福野 泰介(ふくの たいすけ)さんプロフィール
小学校3年時にプログラミングにはまり、福井高専卒業後、3社目の創業、株式会社jig.jpにてjigブラウザを開発。鯖江市にオープンデータを提案し、日本初のオープンデータ都市誕生、毎日何か創って発表する「一日一創」を始める。「すべてのこどもたちにプログラミングを」PCN共同創始者で、こどもパソコンIchigoJam開発者。子供から大人まで幅広く、楽しいプログラミングとデータ活用術を伝えている。実は、石川県出身。
高橋 隆行(たかはし たかゆき)プロフィール
東京都出身。カスタマーサポート、プリセールスエンジニア経験を経て 2006年にさくらインターネットに入社。運用現場業務に従事したのち、2011年に運用執行役員に就任。2016年に営業管掌として異動、非営利団体KidsVentureの立ち上げ、グループ会社代表取締役経験を経て、現在はカスタマーフロント業務統括、グループ会社統括業務に従事。
二人の出会いと関係性
ーー福野さんと高橋さんは、いつ頃からのお付き合いなんでしょうか?
高橋 隆行(以下、高橋):jig.jpさんのことは以前からよく知っていたんですけど、福野さんと直接お話ししたのは、2013年の石狩データセンター見学がはじめてでした。
福野 泰介(以下、福野):お鍋も食べましたね(笑)。そのときは確か、さくらインターネット代表の田中さんからのお誘いで行くことになりました。田中さんは1学年上の高専の先輩で、高専関係のイベントでよくお会いしていたので。
IchigoJam開発者である福野さんの最近の活動
ーー2021年に何か新しく始められたことはありますか?
福野:昨年、「地域の課題をテクノロジーで解決する」シビックテック活動をおこなう団体「Code for FUKUI」が正式発足しました。その代表を私がしています。主に福井県庁との共同プロジェクトに取り組んでいます。
一番大きかった取り組みは、ワクチン接種の予約空き情報をリアルタイムに公開できるようにしたことですね。すぐにオープンデータ化システムを使ってアプリを開発しました。現在は福井県庁の方と一緒に管理運用をしています。この取り組みで、行政と民間で新しいオープンソースを利用した共同作業という一つのモデルをつくれました。
子ども向けのプログラミング教育
ーー子ども向けプログラミング教育をやりたいと思ったきっかけについて教えてください。
福野:きっかけは2012年頃、高専生に「プログラミングが好きな人?」って聞いたら、誰も手を挙げなかったことに対する絶望からです(笑)。そこから、高専生になってからプログラミングを学ぶのでは遅いと考えるようになり、小中学生に良い高専生になってもらうための活動を始めました。
ーーさくらインターネットが福野さんと一緒に取り組みはじめたきっかけはなんですか?
高橋:きっかけは2014年に福野さんのブログ「福野泰介の一日一創」でIchigoJamの記事を見たことですね。取り組みを開始した当時は「子どもたちがベンチャースピリッツにあふれ、そして起業家を目指していけるきっかけをつくりたい」というのがスタートでした。
はじめた時期がちょうど良かったのか、ものすごい数の子ども向けのプログラミング団体がこの時期にできてきました。今では「届かないところに届けよう」というコンセプトに変わっています。
アフリカでのプログラミング教育
ーー以前、一緒にアフリカへ行かれたそうですが、そのときのことを詳しく教えていただけますか?
高橋:あれはですね、アフリカを軸に活動している社長さんから酔った勢いで誘われて、気がついたらアフリカにいましたね、私たち(笑)。
現地についてからは、子どもたちやエンジニアを目指している若者に対して、ディスカッションやワークショップをしましたよ。
ーーアフリカのITレベルはどうですか?
福野:ある意味すごいですよ。オフィスに紙やプリンター、FAXがないんです。紙文化をすっ飛ばしているという意味では日本より進んでいます。とはいえ、エンジニアの広さや深さはまだありません。でも、日本もうかうかしていられない状況です。それを日本の子たちに理解してもらうため、海外の子どもたちの経験を伝えることもしています。
高橋:お札もすごいですよね。ルワンダ紙幣には、アフリカの子どもたちがラップトップパソコンに向かっている姿が印刷されているんです。
福野:国が総力をあげていることを文科省の人に見せて、「ヤバイよ」って伝えるロビー活動もしています(笑)。
約20年ぶりの高専新設
ーー福野さんは神山まるごと高専(仮称)の技術教育統括ディレクターへ就任されました。就任の経緯を教えていただけますか?
福野:田中さんからの推薦ですね(笑)。実は福井高専の未来戦略アドバイザーもやっていて、僕が思う理想の高専に近づくために色々な活動をしています。でも、やっぱりなかなか変わるものではないんですよね。なので、高専を新しく作ることはいいと思います。神山まるごと高専の刺激を受けて、ほかの高専にも良い影響が出ることを期待しています。
ーー技術教育統轄ディレクターというのは、どのようなことをされるのでしょうか?
福野:テクノロジーとデザインを軸とする神山高専のテクノロジー側のカリキュラムを設計しています。ほかにも、非常勤講師としてブートキャンプを担当することになっています。高専生には「教えてもらう立場ではダメ。自分でやるからおもしろい」ということを学んでほしいですね。
ーー高専生は即戦力人材として育成されているイメージがあります。神山まるごと高専ではどのような学生を育てたいですか?
福野:高専は、60年前に傭兵育成学校のように作られた学校ですからね。その傭兵的な働き方を変えたくて色々活動していますが、なかなか難しいです。なので、最初から起業家育成を掲げたらどうなるか、が神山まるごと高専の挑戦ですね。学生起業はたとえ失敗しても得しかないと思います。
私としては、起業に限らず「やりたいことをやる」をしてもらいたいですね。
例えば、本当にもの作りだけが好きな子には、自分で作り上げたものを世の中に広げる楽しさをベースとします。そして、ビジネスについてはいろんな人に教えてもらって助けてもらうとか。
神山まるごと高専では、熱い気持ち、創る技術、そして伝える技術、この3つを軸にしていく予定です。
福野さんがこれからやりたいこと
ーー「『やりたいこと』を『できる』に変える」がさくらインターネットの社是です。福野さんが今後やりたいことはありますか?
福野:総務省の事業「地域ICTクラブ」で、子どもたちを支援する組織づくりについて研究しています。その中で、シニアプログラミングネットワークの福井支部立ち上げサポートをしたいですね。例えば、子どもたちがすごいものをつくって、体外的な交渉とかを経験豊富なシニアの方々に固めてもらうようなスタイルはありじゃないかと考えています。
ーー高橋さんは、福野さんやjig.jpさんと今後一緒にやりたいことはなにかありますか?
高橋:昨年から特別支援学校や障害を持たれている方に対して活動をはじめました。今はリモートワークも当たり前になり、ハンディキャップを持っていても働けます。むしろ彼らのほうが優秀だったりするわけです。なのでやる気のある人たちが働くきっかけ、環境づくりを一緒にやっていきたいですね。そういえば福野さんは目が見えない方に対してプログラミング教室をされていませんでしたっけ?
福野:以前、聞くだけでプログラミングができる「IchigoJam readnspeak」というものをつくり、福井県の盲学校で研修をおこないましたね。読み上げ機能を使って働いているエンジニアは実際にいますし、「できる」ことに気がつけば世界が広がります。高橋さん、そういうの一緒にやっていきましょうよ!
高橋:やりましょう、やりましょう! 今活躍してる人たちって個人の努力の賜物なんですよね。なので、そういうのが理屈としてできるんだよっていうのを伝えていきたいですね。
福野:あと、オープンソースも広めたいですね。東京都が行政システムのオープンソース化を進めていますが、福井県も追従したいですね。その中で、オープンソースとして仕事をする仕組みをつくりたいです。最初に納品前提の完成形を目指すのではなく、ビジョンを共有する形でオープンソース的開発手法を確立し、ボランティアだけではなく報酬を支払うスタイルもとりたいなと思っています。それであれば、働く時間や障害の有無も関係ないですしね。
GitHub上では、中学生が英語でプルリクしていたり、皆が対等でオープンな世界はすでに始まっています。こういう世界をどんどん広げていきたいですね。
ーー福野さん、高橋さん、ありがとうございました!
執筆
浅田 秋恵
2019年4月にさくらインターネットに中途入社。 社長室所属。これまでは社長・役員秘書を務め、現在はブランディングを担う。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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