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計画の見積もりが重要。書評家が選ぶ「仕事に役立った本」

これまでさまざまな書く仕事について語ってきた連載。これから、2回に1回はちょっと趣向を変えて「この本が仕事の役に立った!」という本を紹介していきたい。

というのも最近のわたくし、「会社を辞めたからこそ、ビジネス書を読むようになった」のである。なんだか逆説的なのですが。

大学院から一般企業への就職を決めた時、私にはうっすらとした野望があった。

「これでビジネス書を楽しめるようになるのでは……!?」

と思ったのである。

今なら「ビジネス書」とわかり合える

大学院時代、私がバイトしていた書店は、比較的ビジネス書の売り上げの多い書店だった。個人経営の書店にしては珍しいことではないだろうか。店主がビジネス書を読むのが好きだったからなのだが。しかし私は本好きの例に漏れず、ビジネス書を読まなかった。というか読み方がわからなかった。当然だ。ビジネスしてないから。

しかしビジネス書はほかの書店でもよく売れていた。ベストセラーも多かった。自分は楽しめない本がベストセラーになっている。本好きとしては悔しい。わかりたい。読めるようになりたかった、ビジネス書。そんなわけで一般企業に勤め始めたとき、これで私もビジネス書がわかるようになるのでは!? とひそかに思っていた。

が、わかるようにならなかった。兼業生活は思いのほか忙しく、趣味の本にもならないビジネス書を読む暇がほぼなかったからだ。やはり書店のビジネス書棚コーナーに近づくことのないまま、時は過ぎた。

そして今年。私は兼業生活を卒業した。ひとまず専業で書く仕事をしている。するとどんどん気になってくるのだ。自分の仕事のやり方というものが……!

「な、なぜ今月もあの本の原稿に手がつけられなかったんだ」

「もっとはやくあの小説を読んでおくべきだった……」

「ていうかなんでこんなギリギリ進行なの!? 会社やめたのに!?」

自分へのツッコミが止まらない専業作家生活を送っていると、「みんな仕事どうしているんだろう……」という疑問が湧いてくる。みんな、どうやって仕事しているんだろう。どうやって仕事のスピードを上げているんだろう。どうやって仕事上のストレスを発散しているんだろう。

かくして私はこれまでになくビジネス書への興味が湧いている。なぜなら仕事のスピードを速くして、そしてなにより締め切りを守りたいからである。今、世の中のビジネス書を読む人たちの悩み――どうしたら仕事は早く終わるのか、どうしたら仕事を嫌にならずに済むのか――が切実にわかるようになった。今ならわかり合える。

そんなわけで本連載でも、「仕事の役に立った本」も紹介していきたい。切実なんですよ、こちらは……。

「安請け合いしない」「ギリギリではない」計画の見積もり

ビジネス書に手を出し始めている私が最近面白かった本。それは『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である』(中島聡)。

本書の作者は、元マイクロソフトの「伝説のプログラマー」。

私はSNSで勧められていて本書を知った。が、最初は「そんな仕事のできる天才のような人の書く仕事術で、自分の役に立つところはあるだろうか……」と思っていた。というのも私の知る限り、仕事のできる天才はたいてい睡眠時間が少なく、そもそも仕事をしている時間が長いのである。キャパシティの違う人に仕事術聞いてもな……という思いが強かった。

しかし読み始めてみると、ものすごく耳の痛いことばかり書いてある。

ここまで、仕事が終わらない例をいくつか見てきました。本章の最後に、仕事が終わらない理由をおさらいしておきましょう。大きくまとめると、次の3点に集約されます。

  • 安請け合いしてしまう
  • ギリギリまでやらない
  • 計画の見積もりをしない

出典:『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である』中島聡、文響社(2016年)

……私のことじゃん! と図星すぎて耳を塞ぐ暇もないほどの図星。耳が痛い。痛すぎる。

本書ではこの後、安請け合いしない、ギリギリではない、計画の見積もりのやり方を本書は書いてくれている。その具体的な方法論はぜひ実際に読んで確かめてほしい。

見積もり――それは私がもっとも苦手とする仕事のタスクである。たしかに「見積もりをしない→安請け合いする」というのは、仕事がギリギリになる一番の原因なのである。

見積もりは、難しい。たとえば私の場合、テーマと文字数を指定されることが多い。すると依頼内容だけざっと見て、つい「これくらいの字数だったらすぐ書けるだろう」と甘い見積もりをしてしまうのである。「これくらいの時間があったらこの本は読めるだろう」とか、「これくらいの時間があればこの原稿は書けるだろう」とか、ぼんやりと甘く見積もってしまう。

しかし実際に机に向かうと、書き始める切り口が見つからない。書いていてもなぜか字数がすぐ終わってしまい、話が盛り上がらずに(=あまり字数がとれずに)終わってしまう。そんなことがしょっちゅうある。見積もりが失敗する例である。

そうなると「ああ、今日も書けなかった、この原稿」と頭を抱えることになる。そしてその現実から逃避したくて本を読んでしまったりする。ああ、負のループ。

本書を読むと、そんな「安請け合い」をいかに回避するか、作者もいかに努力してきたかが語られる。安請け合いしない、というのがいかに重要か。そして見積もりを出すことがいかに難しく、そしてそれゆえに最重要項目なのか。それがひしひしと伝わってきて、これまで見積もりをぼんやりとしかしてなかった自分にハッとするのであった。

しかしこういうふうに、「人様がどうやって仕事をしているのか」って意外とわからないものだ。私のような個人事業主なら尚更だろう。ビジネス書の需要って、うまくいく方法や成功する方法を知りたいという気持ちもあるだろうけれど、それより「みんなどうやって仕事をしているのか知りたい」という好奇心が一番強いのかもしれない。

というわけで、ビジネス書(というか「どうやって仕事しているのか知ることのできる本」)でおすすめがあったらぜひ私に教えてほしいです! この記事を読んでくれたそこのあなた、ぜひ教えてください! とくに作家業みたいな文系職業(?)に特化したビジネス書って、ありそうでないんだよな……。探しております。

執筆

三宅 香帆

書評家・文筆家。1994年生まれ。 『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』などの著作がある。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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