「DX」という言葉が広まったとき、ついに来たか。と思ったのは私だけではないはず。さんざん、ローテクと笑われてきた日本が、ついにデジタル化するのか。
中国みたいに、無人のコンビニが生まれたり、チャットツールでやりとりできたり。ワクワクする未来が来る……なーんて、思っちゃいませんでした。
だって肝心な取引先や上司たちが、ローテクの塊だったからです。
チャットよりメール、メールより電話な上世代
時代はさかのぼり2011年頃。私は就活をしており、銀行へエントリーしていました。そしてとある銀行が「うちはIT化に力を入れています。
たとえば、会議室にモニタを設置して、紙をプリントしないで会議を進める運動をしています」と言われたとき「大企業でも、そのレベルなんだな」と知るきっかけを得ました。
なお、2011年当時でしたが、私が新卒で入った外資系企業では、180度フルビジョンによるビデオ会議が実現しており、社内通話はチャットシステムで完結していました。そう、当時からそのレベルのDXは可能で……そしてそこから10年。日本企業が目指している地点は、いまだに変わっていません。
ビデオ通話による出張の削減。チャットツールの導入による電話・メールを打つコストの減少。「今日休んでいいですか? ちょっと頭が痛くて」で済む勤怠管理。もっと言えば、VRでバーチャル出勤することによる、在宅勤務でも連帯感を作れる職場環境作りとか?
なんて、夢のまだ夢。私が20~30代からいただくキャリアの相談には
「Zoomの接続が上司だけできなくて、一緒に出勤して手続きをやらされる」
「上司がチャットツールどころかメールも見ない主義。電話で用件を伝えるしかない」
なんてのが、相次いでいます。
私は会社を経営する立場になったので”上司”はいないのですが、自分の父を見ているだけでもわかります。父は会社を退職してからも別会社で勤めていますが、LINEよりメールですし、メールより電話です。とにかく新しいものはしんどいんだよね。という空気を、よく感じます。
「紙で見ないと分からない」の病
そして、そんな父世代がよく言う言葉が、
「画面より、紙じゃないとわからないんだよね」
というもの。私も、生まれてから電子書籍やメールが登場した世代ですから、わからないでもないのです。
変化はめんどくさい。そういうものです。私なんて、小学校の時間割変更すら苦手でした。途中からゆとりなんちゃら世代になって、カリキュラムが変更になったのも嫌だったし、独立してから「チャットワーク? スラック? なんですかそれ」からの、チャットツール全面導入にはちょっと訓練が必要でした。
でもそれを乗り越えられたのは「まあ、やってみりゃ何とかなるだろ」という精神でした。そして、そういう気持ちを持てたのは、やはり若かったからだと思います。これから先、何十年も働くんだから「新しいテクノロジーを覚えておかないとまずい」という切迫感が、私を動かしたわけです。
そして、DXに後ろ向きな上司というのは、この切迫感を欠いた存在なわけです。
切迫感がなければ、変化は受け入れられない
「できなければ、自分のキャリアが終わる」という、切迫感。これがDXを含めたすべての変化の原動力になるものです。そして上司たちはそう思っていない。だって、自分たちはもうDXを頑張らなくても、上がれるわけです。優秀な部下に頼って「あれってどうしたらいい?」「どうなった?」って質問するだけでキャリアを終えられると思っている。
だから、頑張らなくてもいいわけです。
「そんなつもりで上司をサポートしているわけじゃない」と思っているのかもしれませんが、現実はそういうことです。
だから、DXを成功させる方法はひとつしかないと思います。トップダウンの指示。それによって「会社から切り捨てられる恐怖」。それがなければ、上の世代がDXに協力する理由がありません。だって、変化ってめんどうだから。
上司をDXへ誘導するための根回し
上司をDXへ誘導したい。そう思うなら、人事か上司の上司へ連絡するしかありません。ようは、上司が切迫感を抱く相手に相談するしかないのです。といっても「私ばかり押し付けられて、困ります」という愚痴ではなく、改善案を出す必要があります。愚痴だと誤解されたら、むしろ自分の評価が下がってしまうからです。
「弊社では○○ツールを導入していますが、若手のみが使っている状況が続いています。これでは導入コストぶんだけ利益が下がるだけですが、全社員が使えるようになれば出張費が年間○万円削減でき、業務時間も○時間減る見込みです。そのために、上の世代限定でDXツールの研修および、DXツールをどれほど使えているか、試験を課すことを提案させてください」
……といった、会社の利益を考える観点から上司のDX研修を提案すれば、NOといえるのは結構な変わり者だけです。
IT部門にDXを呼びかけさせない
それから。DX化がうまくいっていない企業は、DXをIT部門だけが呼びかけています。そしてそもそも、IT部門のパワーが社内で弱い。だからDXは進まない……という悪循環を抱えています。
ですから、DXへの呼びかけは社長がせねばなりません。この件を社長が重要視していると誰もが認識しなければ、切迫感が生まれないからです。
もちろん、いきなり社長への直談判なんて! という立場の方も多いでしょう。ですから、間にいろいろな人を通して、社長の耳まで「自社のDXは進んでいない、このままでは社が危ない」という切迫感を届ける必要があるわけです。
そういうときは、営業などのフロント部門に頼るのも手です。たとえば、DXツールを使えば営業が楽になると伝えること。先方へ訪問しなくても案件が取れる。年○億円の利益が取れる。営業部長のメンツが立つ。実権を握っている部門にアプローチして、そこから上へ届ければいいのです。特に社長や店長など、決定権を持つ人と定例会議を開いている部門が望ましいでしょう。
いったい誰に提案すれば、最終的にトップダウンの号令へつながるのか。その道筋を考えるのが悩めるあなたの役割であり、DXを進めるための希望です。
もっとも、ここまでするかどうかは「自分の会社に失望しきっていない」という前提があってこそ、ですが。
会社のDXに付き合う必要はない
あなたにそこまで愛社精神が残っていないなら、自分だけ着々と他社へ飛び立つ準備をしてもいいわけです。国家資格の基礎情報技術者にチャレンジしたり。ITを受け入れる立場から、提供できる立場になってもいい。
私はそこまでがんばりやさんではないので、ゆる~い授業を選んで受けようとしています。N予備校のプログラミングコースとか、UdemyのPython基礎とか。
自分のペースでゆっくりとでもいい。危機意識を抱けたら、もう一歩違うわけです。会社が泥舟に感じるなら、その船を木船に変えるか、自分だけ脱出するかは自分が判断してかまいません。
会社のDXに付き合う必要はありません。上司のお守りをするのも仕事ではありません。それは会社の中でしかるべきルートに通して、あなたはあなたのサバイバルをしていい。
自分が脱出するチケットを得られただけでも、もしかしたらあなたって、ラッキーだったのかもしれません。そう後から思える自分になるかどうかは、危機意識を抱いた自分がこれから、決めていけますから。
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