プロジェクト成功の鍵は「チームのOS」。気軽に聴ける社内ラジオで、OS整備の土壌を耕す

システム開発プロジェクトには背景も立場も異なる多数のメンバーが携わる。協働の成功の鍵はどこにあるのだろうか? 独立系の SIer として顧客のビジネストランスフォーメーション(BX)を支援する、ARアドバンストテクノロジ株式会社(以降、ARI)では、その答えを「チームとしての行動指針・原理原則という、チームの OS に相当するもの」と考えている。この“OS” を整える施策の1つとして、2022年から「品質よもやまラジオ」と名付けた社内ラジオを配信中だ。今回は、同ラジオの発案者であり、パーソナリティも務める中野 康雄さんと、企画・編集・パーソナリティの三宅 祐季さんに話を聞いた。

中野 康雄(なかの やすお)さん プロフィール

複数社で SE やPMなどの経験を積み、2012年10月、ARI 入社。取締役専務執行役員として事業全体を俯瞰しつつ、技術部門責任者としてサービス戦略、採用、提案、案件品質管理、新規事業開発などに従事。2022年2月に「品質よもやまラジオ」を開始し、企画・パーソナリティを担当。

 

三宅 佑季(みやけ ゆうき)さん プロフィール

2019年4月、新卒で ARI 入社。システム部門で SE業務を担当し、2021年10月には月間 MVP 受賞。2021年9月、人材開発室に異動し、技術広報担当として技術共有の推進、社内活性化に取り組む。その一環として「品質よもやまラジオ」の企画・編集・パーソナリティを担当。

現場で働く人の話を聞く「品質よもやまラジオ」

毎週金曜日の昼休み、ARIグループ約480名の社員全員が参加するチャットに、お知らせが投稿される。「品質よもやまラジオ」最新回の公開を告げるメッセージだ。受け取ったメンバーは、オフィスや自宅でランチを食べながら、社内イントラネットにアップロードされた音声ファイルを聴き始める。

ARI 社内イントラネットの「品質よもやまラジオ」ページ (画像提供:ARアドバンストテクノロジ株式会社)

「原則として、毎週金曜日のお昼に公開しています。そのときに聴く人が多いですが、ほかの日時の聴取も増えています」

にこやかにそう語るのは、取締役専務執行役員の中野さん。「品質よもやまラジオ」の発案者であり、技術広報担当の三宅さんとともにパーソナリティも務めている。

2022年2月に開始した「品質よもやまラジオ」は、2023年1月現在で、バックナンバーが約20本にのぼる。毎回テーマを決め、社内の幅広い部門で活躍している人たちをゲストに招き、現場でのリアルな話を聞いていく。リスナーからの事前質問に答えてもらったり、プライベートでのエピソードを披露してもらったりすることもある。笑い声が絶えず、終始なごやかな雰囲気だ。

ゲストを呼ばずに三宅さんが1人で話す回も含め、Zoom で毎回50分程度を収録。三宅さんが20分程度に編集し、前後編にわけてアップしている。一部の回の内容は note で公開中である。

「品質よもやまラジオ」収録風景。左上が中野さん、右上が三宅さん (画像提供:ARアドバンストテクノロジ株式会社)

全員が「道の真ん中より向こうまで掃く」をチームのOSに

「品質よもやまラジオ」では、「コミュニケーションで大切なこと」「部門間のコラボレーション」など、コミュニケーションやチームビルディングに関するものが毎回テーマになっている。その背景には、「チームのOSが要」という中野さんの考えがある。

「チームをコンピューターにたとえるなら、メンバーやステークホルダーのソフト・ハードスキルや経験値がハードウェア、プロジェクト進行アプローチや具体的方法論が ファームウェア、OS に相当するのがチームの行動指針と意思決定の原理原則。どんなによいハードウェアとアプリケーションをそろえても、OS がしっかりしていなければよい結果にはならないと思います」

そして、中野さんが考える「よいOS」は、全員が「道の真ん中より向こうまで掃く」ことだ。

「江戸時代の長屋では家の前の道を掃くとき、道の真ん中よりも少し向かいの家寄りのところまで掃いていたと聞きます。向かいの家も同じように、道の真ん中よりも少し先まで掃くから、道の真ん中が一番きれいだったそうです。

このたとえでいうと、システム開発における悲劇の発端は『道の真ん中が汚れること』です。プロジェクトで仕事をするときに、自分の領域を明確に線引きし、狭めようとする。その結果、道の真ん中が汚れてしまう。それがトラブルの原因であり、チームがうまくいかない一番根っこにあると思っています」

深い浸透を目指し、社内ラジオを開始

「道の真ん中をきれいにするような仕事の仕方をしたいね」と、中野さんは4年ほど前から、毎月の全社朝会で話している。

「あるプロジェクトで品質向上の課題が生じたのをきっかけに『中野さん、品質担当として朝会で話してよ』と頼まれまして。そこから『品質よもやま話』というコーナーができ、毎回話すようになりました」

何年か続けるうちに情報の浸透具合に課題を感じるようになった。月に1回話すだけでは浸透しない、届かないところもある。自分だけでなく、いろいろな人に話してもらったほうがいいのではないか。そんな思いが中野さんのなかに募ってきた。

「ちょうどその時期に、音声メディアが手軽に使えるようになってきたんですよね。Podcast をやっている、社内ラジオをやっているといった他社の事例も耳にしました。それでお昼ご飯中や作業中でも気軽に聴いてもらえるというラジオの利点を、『品質よもやま話』でも活かせないかと思うようになりました」

同時期に、技術広報や社内共有を強化するため、SE として活躍していた三宅さんに人材開発室へ異動してきてもらっていた。中野さんから施策の1つとして社内ラジオをやってみないかと声をかけられた三宅さんは、前のめりで賛同したという。

「私自身、ラジオが好きでよく聴いていました。前の部署ではコールセンターの音声の編集なども担当していたので、とても興味をひかれましたね」

三宅さんが企画から Webサイトのデザインまで進め、「品質よもやまラジオ」が立ち上がった。音声編集や公開に関する作業もすべて三宅さんが担当しており、「僕は毎回呼ばれていくだけです」と中野さんは満足そうな笑顔を見せる。

「関わりたい」と手を挙げてもらえるメディアに育てたい

中野さんは、社員に「『品質よもやまラジオ』を聴くように」と圧をかけたりはせず、「よかったら聴いてください」というスタンスを取っている。

「社員全員に絶対聴いてほしいというよりは、ラジオを聴いた人が何か気づきを得たり、会社を身近に感じられたりするきっかけになればいいなと思っています」

どんな媒体のどういう内容が届くかは人によって異なる。音声よりもテキストあるいは動画を好む人もいるだろう。「経営陣としての10年間の経験で、組織に何かを浸透させるには持久力がいることを学んだ」という中野さんは、「1年や2年続けたぐらいでは何も変わらないぐらいの気持ちでいます。どんな施策も長く続けて効果をあげることを目指します」と微笑む。

早急に結果を出そうとしていないとはいえ、「品質よもやまラジオ」を1年間続けたことで、毎回聴いてくれるファンができ、なかには毎回感想を送ってくれるコアなファンもいる。「普段は接点のない社員の人となりが知れる」「ラジオで聞いてよさそうと感じたことは自分でも実践している」という反響も増えてきた。

「ゲストを誰にするかは、中野さんに相談して決めています。現場の縁の下の力持ちとか、隠れて活躍している人をできるだけ探したいと話しています。『この人をゲストに呼んでほしい』というリクエストや推薦もしてもらえるようになってきました」と三宅さんは笑顔を見せる。

「近々、社外からゲストを招くことも考えています。僕の代わりにパーソナリティをやってくれる人も募集したいですね。交替でもいいし、2代目としてバトンタッチしてもいい。『やりたい!』と手を挙げてもらえるメディアに育てたいと思っています」と、中野さんはラジオの展望を語ってくれた。

社員のエンゲージメントを高める仕組みづくり

2020年4月の緊急事態宣言発出により、ARI も急きょリモートワーク体制にシフトした。現在も8~9割程度の社員がリモートワークを続けており、今後も継続する予定だ。リモートワーク化は社内コミュニケーションにとってプラスの面もあったが、課題も多い。「品質よもやまラジオ」は、この課題解決の一手段としても位置付けられている。

国内でリモートワークが急速に広がり、DX がキーワードとなっている近年。2022年秋に刷新された ARI のミッションは、「クラウド技術とデータ・AI 活用によるビジネストランスフォーメーションデザイナーとして社会変革をリードする」だ。

「お客さまの事業をトランスフォームする、BX ( Businness Transformation)デザイナーとして、自分たちこそ BX を実践しなければなりません。いろいろなトライを進めるなかで、人のエンゲージを上げていく仕組みは、このラジオだけでなく、社内イントラネットやオフサイトなどの会話を増やしていく仕組み、メンターの仕組みなども動かしています。BX を実現する過程にこそ、このような取り組みがますます重要になると考えています」

中野さんの言葉に、三宅さんも大きくうなずいていた。

ARアドバンストテクノロジ株式会社