DX や IT技術でビジネスをする時代に僕らは手帳に何を書けばよいのか?

スケジュールアプリと手帳のカレンダーに同じ内容を書いていませんか?

先日、たまたま同僚の手帳を見る機会があって、そこに書かれていたことに驚いた。拍子抜けした。脱力した。スケジュール管理を目的に、手帳とスマホの両方のカレンダーに、まったく同じ内容が記載されていたのだ。

 

手帳とスマホのスケジュールアプリの両方に、

「1月10日11時 A社 B氏と商談」

と書きこんでいたのだ。一字一句同じように。

 

衝撃を受けた勢いで、ほかの同僚にも確認してみた。全員がスマホと手帳を所有しており、多くが同様の使い方をしていた。手帳かスマホのいずれかをおもに使っているなどの差異があったくらいだ。

 

はっきりいって無駄である。労力がもったいない。仕事ができる同僚や、業務の効率化に手腕を発揮している同僚までも、このような非効率な使い方をしていた。わざわざ手帳を使うのなら、特性を活かしてほかのツールと異なる使い方をしたほうがよいのでは?

手書きの手帳は仕事できる感を醸し出すためにあるのではない

DX や IT を活用したビジネスツールが普及している今、手書きの手帳は何のためにあるのだろう? そのことについて考えてみたい。

 

スケジュールやタスク管理はスマホと連動したアプリを使ったほうが、手帳よりも圧倒的に便利だ。正確に情報が入力されてさえいれば、何年先でも、持ち主の生死にかかわらずプッシュ通知で知らせてくれる。

 

その点でいえば、手帳は自分の意志でその月のカレンダーを確認しにいかなければならない。手帳は1年で新調されるので、いちいち書き換えるのも面倒である。また、殴り書きしたために判読できない、という事態も起こりうる。普段身に付けているスマホのほうが、携帯性からみてもスケジュール管理には向いている。スマホを新調してもスケジュールは引き継げる。

 

一方で、手帳が滅びる兆候は見えない。流行り廃りの早い昨今でも安定した人気だ。年末になれば、書店や文具店には、来年の手帳が並ぶ。バリエーションは豊富になるばかりで、手帳を活用するグッズ、ペンやシールの類も充実している。手帳術について書かれた書籍もビジネス本コーナーに何種類もあり、ベストセラーを記録し、新刊も出版され続けている。

 

手帳は滅びない。なぜか。これは僕の考えなので、賛同する必要もなく聞き流してくれればいいのだけれど、手帳が滅びないのは、仕事をしている感がプロデュースされるからではないだろうか。

 

周りを観察してみてほしい。打ち合わせや会議に参加する上司や同僚は、ノートPC やスマホに加えて手帳を会議室に持ち込んでいる。データや資料を参照するのはノートPC やスマホで、メモを書き込むのも同様。手帳を使わない人の多さに驚くはずだ。この現象は手帳があると仕事をしている感があふれ出てくるからという理由でないと説明できない。

「予定やスケジュールを書かない」という使い方

手帳は、仕事をしている感を醸し出すためのもの。まずはこれをやめることからはじめてはどうだろうか。簡単だ。手帳の使い方を、180度変えればよい。スケジュールやタスク管理はスマホを利用したほうが効果的である。手帳とスマホ両方でスケジュール管理をするのは二重になるので無駄だ。

 

それならば、思い切って手帳でのスケジュールとタスク管理をやめてしまおう。では、手帳には何を記すのか。常に持ち歩いている特性を活かして、生の情報を記入するのだ。ひとことで言ってしまえば、事前の予定ではなく、プロジェクトやタスクが終わった事後の変化と気付きを記すのである。

 

具体例として、僕が仕事で使っている手帳の活用法を挙げてみる。僕は営業職だ。スマホはポケットに入れ、手帳はカバンに入れて持ち歩いている。両者を完全に使い分けている。スケジュールとタスクはスマホで管理をして、手帳は商談を進めていく際のヒント収拾ツールにしている。

 

商談を進めていく際に必要なのは、顧客自身が把握していない問題点やニーズを見つけること。そして、良い質問をしてそれらを顧客から引き出すことである。残念ながら、顧客が精確に現状を分析して、「私が求めているのはこれです。問題はアレです」と教えてくれることはない。

 

商談中に示されるヒントから、ニーズや課題を抽出して、成約までの道のりを仮定する。そして、次の機会の商談を考えながら、一歩一歩進めていく。技術職でも同じ。プログラマーやエンジニアなら、うまくいかなかった場合に、トラブルや故障から得られるヒントをもとに仮説を立て、改善につなげていくはず。営業と同じである。

営業歴25年超、僕の手帳活用法

手帳を活用するのは商談を終えた直後になる。商談の内容が鮮明に記憶に残っているタイミングが手帳を使う時間になる。僕が手帳に書いているのは、以下の事項である。

 

「いつどこで誰と」といった前提条件。商談後のインプレッション。事前に設定したチェック項目の進捗。商談時の天候、相手の様子・表情、雑談中に出た話題、質問に対する反応などである。

 

顧客情報は、顧客管理ソフトで管理しているので手帳には記載しない。手帳に書き記すのは、商談直後の生の情報。ビジネスツールに入力する情報は、整理された情報になってしまう。上司や同僚のチェックが入るから、精査されるのは仕方がない。たとえばそこに「顧客担当者の鼻毛が出ていた」なんて記入したら「ふざけているのか」と怒られる対象になるだろう。だが、手帳は完全に自分の世界だ。顧客の鼻毛について書いてもまったく問題がない。

 

たとえがくだらなくて申し訳ない。だが、じつは、この鼻毛出てます的な情報が大切なのだ。上に挙げた、僕が手帳に書いている項目のなかで、もっとも重視しているのは、雑談中に出た話題である。そこには商談中の、いわゆるビジネスライクな会話からは得られないヒントがある。いいかえれば、一見すると仕事に直結しないような話題の中に、貴重なヒントや情報の欠片が含まれている。それらはあやふやで脆弱な情報だ。姿があらわれたときに手帳に書き記さなければ消えて行ってしまう。

何気ない一言にヒントがある

以前、社員食堂の営業をやっていたとき、次のような出来事があった。顧客との商談を終えたあと、別れの挨拶をしているとき、前後の文脈から飛躍して、「病気はこわいよね、お互い気を付けましょう」というひとことが担当者から出た。そのとき僕は、何かひっかかるものを感じて手帳に「病気」と書き込んだ。もちろん情報としては不確定なので、顧客管理ソフトやその他ビジネスツールには入力はしなかった。手帳にしか存在しない生の情報だ。

 

数か月後、次の商談に臨む前に、手帳に前回の商談直後に記述した事項を確認した。病気がインプットされた。ビジネス的な話のあとで、「前回病気の話が出ましたけれど、何かあったんですか?」と訊ねてみた。すると相手は「そんなこと言いましたっけ。よく覚えていますね」と言って、じつは…プライベートな事項なのでトップシークレットにしてください…と念を入れてから、現在雇用している調理責任者の体調が思わしくないこと、社員食堂運営の不安になっていること、を打ち明けてくれたのだ。

 

その後、数回の商談で、社員食堂の安定運営と厨房スタッフの労務軽減をキーワードに話をすすめて、その企業と契約を結ぶことができた。もし、雑談の中から出てきたキーワードを手帳に記していなかったら、切り崩し方を見つけられなかったかもしれない。契約を結べたかわからない。営業において、競合他社がもっていない情報は、ありふれた商談の中ではなく、どうでもよい雑談の中にあることが多い、その一例である。そして、それらは情報としては弱いために、印象に残っているうちに手帳に書き記さないかぎりものにできない。

 

そのほかに、手帳に書くべき情報は人それぞれだと思われるが、僕はこういう雑談から得られる何気ない、そして使えるかどうかわからない情報を書き記している。仕事モードになっていれば、仕事に直結する情報は逃さない。逃してしまうのは仕事に直結しないようにみえる情報である。それをものにできるかどうか、ヒントを見いだせるかどうかが大きいと僕は考えている。

 

もちろん、例に出した鼻毛や病気のようなレア情報は、ただ雑然と手帳に書き記していては、使いにくい。紛失する可能性大だ。書き記す際にはあとで使うことを想定した工夫をしてもらいたい。

僕はこう使っている

僕が使っている手帳は、最初にマンスリーのカレンダーが1年分、それから1週ごとが見開きになっているごくありふれたタイプ(左が週カレンダーで右がノート)だ。基本的に手帳は予定ではなく、すでに終わったことを書くツールになっている。だから、今日以降のカレンダーは原則白紙である(例外はある)。

 

まずマンスリーのカレンダーに案件と所要時間を書き込む。

 

例:「Ç社商談10~11時」。

 

そして、そこに日付と顧客管理ナンバーを入れる。Ç社の顧客ナンバーが1なら、20230110ー1となる。商談後の情報は週ごとのページに書き入れる。先ほどのナンバーを記載して、商談後のインプレッション。事前に設定したチェック項目の進捗。商談時の天候、相手の様子、雑談中に出た話題、質問に対する反応などを記入する。

 

もっとも大事なのは、商談中の雑談中に感じた違和感や気づきで、それを残さず書いておく。担当者の鼻毛が出ていた情報も気になったら書く。違和感や気づきといった感覚を第一にして情報を精査しないようにする。よくいわれる、潜在的ニーズの発掘、質問力の向上は、いかに広く情報を拾えるかにかかっている。どうでもいい事項を、直感的に、好きなように書き留められるうえに、手帳ならカレンダーで情報の時系列も掴みやすい。

 

手帳にかぎらず、道具というのは用途を限定することで自由になり、使いやすくなることがある。手帳も1年に1冊と決めつけずに自由に使えばよい。僕はここに挙げた使い方をしているので、年に数冊の手帳を使い潰している。手帳はタスクをこなしたあとの情報ツールと割り切っていて、予定やスケジュール管理をしていないので、それが出来る。DX や ITツールといったスタンダードになるビジネスツールを活用しながら、そこから漏れてしまいがちな情報を収集するツールとして、手帳を見直してみてはどうだろうか。

 

もちろん、これらは僕がそう思うというだけであって、各々自分なりに考えて使えばよい。得意先のいやな奴の悪口を書き連ねて、デス・ノートにしてもらっても全然よい。その自由さが手帳の最大のストロングポイントなのだから。以上。