クリエイターが「使える」ビジネス本を紹介していく本連載。
第二回は、佐久間宣行さんの『佐久間宣行のずるい仕事術』(ダイヤモンド社)をご紹介したい。本書は、ひとことで言えば「自分のやりたい仕事をやれるようになるための本」である。
組織のなかでクリエイティブな仕事を成立させる
本書の著者は、オールナイトニッポンのラジオパーソナリティとして知られる、テレビ番組のプロデューサー。長らくテレビ東京に勤めていたが、最近退職し、フリーのプロデューサーとして働いている。彼の特徴は、テレビ東京でそれまで大きなヒットがなかった「お笑いのバラエティ番組」を立ち上げ、成功させたこと。いったい、テレビ局で前例のない企画をどうやって打ち立てたのか? ヒットする企画はどうやって作ったのか? そしてそれを可能にした社内交渉術とは? ――それらの問いに応えるべく、会社員として働いてきた「仕事術」を一冊にまとめたのが、本書である。
本書の特徴は、組織のなかでクリエイティブな仕事を成立させるヒントが詰まっていること。
たとえば「企画書の作り方」とひとことで言っても、その手前には、「その企画を作る立場にどうやったら就くことができるのか?」「企画を嫌な上司と作ることになったら?」「企画をやる気のない部下と一緒に作ることになったら?」「企画を作るメンタルをどうやったら保てる?」「ヒットする企画はどうしたら作れる?」などと、さまざまな関門が待ち受けている。本書はそれらの困難ポイントを一つひとつ解きほぐし、人間関係やメンタルやマネジメントなどの切り口で分解し、仕事術を伝えている。
私は本書のあり方にすごく共感している。なぜかといえば、巷の仕事術本といえば「企画書の作り方」や「マネジメントの方法」のみに集約していることが多いから。そういう本を読むたび、「いやもっと手前が問題で、そもそも企画書を作る立場にどうやったら行けるんだよ」「そもそも上の人がしっかりマネジメントをやる余裕のある状態って、どうやって作るんだよ」というツッコミを入れたくなってしまうのだ。現実では、ビジネス書に書いてある手法を使う何段階か前に、関門が待ち受けている。
だが本書は、まず新入社員のときはこう、そして先輩になってきたらこう、えらくなってきたらこう振舞う……と、ステージにわけて仕事術を紹介している。その中で変わらない企画術やメンタルコントロールのコツを伝えてくれる。そのため納得感も高い。
やりたい仕事をやるために、どう動けばいいのか。それを、本書は手を変え品を変え教えてくれる。
逆に言えば、おそらく「やりたい仕事」がそもそも存在しない人――たとえば部署や階級によってやるべき仕事が既に定まっている人や、自分のアイデアによって仕事内容が変化しない人――にとっては、本書に書いてあることが良いヒントとなる機会は少ないのではないだろうか。
「やりたい仕事をやる方法」が詰まっている一冊
もちろん、この連載を読んでいる人の中には、会社員ではなくフリーランスで仕事をしている人もいるだろう。私もその1人だ。しかしその場合も、やはり会社員と同じように、人間関係の中で仕事をしていることに変わりはない。いかにしてやりたい仕事をもらうのか。そしてどうやって穏便な人間関係を作っていくのか。本書はそのヒントを教えてくれる。
たとえば、私が唸ったのは「自分のやりたい仕事をやれるようになる方法」。それは、自分の得意をメンバーに覚えてもらうことだという。
チームの中で、顔や名前だけでなく、自分ができることややりたいことをアピールせよ、というのである。
ときどき30代半ばになってから「じつは俺……ずっとお笑いの番組をやってみたかったんですよ」と言ってくる後輩がいるけれど、これは僕に言わせれば「それまで主張しなかったお前が悪い」だ。
組織で働く以上、自分のキャラクターをわかってもらえないかぎり、望むチャンスは巡ってこない。
自分が思っているより他人は自分に興味がない。
他人の話なんて聞いていないし、聞いても忘れる。
だからあらゆる手段で何度でも「〇〇をやりたい」と伝える勇気が必要になる。
ただ、飲みの席の雑談はすぐに忘れ去られるし、本気度も伝わらない。
だからこれは必ず「仕事の場」で伝えること。
ちなみに僕は「バラエティがやりたい」と口に出すだけでなく、何度も何度も企画書を出した。まずは「量」と「インパクト」。やりたいを行動でも示していた。
出典:『佐久間宣行のずるい仕事術』佐久間宣行、ダイヤモンド社(2022年)
ああ、胸が痛い……。端的にそう感じた方もいるのではないだろうか。ちなみに私も胸が痛い。その通りだ、と言いたくなる。
たしかに、他人が自分のことを察してくれるなんて、あり得ない。とくに仕事の場だと尚更である。しかし仕事の場でアピールすることは、はっきり言ってその場においては余計な仕事になってしまうし、とっさに躊躇してしまうことも多い。
が、本書の「それまで主張しなかったお前が悪い」という言葉を思い出せば、アピールすることをためらう意味なんて何もない、と思えるのではないだろうか。
こんなふうに、なんだか胸に刺さる金言の多いビジネス書なのだ。
ほかにも、自分の夢だった仕事を分解し、具体的な目標に変えること。あるいは、自分の言いたいことよりも企画書の読者が知りたいことを優先すること。あるいは、企画の卵を常にストックしておいて、企画書募集の際にすぐに使えるようにするコツ(googleカレンダーを使う)……などなど、フリーランスでも会社員でも応用することのできる「やりたい仕事をやる方法」が詰まっている。一度手に取ってみて、自分の仕事のヒントになる情報が書かれているか、チェックしてみることをおすすめしたい。