大分市中心部のはずれにあるパークプレイス大分。その中にあるイオン食品売り場の入口には大量のスマートフォンが並べられている。生活に密接に関わっている食品売り場に導入されたデジタル化の取り組みについて、イオン九州株式会社コーポレートトランスフォーメーション推進本部 DX 担当部長である菅原さんに話を聞いた。
菅原 宏樹 (すがわら ひろき)さんプロフィール
イオン九州株式会社コーポレートトランスフォーメーション推進本部 DX 担当部長(現職)。
1981年大分ジャスコ株式会社(現イオン九州株式会社)に入社。2002年情報システム部長に就任。ストアオペレーション部長等を経て、2021年より担当部長としてDXに携わる。
お客さまの不満を解消する手段として導入
買い物の際、商品の入ったカゴを持って長蛇の列に並んだ経験は誰にでもあるだろう。そのレジの待ち時間を解消すべく「レジゴー」というシステムが導入された。店舗に据え置きされている端末や自分の持っているスマートフォンでバーコードを読み取り、専用レジで決済するレジゴーについて、菅原さんに導入した経緯を聞いた。
「きっかけはお客さまから寄せられた声です。レジが混み、お客さまに不便な思いをおかけしてしまっていました。これを解決する方法として、レジゴーが考案されました。また、スマホで決済ができることで楽しんでお買い物していただける、というのも導入した目的の1つです。レジ待ちの時間を短くし、楽しくお買い物していただく。この2点に主眼を置いて導入しました」
レジゴーの仕組みは、全国のイオン店舗で広まりつつある。
セルフレジとの違いは
レジゴーとセルフレジは似て非なるものである。レジゴーはセルフレジより効率的な面もあるのだとか。その点を菅原さんに解説してもらった。
「セルフレジは、会計時に商品のバーコードを一品ずつスキャンしてレジ袋やカゴに移します。その際、レジ袋への移し方が悪いとエラーになったり、なかなかスキャンが読み取れなかったりと、慣れるまでは時間がかかる場合があります。
対してレジゴーは、商品を手にとってカゴに入れる時点でスキャンします。売り場を回る時点で既にスキャンは終わっており、レジでは支払いをするだけなので、非常にスムーズです。そういった点でセルフレジに比べてレジゴーの方が効率的だと考えています」
商品バーコードのスキャンという物理的アクションがレジに行く前に店内で完結するレジゴー。人が集中するレジゾーンを速やかに通過することが可能となり、スピーディーに買い物ができるシステムとなっている。現在は、有人レジやセルフレジと併用して運用している。
実際にレジゴーを使ったお客さまの反応
「レジでの待ち時間が減ったことや、子どもが楽しく使えたこと、高齢の方でも簡単に使用できたという声を聞きます」
嬉しい言葉がある一方、方法を改善すべき点もある。「お客さまが購入した商品を従業員がチェックする際、どうしても多少の接触機会が発生してしまいます」
今後はチェックする人員もAIに置換しようと考えているという菅原さん。レジゴー専用レジの入口にカメラ付きのゲートを設置し、カメラに映ったカゴの中身をAIが判断するシステムを現在試験中だ。そのシステムが本格稼働し始めれば、レジゴーでの買い物はさらに快適なものになる。
年齢を問わず活用できる実績
端末上で商品登録から決済まで完了するシステムであるレジゴーは、都市部だけでなく地方にも導入されている。
鹿児島県奄美市の住民登録月報によると、令和4年8月現在、奄美大島は65歳以上が33%を超えており、高齢化が進んでいる。そのような中で、レジゴーを導入した。高齢者が多い地域でのデジタル導入は懸念事項もあったが、驚きの結果が出た。
「奄美大島の中心である名瀬市の店舗には近隣の島から船で多くのお客さまが買い物に来られます。一度に大量の商品を購入されるため、レジがすごく混んでしまう。そのような状況になると、購入時の効率化のためにレジゴーを利用する方が増えるのです。
年齢は関係なく、かなりご高齢の方でもごく普通にレジゴーを使用されます。実際のところ、奄美大島のお店はレジゴーの利用率が導入店舗の中でもトップなんです」
高齢化が進むような土地であっても、需要があればデジタルツールは受け入れられることがわかる。
実際に使ってみた
レジゴーを実際に体験してみた。
店内に入ると、レジゴーで使用する端末が並んでいるのが目に入る。
端末を手に取って専用カートに置く。これで両手をふさぐことなく買い物ができる。
店内で目的の商品を手に取り、バーコードを端末でスキャンする。すると端末の画面に合計金額と自分がスキャンした商品一覧を見られる。合計金額が一目でわかるため、自分が決めた予算との比較が容易だ。
商品のスキャンが終わればレジゴー専用のレジに進む。レジについている支払いのQRコードを端末でスキャンし、支払い方法を選択する。
支払いが終わったら従業員の方にカゴの中身を確認してもらい、買い物は終了だ。
イオン九州が掲げるDXの真の狙い
レジゴーというシステムを導入することによって、レジの混雑を解消しているイオン九州株式会社。しかし、課題はそれだけではない。今後のDX化でどのような課題を解消していくのか、いま実際に進めている取り組みの話を聞いた。
「イオン九州が現在取り組んでいるDXは4つあります。1つ目は先にもお伝えした、レジゴーのアップデートとして開発しているしくみです。レジゴー連用レジの入り口にゲートとカメラを設置し、カメラでカゴの中身を見てスキャンした情報と結合し、AIで判断する。現状の人間の目に頼るチェックを極小化するシステムの稼働を目指しています。
2つ目は、惣菜などの値引きのタイミングをAIによって管理するシステムです。開発理由は、値引きのタイミングや金額の問題からです。これは店や人によって異なりますが、人や店の判断に任せていると、早すぎる時間に売り切れてしまったり、逆に売れずにフードロスに繋がったりします。その判断をAIですることによって、最小のフードロスに押さえつつ、幅広いお客さまに総菜等の食品がいきわたるような仕組みを目指しています。
3つ目は、商品説明が必要な大型家電のコーナーや、死角にいるお客さまにすばやく対応するためのアラートアプリです。このアプリは、店内のカメラでお客さまの位置を確認することで、従業員が素早く接客に向かうことを目的としています。
4つ目は、地区スーパーバイザーの巡店指導の効率化のため、各コーナーにカメラを設けて遠隔で確認できるようにするしくみの導入です。これにより店舗に足を運ぶことなく、クラウド上で各店舗の売り場状況が把握できるようになり、スピーディーかつ効率的な店舗指導が可能になります。また、店舗の売り場担当者にとっても様々な活用が期待できます」
これらのDXは、すでに開発が終わり試験中のものがほとんどだという。
「われわれのDXの着眼点は、いかに現場の作業や業務を効率化するのか、という点です。そこで浮いた時間や人員はどうするのかというと、今現在DXでは解決できない、たとえば商品の補充や売り場のメンテナンス、そして接客等のお客さまのためにできること。そこにマンパワーを集中させるためにDXをやっています。われわれのDXの究極の目的はそこです」
イオン各店に導入されているレジゴーをはじめとしたDXは、お客さまのことを第一に考えて運用されているという実態が見えた。
執筆
本田翔音
株式会社イージーゴー コンテンツ制作部所属の編集ライター。趣味はオフロードバイクでレースに出ること。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
- SHARE