東京ヤクルトスワローズの高津監督の戦い方は仕事にめちゃめちゃ使える

東京ヤクルトスワローズの高津監督の戦い方は仕事にめちゃめちゃ使える。

東京ヤクルトスワローズが復活したのは戦い方を変えたから

2021年、2年連続の最下位からのセ・リーグ優勝、クライマックスシリーズ優勝、日本シリーズ優勝を果たし、2022年シーズンもセ・リーグを独走、セパ交流戦も全カード勝ち越しという成績を残している東京ヤクルトスワローズ(以下スワローズ)。現在(8月15日時点)貯金17、2位とのゲーム差7。

2年前まで選手層が薄く、怪我人発生とともに失速していたスワローズを常勝チーム一歩手前まで持ち上げたのは、高津監督をはじめとした首脳陣の柔軟な戦略戦術が大きな要因のひとつだ。そして、高津監督の著作を読んでみると、今のスワローズの戦い方はビジネスにも通じるものであることに気が付いた。

前例にとらわれないベテランの起用

その①前例にとらわれない起用。昨シーズンから足の遅いベテラン中村(捕手)を2番や6番に起用している。かつての阿部(巨人)、城島(ソフトバンク、阪神)等、打力の傑出した選手をのぞけば、捕手は下位打線に置くというのが一般的だ。

だが、スワローズは足の遅さというネガティブな要素ではなく、当てるのが巧くて状況に応じた打撃ができるというポジティブな要素を買って中村を2番や6番に起用し結果を出した。メジャーでは大谷選手が2番を打つように強打者を置くのがトレンドだが、それとは違う日本野球の新しいトレンドをつくったといえる。

仕事に当てはめると、ベテランのスタッフには経験とスキルがあるので、最前線より一歩引いたマネジメント的な役割を与えがちだ。営業職なら新規開発よりもキャリアの浅いメンバーを束ねるマネジメントの役割を、ベテランというだけで与えている。固定概念に縛られている。

実際にデキる営業マンがマネジメントに長けているかというと、疑問だ。別の問題だ。自分のことはマネジメントできてもチームをマネジメントできずに評価をおとしてしまった人もいる。ベテラン=マネジメントという固定概念を捨て去って、最前線で活きるベテラン営業マンの場所をつくっていくことで組織が活性化するはずだ。

スワローズが中村を2番、6番に柔軟に置けたのは、3番山田4番村上をどれだけ調子が悪くても動かさない(例外はある)チームの軸に設定しているからだ。仕事でもチーム内の核になるものがあってこそ、柔軟に役割を変えられるのだと思う。逆にいえば組織内の核さえしっかりしていれば何でもトライできるようになる。

そういう意味ではベテランとは別にチームの中核になる人材は、年齢にとらわれずに責任あるポジションに置いて育成していくのが良い。ちなみに、書いているそばでヤクルトスワローズは強打者サンタナを2番に置いていた(8/14)。かつて打力のあるリグスを2番に置いていた実績もあるスワローズ。柔軟な起用はチームのカラーなのかもしれない。

週5日40時間労働にこだわらないほうが仕事の質はあがる

週5日40時間労働にこだわらないほうが仕事の質はあがる

 

その②コンディショニング。働いていて会社にもっとも欠けていると感じるのは、働いているスタッフのコンディション管理だ。営業職はノルマを抱えている。

週、月、半期と期間ごとに設定されているノルマだが、それぞれの期末が近付くとノルマ優先になって「ノルマ未達だったらどうするんだ!」「流す汗がなくなるまで外回り営業をしろ」「案件持ってくるまで帰ってくるな」「休んでいる暇はないぞ! 死ぬ気でやれ!」と上司から何度理不尽なカツを入れられただろうか。その結果、心や体の調子を崩してしまった同僚もいた。

ひとり欠ければチームとしての目標達成は難しくなる。人材が欠けたら補充すればいいという考え方もあるが、現有戦力を有効に活用するという考えがないと限界はある。補充される人材が適材なのか、前任を埋められるか、リスクをはらんでいるからだ。

超大手でないかぎり、人材は限られているのだ。今のチームのメンバーでどうやって結果を出せばいいのか。管理職になってからそんなことばかり考えている。

スーパーマンがいないチームでスーパーな結果を出すには?

高津監督が率いるスワローズにヒントはあった。投手出身の高津監督はコンディショニングを優先した先発ローテーションとリリーフ陣体制を敷いている。他球団のスーパーエースほどの能力をもたない選手たちで勝ち抜くため、登板間隔をあけてコンディションを整える方法である。現在の実力を100%出すためである。

これは画期的な起用法だ。日本のプロ野球では、先発投手は一般的に中6日とされている。だがスワローズは中6日にこだわらない。昨シーズンの奥川は中10日ほどあけて万全の調子で登板して9勝をあげて優勝に貢献していた。その他の先発投手も中6日はまれだ。

その一方でリリーフ陣は例外をのぞけば3連投はさせないように管理。その結果、スーパーな選手がいなくてもチームとして日本シリーズ優勝というスーパーな結果を出すことに成功。

この起用法は、仕事にも応用できる。最近週休3日制を取り入れている企業があるように、時間で拘束するのではなく、働く人間のコンディションを優先するのもありだろう。すべての仕事に適応する働き方とは言い難いが、長時間ダラダラと働くより、短い時間をフレッシュな状態で働いたほうが結果のでる仕事だってあるはずだ。

営業職というのはおかしなもので「ノルマを達成すれば」「数字さえ持っていれば」と言われるわりに、週5日40時間働くように決められている(ことが多い)。前倒ししてノルマを達成してサボっていれば「数字を達成していればそれでいいのか」といわれたときは「どっちやねん!」と叫びたくなった。

それはさておき、金曜日の午後の一週間の疲れが蓄積して疲れ切ってクマの出来ている営業マンから積極的に物を買う人間はいない。同じ商品なら元気はつらつな営業マンから買いたい。誰だってそう考える。

仕事は能力×努力×コンディション。なかでもコンディションを整えるのは一番簡単

仕事は能力×努力×コンディション。なかでもコンディションを整えるのは一番簡単

 

コンディションは大事だ。仕事は能力×努力×コンディションの結果だ。能力を上げるのは至難の業で、努力には限界がある一方で、コンディションを整えるのは休ませるだけでいい。動機付けと目標設定さえしっかりしていれば、ヤクルトの投手陣がこれまでのローテーションの概念を壊したように、僕らも週5日労働にこだわらなくてもいい。

必要なことは会社サイドが休ませる勇気を持つこと。それだけである。そもそも週5日40時間労働は一昔前の労働環境が前提だ。DXやITツールを使って労働環境をアップデートすれば一昔前のように40時間労働をする必要はない。だいいち楽だ。

働く人間のコンディションに気をつけることは使う側、経営サイドにとってもプラスだ。経営サイドが得るプラスのほうが大きい。従業員が離脱するリスクが下がって、長い期間、戦ってもらえるからだ。仕事は退屈だ。そんな退屈な仕事に長い期間従事してくれる従業員はありがたい。

確かに従業員を追いこめば短期的な結果は出る。だが必ず疲弊する。続かない。もたない。そういう「24時間戦えますか!」的働き方が流行ったのは30年前で、この30年間の日本が低迷したのはそういう働き方から脱却できなかったのも一因だ。空いてしまった穴を派遣等の非正規雇用で埋めた。そして、チマチマしたその場かぎりの短期的な結果を求めるようになってしまった。

コンディションに気を付けて長く働いてもらうことで長期的かつ大型案件にも取り組めるようになる。昨年、某在京紳士球団の監督が中4日の弾丸先発ローテーションを組んだけど、その結果はどうだったのか? 思い出してもらいたい。

「絶対大丈夫」を連発しなかったから効果がある

その③言葉の力。高津スワローズを語るとき、「打撃や攻撃面はコーチに任せる(著作でも「打撃のことはわからない」的な言葉がある)」、「データ重視」、「データを重視しながらも自分の目を信じている(長岡や木澤という2軍でとびぬけた成績をおさめていない選手を1軍に帯同させている)」といった要素があるけれど、特筆すべきは「言葉づかいが巧み」であることだろう。

プロ野球の監督はボスである。会社でいえば社長や管理職である。そういった立場の人が、自慢要素がなく、受け手のモチベーションがあがり、シンプルで伝わりやすく、かつ、一緒に戦っている感をだせる言葉を出せる人はまれである。

どこかに上から目線や自慢要素が入ったり、出だしは良くても長く話しているうちに内容がぼやけて、何を言っているのかよくわからなくなったりするものである。

昨シーズンのクライマックスで話題になった「絶対大丈夫」のように高津監督の場合、言葉がシンプルでわかりやすい。また出すタイミングも絶妙である。というかここぞのタイミングでしか出さない。

普段は割と冷静で喜怒哀楽を出さないコメント(少々の皮肉はある)を残しているので、「絶対大丈夫」のような熱い言葉が効くのだ。野村監督をしのぶ会の弔辞の「感謝 感謝 感謝」の感謝三連発も熱い。

仕事をするうえで、言葉は大事だ。それは誰もがわかっている。だが、少々工夫が足りない気がする。たとえば同僚をはげますときでも「頑張れよ」くらいで終わらせている。もっと気の利いた言葉を紡げるようになれば、昨年のスワローズの終盤の勝ちっぷりのような奇跡を起こせるかもしれない。

最近は本を読む人が少なくなっている。チームを引っ張る立場にある人は、実用的なビジネス書以外に小説や詩集を手に取って言葉を学ぶのもありなのではないか。これまでやっていないことをやってみることが大事なのだ。某在阪球団の監督のようにスピリチュアルな言葉を色紙に書いて騒ぐと逆効果になるかもしれないから要注意である。

野村監督との約束と違い

野村監督との約束と違い

 

高津監督は自他共に認める野村(野村克也)監督の教え子である。野村監督は90年代のスワローズ黄金期をつくった指揮官である。現在のスワローズの礎を作った偉人である。高津監督は抑え投手として野村スワローズの重要なピースであった。と同時にプロ野球、メジャー、韓国、独立リーグで投げた野球バカである。

野村監督は名将だった。野村再生工場といって戦力外を戦力化する名人であった。だが、野村スワローズには弱点があった。投手の酷使による故障による戦力ダウンだ。このため優勝した翌シーズンは必ず低迷した。

高津監督は野村監督をしのぶ会の弔辞で「私の役目は野村野球を継承していくこと。残すこと。そしてそれに新しいものを加え、スワローズウェイを今の選手に伝えていくことではないんじゃないかと思っています」と言っている。高津監督は野村監督の唯一の泣き所であった投手の酷使による低迷を、自分なりの方法で解決して、アップデートしようとしている。恩人のやり方の良いところは継承して、弱点を見極めて解決している。最高の供養だ。

仕事でも、実績を残した方法にとらわれてしまうことは多い。そして実績を残したことによってマイナス面を見逃してしまう。実績が大きければ大きいほどその傾向が強くなるようだ。僕が働き始めた頃、日本社会はバブル崩壊のあとで、大きな実績を残した人が幅をきかせていた。実績の影にあった弱点やマイナス点は見過ごされた。

そして2000年以降、海外企業との競争に苦戦した。実績を残した先人の欠点や弱点を見定めて解決策を講じていく高津監督のやり方は、仕事のうえですごく参考になる。どんなに実績を残した先人であっても、リスペクトしながら、批判的な目を持ち、客観的に評価することが本当の意味での先人の実績を活かすことなのだ。

弔辞のなかで高津監督はこうも言っている。野村監督から2連投をさせられたエピソードを披露して「私もチームを預かる立場になり、その時の監督の気持ちが分かるようになりました。ただ、もし同じ場面があったとしても、私はマクガフに同じことは言いません」と。

「好きなことを仕事にする」の本当の意味

以上、今回はヤクルトスワローズ高津監督の戦い方からビジネスに活かせそうなアイデアを抽出してお話ししてみた。ヤクルトスワローズは一例にすぎない。仕事で現状を打破しようとするとき、まったく関係のないところからヒントを得るのはひとつの手段である。

その際、全然知らない分野より、自分の興味のある分野から得るようにするほうが、効率的であるし、楽であるし、何より楽しい。チームスポーツは組織に属して働くことに通じる要素がたくさんあるので本当に参考になる。

僕はプロ野球(NPB)が子どもの頃から大好きだ。過去の常勝チーム、80年代中盤から90年代前半の西武ライオンズ、90年代の野村ヤクルト、2010年代後半のソフトバンクホークス、それぞれのチームの戦い方からも仕事にヒントは得られるだろう。

今回ヤクルトスワローズを取り上げたのは現時点の最強チームで現代的な戦い方をしているチームであるとともに、僕の推しのチームだからだ。少し前にユーチューバーのCMで「好きなことで生きていく」みたいなフレーズがあったけれど、ユーチューブチャンネルを作らなくても、顔を晒さなくても、普段の仕事をしながら好きなことを組み入れることはできるのである。

仕事を楽しく、楽にしていくよう工夫しながらやっていこうではないか。