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なんの前知識もなしにこの製品を手に取ったら、ただのおもちゃのブロックにしか見えないだろう。それくらいキャッチ―な見た目をしているのが、小・中学生をおもな対象にしたプログラミング教材の「アーテックリンクス」だ。プログラミング教材に対する既存の概念を取り払ったこの製品の着想から今後の展開まで、開発に携わった加藤 真規さんに聞いた。
加藤 真規(かとう まさき)さん プロフィール
学生時代に、ロボット工学を中心にプログラミング、電子回路、筐体の設計など幅広く学び、2017年に株式会社アーテックに入社。以後、企画室開発担当として、アーテックリンクスを含むさまざまな製品の開発に携わっている。
ブロック遊びの感覚でプログラミングを学べる
1960年に創業し、おもに学校教材と教育玩具を製造している株式会社アーテック(以下、アーテック)。「楽しさをきっかけに学びを好きになってもらいたい」という企業理念のもと、国内外を問わず、製品を通じての人材育成に寄与している。
そんな同社が2024年7月に販売を開始したのが、プログラミング教材の「アーテックリンクス」だ。メインユニットに役割が異なる電子ユニットを組み合わせ、パソコンでプログラミングを実行。すると、家電を音声で操作する、インターネット経由で得た情報をスピーカーから鳴らす、クラフト素材と組み合わせて道具やおもちゃをつくるといったことが可能になる。わかりやすい完成例として、音声でテレビをつける、人の動きを検知して電気をつける、温度を感知してエアコンを制御するなどの仕組みが挙げられる。
電子ユニットは全部で以下の10種類。1ユニットにつき、1つの機能を有し、ユニットごとに異なるポップな配色とアイコンの印刷で視認性を高めている。
従来のプログラミング教材では、ユニットやセンサーを拡張する際、ケーブルで配線することがほとんどだ。しかし、導入のハードルを下げるため、そして怪我や破損を避けられるというメリットもあることから、同製品では磁石で接続する方法を採用し、ケーブルレス化を実現。ブロック遊びの感覚で、簡単に付け外しができる。
「アーテックリンクスは従来のプログラミング教材とは異なり、つくるものが決まっていません。課題や発想に合わせて自由に組み立てられる汎用性があり、つくったものが実際の生活で役立つものになるのが特徴です。そうすると、子どもたちのモチベーションにつながりますし、保護者の方々も子どもたちの成長を感じやすいでしょう」
徹底した使いやすさと、高い自由度が特徴の同製品。いったいどのように生まれたのだろうか?
教育現場にヒアリングをおこない、生まれた教材
学校での理数系の授業時間が増加したことを背景に、専門性を持って理科実験器具や科学工作の商品開発をおこなう目的で、2008年、アーテックの企画室開発担当が発足した。以来、理科教材やクラフト教材、プログラミングに特化したアーテックロボなどの、さまざまな製品を開発している。同製品は日本全国の小・中学校で導入され、評価を得続けていたという。
学校におけるデジタル機器の入れ替えの周期は約5年。そのタイミングに合わせて、アーテックロボットに続くプログラミング教材を開発するにあたり、同社はアーテックロボットを導入している小・中学校、企業などにヒアリングを実施した。すると、同社と教育現場の間でやや意識のずれがあることがわかったという。
「小・中学校の授業では、アーテックロボットのような本格的なスペックを持つロボットをプログラミングするまでの時間は確保できないことがわかりました。また、機能はもっとシンプルでいいから安価にしてほしいという声を多数いただきました」
ヒアリングの結果を受けて「シンプルで安価に」を目指して開発を始め、考え抜いたのが「どの機能を残すか」だったという。それまでは、「メインの基板になにをどれだけ詰め込むか」という足し算的な考えで開発をおこなっていたが、アーテックリックスでは反対に引き算的な考えで開発。結果、1ユニットにつき1機能というシンプルな製品の開発に至った。
「開発中によく話に上がっていた単語が、『ビュッフェ形式』です。メインユニットを皿に見立て、そこに自分が欲しい機能を好きなように足していく。そういったイメージでつくり上げました」
シンプルさを追求してでき上がったアーテックリンクス。「使いやすさと手頃な価格から、大変ご好評いただいている」といい、販売から日が浅いにも関わらず、評判は上々だと加藤さんは語る。
社会人向けの研修でも上がった歓声
既存のプログラミング教材は見た目が武骨で、ユーザーをある程度プログラミングの知識を持つ層に絞ってしまっている印象もあっただろう。しかし、アーテックリンクスはシンプルさとポップな見た目が相まって、ユーザーの受け入れのハードルが下がっていると加藤さんは感じている。
同製品のおもな導入先は小・中学校を想定しているが、取り切れていなかった一般家庭市場など、教育現場以外も積極的に開拓する狙いもあるそうだ。
「キャッチ―な見た目で、おもちゃのブロックにも見えることから、これまでプログラミングに全く興味がなかった一般家庭にも受け入れられやすいと考えています。
また、ICT化やDXに取り組もうとしている一般企業からの引き合いも徐々に増えています。展示会に出展すると、『既存のプログラミング教材には初心者でも扱いやすいものがない。でも、これなら取っつきやすそうなので活用してみたい』というお声をいただきますね」
実際にアーテックリンクスを使用し、一般企業のプログラミング初級者に研修をおこなったところ、大きな反応があったという。
「研修はメインユニットのLEDを好きな色に光らせることから始まります。それだけのことではありますが、社員の方々からは歓声が上がり、大変盛り上がりました。子ども向けの研修をおこなった際にも同じ光景を見ていましたが、大人になっても自分が手を動かした作業で、目に見える成果が表れるというのは、うれしいものですよね。その光景がとても印象に残っていて、開発者として非常に喜ばしく思います」
そう笑顔で答えてくれた加藤さん。今後アーテックリンクスでどのような展開を描いているのかも気になるところだ。
未来の発明家を生むかも?
加藤さんは、アーテックリンクスの開発に大きな手応えを感じており、AIやIoTなどの新しい知識を学べる教材開発により力を入れたいと考えているという。同社のおもな対象となる教育現場市場において、今後どのようにAI、IoT関連の授業が展開されるのか注視し、現場課題を見つけ、開発につなげる予定だ。
そして、自社製品を通じて人材育成にも寄与したいと考える同社は、2017年以来、小・中学生のためのロボット競技会「UNIVERSAL ROBOTICS CHALLENGE」を開催。これは、同社の製品である「アーテックロボ」と「アーテックブロック」を使用し、世界中の子どもたちがロボットの製作・プログラミング技術を競い合う国際競技会だ。
「『UNIVERSAL ROBOTICS CHALLENGE』か、あるいは別のプラットフォームかは検討中ですが、アーテックリンクスを使って技術や発想力を競う機会を提供し、プログラミングへの興味、学び、技術を深めてもらいたいと考えています。開発者一個人の希望としては、アーテックリンクスを使って学んだ子どもたちの中から、将来すごい発明をする人が現れてくれたら、開発者としてこのうえない喜びです」と加藤さんは展望を語ってくれた。
「アーテックリンクスがきっかけでプログラミングに興味を持ちました」。そんな発言があることを期待し、今後の発明家に注目したい。
執筆
増田洋子
東京都在住。インタビューが好きなフリーランスのライターで、紙媒体とWebメディアで執筆中。ネズミを中心とした動物が好きで、ペット関連の記事を書くことも。
ポートフォリオ:https://degutoichacora.link/about-works/
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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