令和2年度の食糧自給率は、またもや4割に満たない水準でした。
農業は国の食料安全保障に直結する存在でもあります。しかし日本では農業従事者の高齢化、減少傾向が続いています。
そこで農業にもデジタルを導入する取り組みが始まっています。
日本の食糧自給率と就農者の状況
日本の食糧自給率(カロリーベース)は令和2年度で37%でした。年々減少傾向をたどっています。
(参考:「日本の食糧自給率」農林水産省)
また、それを支える農業従事者は、高齢化かつ減少の傾向をたどっています(図2)。
ふだん仕事として主に自営農業に従事している「基幹的農業従事者」は65歳以上の人が90万人を超え、令和2年では平均年齢は67.8歳となっています。一方で、新規に農業に就く人の数は減少傾向にあり*2、先行きが懸念されています。
(参考:「農業労働力に関する統計」農林水産省)
農業をはじめようとする場合、初期費用やノウハウがネックになりがちですが、そこで農業の現場にもスマート農業の一環としてIoTやデジタルの導入が進みつつあります。
初期費用の負担軽減で就農支援
農業機械大手のクボタは、2021年に入ってまったく新しいサービスの提供を始めました。「農機シェアリング」というものです(図3)。
そのしくみは、利用希望者が会員登録をし、クボタが直接保有・管理している農機をシェアするというものです。空きがあれば1時間単位で24時間いつでも利用できます。
実際にはスマホアプリで予約、利用できるようになっています(図4)。
保管場所から田畑までの移動、使用後の清掃、給油はユーザーがおこなうようにすることで、全体の利用料金を低く抑えるようにしているといいます。
(参考:「『農機シェアリングサービス』開始!」クボタ プレスリリース)
農機のメンテナンスはクボタが実施します。
これによって初期費用をかけず、安心して農業を始められるよう、就農や規模拡大のハードルを下げる取り組みです。
メーカーとしては、シェアリングサービスは販売台数に関わるため敬遠しがちと思われるかもしれません。しかし農業従事者や市場を拡大させるという基本が何よりもの狙いなのです。
茨城県つくばみらい市と京都府亀岡市で開始しているサービスでは、購入すれば200万円以上する小型トラクターを1時間2200円で貸し出しています。会費はかかりません。
(参考:「クボタ、デジタル化で開くニッポン農業の未来」日経ビジネス,2021年11月29日号 p40)
また、水田での水位管理は非常に手間がかかるものです。田植えが済んだ後は、農業者は朝田んぼに行ってバルブを開いて水を出し、夕方にまた田んぼに行ってバルブを閉めるという毎日が続きます。
これに関しても、クボタはソリューションを提供しています。
スマホ操作で水位を管理できるようにする水管理の遠隔・自動制御システムです(図5)。
田んぼが離れた場所にあっても、長距離を往復することなく水管理ができるようになる、というものです。
オランダの「すごいデジタル農業」
このようにIoTやデジタルを駆使し、農業大国にのぼりつめた国があります。オランダです。
オランダのプリバ社が提供するのは、野菜などの栽培施設で「あらゆる環境」を最適に保つシステムです(図6)。
水分だけでなく、作物の生育に欠かせない光やCO2、最適な気温データを都度取得し、設置した機器へデータ送信をして常に最適な環境を維持するというしくみです。「精密農業」とまで呼ばれる徹底ぶりです。
オランダの国土面積は九州程度しかなく、冬の日照時間が短い環境にありますが、こうしたIT農業の導入で、農産物輸出額はアメリカに次ぐ世界第2位にまで上り詰めています。
(参考:「オランダの農林水産業概況」農林水産省 p1)
農地は大きな「食料備蓄倉庫」でもある
さて、筆者の自宅の近所には農家が多く、軒先で無人販売や直売を実施しているところが通り沿いに数件並んでいます。農業保護地区にもなっています。
あるときそのうちの一軒に野菜を買いに行ったら、おばさんがこう言っていました。
「今なんていい時代じゃないけどね、でも美味しいものを食べてるときだけは楽しいでしょ」。
この女性にはこういうやりがいがあるのだなあ、と感じたものです。
そして、他の畑にある標識には、畑は災害時にも役に立つ、といった内容のことが書かれていました。
確かにその通りです。
時期にもよるでしょうが、食料がすぐそこにあります。かつ、テントを張れば一時的に雨風をしのげる場所になりそうです。
また近年では「稼げる農業」を目指し、法人の参入も相次いでいます。
これらIoTやデジタルの力を利用して、すこしでも豊かな国土作りができたらそれは素晴らしいことだと筆者は夢見ます。
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