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交通DXによって「キセル」という言葉が死語になりつつある

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「イマドキの子」なんていう言い方をしたら失礼かもしれないが、都内在住の子どもたちは、紙でできた切符を手にしたことがあるのだろうか?

地方の私鉄ならばまだしも、都内を走る電車やバスはすべてSuica(スイカ)やPASMO(パスも)など、交通系ICカードの利用が可能である。そのため、多くの子どもがランドセルにリール付きのパスケースをぶら下げている。

ちなみにSuicaは、JR東日本が発行する国内普及率トップの交通系ICカードである。そしてPASMOは、東京メトロや関東県内のバス会社を中心に、Suicaとほぼ同じエリアで利用可能なカード。

ほかにも東海エリアのmanaca(マナカ)、JR西日本のICOCA(イコカ)、近畿エリアのPiTaPa(ピタパ)、そしてJR九州のSUGOCA(スゴカ)などなど、全国で10種類の交通系ICカードが発行されている。

今から10年前のこと。新大阪駅で新幹線を降りて地下鉄に乗り換えようとしたところ、自動改札機の上に大きな看板が貼りだされていた。

「Suicaはつかえません」

ここまで堂々と利用不可を公言するということは、それだけSuica利用者が多いという裏付けにもなる。であればSuicaも利用可能にすればいいのに、ここでも大阪vs東京の意地の張り合いか…などと勝手な妄想を膨らませながら、現金を取り出して切符を買った記憶がよみがえる。

キャッシュレス社会へ

ところが2013年3月、交通系ICカード10種類の全国相互利用サービスが開始された*1。おかげで今はどこのエリア発行のカードでも、ほとんどの改札を通ることが可能となった。

さらに交通系ICカードでのショッピングも、かなり多くの店舗で利用可能となったため、キャッシュレス社会は着々と実現しつつある。

冒頭の話に戻ろう。イマドキの子が紙の切符を知っているかどうか、中高生の知り合いに尋ねてみた。

「もちろん、知ってますよ」

だが普段はSuicaやPASMOで電車に乗っているわけで、どのタイミングで紙の切符を手にするのだろうか。

「カードを家に忘れた時や、カードの残高不足の時に現金で切符を買いますね」

なるほど、それはたしかに切符を買う必要がある。だがなぜ、モバイルSuicaやモバイルPASMOにしないのだろうか。

「スマホ禁止の中学もあるんですよ。でも私の理由はそうじゃなくて、スマホの充電切れるまで友達と連絡をとりたいんで、それで電車に乗れないと困るからカードにしています!」

…なんとも若者らしい素直な意見である。充電が切れる最後の一秒まで、大切な誰かとのつながりを優先したいのだ。

電車に乗るためにわざわざ充電を残しておくなど、青春まっただ中の彼女らにとっては考えられない行為。

私にもそんな時代があったことを、薄っすらと思い出すのであった。

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「キセル」という名の犯罪行為

場所は変わって、とあるカフェでの出来事。隣りの男性陣がこのような会話をしていた。

「あと少しで出よう。17時30分過ぎたら大丈夫だから」

なんの話かと聞き耳を立てていると、それはどうやらキセルについてだった。

キセルとは不正乗車の通称であり、喫煙具であるキセル(煙管)の構造に由来する。吸い口と火皿が金属でできているキセル。つまり「始まりと終わりが金」ということで、乗車駅と降車駅で金は払うが、通過駅の運賃を払わない不正乗車のことを、喫煙具のキセルに例えているのだ。

キセルの手口は、乗車駅で初乗り運賃の切符を買い、降車駅は自らの定期券を使って降りることで成立する。定期券の代わりに、近隣駅から降車駅までの切符を用意するやり方もあるようだが、たとえば無人の降車駅で改札を素通りしたり、ホームから飛び降りて逃走したりと、さまざまな不正乗車を広義的に「キセル」と呼んだりもする。

そして今、彼らがキセルを企てている北関東の某駅は、17時30分以降は無人となるらしい。そのため都内から最低運賃の切符を買い、降車駅を素通りする作戦の模様。

まぁ、単なる若者の戯言かもしれないので、それ以上の関与は避けた。

不正乗車は法律違反であり処罰されるのは言うまでもないが、私はちょっと別の視点から考えてみた。

(交通系ICカードならば、キセルはできないのではないか?)

利用駅の場所と入出場時刻が記録されるSuicaは、降車駅の改札を不正に突破などすれば、当たり前だが出場記録が残らない。そうなれば、次回利用する際に改札を通過することができない。

つまり一回だけキセルを見逃されたとしても、以後そのカードで電車に乗ることはできないのだ。

(ということは、イマドキの子はキセルについてどう思っているのだろう?)

疑問に思った私は、再びティーンズにこの質問をぶつけてみた。

交通事情とDXの相互性

交通事情とDXの相互性

「キセルって、知ってる?」

2人の女子高生に尋ねる。すると2人とも目を丸くして「知らない」と答えた。その代わりに1人の女子が、

「コレですか?」

と言いながら、上着を羽織るしぐさをして見せた。つまり「着せる」という意味か? ということだ。あぁ、やはりこの世代はキセルを知らないのだ。

とりあえず、キセルが不正乗車を意味する言葉だと説明すると、

「切符なんて滅多に買わないから、キセルなんて考えたこともなかったです!」

と、むしろ目を輝かせていた。

キセルとは関係なく物理的に切符を失くした場合でも、実物が見つからない限りは、購入した切符の内容を証明するのは難しい。

クレジットカードの購入履歴を示すなど、証明方法がないわけではない。だがいずれにせよ、証明するための手間や時間がかかる上に、最終的には再度運賃を支払わなければならない可能性が高い。

しかしICカードならば、入場に関するデータが記録されているので、電車に乗っている途中で行き先を変えても不都合は生じない。

そして乗降車駅を偽ろうにも、事実として記録が残っている以上、不正乗車は不可能となるのだ。

ちなみにSuicaを例に挙げると、記名式のMy Suicaには、氏名、性別、生年月日、電話番号が記録される。モバイルSuicaであれば、これらに加えて端末識別番号等が記録される。さらにSuica定期券であれば、利用区間、購入月数、購入金額が追加で記録される。

このほかにも、利用した乗降駅、日時、金額等が記録される仕組みとなっている*2。

さらに、このような「交通利用者に関するデータ」の利用は、社会生活のみならず経済の活性化にもつながる。

データ活用によるビジネスチャンスの創出

データ活用によるビジネスチャンスの創出

Suicaのデータ活用についてJR東日本は、

「(前略)お客さまのニーズに理解を深め、サービス品質の向上と地域や駅、沿線のさらなる活性化を図るため、Suicaのデータを統計処理し、お客さまのプライバシーに配慮したデータを活用する取組みを進めております」

との見解を示している*2

そして、Suicaのデータを統計処理した分析結果の活用事例として、「コロナの影響による駅利用の変化*3」や「駅における他鉄道会社への乗換ご案内の強化事例*4」など、複数のレポート提供をおこなっている。

加えて、これらの研究は利便性の向上だけでなく、新たなビジネスチャンスの創出も期待できるのだ。

このように、「DX推進の土台としてさまざまなデータ活用が必須である」ということは言うまでもない。

なかでもSuicaは、2001年11月に産声をあげてから、発行枚数は見事な右肩上がりで推移している。着目すべきは、2016年10月からはApple Payによる利用開始に伴い、モバイルSuicaの発行数が急増している点だ。

同様に、電子マネーとしての利用も可能なことから、近年における加盟店の増加は、さらなる交通系電子マネーの普及につながるだろう*5

最後に1つ、私が個人的におこなった簡易調査の結果を報告しておこう。不正乗車である「キセル」という言葉を知っている年齢のボーダーが判明した。

前提として、キセルについての認識は地域差や男女差もあるため、一概に決められるものではないということを念頭に置いてもらいたい。

その上で、35歳以上の男女ほぼ全員がキセルの意味を説明することができた。ちなみに34歳までは、キセルを「煙草みたいなもの」と答えることはあっても、不正乗車の別名だという認識はなかった。

稀に、20代後半の地方出身者でキセルを理解している者もいたが、これは例外的な存在といえる。

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執筆

URABE(ウラベ)

早稲田卒。学生時代は雀荘のアルバイトに精を出しすぎて留年。生業はライターと社労士。ブラジリアン柔術茶帯、クレー射撃元日本代表。
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