級委員長や体育祭の団長など、リーダー的なポジションが好きだったことと、ひとりで仕事をするより1,000人を集めて大きなことをやりたいタイプなので、経営や事業の立ち上げには興味がありました。
祐介 父からはよく「会計の知識はどこでも使えるチケット」と言われていました。それで、大学では法律を学びつつ、自分で公認会計士(以下、会計士)の勉強をし、社会に出て得た知識を還元できればと考えていました。
「自分の足でコートに立ちたい」と転職を決意
――会計士資格を取得してから同じ監査法人に入った経緯を教えてください。
恵介 大学在学中は、就職活動や資格試験の勉強は一切せずにテニスに打ち込んでいました。卒業後に会計士試験の勉強を始めて1年半で合格し、2014年の2月にデロイト・トーマツグループの監査法人に就職しました。選んだ理由は、長兄が実家の会計事務所を継ぐために先に働いていて話を聞いていたことと、ベンチャーやスタートアップのサポートをしている部署があり、そこで働きたいと思ったからです。
祐介 私もテニス部の活動との両立が難しく、大学4年生になる直前に資格の勉強を始めました。恵介がポイントをまとめて教えてくれたので、3か月ほどの期間で一次試験にあたる短答式試験に合格できました。監査法人に関しては「また兄たちと同じ場所か」というためらいもありましたが、成長著しいスタートアップ企業と働けること、雰囲気や環境のよさに魅力を感じ、2015年の2月に入社しました。
――監査法人からアストロスケールに転職したのはなぜですか?
祐介 きっかけを作ったのは私です。前職でシニアスタッフに昇格したとき、転職は考えていなかったのですが、ありがたいことにいくつかの企業からお誘いを受けました。そのなかで出会ったのが同郷のテニス経験者の方で、共通の知人もいて話が盛り上がったんですよね。「今度一緒にテニスをしよう」という話になり、私は兄の恵介とコートに向かったのですが、その方が連れてこられたのがアストロスケール代表の岡田だったのです。
恵介 テニスで対戦した翌週に、岡田からオフィス見学に誘われてふたりで行ったのですが、彼のキャラクターや話にどんどん引き込まれました。「いままで誰もやってこなかった宇宙ゴミの問題を解決しつつ、世界共通のルール作りにも参画して、なおかつビジネスにする」と聞いて、心をわしづかみにされました。ありがたいことに、翌週には岡田から「一緒に働きませんか」とメッセージをいただき、即決で「お願いします!」とともに熱い長文メッセージを送っていましたね。
私も祐介と同様で転職活動はしていなかったのですが、監査法人の仕事は事業に対して間接的な関わりしかできないことに悶々としていました。ずっとテニスをやってきた人間なので、30歳になる前に自分の足でコートに立って、事業を動かす経験をしたいという思いがわいてきたんです。
祐介 もとから宇宙に興味があり、「好きな会計の仕事をプレイヤーとしてできる」と想像したら、ワクワクが止まりませんでした。しかも、大好きなテニスを通じて出会えたチャンスなので、これは逃したくないと思いましたね。その後、恵介が2018 年11 月に、私が2019 年6 月に転職しました。
「攻めの財務」と「守りの会計」でお互いの強みを引き出す
――現在、恵介さんは財務、祐介さんは会計を担当されています。そのような分担になった経緯を教えてください。
恵介 転職当時は会社も小さかったので、資金調達を含めて財務・会計全体を見てほしいと言われました。前職では監査の経験しかなかったのですが、宇宙のこと、財務のこと、会社全体のことなどを猛勉強し、転職の数日後には投資家の元へプレゼンテーションに出向いていました。半年後には資金調達に成功しましたが、財務と経理の数字周りをひとりで見るのは限界があり、祐介に経理会計を引き受けてもらうべく、会社に話を通しました。
祐介 話や数字を整理するのは得意なので、私も転職すれば恵介の苦手なところをフォローできるのではと思いました。
恵介 祐介は会計士試験を全国2位(会計学は1位)で合格していて、膨大な会計の知識を持っています。わからないことを私がインターネットで調べるより、彼に聞いたほうが早いくらいなんです。祐介の転職で私の業務の負担が減り、お互いの長所を発揮できるようになりました。
――恵介さんと祐介さんの業務の違いをくわしくご説明いただけますか?
恵介 「攻め」と「守り」ですね。私が投資家に会社全体の売り込みをしてお金を出していただくのですが、その際に必要な資料を祐介が作ってくれています。
祐介 決算関連を中心に数字をまとめ、売り込みネタの基礎となる信頼性の高い資料を作っています。弊社は日本をはじめ、イギリス、アメリカ、フランス、イスラエルとグローバルに事業を展開しているので、各社の数字を集めて統合するなどしています。「過去の数字をいかに正しく作るか」に関して私が責任を持ち、恵介はそれをもとに「将来どうしていきたいか」の話につなげてくれます。
――仕事上で意見が食い違うことはありますか?
祐介 長年一緒にいすぎて、予想外のことがもうないんですよね(笑)。東京に出てきてからも10年くらい同居していたので、相手が何を考えているのか、次はどうするのかが予測できます。
恵介 お互いの意向を汲み取れますし、遠慮せずに何度も質問できます。阿吽の呼吸で伝わるので、ほかの方にはていねいにする説明も、弟には端折ることも。兄弟なのでやりやすいです。
子どもや孫の代の宇宙環境まで考えて仕事をしていく
――現在のお仕事で苦労しているところや、やりがいを感じる点を教えてください。
祐介 会計が好きなので、知識とスキルを持って事業会社のなかでプレイヤーとして動けるようになったことがうれしいです。また、自分ひとりで完結するということはない仕事なので、社内や外部の方の力を借りながら、数字や書類を作り上げていくプロセスにも大きなやりがいを感じています。
恵介 多くの時間や労力をかけたとしても、最後の最後で出資を断られることもあって。「もっとうまくできたはず」と反省するケースもありますね。毎回改善点を見つけ、「次はもっとうまく伝えられるようにがんばろう」と気持ちを切り替えています。また、監査法人時代から専門用語を使わず小中学生でもわかる説明を心がけているので、投資家さんから「プレゼンテーションがわかりやすかった」と言っていただけるとうれしいですね。
やりがいは、やはり「宇宙ゴミ問題」という人類共通のグローバルな課題に関われることです。子どもや孫の代にゴミだらけの宇宙を残さないためにも、この仕事をやり遂げたいと思っています。
――「好き」や「興味」を仕事にし、充実した毎日を送られているおふたりですが、今後はどんなことに挑戦したいと考えていますか?
祐介 弊社の事業は誰もやったことがないものです。そのため、自分の会計スキルや知識では対応できないことがあり、専門家から都度サポートしていただきました。それがとてもありがたく、自分も会計分野に対して、恩返しがしたいと考えています。まだ具体的なプランがあるわけではないのですが、決算で困っている事業会社の方のサポートや、子どもたちへの会計教育などは、いつかやってみたいと思っています。
恵介 資金調達を中心に取り組んできた仕事も6年目となり、より全体が見渡せるようになってきました。会社の規模も順調に大きくなってきたので、これまで同様一緒に成長していきたいですし、マネジメントとして新しい事業を展開していくという目標もあります。また、妻やふたりの子どもたちと、一度は海外で暮らしてみたいという夢もあります。すぐにではなくても、必ず実現させたいです。
さくらインターネットのグループ企業である株式会社Tellusが取り組む宇宙事業とは?
>>日本発の衛星データプラットフォーム「Tellus」の詳細を見てみる
(撮影:ナカムラヨシノーブ)
執筆
仲間 麻美
1981年1月生まれ、秋田県出身。2006年よりフリーランスライターとして活動中。教育、ビジネス、資格、飲食、街歩き、占い、健康などの分野で記事を書いてきました。趣味は読書と41歳から始めたダンスです。
note:https://note.com/asmnkm0618
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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