実は健康オタクな中国人。大陸で愛される中華ヘルスケアアプリがいろいろとスゴイ!

実は健康オタクな中国人。大陸で愛される中華ヘルスケアアプリがいろいろとスゴイ!

 

毎日脂っこい中華料理ばかり食べ、酒も飲めばタバコだって吸いまくり。そのうえ都市の空気は汚染されていて、食の安全もかなり怪しめ……

そんな国に住んでいる中国の人々が健康志向なワケがない! というのは一般的な日本人の感覚ではあるまいか。

ところが実はこの人たち、我が身を顧みない向こうみずな気質は確かにありながらも、誰もが「仙人になることをワンチャン狙っているのかな?」と感じるほどの健康オタクという側面も持ち合わせている。

ちなみに2019年における中国人の平均寿命は77.3歳で*1、医療がまだまだ立ち遅れていることを考えれば、これはかなりの大健闘。そんな中国人の健康と長寿に寄与しているトレンドのひとつとして、見逃せないのがヘルスケアアプリだ。

世界で広く使われている歩数計アプリのようなものもあれば、中国の伝統医療とIT技術の融合と呼ぶべきものも存在するし、さらにはオンライン心理カウンセリングアプリのようにメンタルヘルスDXの最前線をゆく代物も。

もちろん、中国のお年寄りが愛して止まない伝統的な健康法ーー広場ダンスや太極拳などと併存しながらではあるものの、IT技術を使ったヘルスケアは間違いなく人民に恩恵をもたらしている。

では、果たして中国の人々は、それらをいかに活用しているのか?

筆者が中国で暮らす中、日常で目にする光景や実際に使ってみた感想なども交えつつ、ここでは中華ヘルスケアアプリの世界についてご紹介したい。

中国伝統医学の世界に及んだDXの波

健康維持で大事なのは、自らを律する心。エクササイズや食事療法、禁煙禁酒などいずれにしても、続かなくては意味がない。そういうことが一見苦手そうな中国の人々だが、健康という自らの利益にダイレクトに関わることに関しては、驚くほどの自制心を見せる方が多い。

たとえば大半の中国人は、身体を冷やす食べ物や飲み物を忌避する。とりわけ中国の伝統医学では冷たい飲み物は身体を冷やし、万病の元となるとする考えがあり、夏の盛りだろうが温かい水を飲み、ビールであっても常温が当たり前。

そこに「今日は暑いし、ちょっとくらい」という甘えが入り込む余地はない。また、中国で公園などに行けば集団で踊り倒すおばさんたちがいるのが常であり、公園の遊具を木人に見立てて武芸に励むおじいさんなどもまた、一種の風物詩である。

それだけ健康熱が高いなら、ヘルスケアアプリの成長余地だって大きいに決まっている。正直、あまりにも種類が多すぎて全てをカバーするのは無理なので、ここでは筆者が気になったものをピックアップすることとしよう。

まず、中国ならではのものとしては、中国の伝統医学と情報技術のマリアージュと呼ぶべき「中医アプリ」だ。

中国医学について説明するとそれだけでこの稿が終わってしまうので詳細は省くが、日本における漢方の位置付けと異なり、民間レベルでは西洋医学とがっぷり四つといった重みを持っている。

 

中国医学

 

何しろ、衛生当局が「中国医学の薬はコロナに効く」と言い切ってしまうほどであり、こちらの人々は体調が悪い、風邪だと感じたらまず中国医学に頼る。それだけに関連アプリは豊富で、生薬の効能や鍼灸のツボを学べるものもあれば、ダイレクトに医者を紹介するものまで多種多様だ*2

お役立ち系として人気なのは、過去実際にあった症例から処方すべき薬や治療法を紹介するアプリ。その記述たるや、個人が特定できてしまうのではと心配になるほど詳細で、(中国医学を信じる人にとっては)間違いなく有用である。

しかし、そこに書かれている症例が夫婦生活に絡むものだったりするのを見ると、ヘルスケアアプリのすごさ以前に「個人情報保護、大事だよね」と思ってしまう。

また、アプリを通じて医者とダイレクトにつながれるサービスは、お値段が張るとはいえ中国ではありがたい存在だ。中国の病院というのは伝統医学系だろうが西洋医学だろうが基本カオスに満ちていて、特に都会の大病院ともなれば野戦病院のような趣すらある。

行列、数時間待ち、言い争いは日常茶飯事で、常駐する警備員が機動隊みたいに盾とさすまたを持っていることもある。そしてトラブル対処にうんざりしているせいだろうが、患者に対する病院スタッフの態度も手厳しい。

ところが、アプリさえ使えば自分に合った名医を見つけられて、じっくり相談に乗ってもらえるし、医療過疎地域でも遠隔診療が受けられる。中国におけるヘルスケアのDXは、確かに成果を上げているのである。

歩数計アプリにも中国ならではの特色が!

歩数計アプリにも中国ならではの特色が!

 

さて、中国で最も利用者が多いと思われるヘルスケアアプリは、歩数計である。そんなの海外でも普通にあるよねと思われた方は、失礼ながら中国の特殊性をご存じない。一般の人々が使っているのはもちろんだが、約9200万人いるとされる中国共産党員にとって、この歩数計は必須アプリなのである。

最もポピュラーなのはモバイル決済からメッセージ機能までフル完備、これがないと中国では生きていけないといってもいいSNSアプリ「微信」(ウィチャット)の歩数チャレンジ機能。

連絡先のうち、この機能をオンにしている知り合い全てとその日の歩数を競うというもので、ランキングを見て頑張っていると思った人に「いいね」をつけることもできる。では、なぜ党員にとって必須アプリかというと、お上が党員に対して11万歩を歩いて健康を増進しましょうといった指令を発することがあるからだ。

こちら*3は陝西省西安市にある大学の告知だが、1日最低でも1万歩を歩いて、その証拠としてスマホのキャプチャー画像を送るべしとある。むろんこの大学に限った話ではなく、全国各地で同じ取り組みが行われていたのは確実で、実際筆者が知っている党員も通勤の時にひと駅前で降りたりして目標達成に励んでいた。

そう書くと嫌々やらされているように思えてしまうが、とある若い党員の子は「健康にプラスだから学習系のノルマよりよっぽどいい」と言っていた。それに、本当はこのようなお触れを出さずとも元々健康オタクの人が多いため、歩く人は放っておいても11万歩くらい超えてしまうのだ。

ちなみにこのアプリには落とし穴があり、筆者は以前「体調が悪い」と言って知り合いとの約束をすっぽかして遊びに出かけ、歩数ランキングで1位になりバレてしまったことがある。

ランニング距離や睡眠時間などを記録するアプリは多々あるが、中華系の場合はシェア機能で他者にプライバシーが漏れていないか、注意することを忘れてはならないのだ。

コロナ下で一気に広まったヘルスケアアプリ

コロナ下で一気に広まったヘルスケアアプリ

 

ゼロコロナ政策により、上海を始めとして各地で封鎖管理が敷かれていた中国。その中で盛り上がりを見せたムーブメントのひとつが、インストラクターによるライブ配信を見ながらの室内エクササイズである。

最も人気を集めたのは台湾の歌手である劉畊宏のアカウントで、TikTokのフォロワーは約5900万人*4毎日のライブ配信時には100万人以上が彼とともに自宅でエクササイズに励んだという。

ちなみに中国のライブ配信プラットフォームはTikTok以外にも数多く、洗練されていないというか古き良き中国を感じさせるものに「快手」がある。

この際どちらでもいいのだが試しに「健身直播」で検索をかけると、ハイテンションでしゃべりながら踊るインストラクターのアカウントが大量にヒットし、これらは言わば「ガチ勢」。

それに対し、いつまで経っても踊り始めず、化粧濃いめのお姉さんがダラダラとしゃべっているものもある。

中国のこの手のライブ配信は「打赏」という投げ銭システムがあるため、エクササイズは看板だけでフォロワー稼ぎ目的のものもあるようだが、圧倒的に多いのは真面目な方。

封鎖期間中、どれほど多くの中国の人々がこれらを見ながら健康増進に励んだかと思うと感慨深く、逆に言えばライブ配信アプリを使ったエクササイズがあったからこそ、不満はありながらも長い人なら3か月以上、自宅待機に耐えられたのかもしれない。

アプリを使った心理カウンセリング

さて、勢いで「耐えられた」と書いてしまったが、中には身体や心を病む人がいたのも事実。そこで同じく活躍したとされるのが、アプリを使った心理カウンセリングである。

メンタルヘルスDXは日本も進んでいるけれども、中国の場合はとにかく実用化というかビジネス化に長けていることもあり、すでにプラットフォームが確立されている。

代表的なアプリである「壹心理」の場合、「2000万人が選んだ心理学サービスプラットフォーム」というのが謳い文句で、開くとまるでマッチングアプリのごとく、有能そうなカウンセラーがズラリと並ぶ。ただしいかんせん、値段が高い。

みなさん大学教授や心理学会会員など肩書きは素晴らしいのだけれども、700元や800元(1元=約19円)といった強気の値付けなのである。

中国の庶民がおいそれと手を出せる代物ではなく、当局もそのことを察してか、地方政府の中にはAIを使ったカウンセリングサービスをコロナ対策期間中に行ったところもあった*5

実際それをやってみると、正直言ってカスタマーサービスの自動返信レベルといったものなのだけれども、単に自分の中国語がつたないせいで、心の癒やしが得られないだけかもしれない。

いずれにせよ、ほんの10年前まではSFの世界の話だったものが今、現実となりつつある。

これはIT技術が社会をよい方向へ変えた事例としてカウントすべきもの。今は問題山積みでも、それらはきっと今後解消されていくに違いない――やや中国に甘すぎるかもしれないが、筆者はそのような思いを抱きつつ、DXの未来を信じている。