「書いて生きるには文章力“以外”の技術が8割」。
すごい帯文である。しかしドキッとする帯文である。どひゃあ。
買わずにはいられない……とビジネス書に対してこんなに思ったことはない。買って読んだら、その「文章力以外の技術」がすごすぎて震えた。参考になるかならないかといえば確実になるのだが、参考にできるかできないかといわれると「参考にできるように自分が頑張りたいです、押忍!」という謎の返事をしたくなる本。
というのも、今回紹介する『書く仕事がしたい』(佐藤友美著、CCCメディアハウス)は、売れっ子ライターの著者が「どうすれば書く仕事ができるのか」を語った教科書。書く仕事で稼ぐことは可能なのか? 仕事を途切れさせないためのコツは? 本ってどうしたら出せるの? そもそも書く仕事ってどんなものがあるの? といった「書く仕事」に関するコツを教えてくれる。果ては、締め切りを守れなかったときどうすればいいのー!? という永遠の課題にも答えてくれているので、ここで気になった方はぜひ本書を開いてみてほしい。
1本終えたら2本置く
すごいのが、「こうすれば仕事が増える」という佐藤さんのコツである。たとえば本書で公開されている秘儀、「1本終えたら2本置くの技」(※勝手に私が命名しました)。
仕事を増やすために、私はこれまで、「1本仕事が終わったら(もしくはその仕事の最中に)、2本企画を置いてくる」ことを意識してきました。
たとえば、ヘアページを担当していたときには、4月号の仕事をしながら、5月号の企画を2本置いてくるようにしていました。
この企画は、ヘアメイクさんや美容師さんと、4月号の打ち合わせをしているときに集めたネタで作ります。わざわざ企画書を書くというよりは「そういえば、最近こんな髪型が流行っているそうなんです。次回の企画にどうでしょう」というくらいのテンションで口頭でお伝えします。
出典:『書く仕事がしたい』藤田友美、CCCメディアハウス(2021年)
……すごくないですか!? すごすぎる! そりゃあ売れっ子ライターになりますよ、と私は慄いてしまった。
たしかに、いきなり「次号の企画にどうですか」と企画書を持ってこられたら、ちょっと編集者からすると、重いかもしれない。でも口頭でさらっと「こんな感じはどうでしょう」といわれたら、編集者の方も受け取りやすいというものである。いやはや、企画を相手に伝える技術もすごい。
しかしこれを実践しようとすると、私だったらたぶん「ええ、2本も来月増えたら大変だし……ていうか相手にがつがつしすぎてるって思われたら引かれるだろうし……」とかもだもだ言い訳してしまう気がするのだ。そういうところだよ! と著者の佐藤さんに怒られそうである(※勝手な妄想です)。こういうコツを実践できるようになりたい、と心から思う。だからこそ本書は、参考にできるかできないかと言われると「参考にできるように自分が頑張りたいです、押忍!」な本なのである。
仕事に対するガッツと丁寧さ
本書には「書く仕事をする」うえでのガッツの出し方が丁寧に綴られている。
それは決して無茶な仕事の仕方ではない。たとえば出産や育児を経て、どのように仕事の仕方が変わっていったのか、どういうふうに周りのお母さんたちが書く仕事に向き合っているのか、といった点もちゃんと綴られている。とにかく頑張れ、というだけの本ではないのだ。
が、一方でやっぱり本書には「書く仕事をする」ことへのガッツが満ち溢れている。なんというか、著者である佐藤さん自身の「書く仕事をする」ことへの、前向きな姿勢が、さまざまなコツにおいて表現されているのだ。そこがいいな、と感じる。
さらに私が感銘を受けたのはこんな表現だ。
「記憶に残る幕の内弁当はない」と言ったのは秋元康さんですが、物書き業界で、「全部できる」は、「全部できない」と同じだと思われてしまいます。なので、なるべくその媒体に合った、そして旗の立った経歴を入れ、あわよくば次の仕事につなげたいと考えています。
出典:『書く仕事がしたい』出典:『書く仕事がしたい』藤田友美、CCCメディアハウス、(2021年)
こう語る佐藤さんの「肩書きやプロフィール文を媒体によって変える」というコツには、「そ、その手があったか……」と震えるほかないのだが。たしかに、なんでもできる、なんでも書ける、という人よりも、これが絶対にできます、と専門分野がはっきりしている人のほうが頼みやすい。それがフリーランス界の真実。そう考えると、「旗の立った経歴」というものの重要性をしみじみ感じる。
そう、おそらくこの本、「書く仕事」をしたい人だけでなく、フリーランスで働く人はみんな参考になるのだ。
読んでいると「ああ、こういうことに気を遣って他の人は仕事をしているんだなー」と他人の仕事術を盗み見るような感覚になる。
フリーランスで働いていると、他人がどうやって仕事をしているのか、見る機会が少ない。どうしても独自の仕事技術を編み出すだけで終わってしまう。が、数少ない「ライターの仕事術」の良書がここにあるのだ。ぜひともフリーランスの人に読んでもらい、本書のもつガッツと丁寧さに触れてみてほしい。私はそのガッツと丁寧さに驚きました……。
「書く仕事がしたい」人、そしてフリーランスの人にとって、きっと励ましの一冊になってくれる良書。私は折に触れてこの本を読み返したい。