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2017年5月10日、「クラウドコンピューティングEXPO」のさくらインターネットブースでは、民間を巻き込んだIT振興を進める福井県鯖江市に関するセッションがおこなわれた。オープンデータへの取り組みで注目を集めた鯖江市が手がける子供向けのプログラミング教育やIoTへの取り組みなど、最新動向が披露された。
オープンデータへの取り組みからスタートした鯖江市
国内のメガネフレーム生産の9割を占めるメガネのまち、福井県の鯖江市。女子高生発の施策を自治体として実施する「JK課」や仮面女子とのコラボレーションといったエッジの効いた取り組みのほか、自治体としてオープンデータにコミットしていることでも知られている。今回のセッションでは、こうした鯖江市の取り組みとともに、現在進められているIoTによるバス情報の収集プロジェクトが披露された。
今回のセッションをリードしたのはjig.jp 代表取締役社長 福野泰介氏。携帯電話用のjigブラウザや教育用コンピューター「IchigoJam」の開発者でもある福野氏は、自社が拠点を置く鯖江市のオープンデータを推進した立役者でもある。
オープンデータは自由に利用できるデータを積極的にWeb上で開放し、二次利用によって新しい価値を生み出すという発想だ。福野氏はjig.jpブラウザの開発を進めるなか、次世代Webの手段とも言えるオープンデータに注目。
「HTMLの時代が終わり、RDF(Resource Description Framework)の時代が来る。人間向けの文書だったWebが、機械向けのより整理されたWebになり、そこにオープンデータを公開していくのが、Webの産みの親でもあるティム(バーナーズ・リー)の解釈。21世紀はデータが圧倒的に整理された時代になる」(福野氏)という確信の元、長らくかなわなかった「セマンティックWeb」の到来に期待を寄せているという。
日本でもオープンデータは拡がっており、現在46都道府県、282のまちがオープンデータを開放しているとのこと。そんな自治体のオープンデータ活用をいち早く推進したのが「データシティ鯖江」。福野氏は、二人三脚でオープンデータを推進してきた鯖江市 情報政策課 CIOである牧田泰一氏を壇上に呼び、オープンデータの取り組みを振り返った。
手取り足取りで自治体がオープンデータを公開するまで
福野氏が鯖江市にオープンデータの取り組みを提案したのは2010年にさかのぼる。牧田氏は「ご存じの通り、牧野百男市長はオープンな性格で、若い人の意見をなんでも聞くタイプ。そのときもピンと来るモノがあったらしく、僕を呼んで『ぜひやってくれ』とお願いされた」と振り返る。
その後、牧田氏を課長とした情報課がスタートし、市民のIT認知、まちのWi-Fi化、そしてオープンデータ推進の3つが課題として与えられたが、「オープンデータは皆目見当がつかず、福野さんから手取り足取り教わった」(牧田氏)という。
その後、役所内のデータをAccess等で苦労しながらXML化し、データを公開まで進めた。2012年1月末に(結果的に)日本初となった自治体のオープンデータアプリとして、福野氏が鯖江市のトイレマップを公開することになる。
その後、JK課の考案による図書館空席センサー「sabota」の作成、市街地の3Dデータや約500箇所の橋梁データのオープン化などを推進。「鯖江市は人口の割には管理する橋梁の数が非常に多い。建築時期がわからない橋もあって、生活していては見えない不都合なところがデータにしてわかるようになった」(福野氏)という。
IchigoJamで始まる子供たちのプログラミング教育
最近ではオープンデータ2.0ということで、公開するだけではなく、活用するというフェーズに移行しているという。これに対応して、官民一体で立ち上げたのが「CODE for SABAE」で、シニアや小学生向けにプログラミングを教えたり、ハッカソンを主催している。今年の8月には「全小中学校の先生に向けプログラミング講習」を実施予定。「400人あまりの先生たちにIchigoJamを教えに行きます。これで子供たちにプログラミングを教える土壌が整ったと言えます」と福野氏はアピールする。
ここでゲストとして加わったのは、さくらインターネットの高橋隆行。高橋は非営利団体KidsVentureでIchigoJamを使ったプログラミング教育に携わっており、すでに全国で20回近く勉強会を重ねてきた。
高橋氏がKidsVentureに携わるきっかけは、IchicgoJamと札幌のSIerだった。「2014年にIchicgoJamが発表されたのを見て、テレビにつなげばすぐにプログラミングが学べるコンピューターがたった1500円で手に入るってすごいなと驚きました」(高橋)。その後、さくらインターネットのパートナーである札幌のSIerビットスターが子供向けのプログラミング教室をやりたいという話を受け、鯖江市に飛んで福野氏と勉強会の話がまとまった。
エンジニアではない高橋がKidsVenturesを続けるモチベーションはなにか? 福野氏が尋ねると、「最初、福野さんのワークショップを見て、こんなこと子供にできるのかと思っていましたが、実際にiPhoneのアプリまで出している子供もいる。これは面白いなと」と語る。プログラミングの魅力にはまり、すでに数多くのアプリを作ったり、大人向けのハッカソンに参加する子供もいるという。
福野氏も、MSXでプログラミングにはまり、この体験を子供に味わってもらいたくて、IchigoJamを作ったという。「チープなゲームだけど、自分で作って、改造して、完成したときの子供の顔を見ていると、勉強会を続けようという気になる」と高橋も語る。
地元バスの運行状況と利用動向をリアルタイムにオープンデータ化
そして、このIchigoJamとさくらインターネットをより密接につなげるのが、先日発表されたsakura.io(旧さくらのIoT Platform)だ。「日本のIoT業界に激震!」とアピールした福野氏は、「今までどう考えても月額300円だった通信料が約1/5。4分半に1回くらいでも月額60円で済む。台数に制限ないし、モジュールとしても使えるのでIchigoJamにぴったり」と説明した。
これを単なるおもちゃやPoCではなく、現場で使えるのが鯖江市の面白いところ。Code for Japanのコーポレートフェローシップ事業を経て、すでに実用化に進んでいるのが、鯖江市の「つつじバス」の利用状況をIchigoJamで収集するというプロジェクトだ。
「二酸化炭素の排出や高齢化などの影響で、公共交通機関の担う役割って大きくなっていますよね。鯖江市は新幹線も止まらないので、公共交通機関を重視するという方針で、市長が決めました」と牧田氏は語る。
Code for JapanにおいてつつじバスではIchigoJamベースのデバイスで3秒間に1回の間隔で位置情報を送出することにしたが、乗降客などの利用動向に関しては運転手が手動でカウントする必要があった。
こうした利用動向の数字は路線の再編などを検討する際に議会にも提出するため、全数カウントは必要。しかし、Code for Japanではセンサーを使った乗降客の自動集計を試したが、精度の面であえなく挫折。今回は運転手にボタンを押してもらうというアナログな方法で、利用者の乗降をカウントすることにしたという。
ちなみに、このときはCode for Japanのコーポレートフェローシップ事業の一環として、鯖江市はYahoo! JAPANから2人を臨時職員として3ヶ月間迎えた。これに関して牧田氏は、「ITの進化は圧倒的に速いですが、自治体の職員はなかなかそのスピードに追いつけない。民間の企業から人材を派遣してもらうことで、職員も刺激を受け、いろいろ取り組んでいただけると思った」と狙いを語る。もちろん、事務能力や知識、仕事のやり方が自治体と民間企業では根本的に異なるため、現場の軋轢もあったが、「やはり選抜された方なので、巻き込み方がうまいですよね」ということで、あまり壁もなく仕事ができているという。
IchigoJamを使ったセンサーはまさかの手作り
2017年1月にCode for Japanとしてのプロジェクトは提言を残して終了したが、市長の即決により4月から実用化されている。対象のつつじバスは8台のみなので、センサーはまさかの手作りを決定。2週間で基盤を発注し、IchigoJamとsakura.ioを組み合わせ、牧田氏が1台ずつ丹念に組み立てた。これによってバスの位置情報・利用客をリアルタイムにオープンデータ化することが可能になった。
福野氏はsakura.ioでのデータ送信を実現するコードを見ながら、そのシンプルさ、簡単さを強調。送る、受け取るがわずか数行で可能で、コード自体もオープンなので、自由に使ってほしいという。福野氏は、「IhigoJamで使っているCPUはたった100円ですが、計算回数は1秒で5000万回におよびます。一昔前のコンピューターを簡単に凌駕してしまう。これにsakura.ioがあれば、クラウドの計算機を自由に使える」とsakura.ioのインパクトについて語る。
福野氏は、課題先進国ならでは、さまざまなチャンスがあると訴え、鯖江市の今を語る。たとえば、鯖江市内の65歳の猟師はイノシシの罠をIchigoJamで作り、収穫量を5倍に向上させた。現在はsakura.ioを組み合わせ、獲物がかかったらメールが飛ぶという機能を組み込んでいる途中だ。また、鯖江市立の鯖江東小学校では小5・小6が全員電子工作とプログラミングを体験した。
さらに、sakura.ioを使った子供IoTハッカソンでは、お父さん・お母さんの悩みを子供が解決してあげようという視点で、目的指向で技術を学んでいる。「IchigoJamも、sakura.ioも本当に安価なので、子供の自由な発想で新しいものを作ってもらい、実社会にフィードバックできたら」と高橋は期待する。
「小学生は全員ゲームが好き。45分でゲームを作り、IoTの可能性を知ると、みんな目をキラキラさせる。こういう体験をどんどん拡げ、鯖江の試みが全国に拡がるといいなと思います」と福野氏は語る。まとめのコメントを求められた牧田氏は、「自治体の職員として、市民の悩みを解決できることをさくらさんとチャレンジしていきたい」と語り、セッションを締めた。
■関連サイト
鯖江市
jig.jp
さくらインターネット