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デジタル人材の半数が、仕事にやりがいを感じない現実

デジタル人材の半数が、仕事にやりがいを感じない現実

 

不動産会社に勤めている友人が、転職するらしい。彼女はキャリアアップのため、少し前からオンライン講座でプログラミングを学んでいました。

「転職はプログラミングスキルが即戦力になってから」と言っていたはずなのに、どうしたんだろう?詳しく聞いてみたところ、「新しいスキルを学んだら損をする」からだそうです。一体、なにがあったのでしょう。

国が推し進めるデジタル人材はつねに人不足

政府がデジタル庁を設立したことからもわかるように、デジタル化推進は国策であり、どの企業もその波に乗ろうと必死です。しかし、いくら「推し進めよう」と思っても、それを担う人がいなければどうしようもありません。だからこそ、デジタル人材育成が急務なのです。

そもそも、デジタル人材とはどういう人のことをいうのでしょうか。本記事では経済産業省の表現を参考に、「デジタル技術をビジネスにどう生かすか考えDXを促進する人」と定義することにします。*1

デジタル人材とIT人材は厳密には意味がちがいますが、同義として使われることも多いので、本記事では「デジタル人材」で統一します。

日本はIT化、デジタル化が遅れていると言われがちで、2015年の時点でデジタル人材は約17万人不足しており、2030年に最大約79万人が不足する見通し。圧倒的に人が足りていません。*2デジタル人材はそれだけ希少で価値が高く、就職市場や転職市場では重宝されるのです。

冒頭で紹介した彼女はもともとプログラマー志望だったわけではなく、不動産会社で働くうちに、「デジタル化が遅れていて効率が悪い。自分でシステムをつくれるようになろう」と思い、勉強をはじめたそうです。

デジタル技術を身に着け、それをビジネスに生かすという点で、彼女はまさに「デジタル人材」の金の卵。しかも自力で学んでいるのですから、企業としては儲けものです。

プログラミングを学んだ彼女は職場で引っ張りだこ

プログラミングを学んだ彼女は職場で引っ張りだこ

 

さてさて、マジメにコツコツ毎日勉強した彼女は、ある日上司に許可を取り、自分のプログラムを実際に仕事で使ってみることにしました。

いままで不動産情報の一部はエクセルで管理されていたものの、ソート機能が不十分で、目的の情報を探すのに時間がかかっていたそうです。彼女はためしに、情報を整理するプログラムを作成。

結果、そのプログラムのおかげで仕事効率はかなり上がり、彼女の「初めての実践」は見事成功しました。独学で勉強したことを活かし、実際に自分の仕事をデジタル化によって効率化するって、すごいことですよね。優秀な社員です。

そのプログラムが便利だったからでしょう、それを見た上司や先輩たちが、「自分たちのPCでも使えるようにしてほしい」と言い出しました。彼女は正直、乗り気じゃなかったそうです。まだ勉強したてで完璧なシステムではないし、もしなにか起こった場合、自分は対処できるほどの知識と経験がないから、と。

しかし「せっかくだから」と言われ、「じゃあ」とプログラムをほかのPCでも使えるようにしました。みんな喜んでくれたし、チーム全体のスピードアップにつながり、かなり充実感を得たそうです。

「ああ、やってよかった」と。その満足感、やり甲斐もあって、彼女はさらに勉強を続けました。

「便利屋」として扱われ転職を決意

自由な社風だったからか、彼女の挑戦は社内で好意的に受け入れられ、職場の人たちは「デジタルに強い人がいると助かるなぁ」と彼女を頻繁に褒めてくれたそうです。彼女も当然、まんざらではありません。

しかしそれが続き、だんだん、風向きが変わってきました。

「これ、システム化できる?」

「あのプログラム、もうちょっとこうならないかな」

こうやって、頼られるようになったのです。

もちろん、頼られること自体は悪いことではありません。ただ問題は、もともと彼女のがボランティアでやっていたことがなかば業務になっていること、それなのに手当をもらっていないこと、相手が深く考えず仕事を丸投げしてくることです。

 

便利屋として扱われる

 

彼女の仕事には本来、プログラミングは含まれていません。それを含めるのなら、いままで彼女がやっていた仕事を減らし、プログラミングに回す時間をとれるようにマネージメントすべきです。

また、本来はプログラマーを別途雇わなくてはいけない作業をやっているわけですから、相応の報酬もあってしかるべきでしょう。さらに、仕事として依頼するなら、ちゃんと彼女の仕事量や実力を考慮し、具体的なシステム設計書や仕様書を用意する必要があります。

しかし職場にはデジタルに疎い人が多いため、「これが不便だからこういうのつくって」としか言わないし、そう言えば彼女が瞬く間に便利システムをつくってくれるとでも思っているようなのです。

いろんな人が無責任に依頼してくるから、自分の本来の仕事が終わらない。でも頼まれたことをやらないと自分の評価が下がる。しかも、プログラムになにかあれば自分の責任。それなのに、まともな追加報酬はなし。

最初は「みんなの役に立てた」と喜んでいた彼女でしたが、だんだん「損してる」と思うようになりました。結果的に、彼女はプログラミングを武器に、別の不動産会社に転職を考えるようになったのです。

デジタル人材半数が仕事にやりがいを感じない現実

彼女の例は、珍しいケースではありません。

日経xTECHによる3000人のデジタル人材への調査によると、仕事に対し不満を持っている人のうち、「仕事にやりがいを感じない」が50%、「会社や上司の行動・姿勢に疑問を感じる」が48.1%、「成果を正当に評価してくれない」が39.6%と続きます。

 

▲出典:日経xTECH デジタルの仕事なのに保守的!?3000人調査で判明した満足度と不満  

▲出典:日経xTECH「デジタルの仕事なのに保守的!?3000人調査で判明した満足度と不満」  

 

これは、彼女が抱いた不満、まさにそのものです。そもそも、デジタル人材がどこも不足している環境で、彼女の仕事がどれほどの価値をもつのか、作業量がどの程度なのか、どれほどの報酬を支払うべきなのか、ちゃんと把握できる人がどれくらいいるのでしょう。

また、デジタル化を進めなくてはいけないからといって、会社や上司がそれを好意的に受け入れているともかぎりません。デジタル化反対の人からすれば、新しいシステム導入は覚えることが増えるので、「面倒くさいことしやがって」と内心舌打ちしてるでしょうね。

彼女の場合、まわりは好意的ではありましたが、デジタル化の価値や作業量を理解しているわけではありませんでした。引く手あまたで高給取りになりうるデジタル人材なのに、まわりが理解してくれない、評価してくれない、となったら当然「仕事にやりがいを感じない」と思うものです。

2019年のデータではありますが、デジタル人材の7割が転職経験者で、約3割が直近1年以内に転職を考えたことがあるようです。社内で育成したデジタル人材でも、1年以内に転職意向がある人が約2割となっています。転職を考えている人の不満としては、リーダーが不在であること、昇進や年収アップなどが十分でないこと、PCのスペックが足りないことなどなど……。

デジタル人材を確保し、定着させるむずかしさが伝わってきます。*3

デジタル人材は便利屋ではなく、貴重な戦力

少し前のデータですが、日本は他国と比べ、デジタル人材がIT関連企業に従事する割合が高く、デジタル人材の7割がIT企業に勤めています。それ以外の企業に勤めているのは、残りの約3割のみ(アメリカ・カナダ・イギリス・ドイツ・フランスではそれ以外の企業で働いている割合が5割超え)。

 

▲出典:情報処理推進機構「IT人材白書2017」p13

▲出典:情報処理推進機構「IT人材白書2017」p13

 

とはいえこのご時世、IT企業じゃないからといって、デジタル化しなくていいわけではありませんよね。「それ以外の企業」は、乏しい人材のなかで、どうにかしてデジタル化をしなくてはいけないのです。

デジタル人材をやっとのことで見つけたり、四苦八苦して育てたりしても、転職市場で価値の高い彼・彼女たちは、不満があればさくっと転職してしまいます。

そうならないためには、より丁寧にマネージメントし、好待遇で迎え、必要な作業環境を用意しなくてはいけません。まわり、とくに上司がデジタル化に理解をもっていることも必須です。

そうじゃないと、わたしの友人のように、転職しちゃいますからね。デジタル人材を「都合のいい便利屋」として扱うか、「未来を担う貴重な戦力」として扱うか。そこが、その企業がどれだけデジタル化を進められるかの分かれ道になるのかもしれません。

 

 

執筆

雨宮 紫苑

ドイツ在住フリーライター。 Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。 最近飼い始めた犬にメロメロ。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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