DXを成功に導いたトップ5%リーダーの共通点

DXを成功に導いたトップ5%リーダーの共通点

過去5年間、805社・17万人の働き方変革を支援した株式会社クロスリバー代表の越川 慎司 氏は、「DXを成功に導いたリーダーの方々の行動には共通点があり、かつ再現可能」と語ります。

DXプロジェクトを推進し、成果を出し続ける「トップ5%リーダー」の行動習慣とは? また、それ以外のリーダーとの違いなどについて、説明します。トップ5%のリーダーの行動をマネして、DXを成功に導きましょう。

Sansan株式会社が開催した「Sansan Evolution Week 2022」の講演内容をもとにお届けします。

越川 慎司 (こしかわ しんじ)氏 プロフィール

株式会社クロスリバー代表取締役。2005年にマイクロソフト米国本社に入社。のちに日本マイクロソフト業務執行役員としてPowerPointやExcel含む事業責任者に。2017年に働き方改革のコンサルティング会社であるクロスリバーを創業。メンバー全員が週休3日、複業を実践しながら805社の働き方改革を支援。オンライン研修・講演は年間400件以上。著書17冊『トップ5%社員の習慣』『トップ5%リーダーの習慣』など。

「共感」と「同情」の違い

突然ですが、共感と同情の違いは何だと思いますか?

DXのプロジェクトを成功に導くために、まわりの人を巻き込むには、この違いがわかっている必要があります。トップ5%リーダーのうち97%は、共感と同情の違いをよくわかっています。

「共感」と「同情」の違いを表す図

この図の通り、関心の中心が相手にあるのが共感、自分にあるのが同情です。信頼からはじまるのが共感、上から目線ではじまるのが同情。近くで寄り添うのが共感、遠くから観察するのが同情です。この共感と同情の違いをぜひ理解してください。

 

2019年以降、日本において、共感・共創時代に突入しています。相手の痛みを理解し、共に創っていく時代になりました。

 

なぜなら、社会課題・お客さまの課題が複雑になり、ひとりでは解決できなくなっているからです。社内外の人を巻き込んでいかないと、DXプロジェクトは成功しません。

 

顧客のニーズは多様化・複雑化・潜在化しています。部門を越えて、多様な方々と連携し、巻き込んでいくことで、イノベーションが可能です。異なる考え方、知見、能力を持った人たちを足し引き・掛け算すると、化学反応が起きる。これがイノベーションです。トップ5%のリーダーはそれをわかっています。

やってはいけない6つの行動

良かれと思ってやってしまう「95%リーダー」の行動を示した図

  1. 相手に答えを教える
  2. テレワークで「見えない部分」を「見える化」しようとする
  3. タスク管理が自分のメイン業務だと信じる
  4. 週報の作成にエネルギーを使う
  5. 定例会議で自分が7割話す
  6. 感情で人を動かそうとする

残念ながら、AI分析で、この6つの行動をとっている方は成果が出ないことがわかりました。

 

たとえば「5.定例会議で自分が7割話す」。部長や主催者が延々と話している。それから「6.感情で人を動かそうとする」。怖がらせて人が動くのは2回までです。こういった行動はしないでいただきたいです。

トップ5%リーダーの共通点

一方、トップ5%リーダーには共通点があります。

「トップ5%リーダーの行動」一覧(13項目)

  1. 歩くのが遅い
  2. 話が短い
  3. 思い切った決断をしない
  4. 情報より感情を共有する
  5. 異質を歓迎する
  6. ストイックにならない
  7. 根回しを構造化する
  8. 先にやめることを決める
  9. ”やる気”をあてにしない
  10. 口角を上げて誤解をふせぐ
  11. 成功後にWHYを繰り返す
  12. 意外と良かったを目ざす
  13. 同情ではなく共感する

1から13まで見ていただくと、興味深いものがあります。

たとえば「1.歩くのが遅い」。出社したときにオフィスでわざとゆっくり歩くのです。うまくいっているチームは、なにを話しても心理的安全性が確保されています。トップ5%リーダーは、一般の管理職よりも「ちょっといいですか」と話しかけられやすいようです。

オフィスでは、メンバーやほかのチームの方から声をかけてもらいやすいよう、偶然の出会いを必然にするためにわざとゆっくり歩いているのです。これは結構面白いですよね。

 

みなさん、1から13のうち、自分に当てはまるものはあるでしょうか?

じつは、AI分析により、「4.情報より感情を共有する」「9.”やる気”をあてにしない」「12.意外と良かったを目ざす」の3つに当てはまる方は、トップ5%のリーダーになれる可能性が高いことがわかりました。

 

これを踏まえて、みなさんにぜひ実践してほしいアクションを3つご紹介します。

最初の1分と最後の5分にエネルギーを注ぐ

成果を出し続けるためには、「やる気」に依存せず、行動を起こす仕組みが必要です。トップ5%リーダーは、自分に対しても、相手に対してもやる気をあてにしません。

 

たとえば、この2年半の間、オンライン会議を経験したビジネスパーソンは96%。でも、オンライン会議中にカメラをオンにする人は21%しかいません。そして、オンライン会議中に会議と関係ないことをしている「内職率」は41%もあります。

にもかかわらず、プロジェクトミーティングで、メンバーをその気にさせて、アクションを決めていかなければなりません。

 

では、45〜60分のプロジェクト会議やオンライン商談で、参加者が記憶しているパートはどこだと思いますか? AI分析すると、このようなデータが出ました。

オンライン会議での記憶定着率を示す図

これは縦軸が記憶定着率、横軸が時間軸です。

記憶率でいうと、会議の最初のほうを示す1番、会議の最後のほうを示す6番が高いことがわかります。つまり、会議の最後の5分、そのつぎに最初の1分を、参加者はいちばん記憶しているのです。

 

この結果を踏まえて、みなさんに実践してほしいアクション1つ目は、「最初の1分と最後の5分にエネルギーを注ぐ」ことです。

 

最後の5分のために、ぜひ「まとめスライド」をつくってください。トップ5%リーダーがまとめスライドをつくる確率は、一般の方と比べて2.3倍高いです。まとめることが目的ではありません。行動を促すために、相手に求めるアクションについて記載してください。

 

たとえば、会議のまとめをするだけでは、41.3%の人しかその内容を実践しません。

これに対し、まとめスライドに1行、「期限を入れる」だけで、なんと行動を起こす人が1.5倍上がります。

「まとめスライド」について説明する図

いつまでにやるのか、期限を入れるだけで、行動を起こす人が8割近くまで上がります。

まとめスライドを絶対作って、相手に求めるアクションを入れてください。そして、期限を記載してください。そうすることで、相手を動かすことができます。これが、やる気をあてにしないまとめスライドの使い方です。

 

また、質疑応答も鍵となります。質問が出てこない会議はうまくいきません。心理的安全性がとれていないのです。参加者が、当事者意識を持っていないと、会議に参加することが目的になってしまいます。

 

オンライン商談において、質問数が多いほど、受注率が上がるというデータもあります。

質問率と受注数の相関

ただ、「質問してください」と言っても、なかなか質問は出てこないですよね。

 

そんな中で、トップ5%リーダーはどういった行動をとっているか。それは、「弱みを見せる」ことです。

自分の弱みを見せることで、相手も話しやすくなります。強み・弱みを掛け合わせる。これがイノベーションです。イノベーションが起こりやすくするために、リーダー自ら、自分の弱みを見せるのです。

 

たとえば「じつはプレゼンは得意だけどExcelは苦手なんだよね」などと腹を割って話す。そうすることで、心理的安全性が確保できて、質問しやすい環境ができます。リーダーが弱みを見せると、質問数が増えるのです。

 

また、最初の1分は、参加者を少し緊張させたほうが話を聞いてくれるようになり、記憶定着力が上がります。


トップ5%のリーダーは、ミーティングで、参加者の名前を呼んでいました。オンライン会議のチャットで質問や意見がきたときに、「○○さん、ありがとうございます」と名前を呼ぶと、ちょっとドキッとしますよね。トップ5%のリーダーは、意識することなくこのような行動をとっているのです。

ベネフィットファースト、行動障壁を下げる

会議だけではなく、コミュニケーションにおいても、人を動かすことはできます。たとえば、人を巻き込む力のある人は「伝わる」を目指します。「伝える」よりも「伝わる」のほうが、相手は動いてくれます。

 

では、どのようにして人を巻き込んでいくか。ある企業の社内周知のメールを見ていただきましょう。

 

■一般的な依頼

支払いスケジュールの変更にともない、

今後の経費精算では、承認者名も入れてください。

未入力の場合は支払いが遅れるケースがあります。

 

この文章で、したがってくれた一般社員は12%のみでした。しかし、このあとにトップ5%リーダーが2通目を送ったところ、したがってくれた方が82%に増えました。

 

■トップ5%リーダーのメール

1か月早く支払いができるように、

今後の経費精算では、承認者名も入れてください。

承認者は簡単に選択できます。

 

1行目と3行目を変えただけです。これだけで、82%の社員を巻き込むことができました。この文章には法則があります。みなさんもぜひマネしてみてください。

トップ5%リーダーのメール依頼

最初に、相手のベネフィットを入れること。ベネフィットがなければ、意義・目的を入れてください。はじめに相手をその気にさせることが重要です。

 

最後に、相手の行動障壁を下げることです。たとえば、「アンケートに答えてください」よりも、「2分のアンケートに答えてください」のほうが答えやすいですよね。

これが、みなさんにマネしてほしいアクションの2つ目、「ベネフィットファースト、行動障壁を下げる」です。

妄想資料をやめよう

テレワークによって、会議と資料作成の時間は増えています。1週間の稼働時間のうち、資料作成に17.9%を費やしています。資料の枚数は増えてしまいがちです。

 

でも、本来、資料を作ることそのものが目的ではありませんよね。そもそも資料作成の目的は何だと思いますか? かならずゴールを明確にしてください。トップ5%リーダーは、目標・目的から逆算して行動を決めています。

 

共有する・伝えることはあくまで「手段」です。目的は、相手に思い通りの行動をしてもらうことです。そのために、いかに短い時間で、パワーポイントをうまく作るかが重要です。

 

全国826社の意思決定者に、「わかりやすいスライドとはどういったものですか? あなたの行動を促したスライドはどういったものでしたか?」と聞いたところ、78%が、10秒で「わかりやすいスライド」かどうかを判定していることがわかりました。

 

10秒間見てなにかわかるもの、そのあとに記憶したほうがいいか、どういう行動をおこせばいいかがわかるスライド。これがわかりやすいスライドですと答えました。

 

みなさん、ぜひ「妄想資料」はやめてください。赤文字は読んでくれるだろう、下線をつけたら読んでくれるだろう。これは妄想で、生産性がありません。

 

では、伝わる資料とはどのようなものでしょうか。ポイントは視線のコントロールです。こちらのスライドを、10秒間見てみてください。

わかりやすいスライドの例

多くの方はタイトルの「太陽光発電で安心と安全を」に目が行ったのではないでしょうか。じつは、いちばん記憶定着率が高いのは、白抜き文字です。赤文字や黄色文字ではありません。重要なことを白抜き文字で表現すると、頭の中に入りやすいです。

 

また、この資料では、みなさんの目線をわざとコントロールしています。タイトルよりも目が留まったのは、おそらく握手のアイコンの右側ではないでしょうか?

 

これはAI分析でわかったのですが、パワーポイントの資料を見るとき、目線は左上から右下に対角線で動きます。

視線の移動を示す図

この対角線の上にアイコンを置けば、絶対に目が留まります。そして、その横に重要な文字を入れると、絶対に読みます。目線誘導しているのです。その結果、この内容に興味をもったら「※詳細は補足資料①へ」まで進んでくれます。

 

この資料を使った会議において、参加者の78%がわざわざ次のページの補足資料を見たとのことなので、これは人を動かす資料と言えるのではないかと思います。

 

この資料は、AIが導き出した以下のルールで作成されています。

 

  • 1スライド105文字以内
  • 3色以内
  • 対角線意識で

 

文字数は少なくしましょう。彩度は下げて3色に絞ってください。また、重要なものは対角線上においてください。

 

騙されたと思ってやってみてください。1万9千人のクライアント企業の社員にお伝えしたところ、資料作成時間が20%減り、商談成約率が22%増加しました。これが働き方改革だと思います。無駄なことはやめて、相手を動かすような資料と会議にする。重要なことに時間を再配置しましょう。

「意外と良かった」を生み出す

3つのアクションの図

私は、このセッションの満足度を気にしているわけではありません。ひとりでも多くの方が、このあと実際に行動を起こしてくれるかどうかです。

 

3つのアクションを提示しました。どれかひとつ、実践してみてください。行動障壁が上がってしまいますので、全部やろうとしてはいけません。どれかひとつやってみて、「意外と良かった」と感じたら、ほかのアクションもやってみていただきたいです。

 

さらに、期限を設けましょう。トップ5%リーダーは、初動が早いのです。ぜひ今日からやってみてください。まずは、考えずに行動に移しましょう。意識を変えるのは難しいので、意識変革はあきらめてください。行動を変革して「意外と良かった」を生み出してください。