河野太郎デジタル大臣は、令和6年秋を目途に現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」に切り替える方針を表明した。
マイナ保険証では、マイナンバーカードに搭載された ICチップ内の電子証明書を利用し、医療保険に関する資格情報をオンラインで確認することができる。
転職などで新たな保険証が届いていない期間に医療機関や薬局を訪れても、オンライン資格確認により健康保険を利用できるので安心だ。
診療情報や薬剤情報の閲覧ができるのも便利なポイント。過去に受診した医療機関や診療実績から、診察時のコミュニケーションがスムーズにおこなえたり、MRI などの検査重複を抑止できたりと、安全で質の高い医療の提供が可能となる。
なお、2022年11月現在、放射線治療、画像診断、病理診断、人工腎臓や持続緩徐式血液濾過の処置に関する情報などが、オンライン資格確認により閲覧できる。*1
令和5年には、電子処方箋が開始されたり *2、移植や輸血を含む手術の情報も追加されたりと *3、さらなる充実が図られる予定だ。
こうしてオンライン資格確認を活用し、医療データを有機的につなげることで、より正確で効率的・効果的な医療・介護サービスが提供できると期待されている。
日本におけるDX に、マイナンバーカードは密接にかかわっている。
少子高齢化が急速にすすむ日本において、健康寿命を延ばすことは重要課題の1つ。健康長寿をかなえるためにも「データヘルス改革」推進は今後も続くだろう。
処方箋には期限がある
先日、眼科を受診した際に、処方された目薬をもらい損ねた。
もらい損ねたというより、薬局の閉店時間ギリギリだったため、後日に回したというのが正確なところだが。
ところで最近は、ドラッグストアだけでなく、一部のコンビニエンスストアでも薬を取り扱うようになった。私が知る限り、ローソンとファミリーマートの一部店舗で薬局が併設されている。
コンビニエンスストア内にある薬局で購入できる薬は、一般医薬品に限らず、医療用医薬品(処方薬)も含まれる。
同じ薬なのに何が違うのかというと、医療用医薬品は医師からの処方箋が必要であるのに対し、一般医薬品はその必要がないという違いだ。
ちなみに一般医薬品は、副作用のリスクの程度に応じて、第一類・第二類・第三類に分類されている。
たとえば、副作用のリスクが高いとされる第一類には、胃腸薬で有名なガスター10や、解熱鎮痛剤のロキソニン、発毛剤の代名詞リアップなどがある。
第二類には、バファリンなどの解熱鎮痛剤に加え、ルルやパブロンといった風邪薬、正露丸が該当する。意外なところでは、妊娠検査薬やバルサン(ゴキブリ駆除薬)もここに分類されるのだ。
第三類は、ビタミン剤やサロンパス、アリナミン、ユンケル黄帝液など、身近な商品が当てはまる。
そして処方薬と第一類医薬品については、薬剤師から説明を受けなければ購入できない決まりになっている。
そのため、24時間営業のコンビニエンスストアやドラッグストアであっても、薬剤師がいる時間でなければ処方薬や第一類の薬を買うことはできない。
さらに厄介なことに、処方箋には期限がある。発行日を含む4日が有効期限のため、土日祝日関係なく4日以内に受け取らなければならない。
よって、期限内に薬局へ行かなければ、その処方箋はただの紙くずと化すのだ。
……そしてここで、先ほどの「目薬をもらい損ねた」という話に戻る。
処方箋をもらった翌日の夕方、某ドラッグストアへ行くと、
「申し訳ありません、うちでは処方箋を扱っていないんです……」
と断られた。
ドラッグストアなのに調剤薬局の機能がないなんて、ひどいじゃないか!
しかしすぐさま、
「この先に別の薬局がありまして、そこなら処方箋を扱っています」
と教えてくれた。
さっそく私は、その薬局へと向かった。
「あー、ごめんなさい。18時までなんですよ」
……5分遅かった模様。
どうやら、薬剤師の勤務シフトが18時までだったらしい。薬剤師もサラリーマンである以上、無駄な残業は避けなければならない。うん、これでいいのだ。
こうして私は、余命2日の処方箋を握りしめて帰宅したのである。
――翌日。こういうときに限って、日中にギッシリと予定が詰まっているもの。薬局へ行こうと思ったころには、すでに日も暮れて真っ暗だった。
(あぁ、今日も間に合わなかった……)
そしてとうとう、余命最終日を迎えた処方箋。今日こそは何が何でも目薬に代えなければならない。処方箋のためにも、無念の死だけは避けなければ――。
なんだかんだで閉店時刻が近づく17時過ぎ、私はとある田舎の駅にいた。このあとすぐに予定があるが、その前になんとかして薬局へ行かなければならない。
キョロキョロと辺りを見渡すと、奇跡的にも薬局を見つけることができた。
それは地元商店街の入口にある、個人薬局だった。
目薬1つを手にするまで
「いらっしゃい」
年配の女性店主が笑顔で出迎えてくれる。店内には同じく高齢の女性が、椅子に座って店主と親し気に話をしていた。
「処方箋、大丈夫ですか?」
念のため確認をすると「もちろん」と言って、店主が手を伸ばしてきた。
(これで処方箋は成仏される。あぁ、よかった……)
ギリギリのところで救われた私は、安堵の表情で処方箋を手渡した。
目薬をもらうまでの間、とくにすることもないので店内をウロウロと物色した。
年季が入った棚には、薄っすらとホコリが積もっている。さらに、壁に貼られた化粧品のポスターは、若かりしころの宮沢りえと鈴木保奈美という、なかなかの年代物である。
これはある意味「地元薬局あるある」かもしれない。
なぜなら店を訪れる客の多くは、最新のコスメや医薬品を期待しているわけではなく、私のように処方薬をもらいに来るか、先客のおばあちゃんのように世間話をするかといった利用方法だからだ。
「駆け込み寺」が徐々に減りつつある現代において、この店は重要な役割を果たしているのかもしれない。これからも、地域のために頑張ってもらいたい――。
そんな勝手な妄想を抱いていたところ、店主が声をかけてきた。
「じゃあまずは、この紙に必要事項を記入してね」
(……え?処方箋を渡してから5分は経っているんだけど)
私が店内を散策していた時間、店主は何をしていたのだろう? 店の奥からは、キーボードを叩く音が聞こえていた。あれはいったい……。
次の予定まで時間がない私は、一瞬、嫌な予感がした。しかしここで慌てても仕方がないので、クリップボードに挟まれた用紙をサラサラと記入すると、素早く店主に返した。
「あら、ゆっくり書けばいいのに」
驚いた表情の彼女に、私は時間がないことを告げようか迷ったが、「焦らせるのは逆効果かもしれない」と、思いとどまった。
その後、カウンターの前に立って店主の様子をうかがった。すると、先ほどの記入用紙を見ながらまたもや何かを入力している。
とても軽快に、ものすごい量の長文を打っているかのようなタイピングである。
(今度こそ、目薬が出てくるのだろうか……)
不安と期待が入り混じった心境で、祈るように彼女のタイピングを見守った。
「えーっと、保険証を見せてもらえるかしら?」
(えええー!!! それ、いまなの?!)
普段利用している薬局ならば、もうこの時点で薬を受け取っているだろう。それなのに私は、保険証を提示する段階にようやくたどり着いたところである。
「なぜ」が脳内を渦巻くが、考えたところで答えは出ない。言われるがままに保険証を見せると、店主は眼鏡を持ち上げながら、処方箋と保険証を交互に見比べている。
(落ち着け、落ち着くんだ私……)
ここから先の記憶は薄い。だがとにかく、この薬局に入ってから店を出るまでに25分以上かかった。
客は私しかいない。つまり、目薬1つで25分かかったのだ。
当然、次の予定には大幅に遅刻することとなった。
マイナ保険証への期待
もしも私が、冒頭で紹介した「マイナ保険証」を持っていて、この薬局がオンライン資格確認をしていれば、ほんの数分で目薬を受け取り、笑顔で店を後にしただろう。
DX の恩恵というのは、思わぬところで享受するものなのかもしれない。
執筆
URABE(ウラベ)
早稲田卒。学生時代は雀荘のアルバイトに精を出しすぎて留年。生業はライターと社労士。ブラジリアン柔術茶帯、クレー射撃元日本代表。
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