営業DXの障壁「失注」を減らせ!「1人社長」が試した全施策

DXを強いられた、コロナ禍における営業活動

「オンラインでの営業活動は、対面より4倍失注しやすい」

これは、筆者が営業活動をした上での体感である。

 

もともと、営業は失注も見込んでする業務だ。お問い合わせまで至っても、サービス内容やお見積り、そして担当者の至らない面があれば顧客はすぐに去ってしまう。この「去ってしまう比率=失注率」をいかに下げるかが営業の見せ所である。

 

とはいえ、無理に案件を受注してもいけない。とうてい実現できないサービスを「うちならできます!」とうそぶいて、あとから制作チームに迷惑をかけるなどというのも、”できない営業あるある”だからだ。自社のできる範囲で、最大限貢献をする。もし自社でできないことをご依頼いただいた場合は、たとえ他社サービスであっても紹介し、顧客との信頼関係を作る。そうすれば「あのとき、親切にしてもらえたから」と、必要な場面で顧客は戻ってきてくれる。

 

そんなポリシーで、私はやってきた。だが、そんな悠長なことを言っていられない事態が、コロナ禍でやってきた。打ち合わせをいくら重ねても、失注してしまうのだ。

 

最初は、自分の営業スキルが問題だと思った。私はもともとマーケティング畑出身で、外部とのやりとりが少ない業務を経験してきた。そこから「1人社長」として独立したとはいえ、営業のプロにはかなわない。営業の教科書とも言える『ザ・モデル』『BCG流戦略営業』を熟読しつつも、手探りでここまで進んできた。

 

――いくら営業初心者だからといっても、いくらなんでも失注しすぎじゃないか?

 

と、思わされたのは2020年。既存案件も次々と畳まれていった、苦しい時期だった。そこで、もしかして、オンライン営業は対面に比べ、かなりハンデがあるのではないか? と思い至った。調べて見ると、出るわ出るわ、似たような苦悩の数々。みんな同じ悩みを、抱えていたのだった。

営業DXは可能か? オンライン商談と対面商談の違い

そもそも、DXにさらされた営業は従来と何が違うのか。まずは、オンライン営業と対面営業の違いをリストアップしてみよう。

  • 相手が「よそ事」に走りやすい
    オンラインなら画面外でメールを返したり、実務作業をしたりしながら打ち合わせできる。そのため、集中力が通常の対面営業よりも削がれやすい。
  • サービスの説明がわかりづらい
    オンラインでは身振り手振りの範囲が限られるため、サービスを伝えづらい。とくに実際に「モノ」がある製品では、このハンデを背負いやすい。
  • クライアントからの信頼を得づらい
    対面重視のクライアントの場合、オンライン商談では「なんとなく信頼できない」と思われやすく、結果として最後の契約まで結びつかない。
  • 余計な時間を取られやすい
    相手方の接続不良に伴うタイムロスなど、思わぬところで時間が奪われやすい。こういった時間のロスは「いらだち、不信感」を不用意に招いてしまう。

もちろん、オンライン営業には商談前後の移動時間が減ったり、人手不足をカバーしたりできるメリットはある。ただ、そのメリットはどれも「サービス提供側」が抱くものだ。営業を受ける側からすると、オンライン化にあまりメリットはないのである。

 

かくして、営業DXは売り込む側にとって不利な状況を作っていた。

営業DXへの挑戦―オンライン営業の失注率を下げるために試したこと

では、どうするか。当時はコロナ禍真っ盛りで、残念ながら「無理やり対面営業をする」手段は取れなかった。リモートワーク(在宅勤務)の社員も増えているなかで、そんな強硬策を取っても相手へ負担がかかるだけだ。

 

そこで、私は1人社長なりにありとあらゆる手を打ってみた。

営業中は原則「お互いに」カメラオン

まず、営業中はお互いにカメラオンを徹底した。相手に少しでも「よそ事」をさせないためである。こう書くと口調もキツすぎるが、私も営業を「受ける側」になって、カメラオンのほうが圧倒的に集中して、相手の話を聞けたからだ。

発声の速度を「相手の世代に合わせて」変える

続いて、発声速度を変えた。私はもともとひどい早口だが、対面営業では意図して速度を落とし、一般的なスピードで話していた。それを、オンラインでは「相手によって変えた」のだ。

具体的には、相手の年齢層が若ければ若いほど早口に、上であればあるほどスローダウンした。若手のほうが YouTube や TikTok の早口に慣れているから、早いほうが心地いいはず……という、オンラインでの経験差から立てた仮説だ。

1分1スライドで切り替える

対面ではスライド資料を印刷し、じっくりと書き込んだ資料に基づいてお話させていただくことが多かった。しかし、オンラインでそれをやると退屈になってしまう。そこでスライド資料をすべて作り直し、1分1スライドで推移するよう、場面転換の多い資料を作った。こうすることで相手に視覚情報が次々と現れ、飽きさせない仕組みを考えたのだ。

細かくお客さまの話を伺う

対面の打ち合わせでは、顧客の社員さんも多数参加していただくケースが多い。そうなると、個々の社員さんが抱える悩みをヒアリングしづらいデメリットがある。オンラインでは少数参加の会議が増えるため、逆に参加者ごとの悩みを聞き出しやすい。

そこで、オンライン会議ではくわしく現場の悩みを聞き出して、その解決策を提案することに特化した。たとえば「当日会議には参加していない、決済者を説得する資料が不足している」といった悩みが聞かれたなら、決済者向けの資料作りを二人三脚でサポートした。

初回面談30分を目指す

続いて、打ち合わせ時間を半減させた。対面商談では、たいてい1時間を目安にお話を伺っていたが、これを30分にした。会議で1時間を設定されると、それだけで「うっ」と感じてしまう顧客がいるためだ。それに対して30分の時間設定は、心理的ハードルを下げる。そのため、打ち合わせ以前での失注を防げると考えたのだ。

アフターメールでフォローする

面談後は素早くアフターメールをお送りした。これだけなら従来の対面打ち合わせと変わらないが、とくにオンラインでは打ち合わせ中の議事録を送ることで、齟齬を防いだ。

オンラインの打ち合わせでは「なんとなく会議して、そのまま話が流れて失注」という結末へ至りやすい。そこで議事録には「次回○日までにご依頼の可否を決める」といった、失注・発注の分岐点になる期日を入れることで、決断を促した。

営業DXは可能か?失注率の改善結果

では、ここまで努力してみて失注率はどこまで削減できたか。結論から申し上げると、失注率は半減した。とくに、「カメラをオンにする」行為が一番効いた。我々は結局のところ、気が散る商談でGOサインを出すことはできないのである。

 

さらに、スライドを次々と切り替える戦略も功を奏した。カメラオンにしながら相手の目線を追っていくと、1分1枚で切り替えるスライドは、相手の目線を奪うことに成功したのだ。また、簡潔な質疑応答の時間もたっぷり取れることから、顧客満足度アップに直結した。じっくりと書き込んだ丁寧なスライドは、オンライン会議であまり意味をなさなかったのである。

営業DXのそれでも残る課題

それでも、オンライン営業は「対面信仰」を崩すほどではない。失注率半減まで持っていけたとはいえ、結局「熱意」や「感情」を伝えるには、対面の空気が圧倒的に有利だ。いくらカメラオンをお願いしても、無理とおっしゃる顧客に強いることはできないし、場のコントロールは難しい。

 

コロナ禍で、営業をオンライン化するためのツールが一気に増えた。ただ、簡単に「営業をDX」と喧伝することはできても、実際のところ対面に勝るものではない。それでもオフィス削減、フリーアドレス化の流れを汲めば、営業をオンライン化せざるを得ない面が出てくるだろう。その世界で生き残るためにも、営業はあらゆる手段を使って、あらがっていくしかないのだ。