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「ノマド」で本当にメシは食えるのか 中国でフリーライターをする筆者が伝えたいこと

IT技術が進歩し、働き方が多様化する中、場所の縛りがないワークスタイルを志向する人々が増えている。

 

毎日オフィスまで行き、面倒な上司と顔を突き合わせながら働くなんてまっぴら御免。

できることなら世界を旅しつつ、気ままに好きな仕事をしたいーー。

そんな憧れから、フリーランスになりノマドワーカーとして自由な働き方を目指す。

 

それ自体、何も非難すべきことではなく、時流にかなうものであると筆者も思う。

だが、場所にとらわれず、組織に依存しない働き方とは、逆に言えば会社という一種の安全装置を捨てるということだ。

 

「やっぱノマドっしょ」と意気込んで無計画にフリーランサーを目指すのは、地図もなく大海原に漕ぎ出すに等しい行為。

運良く成功すればいいけれど、異国で尾羽打ち枯らしてにっちもさっちもいかなくなった人を筆者は実際に見てきている。

 

フリーで食っていこうと思うなら、まず絶対に押さえておくべき素質や前提条件がある。

その基本を踏まえずして、どの国で働くか、どんなコワーキングスペースが自分の思い描く仕事環境に適しているかなどと考えるのは、はっきり言って順序が違う。

 

では、会社のややこしい人間関係にサヨナラし「食えるノマド」となるためには、どうすべきか。

筆者は生活に困らない程度の者にすぎないが、中国でフリーライターをしている。僭越ながら皆さまにアドバイスをしてみたい。

フリーな働き方でこそ必要な「自らを律する心」

筆者がノマドワーカーと聞いて真っ先に思い浮かべるのは、かつてタイに長年暮らし、現在は日本でアジア系ライターとして大成した畏友である。

筆者が日本の出版社で雑誌を作っていたころ、毎月のようにその友人へ原稿依頼をしていた。友人は年に何度も海外取材に行っているようで、メールのやり取りをするたびに違う国にいるといった具合だった。

ガイドブックの仕事では、絶景リゾートやパーティーアイランドなどで、浮かれまくりの人々をよそに一人黙々と店を回ってデータ確認。

深夜まで取材をし、安ホテルに戻ったと思われるタイミングで、「今から原稿書きますんで、朝までには」などというプロ根性に満ちた返信が送られてくるのが常だった。

 

国境越えの長距離バスの中でも、なんとかネットがつながるレベルの辺境でも、どこであろうが仕事をし、そして必ず締め切りを守る。

こういうストイックな人を見てしまうと、「旅を楽しみながら仕事をしたい」という考え方に、そもそも若干の甘さを感じるわけだ。

 

どこで仕事をしたいかではなく、どこであろうと仕事ができる。

これこそが真のノマドワーカーというのが筆者の考えだ。

 

むろん、オンラインですべて完結する仕事ならば、生活費が安い国に拠点を置くのは合理的な判断だ。旅を楽しみながらでも集中力を切らさず依頼をこなせるなら、存分にエンジョイすればよい。

だが、集中力を切らさず自分を律して仕事をするのは簡単ではない。仕事に集中できる場所としてコワーキングスペースの需要があることからも、その難しさがわかる。

会社組織と違い、自分以外に誰もあなたを管理する者はいないし、やる気スイッチも自ら押すよりほかにないのだ。

 

自分もほんの一時期、現在のように荒れる前のミャンマーで浮かれまくって半分沈没、半分仕事みたいな暮らしを送っていた。周囲におもしろいものがいくらでもある中で、日本の勤め人と同じメンタリティを持って働くのはなかなか至難の技である。

楽しくなってうっかり仕事が適当になったりしても、依頼する側からしたら情状酌量の余地などない。

それどころか、海外でトラブルに巻き込まれようが、期日を守らなければ下手すれば次の仕事があるかどうかもわからない。

 

筆者はいろいろなフリーランサーを見てきたが、時間やお金、体調管理などがいい加減な人は、仕事人としての寿命がおしなべて短かったように思う。

たとえ、どの国・どんな場所にいようが同じパフォーマンスを出せてこそ、初めてノマドワーカーの道が開けてくる。これが筆者の考えである。

仕事でワガママを言えるのは一部の限られた人だけ

むろん、多少いい加減なところがあっても、フリーランサーとして生きていける人もいる。

たとえば、締め切りにたびたび遅れるけれど、待った甲斐のある仕事をする人。

レスポンスが遅かったり、たまに音信不通になることもあるが、それでもこのジャンルならこの人しかいないと思ってもらえる実績を持つ人である。

要は、ワガママを言いたいのなら、それを押し通す実力が必要ということだ。

 

ノマドワークやフリーランスに適した典型的職種として、真っ先に名前が挙がるものの1つにデザイナーがある。

かれこれ8年ほどの付き合いになる筆者の知人は、まさにワガママだろうが何だろうが腕で黙らせるタイプ。

パトカーなどのサイレンの音が1日に何回も聞こえると、それだけで「仕事にならない」と言い出すほど神経質で、そのせいで何度もオフィスを引っ越している。働く環境に極めてうるさいお方である。

 

午前中と午後5時以降は電話に出ない、低気圧の日は頭痛がするので仕事をしない、修正は基本受け付けない――。これらのほかにもありとあらゆる縛りがあり、それを許容するクライアントとだけ付き合うという不動のポリシーを持っている。

 

でも、頼むしかない。

だってこの人の代わりは、世界のどこにもいないのだから――。

と、さすがにこのレベルを要求するのは無茶だが、少なくともフリーで生きていき、ワガママを言いたいのなら相手を納得させられるだけの何かを持つ必要がある。

 

そうではなく、己のスキルが一般的な水準なのであれば、締め切りを守る、ギャラに見合うだけの仕事をするといったフリーランスが当然守るべきことをおろそかにしてはならない。

要するに、それらがノマドワークでも満たせるならどこに行こうが問題ない。そうでないのならまず基本から、ということを言いたいのだ。

海外で新規案件を取れるかどうかも考慮ポイント

さて、ここまでフリーランスやノマドワーカーについていろいろと書いてきた筆者だが、じつは自分自身は完全なフリーランスではない。。

本業の業務をこなしつつ、副業として3~4ジャンルの仕事を請け負う身である。

 

自分にとって、もっともフリーランスの仕事に集中できる場所は、近くのおしゃれなカフェでもなく、貸オフィスでもなく、本業のオフィスだ。

どういうことかというと、職場で就業時間中に堂々と副業をやり、土日も誰もいないオフィスで書き物や翻訳、オンラインでのプレゼンなどをするのである。

 

中国は他人に無関心な社会だが、自分の今の勤め先はとくにその傾向が顕著で、やることさえやっておけば、あとはまったく干渉されない。

むろん家でやってもいいのだが、やはりオフィスのほうが集中できる。つい横になってくつろいでしまうといったおそれがないからだ。

フリーランス歴もそれなりにあるほうなので、やれと言われれば路上であっても原稿を書ける自信はあるが、自分にとって快適な環境を選べるなら、それに越したことはない。

筆者の場合、それが本業の職場だったというだけの話だ。

 

これをノマドと言えるかどうかはわからないが、一応フリーランス分の稼ぎだけでも、海外でギリギリ食っていけている。

そんなふうに日々仕事をしていて直面するのは、どうしても日本でないと手に入らない資料があることと、新たに営業をかけにくいという問題だ。

 

前者はどうしようもないので日本在住の知人・友人に頼むしかないが、より難しいのは海外にいると新規の取引先の開拓に限界がある点だ。

IT技術者などであればまた話は違うだろうが、ライターの仕事ではやはり人の縁が物を言う部分がある。

 

日本国内で仕事をする場合も、フリーランスとなったことで会社勤めのときには感じなかった問題が生じることもある。これからノマドワーカー、もしくはフリーランスを志す方は、まずはしっかりと仕事のメドを立ててほしい。そして食っていけるだけの受注を確保したうえで、国を飛び出していただきたいと切に思う。

 

……と、ここまでいろいろ厳しいことを書いてしまったが、筆者は皆さまのチャレンジを止めるつもりは毛頭ない。ぜひフリーランス・ノマドという働き方に挑戦してほしいし、それどころかどしどし日本を脱出していただきたいと願っている。

自分はアジアしか知らないが、やはり国外に出なければわからないことはたくさんある。

 

日本の仕事の締め切りを抱えたまま旅に出て、タクラマカン砂漠・タリム川のほとりで週刊誌のしょうもないゴシップ原稿書き。

はたまた飛行機がディレイになり、あてがわれた安宿で徹夜の企画書作りをしているときなど、日本にいたらこの趣は味わえなかっただろうなと、物思いにふけってしまう。

 

人生は一度きり、やりたいことをやるのが本当の生き方というものだ。

ただし、ノマドで本当に食っていけるか、それ以前にそもそも自分の持つスキルはフリーランスで活かせるのかどうか、決断を下す前にしっかり考えてみてほしい。

 

会社はあなたを縛るものであると同時に、バリアでもある。

いつでも誰かが助けてくれるとは限らない。

熱意とともにクレバーさも備え、自由を追求していただきたい。

 

執筆

御堂筋あかり

スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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