粗利率50%!驚異の数値を叩き出す、旬八青果店の八百屋DX

青果販売で粗利50%を売り上げる青果店「旬八青果店」が東京の都心部にある。スーパーでの青果販売の粗利率は平均19%と言われるなか、その倍以上の数値だ。旬八青果店は、都市型の食料品店として都心部を中心に現在は6店舗を運営。積極的にDXを導入し、情報の発信と共有で、消費者と生産者をつなぐ。「三方よし」のサステナブルなビジネスモデルを構築している。株式会社アグリゲート 代表取締役の左今 克憲さんに話を聞いた。

 

粗利率50%!驚異の数値を叩き出す、旬八青果店の八百屋DX

左今 克憲(さこん よしのり)さん プロフィール

1982年福岡県生まれ。株式会社アグリゲート 代表取締役。

東京農工大学卒業後、株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)入社。退職後、食農ビジネスを起業。株式会社アグリゲートを立ち上げ、東京都心部を中心に旬八青果店を展開。併せて旬八大学も運営し、利益の出る青果ビジネスのスキーム展開と人の育成を進めている。

福岡から上京。悶々としていた学生時代

左今さんは九州の福岡で生まれた。恵まれていたが家庭環境は複雑だった。地元の進学校から2浪して青山学院大学に入学する。高校の同級生たちは現役か浪人しても1浪で、それなりの大学へ進学していた。それに比べ「進学校を出たのに2浪だ。それに福岡からの上京組。ヤバい、何か経験を積まねば」と悶々としていた。

ある日、青学のキャンパスを歩いていると、声をかけられた。「インカレの政策立案コンテストがあるので応募しませんか?」。コンテストに出るのは初めてだった。

参加して衝撃を受けた。日本の最高学府である東大の学生や、自分より年下の学生たちが、「総理大臣になる」「県知事になる」と熱く話していた。

「自分には何もないけれど、彼らのやらないことをやろう」。そう思い、野宿をしながら日本一周をした。これが左今さんの転機になった。

日本一周中に生まれたビジネスアイデア

日本一周中に生まれたビジネスアイデア

 

夏休みにバイクで日本中を回っていると、地方と東京のギャップに気がついた。地方では、形はいびつだけれど、新鮮な野菜が、それこそ二束三文で売られている。食べられるにもかかわらず、売れ残っている果物もたくさんあった。一方、東京では野菜は形は工業製品のように整っているが、どこか元気が無く価格も高く感じた。

「売れない状況と、買いたい状況をなんとかつなぎたい。このギャップをビジネスにできないだろうか」左今さんにアイデアが生まれた。

青学のキャンパスに戻ったが、このままくすぶっていては時間がもったいない。そう思い、青学を退学し、東京農工大学農学部に3年次編入。左今さんが3年生の時、2005年の日本はインターネットビジネスに湧いていた。ライブドアの堀江貴文さんや、サイバーエージェントの藤田晋さんが時代の寵児だった。

ビジネスの世界も学生の時に垣間見れるなら見ておこうと考え、政策ビジネス立案のインカレに参加した。「食農政策」のアイデアをメンターの起業家に披露するが、「なぜ、自分がプレイヤーとしてやらないのか」とフィードバックされた。当時、食農の分野は稼げないと思われ、ブランディングもされていなかった。IT業界に優秀な人は集まるが、食農業界にビジネスマインドがある人は参入しない。儲かると思っている人はほとんどいなかった。

「人が重要なのでは? 各業界の採用状況について知りたい」そこで人材業界に絞って就職活動し、株式会社インテリジェンス(現在はパーソルキャリア株式会社)に入社した。

地方と都会のギャップをつなぐ八百屋の起業

起業のための修行期間としてインテリジェンスで働いた後、株式会社アグリゲートを立ち上げる。ミッションは、「未来に”おいしい”をつなぐインフラの創造」だ。ここでは産地と消費者をつなぐ都市型八百屋「旬八青果店」を運営。青果をはじめ、肉や魚、惣菜などを「新鮮・おいしい・適正価格」で提供する店舗を展開した。

(現在のValueは「あなたにとってのおいしい青果を。」にUpdateされている)

店舗だけでなく、青果ビジネスの構造やスキームを学び、利益を出す人を育てるため「旬八大学」も運営している。八百屋がビジネスモデルを教える仕組みはそうそうないだろう。

 

「おいしいは単に味だけではなく、食べ物の背景や食べる時の状況や感情など、さまざまなニュアンスを含んでいます。旬八青果店で野菜や果物だけでなく、肉や魚、惣菜などの食料品も販売していますが、それは、様々なライフスタイルの中で、それぞれにとってのおいしいを感じて頂きたいからです」左今さんはそう話す。

 

学生時代に気付いた地方と東京のギャップ。利益を生み出すための仕組みは、徹底的なデータドリブン(データの分析をもとに判断・アクションすること)とブランディング、そして産地と消費者とつなぐ情報の発信と共有だ。旬八青果店では、勘や経験ではなく定量的、定性的な方法でオペレーションがされている。

DXは規格外の青果販売のプラットフォーム

DXは規格外の青果販売のプラットフォーム

 

旬八青果店では規格外の野菜や果物も売られている。通常、青果流通の世界では規格外のモノはコストアップになるため、流通網からはずれてしまう。

 

「規格外の野菜や果物を売ったら、『儲かるんじゃないか』とみんな思っています。でも、3つのボトルネックがハードルになっているのです」左今さんは話す。

 

  • そもそも規格外なので、仕入れ時の品質の幅が広すぎる。「規格外の規格」が必要だ。農家ごとに基準が違うから「なぜこれも持っていかないのか?」そんなことが頻繁に起こる。
  • 販売時にブランディングをして、規格外を選んでいる理由や背景を伝えないと、量が売れない。消費者は形がよくて、きれいな野菜や果物を選ぶ傾向があるからだ。 
  • 規格品を基準に物流網が構築されている。そのため、規格外の輸送は基本的に新たに物流の構築が必要で割高になる場合がある。

 

左今さんがボトルネックを乗り越え、高い利益率を出すためにおこなっていることがある。1つめは、徹底的な粗利率の把握と可視化だ。

「スーパーマーケット協会の出す青果の平均粗利率は約19%です。一方、旬八青果店の青果粗利率平均は約50%です。スーパーでは、JANコードがついた商品については個別にしっかり把握していましたが、青果は全体の仕入と販売の差し引きで粗利率を把握していました。私たちは青果も品目単位で細かく把握しています。

粗利率だけでなく、販売量とも掛け算しています。粗利率が高くても販売量が少なければ、利益は薄くなるため、仕入れや販売の価値は低いと判断します。本当に良い仕入れと販売になっているのかを細かく把握し、規格外であっても粗利率が高く販売量を見込めれば積極的に仕入れます」

 

そのプラットフォームとなるのが、自社開発したシステムだ。仕入れ管理システムとPOSを連動させ、結果をレビューできる。ECをイメージし、インターフェースを一元化した発注システムもつくった。一般の八百屋ではシステム化が進んでいないところが多いが、旬八青果店では、いち早くDX化を進めている。

 

2つめはブランディング、PRの重視だ。消費者がおいしいと思えるような情報を伝えることで、商品の付加価値を高めている。例えば「相対的にはスイカの旬はこの時季だけれど、この産地はこの時季だよ」などだ。生産地のカルチャーや作り手のストーリーも伝えることも大切だ。

 

「大きさもマチマチだし、見た目もイマイチかもしれない。でも味は変わらない」消費者にそう伝えていくことは、生産者側の粗利額を上げ選果などのコストを下げることにもつながっていく。

 

3つめは物流コスト対策だ。既存の出来上がっている物流の仕組みをうまく使わせてもらうことが基本戦略だ。

例えば九州から東京へ仕入れたいとき、秋冬から春にかかるまではトラックの便が多い。その中の何パレットかを隙間としてもらうのが一番。でも、どうしても仕入れたいモノがある時は、宅配便を使う。多くの量を運ぶ時は中型トラック(4トン車)で輸送し、物流コストの圧縮を図る。

高速PDCAと、消費者と生産者をつなぐ適正価格

高速PDCAと、消費者と生産者をつなぐ適正価格

 

生鮮は足がはやく、回転が早い。そんな制約のもと、需要と供給のマッチングはどうしているのだろうか。規格外の青果を扱うならなおさらだ。

 

「商品の特徴として足がはやいがゆえに、PDCAを回しやすいです。例えば、出店すれば、お客さんの1人はすぐに作れる。その人の動きを定性的に観察し、次は何をどのように仕入れると良いのか、ひたすらリアルを見ながらPDCAを回していく。一方で適切な粒度での定量化は極めて難しいためそこが肝です。高速PDCAでトライアル&エラーを繰り返しながら、仕入れと販売をチューニングしていくイメージです。

青果はコモディティ商品であるが故に在庫リスクが少ない。例えば、10万円で仕入れた宝石を1万円で販売することは難しい。そもそも買い手がいなければ在庫リスクです。外した時のリスクは大きい。でも200円の大根は50円に下げれば売り切れる。仕入れた瞬間だけがリスクです。ミスした時のリカバリも、仕入れた範囲だけなんです」

 

旬八青果店では消費者と座談会もおこない、買い手と売り手の双方向のコミュニケーションの場を設けている。消費者からのインプットを生産者へアウトプットするためだ。

「こんな売れ方をしました、こんな風にしてもらえたら売れると思う」見た目と味をどのくらい担保すれば売れるのか、生産者にもフィードバックすることが生産者側の負荷とコストも下げていく。

 

例えば、鹿児島の指宿でつくっているパッションフルーツ。ハウス栽培から露地栽培に変更すれば、生産者のコストを下げられる。ただ、味は変わらないが見た目は悪くなる。旬八青果店のバイヤーは生産の環境と販売データを付け合わせながら次のような会話をしている。

「多少見た目が悪くても、手に取りやすい価格で販売出来るように栽培できませんか。そうしたら来年の取引量は増やせると思います」旬八青果店は手元にある定量的な販売データと、消費者からの定性的なデータにもとづいて判断できるのだ。

「見た目がよくなくても買う」消費者と、「こうすれば利益も確保しつつ卸価格をダウンできる」という生産者のレベル感を合わせていくこと。「負荷をかけずに、川上と川下ですり合わせていくこと」が、適正価格の実現につながると左今さんは話す。

左今さんの適正価格とは、消費者の視点だけではなく、生産者側もきちんと利益を得られる価格のことだ。「今はネットの時代です。買い叩いたら、自分がネットで叩かれます」ステークホルダー全員がきちんとベネフィットを得られること。「三方よし」のビジネスモデルを目指している。

これから未来に向かって「やりたいこと」

紆余曲折ありながらも着実に成長しているアグリゲート社に、これから取り組んでいきたいことを聞いた。

「DXの一環ですが、店舗のポイントカードをアナログからデジタルに変更をしています。まだ、赤坂店と大崎広小路店のみのトライアルの段階ですが、全店舗に展開していきたい。そうすると、お客さま単位、モノ単位でより精緻な販売分析が可能になります。

九州の佐賀県唐津市をご存じでしょうか。ふるさと納税のハンバーグがトップランキングに入る自治体です。さらに踏み込んで認知してもらうために、店舗で現地の産品を販売しています。唐津市を知った人が、ふるさと納税をするのではないかと仮説を立てています。デジタルから販売履歴を追え、現地にフィードバックできます。そうすることで、唐津市ともつながり、お互いにベネフィットが生まれてくるのではないかと考えています」

 

唐津市とコラボしている旬八青果店(赤坂店) 

唐津市とコラボしている旬八青果店(赤坂店) 

 

「東南アジアの都市にも出店していきたいですね。八百屋で売っているものは国産品だけではありません。パイナップルなど、海外の青果を、青果市場を介在させずに直接仕入れてみたいですね」

 

20代、青学のキャンパスで悶々としていた左今さんは、いち早く青果の小売にDXを導入し、新しいビジネスモデルを構築し、人を育ててきた。圧倒的利益も生み出し、消費者と生産者をつないだ視線は、今、海外にも向き始めている。

 

株式会社アグリゲート