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なぜ自分自身がデジタル人材にならないのか。そこに人手不足の理由がある

わたしがプレイしているとあるゲームには、つねに人手不足の職業があります。

 

レアアイテムゲットのために周回が必要なコンテンツで、各プレイヤーが各職業に割り当てられた役割を果たすのですが、そのなかで圧倒的に不人気なのが「おとり役」。

 

敵を集めて、みんなが攻撃できるようにいろんな技・アイテムを使って拘束して、なおかつ自分自身が死んではいけない。
ほかの職業のプレイヤーは、おとり役が拘束しているあいだにぶん殴っていればそれで終わり。

 

明らかにおとり役の責任が大きいし、面倒くさいし、アイテム消費が激しいし……というわけで、とにかく不人気なんです。

 

「おとり役がいないから周回できない」
「おとり役が来るまでずーっと待たなきゃいけない」と、みんな文句言っています。

 

それを聞いて、わたしは毎回、「じゃあ自分がやればいいじゃん」と思っていました。そうすればすぐに解決するんですから。

 

でもそう言っても、なんやかんや理由をつけて、結局だれもやろうとしません。そしてふたたび、「おとり役が来ない」と文句を言う。そりゃそうだ、っていう話ですよ。

 

でもこれ、現実でもありますよね。
そう、「デジタル人材がいない」と嘆く、お偉いさんたちのような。

自分ではやらずに「だれかやってくれ」と嘆く人たち

所属していたギルドに、やたらと「おとり役の待ち時間がムダ」「イライラする」「はやく周回を終わらせたい」と愚痴る人がいたので、「じゃあ自分でやりなよ、ずっと愚痴っててもしょうがないでしょ」と言ったことがあります。

 

するとその人は、「自分はその職業が好きじゃない」とか「苦手」とか「カネがかかる」とか「見た目がカッコよくない」とか、その職業の悪口を並べ立てました。
で、「だからやりたくない」と締める。

 

うん、なんでみんなおとり役をやりたがらないのか、自分でわかってるじゃん。
そう思いません?

 

「みんなそう思ってるから人が足りないんだよ」と。

 

圧倒的に不足するおとり役ですが、それでも集める方法はいくつかあります。

 

たとえば、順番に職業を変えて、ひとり1回おとり役をやるルールにする。
たとえば、おとり役の人に優先的にアイテムを回し、優遇する。
たとえば、拘束に必要なアイテムはほかの人が用意し、おとり役の負担を軽くする。

 

そう、人を集めるための努力は、いろいろとできるのです。

 

圧倒的人手不足のおとり役に来てもらいたいのなら、ほかの職業の人と同じ条件じゃダメだって、少し考えればわかりますからね。

 

……っていう状況、なんだか「デジタル人材不足を嘆く人たちと似ているなぁ」と思うのは、わたしだけでしょうか。

人手不足なのに、なぜ「あなた」はデジタルスキルを学ばないのか

「DXのためにデジタル人材を確保したいが、人がいない」という嘆きの声をよく耳にします。

 

経済産業省の試算によると、デジタル人材は将来的に40~80万人不足する予測で、IT人材の平均年齢も上がっていくとされています。さらに、2016年時点の予測で、2019年からはIT関連産業への退職者が入職者を上回るとも推計されていました。*1

 

社内のDXを進めるために、実力があり、長く勤めてくれる、できれば若いデジタル人材がほしい……どこもいま、そんな状況でしょう。

 

でもなかなかうまくいかない。
なぜなら、単純に人が足りていないから。

 

よく考えてみれば、ふしぎですよね。

 

圧倒的に人が足りなくて困っているのに、「じゃあ自分が勉強します!」という人がぜんっぜんいないのですから。そういう人がたくさんいれば、少なくともその社内での人手不足はだいぶ緩和されるはずなのに。

 

では、なぜ「自分がやる」と言う人がいないのでしょう。
それは、ゲームのおとり役の話と、根本的には同じだと思います。

 

なぜあなたは、ディープラーニングを学ばないのですか? なぜ、データ分析の講座を受けないのですか? 人が足りてないんですよね?

 

……なんて聞くと、きっとこのように答えるでしょう。

 

「年齢的にデジタルはちょっと」「別の仕事で手がいっぱい」「いまさらイチから勉強するのは大変」「ほかにやりたいことがある」「正直興味がない」「むずかしそう」などなど。

 

こうやってみんな、なんやかんや言って「自分がやるのはちょっと」「だれかにやってもらいたい」と言うから、人が増えないのです。

 

と、偉そうなことを書きましたが、わたし自身、「デジタル」「パソコン」なんてさーっぱりわからないアナログ人間。

 

「なぜデジタルスキルを学ばないか」と聞かれれば、単純に興味がないし、いまの仕事が楽しいからあえて手を出す必要がないし、専門用語が多くてよくわからないから、と答えます。きっと、あなたも似たような答えでしょう。

 

そう、自分がそう思うということは、多くの人も同じように思っている可能性が高いのです。

 

言い方を変えれば、「デジタル人材になろうと思っていない人」「デジタルスキルになんてまったく興味のない人」こそが、「デジタル人材不足の理由」を一番知っているのかもしれません。

どんな状況なら自分自身がデジタルスキルを学びたいと思うか

「なぜあなたはデジタルスキルを身に着けないのか」という質問を、「どうやったらデジタルスキルを身に着けたいと思うか」に言い換えてみましょう。

 

もし「どうしてもデジタルスキルを学ばなきゃいけない」となったら、どういう条件・環境を望みますか? どういう場合なら、「やってもいいかな」と思えますか?

 

わたしなら……そうですね、とりあえず必要スペックのPCは欲しいです。機材からそろえるとなると、その時点でハードルがかなり上がるので。

 

知識がゼロなので、ただ「デジタル人材になれ」ではなく、「この講座を受けろ」とか「この資格を取れ」とか、指針がほしいですね。それがないとなにから手を付ければいいのかわかりません。

 

あとは、スキルアップによって目に見えるご褒美、たとえば年収アップのような報酬がほしいです。それがあるだけでモチベアップしますから。

 

そうそう、まわりの理解も必要かもしれません。ほら、デジタル化を嫌う人もいるじゃないですか。「いままでとちがうやり方を覚えなきゃいけない。余計なことしやがって」というように。そういう雰囲気だとちょっと……。

 

こんな感じでしょうか。

 

これを聞いて、「贅沢言うな!」「そんなにお前のためにカネをかけられるわけがないだろう!」と思うかもしれません。

 

「うん、だからやらないんだよ」で話は終わりです。
だから人がいないんです。

 

「もともとそういう分野に興味があるやつがやればいい」「すでにスキルがあるやつを雇いたいんだ」という意見も、もっともだと思います。

 

でも、じゃあそういう人たちは、どこにいるんですか?
いないから、困っているんですよね?

 

だったら、引く手あまたのデジタル人材が「働いてもいい」と思ってくれるような、もしくは社員がデジタルスキルを「学んでもいい」と思ってくれるような環境にするしかないじゃないですか。

 

ちなみにわたしは、友人同士でおとり役を交代でやっていましたが、友人の予定が合わないときは、カネを払って見知らぬプレイヤーを雇いました。そうしないと、集まりませんから。

デジタルスキルを学ばない理由が人手不足解消の鍵

さてさて、ここでいくつかの統計を見てみましょう。

 

AI、IoT、データサイエンスなどの先端技術領域での社員の学び直しについて、「全社員対象で実施している」企業はたったの7.9%。「実施してないし検討もしていない」企業が、46.9%と約半数です。

 

ちなみにアメリカは、デジタル分野の学び直しを全社員対象でおこなっているのは37.4%で、実施も検討もしていないのはわずか9.8%。*2

 

そう、デジタル技術に興味をもったとしても、日本では社内で学び直しの機会がほとんどないのです。

 

また、IT従事者とIT非従事者では、スキルアップに対する姿勢が大きくちがいます。業務以外での平均勉強時間をみると、IT従事者は週2.7時間ですが、非従事者は週たったの1時間。勉強に対する自己負担額は、IT従事者が12,780円で、非従事者が3,920円。およそ3倍ちがいます。

 

さらに、各国のIT人材の平均勉強時間は、インドの4時間、ベトナムと中国の3.5時間に対し、日本はわずか1.9時間。

 

それを裏付けるように、日本のIT従事者の4割が、「業務が忙しく、勉強時間が確保できない」ことをスキルアップの課題としています。*3

 

つまり日本の企業にはデジタル技術を学びなおす環境がなく、デジタル分野は勉強することが多くカネがかかるのに、仕事が忙しくて勉強する時間がゆっくりとれない……という状況なわけです。

 

こんな状況で、「はぁ~困った困った、デジタルに強い人材がいないぞ」と言われても、「そりゃそうだろ」と思いますよね。

 

だって、学ぶ機会がかぎられてるうえ、学ぶ時間もないんですから。

 

貴重なデジタル人材に来てほしければ、「行ってもいいかな」と思える状況をつくらないといけないのに……。

 

じゃあ、その状況とはなにか?
そう、それが、「あなた自身がデジタルスキルを学ばない理由」を考えることで、見えてくると思うのです。

 

どんな環境であれば、あなたはデジタルスキルを学ぼうと思うでしょうか。
実際にやるかどうかは別として、どんな条件であれば、デジタルスキルを学んでもいい、という気持ちになるでしょうか。

 

それを考えてみたら、「デジタル人材不足だ」とただただ嘆く状況も、少し変わるかもしれません。

 

*1:経済産業省『IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果』p6,7

*2:情報処理推進機構『DX白書2021』p105

*3:経済産業省『我が国におけるIT人材の動向』p21,22,24

執筆

雨宮 紫苑

ドイツ在住フリーライター。 Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。 最近飼い始めた犬にメロメロ。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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