「DX」という言葉は日本企業の間でもようやく浸透しつつあります。「DX」は「デジタルトランスフォーメーション」の略ですが、これに似た言葉に「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」というのがあります。
企業のデジタル化は、一般的にはデジタイゼーション→デジタライゼーション→デジタルトランスフォーメーション、の順に進んでいきます。
しかしこれらの言葉、知っているようでなかなか知らないという人も多いかもしれません。
そこで今回は、いまさら聞けないこれらの言葉のほんとうの意味と現状について少し、知識のアップデートをしてみてはいかがでしょうか。しばしお付き合いください。
日本ではコロナ禍で「DX」に注目集まる
日本のDXは欧米に遅れを取っていると言われることがあります。
しかし新型コロナの大流行により、多くの企業がテレワークの導入を強いられ、変化を拒むことが難しくなってきているのが現状です。令和3年の情報通信白書によると、2020年の4月から5月にかけては、中小企業でも半数がテレワークを実施しています(図1)。
テレワークはデジタル技術活用のひとつの形態です。では「テレワーク」は「DX」と呼べるでしょうか? 実は、そうではないというのが筆者の考えです。
「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション」の違い
テレワークの動きは、実は「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」で止まっているといえます。
では、「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の違いはどこにあるのでしょうか?これらの違いを説明できる人はあまりいません。
総務省の資料に、非常にわかりやすい例えが紹介されています。これら3つの言葉を、「カメラ」について示したものです。
<DXの例:カメラ>
①デジタイゼーション
・フィルムカメラをデジタルカメラに変えること。
↓
②デジタライゼーション
・写真現像の工程がなくなり、オンライン上で写真データを送受信する仕組みが生まれる。
↓
③デジタルトランスフォーメーション
・写真データを使った新たなサービスやビジネスの仕組みが生み出され、SNSを中心にオンライン上で世界中の人々が写真データをシェアするようになる。
引用:「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負 報告書」p6 総務省資料 2021年3月
多くの業務がシステムによっておこなわれる仕事の形は「デジタイゼーション」です。そして、テレワークのように紙の書類でのやりとりが減り、資料をオンライン上で送受信し共有することで遠隔勤務を可能にしたのが「デジタライゼーション」と言えるでしょう。
そして、上のカメラでの例えを見たとき、テレワークは「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼べるでしょうか?
「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は、あくまで「ビジネスの仕組み」の話です。IoTやICTを駆使して自分たちの業務が効率化されていることは当たり前の前提で、その上で顧客にどんなデジタル経験をもたらすことができるか、のほうが重要なのです。
小売業でのDX事例
アメリカでは大きなDXの事例として、小売最大手のウォルマートの事例がよく取り上げられます。ウォルマートは22年1月期にDXを中心とした設備などに1兆5000億円を投じる計画を立てていますが、その目玉とも言えるのが「マイクロ・フルフィルメントセンター」の拡大です*1。
このセンターは店舗併設型の物流拠点です。スーパーの場合、客は店舗に行き、必要なものを店内を探しまわって手に入れるというのが通常の買い物風景です。
しかし、このセンターを利用すると、顧客の買い物はここまで便利になります。
ロボットを駆使し、おもちゃや家電、医薬品から食料品まで商品をかき集める店舗併設型の自動配送システムを設ける。ピックアップからパッキングまでに要する時間は5分。青果や精肉など生鮮品についてはスタッフが別途売り場から集め、一つにまとめる。
消費者は自宅や職場でネット注文し、車で店舗の駐車場に立ち寄る。すると、スタッフがとりまとめた商品を車のトランクに入れてくれる。
引用:「ウォルマート、DXで早変わり」日本経済新聞 2021年6月3日
顧客にはいくつもの「劇的に新しい体験」が生まれています。
まず、好きな時間にスマホで注文ができるという点です。これについては日本でもネットスーパーが浸透しつつありますが、配送日時が決まっていて自宅を空けられないという不便さは残っています。しかしウォルマートの物流は違います。
注文からわずか5分でパッキングが済んでしまうため、ほとんど待たされることなく必要なものが、まとめられた状態で手に入るのです。そして商品はすでにまとまっていますから、自分で車に積まなくても、そのままスタッフがトランクに入れてくれるのです。
顧客からすると、注文さえしてしまえば、あとはほとんど手間のかからない買い物になるのです。アメリカは車社会ですから、なおのこと便利なシステムであることでしょう。
日本企業の意識はどこまで進んでいるか
さて、日本企業がIT投資における今後の重点課題としているのは下のような項目です(図2)。
多いのは「業務プロセスの効率化とスピードアップ」「働き方改革(ニューノーマル、テレワーク)」となっています。これらはどちらかといえば、「デジタライゼーション」の領域に入る項目です。
そして「ビジネスモデルの変革」を「重要課題」としている企業は半数に満たず、かつ「取り組み中」としている企業は全体の3割止まりです。最初の「DXレポート」が2018年に公表されたことを考えれば、のんびりしすぎているように感じます。
そしてDXが最終的に目指す「商品・サービスの差別化・高付加価値化」についても、課題としている企業、取り組んでいる企業ともに3割止まりとなっています。
本気でスピードアップしなければ海外企業に負ける
そもそもDXに関心を持ち始めた時期が、日本企業は大きく遅れています。Googleトレンドを見ると、日本人の関心は世界的に見ても遅れており、コロナ禍になってようやく急上昇しています(図3)。
スタートが年単位で出遅れている以上、DXは今考えているよりも急ピッチで進める必要があります。そのために必要なのは、以下の点だと筆者は考えます。
- 全社の意思統合=部門ごとのDXは、のちに必ず統合しなければならない時期が来るため、かえって取り組みを遅れさせてしまいます。
- ビジョン=何をやりたいのかが明確でなければ、何を変えれば良いのかが定まりません。
そして、「いきなり100点を求めないこと」も重要です。100点を取ろうとして考えすぎているうちに、他者のDXがどんどん進んでしまい差をつけられてしまいます。
DXは一度導入して終わりではありません。新しい技術、ビジネスの在り方を考え続け、更新し続ける必要があります。
そのためにも、導入のハードルを自分自身で上げすぎないこともまた重要なのです。