「こりゃあ、派手に転んだもんだねえ。よっぽど急いでたんだねえ」
医師はベッドに横たわる私を見下ろして、
「ちょっと痛いけど我慢して」
そう言うと、ぱっくり開いた傷を消毒し、太い麻酔針をブスッブスッブスッと刺した後、手ばやく縫合してくれました。
今もうっすら膝に残るその傷の原因はというと…。
シャーロック・ホームズはこんな人
毎週水曜日は図書館で本が借りられる特別な日でした。筆者が通った小学校にはなぜかミステリー好きが多かった。特にハードカバーのシャーロック・ホームズシリーズ全15巻は人気の的。
並みいるライバルを蹴落として、狙った1冊を借りるためには、ダッシュするしかない。なにがなんでもアレを借りねば!! その意気込みが上すべりして、ダッシュ直後にライバルと接触、そして、転倒! 勢いがついていただけに、転び方も派手だった。
うぐ、ぐぐぐ…。
強烈な痛みが脳天を貫き、息もできないほどでした。
…というわけで、シャーロック・ホームズファンとしては年季が入っています。
そこで、質問。シャーロック・ホームズと聞いて、何を思い浮かべますか。次のうちいくつかご存じでしょうか。
- ロンドン・ベーカー街
- ハドソン夫人
- ワトソン博士
- モリアーティ教授
シャーロック・ホームズは、ロンドンのベーカー街に住む腕利きの私立探偵。クライアントの依頼を受けて事件を解決します。それは警察が解決できない難解な事件ばかり。
ハドソン夫人は下宿先の大家さん。常識派でホームズとは全く異なるタイプですが、ホームズは彼女を敬愛しています。
相棒のワトソン博士は医師ですが、ホームズの活躍を小説にして、世間に公表しています。ただ、そのことをホームズは快く思っておらず、時にはストップをかけたりする。世間的な名声など望んでいないのですね。
ワトソンとホームズは奇妙な絆で結ばれています。そして、モリアーティ教授はホームズの宿敵。悪の天才で、強敵です。
では、シャーロック・ホームズがどんな風貌かというと・・・。
これは、シャーロック・ホームズシリーズの挿入画で知られたシドニー・パジェットが描いたシャーロック・ホームズ像です。
どうでしょうか。
描いていたイメージとちょっと違ったという方がいらっしゃるかもしれません。
長身痩躯。頭脳明晰。冷静沈着。女性嫌い(ただ、ロマンスが全くないわけではない)。バイオリンの名手。厭世的。人に媚びない。
そして、プロファイリングの天才!
けれども、当時は合法だったドラックの常習者という側面もあり、一筋縄ではいかない人物です。
上のホームズ像から、そんなちょっと病的な感じも伝わってこないでしょうか。
パジェットはワトソン博士と一緒の以下のような絵も描いています。
これまで、まるで実在の人物のように述べてきましたが、シャーロック・ホームズはもちろん架空の人物です。書いたのは、アーサー・コナン・ドイル。連載が始まったのは1891年で、瞬く間に大ヒットしました。
以来、シャーロック・ホームズは多くのファンから、まるで実在の人物のように愛されています。
ドラマになったシャーロック・ホームズ
シャーロック・ホームズはこれまで何度もドラマ化されてきました。
筆者はこれまで、地上波やBS・CS放送などのテレビ放送はもちろんのこと、最近では複数の動画配信サービスも利用して、シャーロック・ホームズのドラマをフォローしてきました。
動画配信サービスは、好きな時に好きな場所で、好きなシリーズが楽しめるため、重宝です。
シャーロック・ホームズのドラマには古いものから最新作まで、さまざまなものがあるのですが、それぞれ独特のテイストがあって、どれも面白い。
中でもお薦めは次の2点です。
- イギリスのグラナダTV製作の「シャーロック・ホームズの冒険(“The Adventures of Sherlock Holmes”)」
- BBCの「SHERLOCK(シャーロック)」。
どちらもNHKで放送されたシリーズなので、ご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
まず、「シャーロック・ホームズの冒険」は原作の忠実な再現を試みたシリーズとして人気があります。
ところが、子どもの頃からシャーロック・ホームズの小説に親しんできた筆者が思い描いていたとおりのドラマかというと、それが全くそうではなかったのです。
第1シリーズの第1話から、「イギリス紳士」という言葉が喚起する「健全」なイメージがガラガラと崩れ落ちていきました。
主演のジェレミー・ブレットの容貌は、先ほど見たホームズ像から抜け出してきたよう。繊細でメランコリックで、退廃的ともいえる雰囲気を醸し出しています。
そのエキセントリックなあり様が妙に魅力的で、視聴者の感性をじわじわと浸食する。成熟した制作者にしかこういう作品は創れません。機会があったら、是非一度、その独特なテイストを味わってみてください。
インターネットの達人
さていよいよ、タイトルに記した「インターネットの達人」についてです。
筆者が推すもう1つのシリーズ「SHERLOCK(シャーロック)」は時代背景を現在に置き換えた、斬新で洗練されたドラマです。
溢れるスピード感、観る者の予想を次々に覆すストーリー展開、陰影のある映像、個性的なキャラクター群…。
さすがBBCと唸らずにはいられません。
シャーロックを演じるのは、ベネディクト・カンバーバッチ。シドニー・パジェットが描いたシャーロック像とはかけ離れた立体的な顔立ちです。
社会との折り合いが悪く、家族との軋轢や周囲の人々との葛藤を抱えている。凡人を見下す傲慢さもある。常に率直で正直で迎合せず、扱いにくい。ずば抜けた頭のよさを持て余しているようにも見える。
ジェレミー・ブレッドが演じたシャーロックとは別の意味でエキセントリックです。
ワトソンはアフガン戦争に従軍した元軍医で、心に傷を負っています。シャーロックに出会ってから、その活躍をブログに書き、いつしか人気ブロガーに。
シャーロックはVAIOやMacBook Pro、スマホを駆使するネットの達人。ネットやGPSから必要な情報を瞬時に収集し、推理に活かしていきます。
例えば、第2シリーズの第1話「ボヘミアンの醜聞(”A Scandal in Bohemia”)」。このエピソードには、女嫌いのシャーロックが唯一、惹かれた女性、アイリーン・アドラーが登場します。
絶世の美女で、国家の要人にも通じる特殊な職業に就いている、危険人物です。シャーロックとは惹かれ合いながらも、敵対するスリリングな関係。
ある要人から盗み取った重要な暗号が彼女のスマホに入っています。彼女はスマホを見せて、シャーロックにその謎を解くように迫ります。それは、数字とアルファベットの組み合わせ。
読者のみなさんは、次が何を意味するかおわかりでしょうか。
007 Confirmed allocation(割り当て決定)
4C12C45F13E13G60A60B61F34G34J60D12h23K34K
シャーロックはその意味をすぐに理解し、ネットを使って核心に迫ります。
超早口のクイーンズイングリッシュでその謎解きを解説する彼の口調は、まるで静かな機関銃のよう。圧巻の場面です。
ところが、アイリーンはシャーロックの目を盗んで解けた謎を送信します。メールを受け取ったのはシャーロックの宿敵モリアーティ。モリアーティはそれによって国家秘密を手に入れ、シャーロックを窮地に追い込みます。
アイリーンの攻撃はそれに留まりませんでした。彼女のスマホには国家を転覆させるほどの重要な情報がまだ保存されていて、その情報と引き換えに大金を要求するのです。
情報にアクセスするにはパスコードが必要。パスコードを1度でも間違えばその情報は永遠に失われてしまいます。果たして、シャーロックはそのパスコードに辿り着けるのか。どうやって?
このドラマは、トリックにも謎解きにも先端的なテクノロジーが使われています。そして、シャーロックはネットの達人。ドラマ制作にあたって、現代人・シャーロックとしてどのようなキャラクターを設定するか考えたとき、ネットの達人という要素は必須だったに違いありません。シャーロックのような人物がそうでない筈がないのですから。
現在に蘇ったシャーロック・ホームズ。
彼はネットのもつ可能性を私たちに鮮やかに指し示しています。それがどんな世界か、一度、覗いてみてはいかがでしょうか。
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