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バーコードやICタグ、赤外線通信による画像認識などをおこなう「モノ認識」と、業務改善システムとの連携アプリを開発する「モバイル端末」事業を中心に手がける、株式会社アスタリスク。スーパーマーケットやコンビニで広がりつつある「セルフレジ」の開発をはじめ、モノの識別・管理をおこなう同社のサービスは、アパレルやスーパーマーケットなどの物販に関わる業界から医療施設まで、幅広い領域で活かされている。そうした事業をさらに展開し、新たな挑戦として2023年12月に「こがね製麺 草津栗東店」をオープン。注文から会計まで、非接触でのオペレーションをかなえる「完全なる手ぶら決済」を開発、店舗の運用までおこなっている。飲食業界に新たな活況を与える、このサービスを実用化するまでに、どのような試行錯誤を重ねてきたのか。代表取締役社長を務める、鈴木規之さんに話を聞いた。
鈴木 規之(すずき のりゆき)さん プロフィール
京都府出身。大阪大学大学院で数学・位相幾何学専攻の修士課程終了後、東レ株式会社に入社。システム部門でアパレル企業へのシステム企画や営業、開発に関わる部門のプロジェクトリーダーに従事。2006年に、現在の株式会社アスタリスクを起業し、システム、アプリ、ハードウェアまで、受託開発や自社サービス、自社製品の開発まで幅広く事業を展開。同社が開発した「AsReader」は、製造業や病院、小売店などの業界で活用され、モバイル端末によるIoT端末としては国内ナンバー1のシェアとなっている。
「まずは、挑戦しよう」を合言葉に
同社の特徴として、システムからアプリ、ハードウェアまで幅広い領域を手がける点があげられる。もともとは、商品販売時に発生する金銭を記録・集計するPOSレジのソフトウェア開発が中心だったが、ある海外メーカーとのやりとりがきっかけで事業の幅が広がったと鈴木さんは話す。
「いまから10年以上前ですが、ある展示会に出展したときに、スマートフォンでピッと会計するPOSレジのシステムに人だかりができていたのを見たんです。『ここには、大きなニーズがあるな』と思い、海外のシステム会社と連携し、開発をスタートしました」
商品バーコードを読み取るためのリーダーを開発することになったが、思わぬところで壁に直面してしまう。それは、日本と海外との考え方の違いであった。
「商品のパッケージに記載されているバーコードには、色や形状に規格があります。しかし、デザインする海外のメーカー側は見栄えを重視するため、読み取りにくいケースが多々あるんです。こちらとしては、どんなバーコードにも対応できるようなリーダーを開発してほしいのですが……。海外の方々は大らかなので、『読み取れなければ仕方がないですね』と考えていたようで、なかなか精度を高める方向には動きませんでした。だったら、もう自分たちで作ってしまおうと考えたんです」
このときの経験から「まずは、挑戦しよう。その想いで、少しずつできる領域が広がっていきました」と鈴木さんは話す。
大きな自信を育み、飛躍するきっかけの1つになったのが、日本を代表するトヨタからのプロジェクトであった。
「スマートフォンとペアリングし、電波を使ってタグ情報の読み書きをするRFIDリーダーの開発依頼でした。じつは、とある大手企業が開発に着手していたのですが、よりよいものを求めて私たちにご相談いただいたようなのです。それならば、ご期待に添えるように社員が一丸となってプロジェクトに挑むしかないと思いましたね」
機能はもちろん、スマートフォンに装着することを考慮し、デザイン性にもこだわった。プロジェクトに関わるメンバー全員が、「できない理由ではなく、できる方法を考えよう」という想いで絆を強め、提案内容をまとめていったという。
「決死の覚悟で挑んだこのプロジェクトは、全面的に採用されることが決まりました。大手企業に打ち勝った喜びや、新しい領域で成果をあげられたこと。そのすべてが、会社が飛躍する大きなきっかけになったと感じています」
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コロナ禍以後の新たな価値を提示する
香川県を中心に「こがね製麺」などの本格讃岐うどんを展開する、株式会社クルーに向け、自動レジに関する提案を取りまとめている最中、新型コロナウイルスが流行してしまう。プロジェクトは一時保留となったが、同社は「非接触」をテーマに新たなアイデアを形作っていく。
「当初は自動レジの提案だったのですが、社会の動きを観察するなかで、“完全非接触”を念頭に置き、システムの開発を進めていきました。そのなかで、『完全なる手ぶら決済』というアイデアが立ち上がってきました」
入店から、うどんや天ぷらを選び、食事を終えて会計するまで、一度も財布を出さない「完全なる手ぶら決済」。これまでに開発した、人を追跡する技術や顔認証システムに加え、新たな重量センサー技術を組み合わせたシステムであった。従来であれば、このシステムをクライアントに提供するまでが同社の業務領域であったが、その枠を越えたプロジェクトとして展開することになった。
「あまりにも前代未聞のシステムだったからこそ、その実効性を確認する必要がありました。そのため、システムを提案するのではなく、株式会社クルーと業務提携し、共同でこがね製麺を運営することに決めたのです。飲食店経営は初の試みでしたので、手探りで進むことになりました」
うどんの作り方やオペレーション、食材の仕入れにいたるまで、ゼロから学びその方策を構築していった。鈴木さんは、「システムよりも、うどんの作り方を学ぶほうが苦労しましたね」と、笑う。
さらなる精度を追い求め、挑戦を続ける
2023年12月1日に、完全なる手ぶら決済をかなえる「こがね製麺 草津栗東店」をオープン。店舗づくりの段階から評判を集め、順調な滑り出しだった。実際に来店した人たちもその便利さに驚いていたという。しかし、実際に運営をすることで見えてきた課題もあった。
こちらでは予想できなかった動きをされるお客さまもなかにはおられました。たとえば、入店直後に車に忘れ物を取りに行ったり、お子さんをトイレに連れて行ったりといったことです。そうなると、個別に認識することが難しくなり、会計時にトラブルが発生することがわかりました」
本来であれば、厨房の調理スタッフだけで運営できる想定だったが、会計でトラブルが発生すると、手打ちでのレジ対応を余儀なくされる。忙しいランチ時になると、お客さまを待たせることはもちろん、正確に金額を算出するだけでも時間がかかってしまう。
そうした状況を見た鈴木さんは、店舗スタッフやプロジェクトメンバーと検討を重ね、ある方法を思い付く。商品とお客さまの情報が紐づかない場合にのみ、選択画面が表示されるシステムだ。
「顔とクレジット情報を登録しているお客さまの場合、顔認証のみでお会計は完了です。もちろん、クレジット以外に現金や電子マネーも使えます。商品とお客さまが紐づかない場合にのみ、実際に注文した商品を選択し、会計できるシステムにしました。不測の事態にも備えるシステムを構築したことで、以前のような会計での混雑は解消できました」
こうした万全の体制を整えたことで、次々と業界最大手からの視察が相次いだという。
「視察に来るということは、それだけ私たちのシステムに関心を持っていただいているという証拠です。それだけでも、胸を張れる成果を得られたと感じますね」
鈴木さんは、今後の目標として、「こがね製麺」の店舗を展開していきたいと話す。
「いま運営している草津のお店は店舗面積が広いんです。だから、お客さまの追跡や、購入商品の重さの計測、顔認証を利用した会計をするスペースが十分にあります。たとえば、同様のシステムを利用して、お店の規模感を小さくしても同じ成果を得られるのか。もしくは、まったく異なる技術を持ち込まなければいけないのか。その部分に挑戦していきたいと考えています」
システム業界を基点に、飲食業界に新たな風を吹き込む、株式会社アスタリスク。今後も、技術の領域や業界の枠を越え、新たな価値を創造していくだろう。
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執筆
橋本 未来
大阪府出身。
広告制作を中心に、書籍の企画・編集や記事の執筆などを行うコピーライター。
関西屈指の編集者・高田強が所長を務める、コンテンツプロダクション「エース制作所」で、各種コンテンツの企画・制作などにも従事している。
note:https://note.com/7891m/
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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