『のだめ』にみる仕事観。いいパフォーマンスを続けるために必要なこと

『のだめ』にみる仕事観。いいパフォーマンスを続けるために必要なこと

先日、『のだめカンタービレ』という漫画の新装版が出ていた。

私はこの漫画が大好きで、全巻実家にあり自分も持っているのだが、新装版のニュースを見て最近改めて読み返していた。主人公は”のだめ”こと野田恵、音大に通うピアニスト。のだめと同じくピアノ科にいるが指揮者を目指す”千秋先輩”こと千秋真一と関わるようになり、彼女のピアニスト人生が本格的に始まる、という物語である。

今回読み返していて、あらためて「ああ、これって本当に仕事の話だったんだなあ」と思ったので、今回はその話をしたい。

漫画の話!? と思われたかもしれないので、先に結論から言ってしまおう。私は『のだめカンタービレ』を読むと、「入門者が強い目標を持ちすぎることって、意外と危険だよね!」「生活の100パーセントそれに熱中してしまうと、意外と続かないよね!」と思ったのである。

「はやく満足してしまいたい」

「はやく満足してしまいたい」

と言っておきつつ『のだめカンタービレ』からすこし離れるけれど、私が作家業をやりつつ会社員でいる理由、つまり兼業を続けている理由はいくつかある。

一番大きいのは、まあ、「安定収入があると精神的に楽だよね!」ということなのだが。あとは「人と話す時間があると健全」とか、「出版業どっぷりになると書くものが痩せる気がする」とか、理由を挙げていけばいろいろある。

そしてその理由のひとつに、「日々の100%が執筆業で占められると、どこかのタイミングで、やりきったと思ってしまうのではないか」という懸念があるのだ。

これはかなり個人の性格によるものが大きいと思う。なので、あくまで私個人の話、なのだけど。

考えてみてほしい。まだ軌道に乗っていないときに執筆業に専念すると、おそらく「執筆業をどう軌道に乗せるか」を常に考えながら仕事をする日々になる。すると、たぶんどこかのタイミングで執筆業がある程度軌道に乗る時期が来る。そのとき、目標達成した、やり切った~もうやめよう! と思うことになるのではないだろうか……と私は考えているのである。

「えっ、なんでそのときやめようって思うの、これからなんじゃないの?」と首を傾げられそうだ。

でも、自分の性格上、わかる。たぶんそのとき私は断捨離するみたいに「よしやめよう!」ってなるだろうな……と思う。

『のだめカンタービレ』を読んでいて、思い出したのはこのことだった。

主人公ののだめは、千秋と出会ってどんどんピアノを弾くことの本来の魅力を発見する。パリの大学院へ留学し、一流の先生に師事する。そして千秋は指揮者としてキャリアを重ねていく。

順風満帆に見えるふたりだが、千秋は友人にぼそりと呟く。

「あいつって…… 早く満足して 終わらせたがってる気がする」

出典:二ノ宮知子『のだめカンタービレ』20巻、講談社

 

ああーわかる! と今更ながら私はこのシーンを読んで震えてしまった。

のだめはたしかに今、ピアノに夢中なのは本当だ。でも、どこかで、「はやく満足してしまいたい」という気持ちがあるのも本当なのだと思う。どこかにはやく到達したい、なにかを手にして、そして終わりたい。

100パーセント頑張るのは、意外と、辛い。いくら好きなことでも、生活がそれ一色になるのは、意外としんどい。でも、それがある期間のみなら我慢できる。だから期間限定でがーっと頑張って、そしてはやく、満足したい。

そんな願望が、心のどこかにある気がする、ということだ。

実際、のだめはある日、千秋の前から姿を消す。ぷつりと疲れたのだめは、一流のピアニストを目指す道から、本人も自覚ないまま、ふっと逃げ出そうとする。

しかし最終的に千秋とピアノを弾いたのだめは、また大学院での勉強を再開するのだった。

「終わらせたがっていた」のだめは、一度本当に終わらせてしまい、しかしもう一度戻ってきて、やっと自分の本分を見つけるのだ。

長く続けられる環境を自分に用意すること

長く続けられる環境を自分に用意すること

たぶん、なにかを目標にしすぎると、その目標が達成できてしまったり、必ず達成できないと分かってしまったとき、ぽきりと折れてしまうのだと思う。

折れるというと言い方が悪いが、「あーもういいや!」とそれを捨てたくなるのではないだろうか。

やめるのは、意外と簡単だ。

でも、なにかを本当に成し遂げようとするとき、「時間をかける」のは大前提として必要なのだと思う。

本当に大切なのは、時間をかけるのに耐え得る環境を、自分でつくることだ。

つまり、長く続けられるような、持続可能な仕事環境を、自分に用意することだ。

もちろん、長く続けなくてもいい仕事も世の中にはある。たとえばオリンピック選手なんかは、「この大会が目標」と決めて、そこが終わったら引退というキャリアだ。むしろその目標の時期まで短期集中で頑張る職業だろう。

あるいは、学生時代の受験生なんかもそうかもしれない。「この時期まで勉強」と決めて短期集中で頑張って、それが終わったら晴れて別の職業(高校生や大学生)になる。短期集中でいいパターンだ。

でも、大抵の仕事は、「この目標が終わったら引退」なんてことはない。仕事はずっと続いていく。なんなら定年も伸びそうだ。ずっと仕事は続く。

だとすれば、ある程度、仕事を自分にとって持続可能で、それでいて一番いいパフォーマンスができる状態を、自分で作らないといけない。

もちろん年齢によって無理がききやすい時期などはあるかもしれない。でも、人間は意外と弱いので、追い込みすぎるとすぐに「やめよう!」と思うものだと、私は考えている。

だからこそ、自分で自分の性格を見極めながら、目標に集中しすぎない仕事のスタイルをつくる、というのは大切なことだと思う。

兼業の場合は、あえて兼業することによって、アクセルを踏みすぎないという利点がある。たぶん自分の執筆スタイルができたり、仕事の量が安定したりすれば、専業になってもちゃんと続けていくことができる。のだめが最終回で覚悟したみたいに。

でも、まだ執筆をやっていけるか不安定な時期は、あえて兼業でアクセルを踏みすぎず、自分がどうすれば持続可能な仕事スタイルを作れるのか、考えて試行錯誤することも大切だと思うのだ。

あの天才ピアニストなのだめですら、覚悟を決めるまで、4、5年かかっている。凡人はもっと時間をかけてアクセルを踏んでいっても、たぶんばちはあたらないだろう……。そんなふうに思った『のだめカンタービレ』再読、なのだった。

 

 

【三宅さんの前回の記事はこちら】

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