2023年6月までに、改正電気通信事業法が施行される予定となっています。
とくに、今回の改正によって新設される Cookie規制については、多くのインターネット事業者が影響を受けますので、新ルールの内容を正しく理解しておきましょう。
本記事では、改正電気通信事業法による変更点と、変更の影響を受ける事業者の範囲などをまとめました。
電気通信事業法とは?
電気通信事業法は、他人の通信を媒介するサービスを提供する事業者に対して、公正な競争を促進するための規制を定めた法律です。
規制の対象となっている「電気通信事業」は、電気通信を媒介する設備を独立した事業として設置・提供する事業をいいます。たとえば、以下に挙げるようなサービスが電気通信事業に当たります。
・電話転送
・フリーメール
・メーリングリスト
・決済代行
・インターネット通信
・クローズドチャット
・MVNO
・ポータルサイト
・SNS
など
改正電気通信事業法による変更点|Cookie規制の新設
今回の電気通信事業法改正において、もっとも幅広い事業者に影響を及ぼすと思われるのが「Cookie規制」の新設です。
Cookie規制の適用を受ける事業者は、利用者に対して「情報送信指令通信※」をおこなう場合、省令で定める事項を利用者に通知するか、または利用者の知り得る状態に置かなければなりません(改正電気通信事業法27条の12)。
※情報送信指令通信:利用者情報を、利用者のPCやスマートフォンなどから他人に送信すべき旨を指示する通信
Webサイトにおいて Cookie を利用している場合、事業者側のサーバーから利用者の端末に対して、Cookie情報を送信すべき旨の指示がおこなわれます。この指示は「情報送信指令通信」に該当するため、事業者には利用者への通知等が義務付けられます。
最近では、Cookie の利用に関する表示をおこなうWebサイトが増えました。これは、おもに EU圏で適用されている GDPR(EU一般データ保護規則)の影響によるものです。
電気通信事業法の改正により、日本の国内法においても Cookie規制が明文化されることになります。
改正電気通信事業法における Cookie規制の適用を受けるのは、電気通信事業者等のうち、事業の内容・利用者の範囲・利用状況を勘案して、利用者の利益に及ぼす影響が大きいものです。
対象となる電気通信事業者等の具体的な範囲・要件は、今後整備される省令で示される予定です。記事執筆時点での省令案では、PV数やダウンロード数にかかわらず、不特定の利用者向けに情報送信をおこなうサービスなどが対象とされています。
(例)
・ニュース配信
・気象情報配信
・動画配信
・地図等の各種情報のオンライン提供
など
改正電気通信事業法による変更点|届出制の対象が拡大
今回の電気通信事業法改正により、大規模な検索サービスや SNS を運営する事業者が、新たに届出義務の対象となります。
「電気通信事業」に当たるか否かにかかわらず、検索サービスや SNS(クローズドチャット機能などを備えるものを除く)の運営事業者は、これまで電気通信事業法に基づく届出義務の対象外とされていました。自ら電気通信回線設備を設置せず、かつ他人間の通信を媒介しないものとして、電気通信事業法が適用されなかったためです(同法164条1項3号)。
しかし改正電気通信事業法164条1項3号では、検索サービスと SNS の一部が適用除外の対象から除かれ、新たに電気通信事業法に基づく届出が義務付けられます。
新たに届出義務の対象となるのは、「検索情報電気通信役務」または「媒介相当電気通信役務」を提供する事業者です。
検索情報電気通信役務とは
「検索情報電気通信役務」とは、検索サービスのうち、利用者の範囲・利用状況を勘案して、利用者の利益に及ぼす影響が大きいものを意味します。
幅広い人に利用されている検索サービス(Googleなど)がおもに想定されますが、具体的な検索サービスの範囲・要件については、今後整備される省令によって明示される予定です。
記事執筆時点での省令案では、前年度における平均利用者数が1か月当たり1,000万人以上の検索サービスが対象とされています。
媒介相当電気通信役務とは
「媒介相当電気通信役務」とは、SNS のうち、利用者の範囲・利用状況を勘案して、利用者の利益に及ぼす影響が大きいものを意味します。
幅広い人に利用されている SNS(Instagram、Twitter、Facebookなど)がおもに想定されますが、こちらも検索サービスと同様に、今後整備される省令によって範囲・要件が明確化される予定です。
記事執筆時点での省令案では、前年度における平均利用者数が1か月当たり1,000万人以上の SNS が対象とされています。
改正電気通信事業法による変更点|特定利用者情報の取り扱い
一部の電気通信事業者に対しては、今回の電気通信事業法改正により、「特定利用者情報」の取り扱いに関する以下の義務が課されます。
(a)情報取扱規程の整備・届出(改正電気通信事業法27条の6)
(b)情報取扱方針の策定・公表(同法27条の8)
(c)特定利用者情報の取扱いに関する自己評価の実施(同法27条の9)
(d)特定利用者情報統括管理者の選任・届出(同法27条の10)
(e)特定利用者情報の漏えい時の報告(同法28条1項2号ロ)
「特定利用者情報」に当たるのは、以下の情報です。
※(ii)、(iii)については、記事執筆時点での省令案によります。
(i)通信の秘密に関する情報
(ii)特定の利用者を識別できる情報を、検索できるようにデータベース化したもの
(iii)(ii)のほか、一定の規則に従って利用者情報を整理し、特定の利用者を識別できる情報を容易に検索できるようにした情報の集合物であって、目次・索引などを有するもの
特定利用者情報を適正に取り扱うべき電気通信事業者は、今後整備される省令の要件に該当する事業者の中から、総務大臣が告示によって指定する予定です。
記事執筆時点での省令案では、前年度における平均利用者数が1か月当たり1,000万人以上の無料サービスと、前年度における平均利用者数が1か月当たり500万人以上の有料サービスを提供する電気通信事業者が対象とされています。
改正電気通信事業法によるその他の変更点
改正電気通信事業法にはそのほかにも、以下の制度・義務を新設する規定が盛り込まれています。
(1)不採算地域におけるブロードバンドサービスの安定供給を確保することを目的とした交付金制度・負担金制度(同法7条2号、110条の4、110条の5)
(2)携帯大手3社・NTT東日本・NTT西日本の設備を用いた「卸役務」の料金が高止まりしている状況を改善することを目的とした、卸役務の提供義務・料金算定方法などの情報提供義務(同法38条の2)
まとめ
今回の改正電気通信事業法には、Cookie規制をはじめとして、多くのインターネット事業者に影響を与えうる内容が定められています。改正法は、2023年6月までに施行される予定です。
各事業者は、電気通信事業法の新たなルールを正しく理解し、自社に適用があるのかどうかを確認したうえで、適切な対応をご検討ください。