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Amazon が、2023年5月から「原則週3日」のオフィス出勤を命じた。昨年9月にはリモートワークから戻すつもりはないと宣言していたにもかかわらず、超速で手のひらを返した形になる。
「あの Amazon が、リモートワークを止めた」というニュースは、衝撃を与えたようだ。やはり DX を推進してもリモートワークには限界がある、出社にまさる労働環境はない、といった声が SNS では多数見られた。
だが、本当だろうか? 新卒から独立するまで外資で働いていた筆者は懐疑的である。
今後減りゆく外資のリモートワークとその意図
おそらく、今後も外資系企業はリモートワークを減らす。少なくとも、そう宣言はする。なぜなら、リモートワークを廃止すれば自主退職が増えるからだ。
現在、テック業界を中心に米系外資では解雇が相次いでいる。2023年2月だけでも、レイオフを発表したのは Dell(6,650人)、Yahoo(1,600人)など、合計380企業に及び、10万人が失業する見込みだ。
解雇の嵐はテック企業だけに留まらず、直近ではマッキンゼー・アンド・カンパニーが2,000人の解雇を発表した。今後は米系コンサルティングファームでも、解雇または採用凍結が続くかもしれない。私の周囲にいる外資系企業の社員はみな「予想通り」という顔をしている。これまで、テックやコンサルティング業界で採用数が爆発的に増加していた。その反動がついに来た、という見立てだ。
だが、企業にとっていわゆる「解雇」はあまり楽ではない。何か月分もの退職パッケージを用意して、厚遇しながら辞めてもらう必要があるからだ。それよりも、自主的に辞めてもらったほうがありがたい。そうなると、社員のモチベーションを下げる施策を導入するのが一番である。そう、リモートワークの廃止などはてきめんに効く。とくにエンジニアや、プログラマーにとっては……。
そのようなわけで、外資系企業では今後「原則出社」を求めるところが増えるだろう。だが、それは DX の限界でも、リモートワークのデメリットを感じたからでもない。単に、社員数を減らすための施策と考えるほうが自然だろう。
たとえば、冒頭に例示した Amazon には150万人以上の社員がいる。この社員数を出社させるだけのキャパシティは、オフィスにもはやない。アマゾン・ジャパンの人員すら、本社オフィスには詰め込めないのではなかろうか。だから、「原則出社」のアナウンスは、出社の義務化そのものよりも、他の意図があったと考えるほうが自然なのだ。
DX で進んだリモートワークの副作用
とはいえ、日本企業はそうでもない。私は仕事柄、多くの人事部門をインタビューする。そこで聞かれるのは「リモートワークの普及によって、雑談が減った」「先輩社員からの知見を後輩が得るチャンスが減っている」といった副作用を心配する声だ。
これまで、オフィスでふと湧いた雑談からインスピレーションを得ることや、「そのテーマなら、○○さんが詳しいよ」といった情報の循環が、リモートワークで止まってしまった。とくに、新型コロナウイルスが流行してから入った社員は、コネクションを得づらくなっている。そのため、社内でうまくやっていくスキルが身につきにくい、というのだ。
これは、前提に「オフィスの雑談があって当然」という状況があったからこそ感じられる変化だろう。かつて、飲みニケーションがパワハラ防止や接待交際費の制限で削減されたときも、飲みによって生まれた雑談が減ってしまう。そのせいで困ったことになった……という声は挙がった。
同じことが、リモートワークで起きている。オフィスなしで、雑談を成り立たせたり、社内コネクションを構築したりする状況を「当然」と設定できていないから、差異にしんどさを感じてしまうのである。
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さらなる DX で活性化できるリモートワーク環境
先進的企業では、コロナ前からリモートワークを普及させていた。そして、いち早くこの「雑談のなさ」に苦しんだ。そして、対策も打ってきた。具体的には、社内チャットツールで無駄話をするよう推進したのだ。
「リモートワーク慣れ」している企業では、どこでも社内チャットツールに雑談チャンネルがある。近所のおいしいラーメン屋の話、最近のニュースにまぎれて、「社内システムがこうだったら楽なのに」という話題がぽっと出る。そして、改善案が作られていく。オフィスはがらんどうでも、ネット上で社員は楽しそうだ。
コロナ禍であわててリモートワークを推進した企業には、まだその文化が根付いていない。DX の真髄はいつも、風土改革にある。いくら最新技術を導入したとて、社員が適応できなければ形骸化するのだ。だから今、バックラッシュとして「原則出社」に戻りたがる社員が増えているのである。
だが、社内には明らかに「リモートワークのほうが楽だ」と感じている社員がいるはずだ。ペットがいる方や育児中の家庭は当然のことながら、「BGM があればパフォーマンスが何倍にも伸びる社員」「ときおり10分ベッドで仮眠すると、爆発的に集中できる社員」など、リモートワークを享受している人は多数いる。
私自身も、今は幅150cmのデスクを自宅に置いて仕事している。この大きさのデスクを担保してくれる勤務先は、なかなか思いつかない。さらにイヤホンをしているだけで「人を拒絶している」とお叱りを受けるオフィス勤務と違って、自宅なら好きな音楽を流せる。雑談はチャットツールで気軽に交わし、沸かしたお風呂までは徒歩10秒だ。
そこまで突っ切ったとき、日本企業でも DX の副作用は減じていくのではないだろうか。そのためには、自宅の広さを担保するため郊外へ引っ越す必要が出てくるかもしれない。カラオケボックスの Wi-Fi はまだ心許ないから、レンタル会議室も近隣のカフェに必要かもしれない。雑談を活性化させるために、メタバースで雑談ルームが欲しくなるかもしれない。とはいえ、仮にそこまで揃ったとき、果たしてどれくらいの人が週5の出社を心から望むだろうか。
今はリモートワークで生きる社会への過渡期
筆者は、オフィス完全不要論を唱えるほどの過激派ではない。やはり、「上司にちょっと質問したいとき」「今日誰とも話してないな……と気づいたとき」などは、オフィスへ行きたくなる。だから、オフィスへの任意出社を許すことは、やはり望ましい。
また、テキストでのコミュニケーションが苦手な人はいる。こういった方は、DX によるリモートワーク普及によって数十年かけて淘汰されていく人種といえるかもしれない。けれど、今は「そこにいる」のだ。そして、今までなら察し合う関係で進められたあれこれが、進まずに苦しんでいる。
また、取引先によっては対面至上主義で、オンライン会議を無礼に感じる方もいる。そういった取引先には、同じく対面を愛する社員を充てたほうがうまくいくだろう。その現実を無視するのも暴力的な判断である。
新型コロナウイルスで、日本は急激にリモートワークへ舵を切った。だからこそ、反動も大きく出て当然なのだ。たとえば日本で喫煙室が徐々に減って「喫煙者だけで交わされる合意形成」が成り立たなくなったように、リモートワークのコミュニケーションも変化していくはずだった。10年かかっても当然の変化が、一気に3年で押し寄せてきたのだから、心身への負荷は大きい。
ただ、一度生まれた流れは変わらない。オフィス賃料も削減できる以上、企業にとってもリモートワークのメリットは捨てがたい。いわゆるエッセンシャルワークを除いて、今後はゆっくりと反動を軽減しつつ、リモートワークありきの労働環境が形成されていくだろう。たまには、オフィスへ顔を出しながら。
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