サッカーW杯日本代表の勝利と敗北が仕事の参考になりすぎる

日本代表チームの予想外の快進撃にブラボー!

サッカーW杯カタール大会の日本代表チームの戦いぶりが称賛されている。ドイツ、スペインという優勝経験国と同じグループに入り、早期敗退の可能性が高いと予想されるなか、予想を裏切って、両国に逆転勝利しての決勝トーナメント進出だから、盛り上がるのも無理はない。テレビ番組やネットでは「ブラボー」「三苫選手の折り返し」「森保ノート」などで大騒ぎである。

 

残念ながら、決勝トーナメント1回戦でクロアチアに敗れて16強止まりとなったが、この原稿を書いている時点(2022年12月13日)で、ほぼ取り上げられることのなかった選手たちが朝のワイドショーにゲスト出演するなど、大盛り上がりの最中である。ヨーロッパの戦争や統一教会問題や値上げ一辺倒な暗い世の中で、数少ない明るい話題だからだ。盛り上がるな! というほうが野暮である。同様に、日本代表チームの戦いからビジネスや仕事に活かせるものはないかと考えるのも野暮であることは否定できないが、野暮を承知のうえで考えてみたいと思う。

「圧倒的不利」の下馬評は僕ら自身が作っている

ドイツとスペインは、それぞれ2014、2010年大会というわりと近い大会の優勝国である。両国と同じグループに入ったことで、勝ち抜けは絶望的と予想され、大会前の盛り上がりには欠けていたように思う。誰だってサッカー超大国に勝てるとは思ってはいなかったはずだ。1国でも厳しいのに2国だ。マラドーナが活躍していた80年代からサッカーは観ているけれども、サッカー大国はグループリーグを調整段階として、決勝トーナメントに合わせて調子をあげてくる傾向がある。また、どれほどの強豪チームであれ、初戦の戦い方は難しいので、初戦ドイツ戦で「うまくいけば」勝ち点1は取れるかもしれない、という淡い希望はもっていた。可能性は30%くらいだ。

 

反省すべきは、「サッカー大国はやばいくらいに強い」というイメージに縛られ、思考停止してしまったことだ。思考停止からは何も生まれないのだ。

 

仕事においてもよくある現象だ。たとえば、案件について、競合相手が業界最大手だったり、類似案件の実績が十分だったりしたときなど、僕らは戦前から「これは勝てない…」となかば思考停止して諦めムードになってしまいがちだ。「コンペに参加すること自体に意義がある」「負け試合からしか学べないこともある」というポジティブなのかネガティブなのかわからない言葉が口をついて出てしまう。それに対して、実績十分の競合大手は、相手に「これは勝てない…」と思わせることで案件を勝ち取っているともいえる。少年漫画で主人公が最終決戦に臨む際に、ラスボスの「俺は強いぜ」オーラで圧倒されるシーンみたいなものだ。

 

実績や経験は大きなファクターだ。間違いない。事実、それらでコンペの勝敗が決まることも多い。仕事においては、実績や経験のある会社のほうが顧客に対して素晴らしい提案が出せる確率は高く、それを実行できる能力があることも受注実績が証明している。有利なのは間違いない。その一方で、実績や経験が過去のものであることも事実である。相手をリスペクトするのは大事だが、過大評価することはない。大切なのは、現状を精確に分析し、自軍の戦力で出来ることを提案に落とし込むこと。それさえできれば、良い戦いが出来る。カタール大会の日本代表チームのように。

 

想像になるが日本代表チームのスタッフは、おそらくドイツやスペインをかなり分析していたのだろう。そして現状で出来ることをグラウンドで再現した。そのうえ運に恵まれて勝利を手にすることができた。マスコミはすぐに奇跡という言葉を使うけれども、奇跡なんてものはない。ドイツとスペイン、2回の奇跡は起きない。思考停止せずに冷静な分析が生んだ結果だ。

 

仕事においても、先入観に縛られず、思考停止せず、自分のストロングポイントを最大限に活かせれば、良い結果に繋がる可能性は高まる。日本代表チームは、僕らが圧倒的不利な状況を前に陥りがちな「勝てないムード」で投げやりな仕事をすることに対して、異を唱えてくれた気がしてならない。

”やりたい仕事”ではなく”相手が望む仕事”をする

日本代表の対戦相手であるドイツとスペインの戦いぶりを観て思ったのは、相手に脅威を与える攻撃をおこなえているかどうかが、勝敗をわけるということだ。サッカーはボールゲームなので、長い時間ボールを保持している側のほうが有利、あるいは勝率が高いと思われがちだ。スター選手が披露する華麗なドリブルやパス回しには魅了される。

 

サッカーの勝敗はボールの保持では決まらない。相手より1点でも多く取ったチームが勝つのがサッカーだ。対日本戦で、ドイツとスペインは8割のボール支配率を記録したが敗れた。ボールを華麗に回して保持したが、残念ながらゴールに直結していなかった。ゴールゲッターがいないので怖さがなかったのだ。おじさんなので昔話になってしまうけれど、かつての強かったドイツにはゴールゲッターがいた。クリンスマンやクローゼといったザ・センターフォワードだ。

 

サッカーにおけるこのような現象を、強引に仕事へ置き換えてみると、華麗なプレゼンや提案が必ずしも成約に結びつかないケースと似ている。長年営業という仕事をやってきて、しくじってきた案件を顧みると、自分(たち)がやりたい仕事、やれる仕事を全面的に押し出した提案をしているケースが多い。たとえば新商品が発売されるタイミング、業績が絶好調でノリノリで提案を推し進めているとき、などだ。そのようなときに自分たちが”やりたい仕事”をしてしまって、相手のニーズをないがしろにしてしまいがちだ。提案や商品は相手のニーズから外れたものになる。結果は今大会のドイツ代表レベルに悲惨なものであった。

 

営業という仕事においては、サッカーでゴールを決めるのと同様に、相手のニーズを的確につかんで相応の商品や提案をしなければ、成約は覚束ない。自分たちのやりたい仕事ではなく”相手が望む仕事”をしなければならない。自己満足ではなく、相手の急所を突くシュートを放つイメージをもって相手が望んでいる提案やサービスを考えていきたいものだ。自己満足な仕事はやめよう。

最大の敵は油断と過小評価

グループリーグ1戦目と3戦目でドイツ、スペインを破った日本代表は、2戦目のコスタリカに敗れ、決勝トーナメント1回戦でPK戦の末、クロアチアに敗れて16強でカタールを去っている(PK戦は引き分け扱いだが)。戦後のクロアチアの快進撃もあって、その強敵相手に対してのPK戦での惜敗イメージが、過剰な「よくやった感」「俺ら意外とやれる感」に熟成されないことを心から祈るばかりだ。

 

振り返ると、敗れたコスタリカ戦とクロアチア戦前に、「優勝経験国ドイツ、スペイン戦前に比べたら楽な相手」という見方をしていた人は多かったのではないか。とくにコスタリカ戦は、引いて守った相手を崩せなかったという戦術的な問題もさることながら、ドイツ、スペインに比べて…という油断があったように見えた。常識的に考えて、3戦目にスペイン戦を控えた段階でコスタリカには負けても良いという考えにはならない。というよりもコスタリカ戦こそ必勝、不退転の決意で臨まなければならない試合であった。しかし、結果は敗北。コスタリカはドイツよりも格下という油断がなかったとはいえないだろう。

 

またしても強引に仕事に当てはめると、じつに似たような失敗は多い。僕の場合だと、直近では、社内決裁を取るときに、課題の多い案件については準備を入念におこない、社内プレゼンも快心の出来であっさりと通したものの、続いての楽勝で決裁を取れる見込みのあった案件では不備を指摘されて通すことは出来なかったというケースがあった。油断をしていたつもりはないが、難敵に力を入れてしまったために力を抜いてしまったのだ。後日再チャレンジして決裁をもらうことはできたから良いが、取り返しのつかない事態になっていたら…と思うと背筋がカチカチに凍ってしまう。

 

勝てる相手には油断せずに全力で挑んで勝っておく。これは仕事にも通じる教訓だろう。日本相手に余裕をぶっこいていて決勝トーナメント進出できなかったドイツのようにならないようにしよう。

圧倒的な個と組織を融合させる

この原稿は、ワールドカップ決勝トーナメントをテレビ(ネット)観戦しながら書かれたものだ。決勝トーナメントに進出して勝ち進むチームには共通項がある。圧倒的な個か、整備された組織のどちらかがあるか、あるいは両方とも備わっているかだ。チームによって個と組織に重きを置く割合は違う。過去数大会から続けて観戦しているが、サッカー大国ではないダークホース国が勝ち進む際には、守備の組織を整えているケースがほとんどだ。今大会の日本代表もそれに当たる。まずは組織的に守ることを第一にした戦い方だ。ある程度の結果は見込める戦い方である。最低限のノルマを達成する戦法である。

 

またしても、強引に仕事にあてはめてみる。チームで取り組むプロジェクトでは、そのチームをひとつの方針にまとめて共通の目的に向かうことが大事だ。サッカーと何ら変わらない。ある程度の結果も望める。その過程において、過激な意見や奇抜なアイデアという個は、組織を乱すという理屈で排除されがちだ。会社や企業で働いていると、短期的な目標達成=ノルマを課せられる。そのため目標達成を第一に考え、奇抜なアイデアや過激な意見を検討する余裕はない。結果的に個は活かされなくなる。

 

一方で、ワールドカップを勝ち進み準決勝、決勝に進むようなチームは組織的なうえで圧倒的な個が備わっている。アルゼンチンのリオネル・メッシは個の代表だ。アルゼンチンの戦い方は、組織的にハードワークして守り、メッシの圧倒的な攻撃センスに頼るというもの。メッシには守備のタスクは課せられていない(ように見える)。つまり組織的な守備からは外れた存在である。それは圧倒的な個、神の子と称されるメッシだからこそ許される戦い方でもある。

 

神の子とサラリーマンを一緒にするわけではないが、僕らも働いているうちに個を活かさない方向に行きがちである。組織と個のバランスに最適解はないけれども、少々組織を重視しすぎの世の中になっているように感じる。イーロン・マスク氏、スティーブ・ジョブズ氏、ビジネスにおいて圧倒的な成果を出して革命を起こすのは強烈な個性である。僕らは近視眼的になり、直近の目標を達成するために組織的でありすぎている。ナンセンスに見える個性を活かす方向性を検証することも大事だと、ワールドカップ準決勝、アルゼンチン対クロアチアのメッシの神プレーを見ながら思った。

まとめ

以上、サッカーワールドカップは意外と仕事の参考になるという話である。参考になる、といっても仕事を忘れてサッカーワールドカップという一大イベントを楽しみ、日ごろの鬱憤やストレスを消化してから、日々の仕事に従事するのが正しい。最後になるが、職場で「ブラボー!」を使うと変な目で見られるので読者各位の方々はくれぐれも注意していただくようお願い申し上げます。